悪役令嬢には、まだ早い!!

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主人公のみ好きな名前に変換して楽しめます
指定のない場合は「エリー」になります。
名字「マトラコフ」は変更できませんので、あらかじめご了承ください。
主人公

一方、部屋に閉じ込められたエリーとロタリオは、まったく正反対の表情を浮かべていた。エリーは泣き叫び、令嬢の面影もない。ロタリオは近くの椅子に腰かけて、そんなエリーをじっと見続けていた。


「お前、よくそんなに泣けるな」

「っ、ぐす、お前じゃありませんわ、ぅ、エリーという名前が、っ、あるんですのよ」

エリーは、よくそんなに泣けるな」

「し、失礼ですわ、貴族令嬢の名前をろ、ロストシスト風情が容易く、呼んでいい、わけ、ない。身の程をわきまえなさい。私の名前を呼んでいいのは、アーノルド王子だけよ」

「アーノルド、ああ。あいつか」


くだけた物言いに、等しくそれはエリーの地雷。仮にも一国を担う王族の王子に「あいつ」呼ばわりは不敬だと、扉の前で泣いていたエリーの涙がピタリと止まる。


「私だけではなく、よくもアーノルド王子を侮辱して」

「好きなのか?」

「は、ぇ?」


小さな手がロタリオの頬を叩く前に止まる。怒る時の赤さとは違う薄紅色がエリーの頬を染めて、わかりやすくエリーは一歩後退した。


「あっあ、あなたに教えることはありませんわ」

「好きなんだな」

「ちが、違いますわ。アーノルド王子は、アーノルド王子様は」

「好きなんだな」

「すっ、す、好きとか、そんな、私はいつも優しく、美しいあの方の婚約者になりたいだけで」

「あははは。お前やっぱり変なやつだな。それを好きっていうんだろうが」


ぐうの音も出ないエリーは、目の前で笑うロタリオになぜ自分の気持ちが悟られたのかを考えていた。一生懸命考えたけど、答えが見つかるはずもない。恋は盲目。鏡があれば、エリーは自分がどんな顔をしているか知れたかもしれない。


「アーノルド、な。あいつ、たしかにモテそうだもんな。あいつ、俺より鬼畜なのに、お前ほんと、可愛い顔して見る目ないな」

「ロタリオはアーノルド王子をご存知なの?」

「ああ、知ってるぜ。なんなら、あいつの秘密を俺は握ってる」

「それは、なんですの!?」


とびつく勢いでロタリオの肩を掴んだエリーの行動に、からかうことを楽しむロタリオが答えるわけがない。
ぐらぐら揺られながら笑うロタリオと、必死のエリー。体力自慢はエリーにみえて、なぜかロタリオのほうに軍配があがっていた。


「お前、俺が怖かったんじゃないのか?」

「ロストシストは怖いですわ。でも、アーノルド王子の秘密を知る方を怖がるわけには参りません。私は、あの方の傍にいたいのです」

「いや、動機不純すぎだろ。それに意味不明」

「な、う、きゃぁ」


先ほどまで笑っていたロタリオの顔に笑みはない。右手の人差し指を軽く振ってエリーに向けたとたん、なぜかエリーの身体がふわりと離れて、ロタリオの前で浮遊している。


「な、なにをしたんですの。私に、や、やだ、怖いですわ。ロタリオ、降ろして、浮いてます」

「浮かせてるから知ってる」

「浮かせ、浮かせてるとはどういうことですの、そんな、パクなんてどこにもないのに」


浮いたエリーはキョロキョロと周囲を見渡す。いくら子どもとはいえ、人ひとりを浮かせるには、パクでも高度な錬成が必要となる。それを同じ年齢の少年が、あり得ない。それに、相手は自分と背丈も年齢も大差ない男の子。これが現実だとすれば、ロタリオは相当の魔力を保持していることがわかる。
エリーは怖くなって、自然と震え始めた指先に口を閉ざした。


「きゃあっ」


指先が触れ合って、絡まると同時にエリーはロタリオに抱き止められていた。しかし、そこは強気のエリー。どんっとロタリオを押して、身体を離す。


「なにをするんですの」

「これは俺が得意な重力魔法。土属性だが、浮遊、破壊が俺の分野。ちなみにシシ爺は俺の師匠で、転移や転換の光魔法を得意としてるな」

「それが、何ですの?」

「お前は、何が出来る?」


先ほどとは打って変わって、睨むようなロタリオの瞳にエリーの肩がビクリと跳ねる。


「可愛いだけのやつなんかそこら辺にいる。親が金持ちなんかもっといる。自分の強さを武器に金を稼いだことがないお前に、俺たちロストシストをバカにする権利はない。俺が怖いだって、笑えるね。大体、魔法の恩恵を受けておきながら、この国の連中は有り難みを感じないばかりか、当然のように享受してる。あり得ないだろ。自分ができないことを誰かが代わりにやってくれているだけのくせに、なぜ、俺たちの方が愚弄や批判をされなければならないんだ。お前がアーノルドに選ばれるなら、この国は脳内お花畑のバカ王妃に破滅させられる道を選ぶも同義。大体、他人の弱みを握って、操作しようなんて性悪女が、婚約者になれると思うなよ」

「ひぇっ」

「あ、悪い。少し熱が入りすぎた」


咳払いして、椅子に座ったロタリオに、熱弁していた空気はない。ワガママな令嬢というだけの肩書きしかないエリーに言っても無駄なことを悟ったのだろう。自分の手首を見つめて、そこに取り付けられた太い手枷を撫でて、じっと喋らなくなった。


「もしかして、泣いてますの?」

「馬鹿かお前。なんで俺が泣くんだよ」

「あら、違いましたの。私に言い過ぎたと反省なさっているのかと」

「頭沸いてんのか?」

「頭で何を沸かせるの。ロストシストは、おかしな表現を使いますわね。そう見えたので、そう言っただけですわ。けれど、恥じることなどなくてよ。泣くのは悪いことではありませんわ。感情なんて、世間の目に触れれば隠さなくてはなりませんけど、ここは私たち二人きりです。感情を表に出したって、罰されることはありませんわ」

「いや、お前は信用できない。口が軽そうだし、性格が悪いからな」

「あなたに言われたくありませんわ」


心配して損したと、エリーはロタリオに背を向けて扉のほうへ駆けていく。扉を叩いて「おとうさまーーーーー」と叫んでいるが、扉の向こうからの返事はなかった。
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