番外編
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(配役)
父:フョードル=ケイ
長兄:ドミートリイ=黒曜
次兄:イヴァン=リンドウ
末弟:アレクセイ=モクレン
不義の子(使用人):スメルジャコフ=ミズキ
原作:カラマーゾフの兄弟
※かなり捏造
*****
一触即発。
誰が見ても張り詰めた緊張感が空気を支配している。
豪奢な室内には一体の屍と四人の生者。カラマーゾフ家に集められた人物は、それぞれに思うところがあるのか、鋭い光を宿した瞳で、互いをにらみ合っていた。
「一体、誰が・・・」
カラマーゾフ家長のフョードルが殺された。
強欲で好色家。成りあがりの地主で噂はそれなり。ここで問題なのは、殺されたフョードルではなく、誰が「父殺し」という大罪を犯したかということだろう。
「あなたがやったんでしょう?」
「はぁ?」
イヴァンが兄のドミートリイを問いただす。反射的に苛立ちを口にしたドミートリイは、次の瞬間、はっと鼻で笑って視線をそらせた。
そこに集う誰の瞳にも、ドミートリイを疑う色が滲んでいた。それもそのはずで、父と長兄の仲がすこぶる悪いことは羞恥の事実だった。二人は顔を合わせればいがみ合い、殴り合い、一人の女性をめぐって対立していた。
フョードルが殺された、と聞いて一番初めに浮ぶ犯人は、紛れもなくドミートリイだろう。
「殺したのは本当にドミートリイなのか?」
「どういう意味です?」
「スメルジャコフ、お前でもありえる話しだ」
末弟のアレクセイはスメルジャコフを見据えてそう言った。
スメルジャコフはカラマーゾフ家で働く使用人だが、フョードルの屋敷の風呂場で生まれたことから私生児と噂されていた。母は貧しく、スメルジャコフを産んですぐに死んだ。実際の父を知る人物はこの世にいないが、フョードルも強くそれを否定することがなく、事実は闇の中に葬り去られている。
「祈るなんてごめんだ。神がいなければ、すべて許される」
スメルジャコフは口にする。
「オレはフョードルのうしろから後頭部のてっぺんめがけて、あの重い鋳物の文鎮を二度、三度打ち付けた。三度目に、血だらけの顔を上に向け倒れたんだ」
「・・・なぜ、そんなことを」
「殺させたのは、イヴァン。オレは、イヴァンの手足を務めただけだ」
スメルジャコフはイヴァンからの教えを受けて、実行したという。
「そんな、僕は・・・僕が」
「スメルジャコフ!?」
頭を抱えて苦しみ始めたイヴァンの横で、アレクセイの声がスメルジャコフの名前を叫ぶが、自害したスメルジャコフの血は床を赤く染めていく。
「なんだ?」
傍観を決め込んでいたドミートリイはこれですべてが解決したと思っていた。けれど、そこにドミートリイがフョードルを殺したいほど憎んでいるという手紙を見つける。
「笑えるぜ。悪役かよ」
自白した者は自害し、持論のせいで父が死んだことに耐えられなくなった次男はまともに喋れる状態ではない。末弟は真実を口にしてくれるかもしれないが、身内の証言がどこまで作用するかはわからない。
最初にここにいる全員に疑われたように、世間は父殺しの犯人をドミートリイに着せるだろう。わかりやすい証拠はドミートリイで揃っている。
まるでフョードルの声が聞こえてくるようだった。
「愛しい呪いの末裔よ。もっと楽しむがよい、黒に染まった世界を」と。
~Fin~