番外編
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それはあまりに無謀だと言わざるを得ない。
時刻は深夜の一時。灯る明かりはひとつだけ。
丸いテーブルの中央に揺らめく淡い照明の光は、囲む四人の男たちを映し出していた。
「弱い犬ほどよく咆える」
奥歯を噛み締めながらケイが苛立ちを吐き捨てるのも無理はない。
「くそ、リンドウ。さっきからなんでジョーカーばっか持ってんだよ」
「それは勘違いだよ、ミズキ。僕が持ってるんじゃなくて、ミズキがジョーカーばかり欲しがるせいだよ」
「んなわけねぇだろ」
真横でいがみ合う翡翠の瞳と琥珀の瞳。同じチームにいたときからそうだが、別のチームになった今でも同じ舞台に立てば何かを言い争わずにはいられないらしい。
「てめぇら、うるせぇよ。ほら、ミズキさっさと寄こせ」
「へへ、そうだ。黒曜に渡しゃいいんだって、あああああ」
ミズキが差し出したカードの束から一枚抜き取った黒曜は、見事同じ手札をそろえて卓上に放り投げる。バンッとミズキが勢いよく立ち上がったせいで、テーブルの上の照明もバランスを崩したように揺らめいた。
おかげで、伸びた影も怪しげに踊る。
そのついでに、黒曜の差し出した手札から一枚引いたケイの顔がまたひとつ不機嫌に傾いたようだった。
「静寂という言葉を知らぬのか」
どのカードも揃わなかったらしいトランプをケイがリンドウに差し出す。そしてそこから一つ引いたリンドウはまたミズキに差し出し、ミズキもまた黒曜に差し出す。時計回りにカードを引いては、そろって抜き出し、たった一枚、紛れ込ませたジョーカーを最後まで持っていなければいいだけの遊び。
「ババ抜きの勝敗順でレッスン室を押さえられるように決めたのはあなたですよ」
「だからオレたちがこうして付き合ってやってるんだろ?」
「それもこんな時間にな」
一枚、また一枚と減っていく中でカードの枚数が限られてからが本番というもの。
心理戦を得意としているようで、勝負事には熱くなる男たちにはどうやら不向きな遊戯らしい。
「彼女が、たまには違う方法でと提案するものでな」
「また、それですか?」
「ケイ、ほんとそういうとこキモくね?」
「それには同感だな」
「ならばさっさと敗北を認めろ」
「勝負に挑まず負けを認めろと?」
「誰がそんなことすんだよ」
「まったくだぁあああ、くそ。ミズキ、羽目やがったな!?」
「へへーんだ、黒曜。引いた方が悪ぃんだよ」
「リンドウ、てめぇがミズキに奪われたから俺のところに来たじゃねぇか」
「言いがかりはやめてください。単なるゲームですよ?」
「そうだぜ、黒曜」
先ほどまでいがみ合っていたくせに、こういう時ばかり連携がいい。リンドウとミズキの二つの視線が背後の暗闇の中で浮かび上がり、舌打ちして手札を切り直した黒曜をじっと見つめる。
気づけば、残りは各自一枚ずつになっていた。
つまり、黒曜のみが二枚持っている状態。全部でカードは五枚だけ。ケイが黒曜から引きだすもので、今後の流れが一気に変わる。
「やれるもんならやってみろ」
「愚直な」
火の赤に応える青の炎が眼光を宿す。緊迫した一瞬は、持ち越しという形でケイの手にジョーカーを与えた。
「下衆が」
歯に衣着せぬ言い方でケイは手札にジョーカーを迎えている。先ほどから何度、この場面になればいいのだろう。一週間は七日間。七回勝負の五回目。店じまいをしてからというもの、男同士輪になってやる遊びにしては少々イカれている。
「貴様にくれてやる」
「そう言われて、欲しいものなどありません」
しかしこういう時こそジョーカーは回るもの。一向に勝負の気配がつかめない現状に嫌気が差し始めたその時、偶然にもミズキがリンドウからジョーカー以外を抜き取った。
「やっりぃ、一番あっがりぃ」
心底嬉しそうな声が長兄三人の気持ちを煽る。
「よっしゃあ、これで三連勝。リンドウさんきゅー」
「おい、リンドウ。てめぇ、ミズキに勝ちを許してんじゃねぇ」
「そう言うあなたこそ、ミズキからジョーカーを引いたでしょう。ほら、早くしてください。これで僕もあがりです」
「ちっ、結局またケイと俺の一騎打ちかよ」
はぁと重苦しいため息が出るのも無理はない。五回連続同じ展開、結末は決まってケイと黒曜がにらみ合っている。
「で?」
最後の一枚を握り潰す勢いで沈黙を決め込んだケイに向かって、勝敗を勝ち取った黒曜の煙草が問いかける。
カードゲームという余興をまだ続けるつもりかと安易に確認しているのだろうが、その場にいる全員が「もうこりごりだ」と空気で訴えかけていた。
「敗北したまま終わるなど有り得ぬ。彼女とてこのような展開は予期しておらぬだろうからな」
「いい加減にしてください。こちらはジャンケンでも何でもいいんです」
「なんだよ、リンドウ。ジャンケンなら勝てるっていうのか?」
「ミズキ、そういうことを言ってるんじゃない」
「んじゃなんだよ、てめぇはいつも回りくどいんだよ」
「喧嘩すんなって、てめぇらチームが分かれてもうるせぇな」
ギャーギャーと収まらない打ち合わせ。
誰が収拾をつけろというのか。
時計の針は刻一刻と時を刻み、結局、暗い影さえ眠りにつく夜更けまでその遊戯は続いたという。
(完)