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《プロローグ:かぼちゃの馬車はないけれど》
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いつも熱血な体育教師としてのイメージしかなかった先生からこうして魔法をかけてもらうと、どことなく照れくさい。それも素敵だと一言で形容できるドレスを着せてもらったとなれば、尚更、まともに顔を見ることも出来なかった。
「少し、派手過ぎませんか?」
「いや、綺麗だ。自信を持て」
両肩に乗った手が鏡越しに勇気を与えてくれる。普段、他の生徒と同じような制服を着る生活に慣れすぎていて忘れがちだが、こうしてドレスを着させられると、自分の中に眠っていた「女の子」を改めて思い出す。正直、参加必須のダンスパーティーは壁の華を決め込もうと思っていた。面倒ごとに巻き込まれるのも、他の学校の生徒と仲良くなる気もない。
いつかは現実世界に帰るのだからそれでいいのだと、どこか諦めていた心に花が咲く。
「ありがとう、ございます」
片言で呟いたお礼が口からちゃんと出たかはわからない。
それでもどこか満足そうなバルガスの顔に、お礼は伝わったのだとわかった。
「次はメイクだ」
「メイク?」
たしかに、ドレスに着られている感がどことなく抜けないのは致し方ない。
鏡の中の女の子が素敵なドレスを翻しても、野獣の心を虜にするにはまだ少し何かが足りない気がした。
「仔犬、お利口さんに目を閉じていろ。なに、怖いことは何もない。いい仔にしていればすぐに終わる」
「クルーウェル先生が?」
「そうだ。躾けられたくなければ大人しく言うとおりにするんだな」
そのまま背後から差し出された椅子に座ることを義務付けられる。
鏡の中の自分が少し不安そうに見つめ返していたが、それよりも厳しい顔つきで見つめてくる美麗な教師の眼差しには逆らえない。
「ステイ」と鞭が悲鳴を上げる前に言うとおりにした方がいいだろう。
「ぅっ・・・」
視界を閉じた首筋に差し込まれた指先が、軽く肌をすべって髪をさらっていく。おかげで、ドキドキと言い様のない心拍が聞こえてくる。数秒。いや、数分か。ただ触れられるだけの髪が熱を帯びたように煌めきをまとって「いいぞ」と言われたとおりに目を開ける頃には、自分では制御できないだけの緊張感に包まれていた。
「えっ、これ私ですか!?」
「ああ、首輪をつけて檻に閉じ込めておきたいほどの仕上がりだ」
「本当に、これが・・・私」
見たことのない自分が鏡の中に座っている。
「さすがクルーウェル先生、見事な出来栄えです」
「当たり前だ。駄犬どもには勿体ない、がな」
「違いない。野獣が心を開いたというのも信ぴょう性が増した」
クロウリーが両手を叩くのを横目にクルーウェルとバルガスの二人がお互いに、どこか誇らしげな様子で笑いあっている。授業では見たことのない素顔を垣間見た気がして、くすぐったいような、恥ずかしいような照れが顔を赤く染めてくる。
けれどここで、ひとつ心配事が浮上したきた。
「でも、こんなに素敵に変身させてもらっても、私、会場に行く自信がありません」
三者三葉の顔で「なぜ」という視線を向けられる。
たしかに見目だけで参加が可能なのであれば、この変身ぶりに誰も文句は言わないだろう。しかし忘れてはならない。今夜開催されるのは、ダンスパーティーであることを。
「こんな格好して踊れないとか」
良くも悪くも目立つ黄色のドレスを着て、それこそ壁の華を決め込むのも気が引ける。
こんなとき魔法が使えればと強く願うが、異世界に飛ばされても漫画やアニメで見るようなチート能力が備わっていなかったのだから仕方ない。
「それなら心配はいらない」
「トレイン先生?」
「これを履いてみなさい」
「・・・ガラスの靴」
「ダンスが踊れる魔法の靴だ。これなら相手が誰でも踊れるだろう」
