番外編
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伝えたい言葉を歌に変えて
囁きたい台詞を物語に添えて
キミに贈るこの感情を
何と名付ければいいだろう
巡る月日を共に歩いて
与えられるこの感覚に
どれほど癒されていることか
『キミに、ありがとう』
まだ夏の匂いが残る秋の入り口に、その黒い封筒は手元に届いた。
それが、すべての始まり。
「え、なんですか?」
明らかに、いつもとは違う待遇に面食らう。
出会った日から特別感を幾度となく味わってきたが、今日はまた違う雰囲気で出迎えられた。
「今夜は記念すべき日だからな」
エスコート役を誰にも譲らなかったらしいケイが立つエントランスに人影はない。開店の一時間前。裏口ではなく正面から入ってきてほしいという希望により足を運んでみたが、予想していない迎えられっぷりに若干の怖さを感じてしまう。
「記念すべき、日。ですか?」
戸惑いながら周囲に目を走らせる。特に変わった様子はない。いつも通り、クリスマスの装飾が煌いて、現在公演中のショーの案内がぶら下がっている。
「今夜は俺に、キミを案内する喜びを与えてほしい」
「案内は、はい。私は嬉しいです、けど」
「感謝する」
そう言って手を取るなり指先にキスをする姿に言葉を失ってしまう。なぜ、こうも自然に見惚れるほどの動作を行えるのだろう。一瞬にして物語の中に引き込まれたみたいに見える世界が変貌する。ケイのもつ魔力はそれ以上の拒否を許してはくれない。
「ところで今日は何の日なんですか?」
上機嫌のケイに席までエスコートされ、いつもの定位置に腰かけたところで再度問いかけてみる。
「その質問に答える前に、ぜひキミに受け取ってもらいたいものがある」
「受け取ってもらいたいもの?」
「ああ。少しだけ目を閉じてもらえないだろうか?」
何が待ち受けているのか、無防備に目を閉じるのは少し迷う。それでもケイの言うとおりに視界を遮断してみた。真っ暗な世界。代わりに強く感じるのは圧倒的存在感。ざわざわと色が重なるように熱が重なって、目を閉じていても、自分の周囲がどうなっているのかわかるようだった。聞き慣れた声、黙っていてもその匂いで距離が安易に想像できる。
「もう、いい?」
耐え切れなくなって、気づけば両手で顔を覆っていた。
了解を得ないうちに目を開けてしまいそうでイヤになる。押さえていないとドキドキと鼓動の音が口からこぼれてしまいそうになる。
「ねぇ、もういい?」
「目を開けてくれ」
ケイの声に引き寄せられるように顔をあげて、思わずこみあげてくる感情を何と表現すればいいだろう。
「ありがとう。こうして無事に100日目の記念日を迎えられるのはキミのおかげだ」
丸いケーキに「1」と「0」のろうそく。メッセージカードにありがとうの言葉。そして何より、誰一人欠けることなく全員で出迎えてくれた特別な時間が愛おしくて嬉しい。
「これからもずっと、キミといくつもの記念日を迎える喜びがあるといいのだが」
その質問に答える言葉は決まっている。
自分を取り囲むすべてを見渡して、心からの笑顔で「ありがとう」を返した。
「もちろんです。私、スターレスが大好きですから」
完