番外編
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シーズン1最終章
報酬カード『鳥籠』ケイ様
2枚目のカードが白雪姫にしか見えないので、白雪姫パロディにしてみた。
※ネタバレ注意※
『眠れる腕の少女』
* * * * * * *
その日が特別な夜になることを誰が想像しただろう。
その夜が特別な宴になることを誰が示唆しただろう。
閉じた瞼の奥で見た景色。忘れてしまった記憶の行方をたどるように、視界に零れ落ちる流星。黒く塗りつぶされた世界に流れ落ちた十五年前の赤い色。
けれど、その正体を思い出すよりも前に、現実を拒絶した体は意識を連れて地面へと倒れ込んでいた。
「……ッ姫!?」
ちょうど帰宅してきた小人の一人が血相を変えて駆け寄ってくる。気絶した少女の周囲には見慣れた二人の小人の姿。共に姫を守ることを誓い合った仲間がなぜ。その疑問を口にするより前に、ケイは横たわる少女を抱き起こしていた。
「可哀想に」
悲痛な面持ちで眠る少女を見つめる瞳は、周囲の喧騒にも気づかない。先ほどまで愛らしく動いていた指先は力を失くしたようにだらりと垂れ下がり、煌めく笑顔を見せていた瞳はしっかりと閉じられている。
「貴様ら、何を企んでいる。なぜ彼女をこのような目に遭わせた」
少女を胸に抱きながら、ケイは柘榴とシンに顔を向けた。
「おやおや、愚かといえばあまりにも愚か。その問いをワタクシに投げるとは」
「お前にはお前の。俺には俺の道理がある」
仲間だと信じて疑わなかった者たちの瞳は冷たい。怒りを宿したケイの瞳に真っ向から対峙する彼らの両眼は、その実、腕の中の少女を何色とも表現しがたい色で見つめていた。
「まなこを鎧う闇はじきに晴れる」
シンの言葉がわずかな希望を匂わせる。眠る少女はじきに目を覚ますと言っているのだろうが、それさえも信じられないという風に、ケイは少女を強く抱きしめている。安易に「触れるな」と、見えない壁が見えるようだった。
「俺は「なぜ彼女に」と問うたのだ。くだらぬ言葉遊びは捨てよ。貴様らの欲望など、彼女以上の価値は持たぬ。そのことを知らぬか」
腕の中で力なく横たわる少女が、国を守る王の娘であることを彼らは知っているはずだった。白雪姫といえば誰もが知っている姫であり、自分たちが守るべき国の王女であることを知っているはずだった。安全な場所でかくまい、保護してきたのは誰だったか。王の後妻に疎まれ、挙句殺されそうになった哀れな姫。森に迷い込むうちに記憶を失い、ケイたち小人が保護するころにはすっかり姫であることを忘れていた哀れな少女は、こうしてまた危険にさらされることになってしまった。他でもない、守るべき自分たちの手で。
「あらゆるものは毒だ。毒なきものなど存在はしない」
シンの言葉が姫に与えられた果実の名前を口にする。ケイはその言葉を聞きながら、続く柘榴の言葉に声を荒げた。
「服用量が、それを薬にもする。パラケルスス」
「毒も薬もあるものか、貴様らの過信は破壊行為だ」
なぜ姫が記憶を封じたのか、それさえもわからないような仲間だとは思わなかった。姫がいつまでも白雪姫であることを忘れているわけにはいかない。それはケイもわかっている。それでも、強制的にこじ開けられるものが必ずしも功を成すとは限らない。
「己の罪を悔やまずに済めばよいな、去れ」
これ以上、少女が壊れないように願っているのか、少女を抱くケイの腕はゆるまない。それを見た柘榴とシンも少し胸中に思うことがあるのか、ケイの言葉に同意を示す。
「真実に薄布を掛けて飾り立てたところで、得られるものは虚構の楽園。されど小鳥の笑顔を曇らせるのも本意ではなく、謝罪方々、この場はアナタに」
「立ち去れ」
「ならば我らは、小鳥を包む揺り籠の支度に。まずはしかるべき場所での治療を」
「そうするとしよう。ケイ、馬車を手配してくる」
まもなく姫を眠らせるガラスの棺が運ばれてくるだろう。彼女が口にした禁断の果実は毒となるのか薬となるのか。それよりもこの深刻な事態から目覚めてくれるのかどうか。ケイの不安は焦燥と困惑に包まれていた。
「姫、会わずにいるのが最善だった。だがそれも叶わなかった。俺の願いは、君が心穏やかに幸福であること。そのためならばどのようなこともしよう。この誓いを決して違えたりせぬ。だから、目を覚ましてくれ」
その昔、少女がまだ「姫」だったころの苦い記憶がよみがえってくる。あの時も自分は彼女を守れなかった。
「目を開けて、君の声を聞かせてくれ」
眠る少女の額に自身の額を重ねながらケイは絞り出すような声を吐き出していた。一体、過去に何があったのか。天に願う彼の胸に巣食った過去の出来事は、眠る少女にはわからない。
「姫、どうか俺に、君を守らせてくれ」
口付けで姫の眠りが覚めるなら、そうしよう。けれど、腕の中で眠る少女の白い肌をケイはただ強く抱きしめただけだった。
完