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《プロローグ:かぼちゃの馬車はないけれど》
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《プロローグ:かぼちゃの馬車はないけれど》
ツイステッドワンダーランドに存在する名門魔法士学校では、各学校の親交と親睦を深めるため二年に一度の社交界、ダンスパーティーが開催されることになっている。けれど、お世辞にも友好的な関係ばかりが築けているわけでもなく、学校名だけで敵視し合う生徒も少なくはない。特にナイトレイブンカレッジとロイヤルソードアカデミーの二校に関しては、犬猿の仲であることが有名な話。そこでいつの頃からか、このダンスパーティーは仮面をつけることが義務付けられ、私怨を持ち込むことは禁じられた。
「というわけだ、理解したか?」
どこか得意気なクルーウェルの笑みが、手にした鞭の音を軽快に響かせる。校長室の中央でクルーウェルの他に、トレイン、バルガスを含む三人の教師と学校長。あまりにも場違いな空気がいたたまれないが、実際目の前に並ぶ、というよりかは一人の監督生を囲むように陣取った彼らの様子を見る限り「理解しません」という返答は許されない。
「理解、しました」
どこか引きつった顔でユウは片言の返事を吐き出す。
他にどう答えろというのか。無言の訴えは誰も聞き入れるつもりはないらしい。
「いい仔だ」
黙って立っていれば、グッドボーイと生徒を褒めるときの定番文句が聞こえてくる。そのまま鞭の先でアゴを持ち上げられた身としては、これから起こるだろう未来を予測して冷や汗をかいていた。
数十分前、正確には四十三分前の午後四時三十五分に「ちょっといいですか」と、突然現れたクロウリー校長に連れてこられた校長室。放課後に一体何の用かと身構えたのも束の間、パーティーに並ぶ豪華な食べ物を狙いに一人飛んで行ったグリムを追いかけることもできず、ユウはこうしてなぜか勢ぞろいした四人の大人に囲まれていた。
現在は五時十八分。
クルーウェル先生の特別講義が示すように、今日は複数校で開催される特別な仮面舞踏会がある日。今年はナイトレイブンカレッジが主催校ということもあり、各寮生は寮長指導の元、今頃準備に追われていることだろう。そうでなくても朝からどことなく浮かれた雰囲気は記憶に新しい。
「それで、ダンスパーティーがあることは理解しましたが、なぜ先生方がここに?」
肝心の要件をまだ聞けていないと、持ち上げられたままの顔でクルーウェルを見つめる。相変わらず独特の色気が半端ないが、今ここでその視線に平伏しては意味がない。
放課後を犠牲にした特別講義が行われたからには、自分に与えられる何か特別な役割が存在することは、ここ数か月でいい加減に学んでいる。その証拠に、クルーウェルの唇がふっと不敵に持ち上がった。
「お前はここが男子校であることは知っているな?」
「はい」
「だが悦べ、今日は特別に本来の姿で参加させてやる」
「はい?」
言っていることが理解できないと、疑問符の浮かんだ顔は視線をクルーウェルから隣のクロウリーへと流す。そこでは、同じようにどこか得意気な笑みを浮かべた校長がいた。
はっきり言って、いい予感はしない。
こういう場合、大抵の確率で厄介な「お願い事」をもっともらしい理由に変換されて依頼される。
「何ですかその目は?」
心外だという顔でクロウリーの唇がへの字型に歪む。
「そんな顔で見つめなくても、今日は何の下心もありませんよ」
「それ、いつもはあるって言ってるようなものですよね?」
「こほん。いやですねー。ユウさん、仮にも私は教師ですよ。教師が生徒のために出来る限りのことをしてあげたいと思うのは当然じゃないですか。それに私、優しいので」
クルーウェルから解放されたアゴをさすりながらユウはクロウリーをじっと見つめる。
明らかに目が泳いでいる。ような気がしないでもないが、ここは素直に先生の言い分を聞いておいたほうが無難だろう。
グリムのことも気になるし、黙って話の先をうながすことにした。
「いつも男子生徒のふりをして学校にいるのも窮屈でしょう。そこで、今日は特別にあなたを女子生徒としてダンスパーティーに参加させることにしました」
「え?」
「そうでしょう、そうでしょう。喜ぶと思っていました。開催されるダンスパーティーは女子生徒も沢山来ますし、何より仮面舞踏会です。一人くらい、身元のわからない女子生徒が紛れ込んだくらいで騒ぎにはなりません」
