番外編
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2020/02/01 募集
2020/02/02 公開
# リプ来たキャラで焼肉行った話をかく
モクレン
藍
吉野
ミズキ
『異文化コミュニケーション』
* * * * * *
ざわついた喧騒がまとわりつく店内は、時折食器の音が混ざっている。酒をあおる大人の声と甲高い女の笑い声。罵声に似た店員の客さばきを横目に、濃厚なタレと焼ける肉の匂いが食欲を誘う中、促されるまま半個室の席へ足を運んでいた。
「ねぇちゃん、オレの隣に座りぃやぁ」
「ふざけんな、あっち行けよ」
「照れるなって、それか、あれか、ミズキは惚れた女と向かい合わせで食事する方が好きなんか?」
「ばっ、そんなんじゃねぇよ」
「うるさい、騒ぐな」
「痛っ、モクレン!!」
いの一番に席に駆け寄った藍に手招きされる傍で、ミズキとモクレンが睨みあう。六人掛けの席で五人。藍、ミズキが向かって左側に進むのに対し、モクレンが右側に腰を下ろそうとしている。
「席なんてどうでもいい」
「そっそうだよ。席なんてどこに座っても同じだよ」
「そういう吉野は、ねぇちゃんの隣じゃなくていいってことやな」
「うっ・・・そういうわけじゃ」
どちらに座るべきか悩む背後で、同じように何かを思案する吉野の声。振り返って顔を見れば、何故か少し顔を赤くした吉野に微笑まれる。何の意味があるのだろうか。思わず感染した熱が顔を火照らせてくる。
「決められないなら、私が決める」
「えっ、キャッ」
「姫はここ」
引き寄せられるまま腕を引かれて、強制的に座ったのは藍とミズキの間。反動でミズキが席外に飛び出してしまったが、そこはいつもの身軽さでケガのひとつもなかったらしい。その代わりと言っては何だが、場を仕切るモクレンに対して怒りの声が飛んでくる。
「てめぇ、勝手に決めてんじゃねぇよ」
「あの、イヤだったら私は本当にどこでも」
こんな大衆の面前で喧嘩なんてとんでもない。せっかく仲良くここまで足を運んだのだから、どうせなら楽しく食事をしたい。無理かもしれないけど、なんて。心の端っこで思ったことは内緒。
「イヤじゃねぇし、さっさと座れよ」
「ぎゃはは、ミズキが照れてる。まじうける」
「うっせ、藍。もっと寄れって」
「ええやんか、ねぇちゃん間に挟んで楽しもうや」
結局、藍とミズキに挟まる形で落ち着いた。向かい側にはモクレンと吉野。改めて顔をそろえると、よくここまで来たなと再度不安が頭をよぎる。
「藍、早く。肉、食いに行こうぜ、肉」
そう言いながら嬉しそうに飛び跳ねていたミズキに遭遇したのが一時間ほど前のこと。藍と一緒に焼肉に行くつもりだったらしいが、良くも悪くも遭遇した流れで「ねぇちゃんも一緒に行かへん?」と誘われる羽目になった。
「今から焼肉ですか?」
「行くのかよ、行かねぇのかよ」
当たり前のように待ってくれているミズキと藍に応えようとした口が開いたまま固まる。
「姫、お待たせ」
「すみません、遅くなっちゃって」
「モクレンさん、吉野さん」
鉢合わせとは、こういうときに使う言葉だったか。ミズキと藍の向こうから現れた二人組に、なんとも言えない気まずい沈黙が流れ落ちる。
「なに、なんでミズキたちといるの?」
「それがミズキさんと藍さんも焼肉に行くそうで」
「じゃあ、みんなで一緒に行く?」
にこっと笑った吉野の提案を断る理由はどこにもない。モクレンとミズキが複雑な顔をしているだけで、特に否定するのもおかしな話。目的は全員同じなのだから、仲良くすればいいだけの話。
「オレ行きたい。吉野とモクレンと行ったことないもん」
はいはーいと、いつものように明るく手を挙げてくれた藍に救われたのは言うまでもない。結果、こうして目新しいメンバーで焼肉を囲むことになった。
「で、何を頼もうか?」
メニュー表に手を伸ばしながら吉野が問いかける。けれど、それに手が届くよりも先に「野菜以外全部に決まってんだろ」と、何言ってるんだという顔でミズキが口を挟んだ。
「焼肉っつったら片っ端から全部だろ、全部」
「いい意見だ、ミズキ。よしそれで行こう」
うなずくなり、モクレンが店員を呼ぶボタンを押す。店内に呼び出しの音が軽快に響いて、駆寄ってくる足音が近づいてくる。そして、当然のように「肉、端から端まで」は受諾されてしまった。
「ちょ、本当にいいんですか?」
「えーねんえーねん、どうせ綺麗さっぱり片付くって」
