番外編
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『消えていくもの、繋がっていくもの』
街を飾るイルミネーションが姿を消して、恋人たちが手を繋いで集まったクリスマスツリーもどこかに行ってしまった。世間はお正月を迎え、それももう間もなく終わる。
今はまばらな人足も、明日になればまた日常らしさを取り戻していくのだろう。
「どうかした?」
あの日、クリスマスツリーを運んだミズキもプレゼントを抱えたギィも今日はいない。特別講演の期間はあっという間に過ぎ去り、隣にはリンドウただ一人。
私服で歩く街はどことなく寂しげで、眼鏡をかけたリンドウが見る風景も大差ないに違いない。
「なんだか少し寂しいなって」
正直に感想を口にしてみた。
「僕といるのに?」
「え、あ。違います、そういう意味じゃなくて」
「ええ。今のはわざとです」
ニコリとほほ笑む瞳にホッと胸をなでおろす。スターレスに行く前に少し付き合ってほしいと連絡が来たのは今朝の話。合流して話を聞いてみると、特に目的はないとのこと。リンドウ曰く「ただ顔を見たかった」らしいので、それはそれで気恥ずかしい。
「懐かしい感じがするよね」
小さく声に出したリンドウの横顔を思わずじっと見上げる。歩き出した雰囲気に合わせて足を動かしてみたけれど、視界には隣を歩くリンドウしか映らない。
同じことを感じているのだろうか。
そう考えながら歩いていたら、案の定、何もない場所で躓いた。
「すみません」
とっさに支えてくれたリンドウに慌ててお礼を言いながら体制を整えていると、ふわりといい香りがして、そのまま添えられた手が自然に絡み合う。
「行きましょうか」
何食わぬ顔で歩き出す横顔に連れられて足を踏み出す。今度は横顔を見つめる勇気もなくて、ただ手のひらから伝わるぬくもりを噛み締めながらつま先を見つめていた。
「まだ一か月も立っていないのに、クリスマスが随分と遠く感じるよね」
「そう、ですね」
「ミズキは正月公演が出来ることすごく喜んでいたよ」
「はい、チームBは気合いいっぱいでした」
「きっと僕たちはこれからも変わっていく」
突然足を止めたリンドウに習って足を止める。そのまま体を向き合わせた背後で車が静かに通り抜けていった。
髪をさらう風が冷たい。それでも寒さを感じないのは見つめてくるリンドウの眼差しも、つながったままの手も熱を持っているからだろう。
「だからあなたにずっと見守っていて欲しいんです。僕たちが僕たちであることを忘れずにいられるように」
「リンドウさん」
「昨年以上に大変でしょうが」
どこか悲しそうに笑うリンドウの気配に胸が泣く。どくどくと混みあがってくる呼吸が苦しさと共に小さな声を吐き出す。
「たしかに皆さんと出会ってまだ短いですけど、ずっと前から知っていたような気がします。色々と物騒なこともあって迷惑しかかけていないのに」
「それはあなたが望んだことではないでしょう?」
「そうですけど」
「僕たちではどこまで力になれるかわかりませんが、みんなあなたを守りたいと思っていますよ。スターレスがあなたの居場所になって、そこであなたの笑顔が見れるなら」
穏やかで優しい色に包まれる。ブラックカードなどという得体のしれない物が届いた日から日常は変わってしまった。それでも、よかったことが山ほどある。言葉に出来ない思い出が記憶になって降り積もっていく。
「ありがとうございます」
「負けてられないな、僕も」
そう言って持ち上げられた手に、リンドウの柔らかな唇が押し付けられていた。
「願うことなら、来年もずっと未来もこの手の伸ばす先が僕であるように」
まるで絵本の中の王子様のように華麗に口付けたらリンドウの仕草に言葉は何も出てこなかった。さすが昨年の一位を飾っただけはあると、自然な雰囲気のままリンドウはまた歩き出す。
「いきましょう。今日はせっかくのデートなんですから」
「え、デートだったんですか!?」
「はい」
驚いた感情は笑顔のリンドウに連れられて消えていく。クリスマスツリーも正月の気配も流れていく街の向こうに。スターレスという昨年出会ったばかりの愛しい場所まで。
完