番外編
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『ヒロインが媚薬10本飲まないと出られない部屋』
どうしてこうなったのかはわからない。
突然マイカと一緒に閉じ込められた部屋の中で、そのテーブルだけが異彩を放ってそこに存在していた。テーブルの上には、怪しい色をした10本の小瓶と小さなメモが一枚。明らかにおかしい。
誰かの悪戯にしては実に手が込みすぎている。
「何、ちょっと怪しすぎるんだけど」
訝しむマイカの横から顔を覗かせてテーブルの近くまで足を運ぶ。やはりテーブルの上に一枚の紙切れ。そこにこの部屋に招かれた意味が書かれてある気がして、おもむろに手を伸ばした。
「ねぇ、触らない方がいいよ」
「でも。何か書いてあるっぽいし」
「僕がやる。どいて」
応える前にマイカはテーブルの上にあるメモを広げていた。
束の間の沈黙。その物言わぬ横顔に何か良くない予感がして、思わずごくりと喉が鳴った。
「最低、誰だよ。こんな悪戯考えたヤツ」
焦燥にかられた声。その瞬間、ヒラヒラと待った小さな紙切れが視界に飛び込んできて、こう告げていた。
「媚薬を10本飲まないと出られない部屋?」
カサリと乾いた音が足元に落ちる。それを指で拾い上げて再度文字に目を走らすと同時に、血の気が音を立てて引いていくような感覚がした。
「え、私が?」
驚いて声をあげてみても、どうやらその事実は揺るがないらしい。怪しい液体の小瓶が10本。たしかにテーブルの上に存在している。それは部屋に入って来た時からずっとそこにあって、今も当然そこにある。
「これ、飲めばいいの?」
正直、全然余裕だと思った。
中身が毒薬や劇薬といったものならまだしも、媚薬。これを飲んで出られるくらいなら難しいことではない。
「は、本気で言ってんの?」
「大丈夫。これくらい平気だって」
「そういう問題じゃない。これ媚薬なんだよ。意味わかって言ってんの?」
「うん。マイカもこんな変な部屋早く出たいでしょ?」
「そう・・・かもしれないけど、だけど、それは違う気がするって、あ。ちょっと!!」
マイカの言葉を待たずに小瓶を一本手に取って一気に流し込んでみた。
少しピリッとするが、それ以上でもそれ以下でもない。
「何勝手なことしてんの」
マイカの手が空になった瓶を奪うが、その反対でもう一本を手にして、また一気に喉に流し込む。
あまり変化はない。ほんのり苦い栄養ドリンクだと思えば、残り8本、飲み干せないものではない。特に変化のない心身の状態に、危機感を欠いていたと言われればそれまでだが、現に何も起こらないのではただの取り越し苦労。
はぁっと、気合を入れ直して言葉を失うマイカの横でもう一本を飲み干した。
「ちょっと、ほんとに大丈夫?」
「だいじょうぶ、らいじょうっ・・・ぶ?」
「待って。それ大丈夫じゃない。もういいから、飲むのヤメッ」
ドサッと音がしたのに身体は痛くない。
なんだかふわふわと心地よくて、頭がもうろうと正常な思考を揺らしてくる。お酒に酔ったような、だけどそれとは違う、ふつふつと湧いてくる鋭利な感情。
「ふふ」
優越な笑みが漏れる。
いつの間に下に寝転んでいたのか。見上げてくるマイカの視線が妙に心地いいい。焦ったような、困ったような、それでいて物珍しさと好奇心を隠せない瞳がくすぐったい。表情は戸惑っているのに、きっと内心、これから先の未知な未来に期待している。
「笑ってないで早くどきなよ」
「い・や」
言いながらもう一本、また一本と飲み干し。テーブルの上にあった小瓶が半分になるころには、馬乗りに見下ろす先で赤面するマイカへの征服感に心が満たされていた。
たまらない。
身体の芯から熱く湧き上がってくる感覚を教えてあげたい。
呼吸の仕方さえ忘れてしまうほどの興奮を伝えてあげたい。
「ねぇ、マイカ?」
微動だにしないマイカのお腹に両手を当てる、服の上からではわからない腹筋が手の平から伝わって、思わずぺろりと唇を舐めていた。
ゴクリとマイカの喉が鳴ったのがわかる。
「ねぇ、マイカ。残りを全部飲み干すまでちゃんと見ててね」
お願いをマイカは聞き入れてくれるだろう。
口では悪態をついても、いつも目を離さないでいてくれる。
「ああ、くそ。こんな部屋に閉じ込めたやつ誰だよ。この部屋から出たらぶっ殺してやる」
そんな声を聞きながら、残りを飲み干すころには意識は虹の彼方へ散っていった。
(完)
* * * * * *
2019/10/14 ツイッターで公開したものを移植♡
「○○しないと出られない部屋」という話題で盛り上がったので、即興で書いたものです。
Twitter仕様なので、あえてヒロインの名前出していないので夢小説感がないかもしれませんが・・・媚薬っていいですよね。好きです。