番外編
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ケイ様ループネタ
※苦手な方注意※
* * * * *
『何度でもキミに』
もう、何度目になるのだろう。
永遠に抜け出せない呪われた道で、俺はまた一人、孤独に目をあける。
「ああ、またか」
廃墟のような屋敷は巻き戻った時間の分だけ記憶が消され、築き上げてきた九十九回目の痕跡が失せた。
君が欲しがったカーテンも、君がふざけて付けた壁の傷も、君との年月を重ねてきた写真もすべて。夢であればどれほどよかったことだろう。
それでも、これは現実なのだ。紛れもなく現実なのだ。
君は死んだ。
また、俺は救えなかった。
こうして同じ場所で目が覚めてしまった以上、それは揺るがない事実。
「ブラックカードの呪いか」
俺に課せられた使命はただひとつ。彼女を死なせないこと。
然るべきときが来るまで、殺させず、死なせず、守ること。それなのに、俺はまた失敗したらしい。
自分の愚かさに反吐が出る。あらゆる事態に備え、あらゆる予測を考慮したにも関わらず、大事な存在を守り切れなかったらしい。
「俺だ、いま。目が覚めた」
九十九回目の繰り返しともなれば、目が覚めてからの行動は手慣れてくる。
電話向こうの声を聞く限り、世間では俺はまだ栄光の中に生きているのだろう。輝かしい人生を歩き、誰もが羨む世界を見ている。だが、間もなく俺はそれを捨てる。
「日本へ行く」
その一言で発狂した声の主が俺の愚行を止めようとするが、知ったことではない。
「俺は日本に行かねばならない。愛すべき小鳥のために」
誰に何と言われようと、俺の意思は揺るがない。
一人分の虚しさだけを残した部屋で身支度を整え、俺は日本へ向かう支度をしながら、電話の相手にこう告げる。
「ブラックカード、といえば貴様も理由を問わぬだろう」
しん、と静まり返った声。次いで返事が色よいものであることも俺は知っている。
ブラックカードがどういう存在か。
俺だけがその真実を体験していることを誰も知らない。
それでいい。これほどまでに不可思議な苦しみは説明のしようもない。
それに、俺が彼女を助けさえすればそれで済むこと。幸いにも、何度も生きている彼女と会える喜びを俺は与えられている。何度も、何度も、何度も。笑ってくれてかまわない。悲しみを繰り返すほど、この喜びが増すことなど、俺とてどう扱ってよいかわからんのだ。
日本へ向かう飛行機の中で、慣れ親しんだ懐かしい顔を思い浮かべる。
彼らは当時のまま、また俺を不審者扱いすることだろう。それももう慣れた。誰が何を考え、どう行動し、いつ引き起こすのか。俺は知っている。
歴史は繰り返す。
俺は、それを阻止するために目覚めるだけ。
「俺のことはケイと呼ぶがいい」
そうして、襲撃を受けたスターレスを立て直すこと三か月。
今朝、彼女にあのカードが届いた。
古いスターレスのチラシと共に、憎きあのブラックカードが。
「そう、その黒い封筒は君への招待状だ。ようやく会えたな」
「いったい、どなたですか?」
狼狽える君の姿が、懐かしくて愛おしい。記憶の中より、少しだけ若くなった君の姿に俺はまた同じ言葉を繰り返す。何度も、何度でも。君が生きていてくれるなら。
「俺のことは、どうかケイと呼んでくれ」
同じ過ちはもう二度と繰り返さない。
そう。これは俺が君のために歌う、百度目の公演となるだろう。
悲劇となるか喜劇となるか。どうか願わくば、その笑顔を守りきれるよう。
「君を迎えに来た」
(完)