「まあ、このメンバーならそうなると思います」
個人の心配をよそに、藍と吉野が当然のように受け入れているなら大丈夫なのだろう。実際にモクレンとミズキが食べ物を残しているところを見たことはない。
「吉野さんも焼肉来るんですね」
「意外でした?」
「はい。なんだかそういうイメージがなかったので」
「前に晶とリンドウと、あと運営くんと一緒に行ったことあるんですよ」
「え、そうなんですか?」
「そのあとにカラオケ行ったりなんかして」
「それはなんというか、豪華ですね」
「はい、ねぇちゃんはこれな」
「あ、藍さん。ありがとうございます」
吉野の会話の隙間から藍の手が焼肉のタレを差し出してくる。丁寧に全員分配布しているが、藍のそういう一面に驚いたのは何も一人じゃなかったらしい。
「意外と気が利くな」
モクレンが感心したように呟いている。
それにニコッと笑い返しながら「せやろ。オレ、こう見えても気が利くねん」と藍もどこか嬉しそうに答えていた。
「藍、箸」
「はいはい、ってミズキはもっと気ぃきかせてって無理か、ミズキやもんな」
「ミズキだしな」
「ミズキはそうかもしれない」
「んだよ。オレだって気のひとつくらい利かせられるって」
「そうか。じゃあ、肉を焼く係はミズキに任せた」
「は?」
藍、モクレン、吉野に続いて店員が運んできた肉の皿がミズキの前に無遠慮に置かれていく。ミズキの瞳が心なしか輝いて見えるのは気のせいではないだろう。
「オレが焼いていいのかよ」
「ああ、かまわない。私は食べるほうに専念する」
「よぉし、んじゃ。全部いっきに乗せてって、おわっ、吉野、何すんだよ」
「いいから、ミズキは焼かなくていいから僕に任せて」
「せやで、ミズキかてモクレンみたいに食べるほうに専念したいやろ?」
「んー、まあ、吉野がどうしてもっていうなら譲ってやってもいい」
意気揚々とお箸を持ち、食べる姿勢を見せたモクレンの前でミズキの手からトングを奪った吉野と、それをなだめる藍の連携に笑ってしまう。やはりどこに行っても、スターレスはスターレスのまま移動してしまうのかもしれない。彼らの存在がチームという枠でくくられてしまうのは勿体ないような気がした。
「なに笑ってんだよ」
肉が焼けるのを横目に贈られたミズキの視線が愛おしいといえば、怒られてしまうだろうか。
「みなさん、本当に仲いいなと思って」
「お前、目ぇおかしぃんじゃねぇの?」
ふいっと顔をそむけたミズキは、次の瞬間、いい色に仕上がった肉を持って皿に置いてきた。
「ほら、やる」
「え?」
「これ、この店でたぶん一番うまいやつ」
ミズキの顔を見上げて思う。たぶん、何気なくお皿に置かれた肉の塊は、本当にこの店で一番美味しいとミズキが思っているものだろうと。
「じゃあ、いただきます」
手を合わせて食べてみれば、じゅわっと広がる肉汁が甘さと熱を持って舌の上で転がっていく。
「ほんとだ、美味しい」
「だろ」
得意げなミズキの声に、また笑みが勝手にこぼれていく。そうして各々に育った肉を取り上げて口に運ぶ中、唐突に目の前から妖しい笑みが向かってきた。
「姫、あーん」
「え、なっッン!?」
「どう、美味しい?」
防ぎようのない猛攻に正直な感想を述べるのであれば、驚きすぎて味がよくわからない。強引に口の中に突っ込まれた肉の味は、たしかに美味しいものに間違いはなくても、色々と理解が追い付かないから無理もない。
「はい、えっと、美味しいです」
「よかった。しっかり食べないとイイ肉がなくなるよ。吉野が焼くの遅いから、出来たらすぐに食べないと」
「モクレンが食べるの早すぎるんだよ」
「つべこべ言わずにさっさと焼いて」
「もう、人使いが荒いなぁ」
そう言いながら網の上に肉を運ぶ吉野は、なんだかんだで吉野らしい。いつの間に頼んだのか、血のように赤い液体も楽しんでいるのだから驚きは右肩上がりでしかなく、発見はどこにでも隠されている。
「あ、藍。それはもう少し焼いてからの方が美味しいと思うんだけど」
「えー、自分の好きなタイミングで食べたい」
「そんなこと言い始めたら生の状態で食べる羽目になっちゃうよ」
嘆く吉野の声をBGMに、食欲旺盛な肉食獣たちに囲まれていれば見えてくる景色もある。店とは違う別の顔。普段の彼らとは違う素顔。
「焼肉なんだから、もっとゆっくり食べればいいのに」
大きな口で負けじと食べる吉野もやっぱり負けず嫌いで、本当に心配する必要のないくらい、綺麗さっぱり平らげるころには、みんな満足そうな笑顔を浮かべていた。
完