悪役令嬢には、まだ早い!!

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主人公のみ好きな名前に変換して楽しめます
指定のない場合は「エリー」になります。
名字「マトラコフ」は変更できませんので、あらかじめご了承ください。
主人公

言おうとしたが、どういうわけか言葉が口から出てこない。それは先ほど父親に言われた「ロストシストだからといって邪険にしてはならない」という教えが、無意識の内にあるのか。
もしかすると魔法をかけられたのかもしれない。現代では魔法を直接人にかけることは禁じられているので、それはないと信じたいが。


「し、知らなかったら何ですの!?」


苦し紛れの強がり。そんなエリーに対し、ロタリオは優越な笑みを浮かべて、鼻を鳴らした。
喧嘩勃発といえば、そうだろう。一色触発で止まればよかったが、まだ七歳の女の子。それも蝶よ花よと育てられた令嬢。最近は怒られることも増えてきたとはいえ、面と向かって馬鹿にされる態度に耐性はない。


「あなた、マトラコフ家の者に向かってその態度。いったい、どういうつもりですの!?」


叫んだエリーの顔は怒りで赤い。それに比べて愉悦なロタリオの態度は崩れない。


「無知は罪だ。マトラコフの名を語るなら、パクについて知らないことがあるってのは、恥ずかしいことだと思うけどな」

「なっ、私はまだ七歳ですのよ。知らないことがあって当然ですわ」

「俺は十歳だから、お前より世界を知ってる」

「偉そうで失礼ですわ」


どの口が言うのか。レリアがそう思ったのかは定かではないが、明らかに呆れた瞳でエリーとロタリオを見つめているのは事実である。ちなみに、小さな者同士が言い争うのを例の男は微笑ましく見つめていた。


「さすが、魔導師ロタリオ。攻略対象なだけあって、美形に成長する将来が約束された顔立ち。そして、エリーたんに強気な姿勢。むきになった真っ赤なエリーたんが可愛いぃ。うんうん。からかいたくなる気持ちがわかりすぎる。にしても、ロタリオの容赦ない口の悪さ。断罪後に、ヒロインの敵であるエリーたんを人知れず始末する闇の片鱗が見えるようで胸がいたい。オレの組にもこんなやつがいてくれたら、オレも死なずにす、ん、言い負かされたエリーたんが可愛いいぃいいぁあぁ。不貞腐れた顔も可愛いなんて罪だぁあぁ」

「お父さま、気色悪いお顔で、ぶつぶつ呟いている場合ではありませんわ。この無礼なロストシストを今すぐ解雇なさって」

「うんうん。エリーたんは可愛いよ」

「そんなことではなく、この失礼なロタリオを」

「えー、んー。攻略対象の魔導師ロタリオの反感を買うのはよくないな。たしか、初めからエリーたんとロタリオの好感度が高いバグが発生すれば、確率はわからんが、そうだな。そのルートだとなぜかエリーたんの取り巻く環境に変化も」

「お父さま!!」

「よし、エリーたん。ロタリオと遊んでおいで」


何か閃いた顔で手のひらを合わせた父親に、エリーの顔が赤から青に変わっていく。この、無礼者を解雇しなければ、今まで解雇してきた哀れな人たちが報われないとでも言いたげに、信じられないものを見る目で父親を見上げている。


「わ、わわわ私があ、あそぶ、ですって。そ、そそれもも、こ、この無礼なお、男と」

「年も近いし、問題ないない。はい、そっちの部屋で二人きり。仲良くなるまで出てきちゃダメだ、ぞ、っと」


小さな背中をぐいぐい押して、問答無用で鍵をかけたヒューゴを見る目は千差万別。なにより、閉じ込められた部屋の中から「おとうさまーーーーー」と絶叫に似た恐怖の断末魔が聞こえるのは、気のせいではない。


「だ、旦那様。よろしいので?」


この光景を見慣れた執事やレリアではなく、魔導回路研究所の職員が尋ねる。彼らのなかでは王より尊い生き物として、伯爵が娘を溺愛している記憶で止まっているのだから当然の反応だろう。けれど、目の前の伯爵は、娘が泣いて助けを呼ぶ声が聞こえていながら「よし、お茶にしよう」などと、呑気なことを口走っている。


「放っておけ。小さくても知性も感情もある人間だ。ロタリオはエリーより賢い。ここに呼ばれる人選に、あの年齢で入るくらいだ。とはいえ、エリーたんに傷をつければ、この手で殺してやる」


指を鳴らした伯爵の顔に安堵するとは、きっとどうかしている。一同は、香り立つ半透明な薄緑のお茶を口に含み、そろってホッと息を吐いた。
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