いつも寡黙な先生が膝をついて履かせてくれる靴の威力を何と伝えればいいだろう。
魔法史の授業を淡々と行う授業風景からは想像できない雰囲気で足を持ち上げ、靴を履かせてくれたその所作をこれから先も、きっと思い出してしまうに違いない。
「あっぁあああの」
ぴったりとハマったガラスの靴は、黄色のドレスの裾から覗くように、キラキラと負けない光を放っていた。
「さあさあ、六時には全校生徒および参加する各学校の生徒たちが広間にそろいます。エスコート役は私に任せてください」
気づけば時刻は五時五十五分を回っている。
六時まで残り五分もないというところで、ユウの腰は来た時同様、クロウリーに引き寄せられていた。
「あっ、あの、先生方。ありがとうございます」
瞬間移動かと見まがう空気に押される直前、たしかに告げたお礼はきちんと届いただろうか。
それが届いたかどうかは、広間に通じる扉の前に立たされた身としては確かめようもない。
「本当に大丈夫でしょうか?」
今まで特に問題なく学園生活を送って来たと思う。
だからこその贈り物に、鼓動が早くなっていくのを止められない。何かのドッキリか、こちらの世界でそういう風習があるのかはわからないが、そうでも思わない限り、広間の扉が開くことに多少の恐怖を感じてしまう。
「大丈夫ですよ」
優しい声音と共に、視界にかかる枠組み。
「私、優しいので。特別に仮面をプレゼントして差し上げます。これで誰も貴方がオンボロ寮の監督生だなんて気づきませんよ」
不思議と止まった負の感情に、ほっと肩の力が抜けていく。
「ありがとうございます」と今度こそ確実に告げてみれば、シーっと唇に指をあてて微笑むクロウリーの顔。秘密の共犯者であるような背徳感に悦がこみあげてくる。
悪戯好きの幽霊たちは、いつもこんな気持ちだろうか。本当の姿を誰も知らない場所に、本当の彼らを知っている自分だけが紛れ込んでいく。まもなく扉は開くだろう。けれど、今夜はきっと大丈夫。
「それではどうぞ、プリンセス。あなただけの物語を」
踏み出した一歩は、後にも先にも体験することのできない特別な夜を昇っていくのだから。
To be Continue...
「少し、派手過ぎませんか?」
「いや、綺麗だ。自信を持て」
両肩に乗った手が鏡越しに勇気を与えてくれる。普段、他の生徒と同じような制服を着る生活に慣れすぎていて忘れがちだが、こうしてドレスを着させられると、自分の中に眠っていた「女の子」を改めて思い出す。正直、参加必須のダンスパーティーは壁の華を決め込もうと思っていた。面倒ごとに巻き込まれるのも、他の学校の生徒と仲良くなる気もない。
いつかは現実世界に帰るのだからそれでいいのだと、どこか諦めていた心に花が咲く。
「ありがとう、ございます」
片言で呟いたお礼が口からちゃんと出たかはわからない。
それでもどこか満足そうなバルガスの顔に、お礼は伝わったのだとわかった。
「次はメイクだ」
「メイク?」
たしかに、ドレスに着られている感がどことなく抜けないのは致し方ない。
鏡の中の女の子が素敵なドレスを翻しても、野獣の心を虜にするにはまだ少し何かが足りない気がした。
「仔犬、お利口さんに目を閉じていろ。なに、怖いことは何もない。いい仔にしていればすぐに終わる」
「クルーウェル先生が?」
「そうだ。躾けられたくなければ大人しく言うとおりにするんだな」
そのまま背後から差し出された椅子に座ることを義務付けられる。
鏡の中の自分が少し不安そうに見つめ返していたが、それよりも厳しい顔つきで見つめてくる美麗な教師の眼差しには逆らえない。
「ステイ」と鞭が悲鳴を上げる前に言うとおりにした方がいいだろう。
「ぅっ・・・」
視界を閉じた首筋に差し込まれた指先が、軽く肌をすべって髪をさらっていく。おかげで、ドキドキと言い様のない心拍が聞こえてくる。数秒。いや、数分か。ただ触れられるだけの髪が熱を帯びたように煌めきをまとって「いいぞ」と言われたとおりに目を開ける頃には、自分では制御できないだけの緊張感に包まれていた。