名案だと言わんばかりのテンションで嬉々として語る校長を誰も止めないのか、独壇場にも近いクロウリーの口は止まらない。
「二年に一度しか開催されないとはいえ、各校順当に開催場所が回る。おととしはロイヤルソードアカデミーで、それはもう・・・いえ、済んだことは仕方ありません。本校は名門校です、学生の品位は守りたいところ。言いたいことはわかりますね?」
「いえ、まったくわかりません」
「我が学校の生徒たちが、数年ぶりに我が校で開催される伝統的行事で騒ぎを起こす・・・なんて、想像したくもありません。そこで、あなたに懐いている猛獣たちが何か騒動を起こさないよう、ここにいる先生方と相談して、あなたを今日一日、女子生徒にすることを決めました」
その両手が示す仕草の通り、満場一致で可決された案なのだろう。
けれど納得がいかない。心当たりのある騒動の種を見張るのであれば、わざわざ女らしい恰好をしなくても、いつものように男子生徒として参加しても、問題はないはず。
「私の見込んだ生徒が一番可愛いということを見せびらかしたいなんて、決して思っていませんからね」
「え?」
「さあ、そうと決まれば準備を始めましょう」
パンパンっと手を叩く音が二度聞こえたときには、目の前に優美な黄色のドレスが泳いでいた。
細やかなレース、柔らかなフリル。キラキラとした粉がふりかけられているのか、裾が舞うたびに光が反射している。ここが薄暗い学校長室でなければ、そしてバルガス先生が差し出したものでなければ、素直に美しいと声に出したかもしれない。
「意外か?」
ふふんと、少年のように瞳を輝かせたバルガスに、胸中は悟られていたらしい。
「猛獣を手懐けるには昔から黄色のドレスと決まっている」
「そうなんですか?」
「ああ。かつてオレの国で誰にも心を開かなかった野獣も、黄色のドレスを着た女性には心を開いたそうだ」
「・・・野獣」
生徒を野獣と同類に扱っていいのかは深く考えないことにして、どうやら「着る」以外の選択肢が与えられない以上、ここは着るしかない。
「少し、待っていてください」
豪奢なドレスなんて初めて着る。一見ワンピースのようでいて複雑な構造があるに違いないと、彼らに背を向けたところで、なぜかすでに試着を終えていた。
「バルガス先生!?」
「ふむ、サイズも問題ないようだな」
なぜか目の前に巨大な全身鏡も用意されている。
魔法でユウを着替えさせた張本人は、鏡を覗き込むように顎に手を添え、納得したように笑みを浮かべているのだから驚きは隠せない。
ツイステッドワンダーランドに存在する名門魔法士学校では、各学校の親交と親睦を深めるため二年に一度の社交界、ダンスパーティーが開催されることになっている。けれど、お世辞にも友好的な関係ばかりが築けているわけでもなく、学校名だけで敵視し合う生徒も少なくはない。特にナイトレイブンカレッジとロイヤルソードアカデミーの二校に関しては、犬猿の仲であることが有名な話。そこでいつの頃からか、このダンスパーティーは仮面をつけることが義務付けられ、私怨を持ち込むことは禁じられた。
「というわけだ、理解したか?」
どこか得意気なクルーウェルの笑みが、手にした鞭の音を軽快に響かせる。校長室の中央でクルーウェルの他に、トレイン、バルガスを含む三人の教師と学校長。あまりにも場違いな空気がいたたまれないが、実際目の前に並ぶ、というよりかは一人の監督生を囲むように陣取った彼らの様子を見る限り「理解しません」という返答は許されない。
「理解、しました」
どこか引きつった顔でユウは片言の返事を吐き出す。
他にどう答えろというのか。無言の訴えは誰も聞き入れるつもりはないらしい。
「いい仔だ」
黙って立っていれば、グッドボーイと生徒を褒めるときの定番文句が聞こえてくる。そのまま鞭の先でアゴを持ち上げられた身としては、これから起こるだろう未来を予測して冷や汗をかいていた。
数十分前、正確には四十三分前の午後四時三十五分に「ちょっといいですか」と、突然現れたクロウリー校長に連れてこられた校長室。放課後に一体何の用かと身構えたのも束の間、パーティーに並ぶ豪華な食べ物を狙いに一人飛んで行ったグリムを追いかけることもできず、ユウはこうしてなぜか勢ぞろいした四人の大人に囲まれていた。
現在は五時十八分。
クルーウェル先生の特別講義が示すように、今日は複数校で開催される特別な仮面舞踏会がある日。今年はナイトレイブンカレッジが主催校ということもあり、各寮生は寮長指導の元、今頃準備に追われていることだろう。そうでなくても朝からどことなく浮かれた雰囲気は記憶に新しい。
「それで、ダンスパーティーがあることは理解しましたが、なぜ先生方がここに?」