「えっ、これ私ですか!?」
「ああ、首輪をつけて檻に閉じ込めておきたいほどの仕上がりだ」
「本当に、これが・・・私」
見たことのない自分が鏡の中に座っている。
「さすがクルーウェル先生、見事な出来栄えです」
「当たり前だ。駄犬どもには勿体ない、がな」
「違いない。野獣が心を開いたというのも信ぴょう性が増した」
クロウリーが両手を叩くのを横目にクルーウェルとバルガスの二人がお互いに、どこか誇らしげな様子で笑いあっている。授業では見たことのない素顔を垣間見た気がして、くすぐったいような、恥ずかしいような照れが顔を赤く染めてくる。
けれどここで、ひとつ心配事が浮上したきた。
「でも、こんなに素敵に変身させてもらっても、私、会場に行く自信がありません」
三者三葉の顔で「なぜ」という視線を向けられる。
たしかに見目だけで参加が可能なのであれば、この変身ぶりに誰も文句は言わないだろう。しかし忘れてはならない。今夜開催されるのは、ダンスパーティーであることを。
「こんな格好して踊れないとか」
良くも悪くも目立つ黄色のドレスを着て、それこそ壁の華を決め込むのも気が引ける。
こんなとき魔法が使えればと強く願うが、異世界に飛ばされても漫画やアニメで見るようなチート能力が備わっていなかったのだから仕方ない。
「それなら心配はいらない」
「トレイン先生?」
「これを履いてみなさい」
「・・・ガラスの靴」
「ダンスが踊れる魔法の靴だ。これなら相手が誰でも踊れるだろう」
いつも寡黙な先生が膝をついて履かせてくれる靴の威力を何と伝えればいいだろう。
魔法史の授業を淡々と行う授業風景からは想像できない雰囲気で足を持ち上げ、靴を履かせてくれたその所作をこれから先も、きっと思い出してしまうに違いない。
「あっぁあああの」
ぴったりとハマったガラスの靴は、黄色のドレスの裾から覗くように、キラキラと負けない光を放っていた。
「さあさあ、六時には全校生徒および参加する各学校の生徒たちが広間にそろいます。エスコート役は私に任せてください」
気づけば時刻は五時五十五分を回っている。
六時まで残り五分もないというところで、ユウの腰は来た時同様、クロウリーに引き寄せられていた。
「あっ、あの、先生方。ありがとうございます」
瞬間移動かと見まがう空気に押される直前、たしかに告げたお礼はきちんと届いただろうか。
それが届いたかどうかは、広間に通じる扉の前に立たされた身としては確かめようもない。
「本当に大丈夫でしょうか?」
今まで特に問題なく学園生活を送って来たと思う。
だからこその贈り物に、鼓動が早くなっていくのを止められない。何かのドッキリか、こちらの世界でそういう風習があるのかはわからないが、そうでも思わない限り、広間の扉が開くことに多少の恐怖を感じてしまう。
「大丈夫ですよ」
優しい声音と共に、視界にかかる枠組み。
「私、優しいので。特別に仮面をプレゼントして差し上げます。これで誰も貴方がオンボロ寮の監督生だなんて気づきませんよ」
不思議と止まった負の感情に、ほっと肩の力が抜けていく。
「ありがとうございます」と今度こそ確実に告げてみれば、シーっと唇に指をあてて微笑むクロウリーの顔。秘密の共犯者であるような背徳感に悦がこみあげてくる。
悪戯好きの幽霊たちは、いつもこんな気持ちだろうか。本当の姿を誰も知らない場所に、本当の彼らを知っている自分だけが紛れ込んでいく。まもなく扉は開くだろう。けれど、今夜はきっと大丈夫。
「それではどうぞ、プリンセス。あなただけの物語を」
踏み出した一歩は、後にも先にも体験することのできない特別な夜を昇っていくのだから。
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