肝心の要件をまだ聞けていないと、持ち上げられたままの顔でクルーウェルを見つめる。相変わらず独特の色気が半端ないが、今ここでその視線に平伏しては意味がない。
放課後を犠牲にした特別講義が行われたからには、自分に与えられる何か特別な役割が存在することは、ここ数か月でいい加減に学んでいる。その証拠に、クルーウェルの唇がふっと不敵に持ち上がった。
「お前はここが男子校であることは知っているな?」
「はい」
「だが悦べ、今日は特別に本来の姿で参加させてやる」
「はい?」
言っていることが理解できないと、疑問符の浮かんだ顔は視線をクルーウェルから隣のクロウリーへと流す。そこでは、同じようにどこか得意気な笑みを浮かべた校長がいた。
はっきり言って、いい予感はしない。
こういう場合、大抵の確率で厄介な「お願い事」をもっともらしい理由に変換されて依頼される。
「何ですかその目は?」
心外だという顔でクロウリーの唇がへの字型に歪む。
「そんな顔で見つめなくても、今日は何の下心もありませんよ」
「それ、いつもはあるって言ってるようなものですよね?」
「こほん。いやですねー。ユウさん、仮にも私は教師ですよ。教師が生徒のために出来る限りのことをしてあげたいと思うのは当然じゃないですか。それに私、優しいので」
クルーウェルから解放されたアゴをさすりながらユウはクロウリーをじっと見つめる。
明らかに目が泳いでいる。ような気がしないでもないが、ここは素直に先生の言い分を聞いておいたほうが無難だろう。
グリムのことも気になるし、黙って話の先をうながすことにした。
「いつも男子生徒のふりをして学校にいるのも窮屈でしょう。そこで、今日は特別にあなたを女子生徒としてダンスパーティーに参加させることにしました」
「え?」
「そうでしょう、そうでしょう。喜ぶと思っていました。開催されるダンスパーティーは女子生徒も沢山来ますし、何より仮面舞踏会です。一人くらい、身元のわからない女子生徒が紛れ込んだくらいで騒ぎにはなりません」
名案だと言わんばかりのテンションで嬉々として語る校長を誰も止めないのか、独壇場にも近いクロウリーの口は止まらない。
「二年に一度しか開催されないとはいえ、各校順当に開催場所が回る。おととしはロイヤルソードアカデミーで、それはもう・・・いえ、済んだことは仕方ありません。本校は名門校です、学生の品位は守りたいところ。言いたいことはわかりますね?」
「いえ、まったくわかりません」
「我が学校の生徒たちが、数年ぶりに我が校で開催される伝統的行事で騒ぎを起こす・・・なんて、想像したくもありません。そこで、あなたに懐いている猛獣たちが何か騒動を起こさないよう、ここにいる先生方と相談して、あなたを今日一日、女子生徒にすることを決めました」
その両手が示す仕草の通り、満場一致で可決された案なのだろう。
けれど納得がいかない。心当たりのある騒動の種を見張るのであれば、わざわざ女らしい恰好をしなくても、いつものように男子生徒として参加しても、問題はないはず。
「私の見込んだ生徒が一番可愛いということを見せびらかしたいなんて、決して思っていませんからね」
「え?」
「さあ、そうと決まれば準備を始めましょう」
パンパンっと手を叩く音が二度聞こえたときには、目の前に優美な黄色のドレスが泳いでいた。
細やかなレース、柔らかなフリル。キラキラとした粉がふりかけられているのか、裾が舞うたびに光が反射している。ここが薄暗い学校長室でなければ、そしてバルガス先生が差し出したものでなければ、素直に美しいと声に出したかもしれない。
「意外か?」
ふふんと、少年のように瞳を輝かせたバルガスに、胸中は悟られていたらしい。
「猛獣を手懐けるには昔から黄色のドレスと決まっている」
「そうなんですか?」
「ああ。かつてオレの国で誰にも心を開かなかった野獣も、黄色のドレスを着た女性には心を開いたそうだ」
「・・・野獣」
生徒を野獣と同類に扱っていいのかは深く考えないことにして、どうやら「着る」以外の選択肢が与えられない以上、ここは着るしかない。
「少し、待っていてください」
豪奢なドレスなんて初めて着る。一見ワンピースのようでいて複雑な構造があるに違いないと、彼らに背を向けたところで、なぜかすでに試着を終えていた。
「バルガス先生!?」
「ふむ、サイズも問題ないようだな」
なぜか目の前に巨大な全身鏡も用意されている。
魔法でユウを着替えさせた張本人は、鏡を覗き込むように顎に手を添え、納得したように笑みを浮かべているのだから驚きは隠せない。