痺れるような感動をフレスタの花に変えて
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
★苦手な方は注意★
オリジナル創作キャラがスターレスの店内にいるお話です。
-------------------------
ワルメン化企画
小説「看板に火が灯るまで」
聞きなれた人波の雑踏も擦り切れた路地裏の道は通らない。灰色から黒に変わった闇の奥。表向きの煌びやかな印象からは想像が出来ないほどの簡素な造りに、訪れる誰もが戸惑うに違いない。けれどそれは最初の話。通い慣れれば我が城。
喧騒と静寂が織り成す店の名はスターレス。知る人ぞ知る有名な店に、次世代を担う新しい顔が集まっていた。
「あ、レンゲくん。お疲れ様」
「お疲れ菫。今日終わったら一緒に飲みに行かへん?」
「いいよ~。特に予定ないし」
「ユリも行くやろ?」
「オレ?」
「行こう行こう、せっかくレンゲとボクとシフトが一緒になったんだし」
ふわふわと柔らかな水色の髪が、緋色の瞳に見つめられてニコリとほほ笑む。スターレスに加入した新人はこの数日で軽く十人を超える。ただ急に増えたからと言ってステージに立てるわけでも、ましてリハーサルに参加できるわけでもなく、最初はホールスタッフとして従事することが習わしらしい。
レンゲと呼ばれた青年もまた、菫やユリと同様にスターレスに加入したばかりの新人のひとりだった。
三人が並んで進む場所はロッカールーム。灰色の四角い箱が並んでいるだけのその場所から、聞きなれた歌声が廊下に漏れ出ている。
「タララ~タララララララ」
「サトウは今日も元気やなぁ」
「レンゲ!パチパチキャンデーいる?」
「いらんいらん」
「菫、ユリ、パチパチキャンデーいる?」
「今から仕事なんだから、ふざけてないでさっさと用意しなよ」
「スイセンがひどい」
「ひどくない。大体、それべっ甲飴だし」
「あれ、ほんとだ。また勝手に混ざってた!!」
けたけたと笑うサトウは赤い髪を揺らして取り出したばかりのべっ甲飴を口に含む。それを横目で眺めながら、スイセンはその長い薄緑の髪をひとつにまとめていた。
お揃いの黒いシャツに黒いエプロン。この店のスタッフ衣装は支給されたものを着用していれば、それ以上は何も言われない。個人に任されたスタイルはその反面、個性を出して覚えてもらうための工夫が必要不可欠となる。レンゲは金髪のアシメントリーを揺らすユリが、最後にシルバーアクセを首から出すところを見ながら自分の首に手をはわす。お気に入りのチョーカーと縁のある眼鏡。自分の特徴を客に覚えてもらうためのアイテムは誰だって持っている。
「おはよございまーす。みんな元気ぃ?」
「ジル、おはようさん」
「おはよ、レンゲ。さっき、そこでクロムとユキノに会ったよ」
「え、あの二人が一緒?」
朗らかに告げたジルに対する菫の反応に、スイセンが目を細めるのも無理はない。
サトウも飴を口に含んだまま疑問符をその顔に浮べている。
パタンとユリが自分のロッカーを閉める音が響いて、同時に高いハイヒールの音と険悪なムードがロッカー室の入り口に現れた。
「おはよ」
「っす」
ニコリともしない声で並んで顔を出したのは、ユキノとクロム。さすがお互いをライバル視しているだけあって、ここに来るまでにひと悶着あったらしい。
「で、今日はどないしたん?」
苦笑交じりにレンゲが尋ねてもユキノは答えない。代わりにクロムが視線をそらせて「何でもないっす」と小さく口にした。
「二人ともそんな顔してホールに立つつもり?」
スイセンの瞳が二人に冷たい視線を送る。
「ごめん。仕事には出さない」
「俺も、そんなへまはしない」
「なら、いいけど」
スターレスが開店するまであと四十分。開店前の掃除や準備などは新人の仕事。人手が足りなかった時は、初期からいたメンバーが全て行っていたらしいが、人数が増えた今となっては先輩たちを支えるために後輩がその役をかって出ている。
スターレスではステージがすべて。ここに来る誰もが、その舞台に立ちたくて、同じ夢を目指している。
「今日って、ここにいるメンバーで全員かなぁ?」
「んー、二人くらい足りないような足りなくないような?」
カラカラと口の中で転がしていた飴を噛んだサトウがジルの呟きに応える。見ると、ジルは背負ってきたリュックの中をガサゴソと漁って、何やら丸い煎餅を取り出した。
「一応、十枚持ってきたんだけど。始まる前にみんなでおやつタイムにしません?」
「ちょっ、それは!!」
「そうだよ~サトウちゃん。ごませんべいだよぉ」
先ほどまでべっ甲飴を口にしていたサトウの目が輝いている。これは来るな、と。その場にいた誰もが思った。
「晶先輩のゴマ煎餅の歌を今こそ歌うとき!!」
彼にとってはその場がステージ。にこにことジルがゴマ煎餅を片手に相槌を打っているが、その完成度の高いサトウのパフォーマンスに場は和む。
その合間に、菫がジルの制服から七味唐辛子を抜いたことに気づいたものは何人いたのか。
ジルが一緒のシフトの日は、決まって賄いが赤く染まる。もちろん、菫がジルから奪った七味唐辛子の行方は誰も追及したりしなかった。
ところがその手にガチャリと手錠がかけられる。
「逮捕、逮捕ぉ」
「え、ちょっ、リシアくん!?」
「はい。ジル逮捕~。サトウも逮捕しちゃうぞー」
「え、なんで!?」
「ゴマ煎餅の歌を歌ってるからだ」
「ゴマ煎餅の歌は罪にはならない!」
「誤認逮捕だぁ」
ギャーっと、騒がしさが増す。
ドタバタと賑やかなのはいいことだが、ロッカールームはそれほど広くはない。すでに男が九人。詰め込まれている部屋は異様に狭く蒸し暑い。
「まだ時間あるよな?」
「あと十分くらいは、いけるんちゃうか?」
クロムが煙草を吸ってくるとレンゲに告げてロッカールームを出ていく。まだリシア対サトウの逃亡劇は続いていたが、ちょうど入れ替わるように最後の一人が息を切らせてロッカールームに入ってきた。
「ちょっ、聞いて!!さっき、カスミしゃんがぁあああ」
首に掘られたタトゥーに緑色のメッシュ。
カスミに心を奪われた最後の同期が顔を出した。
「ええから、はよ。用意し」
レンゲの苦笑が始業までの時計を示す。そうしてバタバタと賑わうのは、いつの間にか慣れ親しんだ光景。スイセンが時間を確認してロッカーを出ていくのを皮切りに、ジルもサトウも菫もリシアに連行されるように後に続く。
「あれ、ユリ。化粧してる?」
「ううん」
「いつ見ても綺麗な目、してるね」
「ありがとう。ユキノ、ヒールでホールでるの?」
「うん」
ユリとユキノも会話をしながら出ていった。
「今日はカスミさんと一緒の日」
「ああ、シフト。そうやっけな?」
「がんばろうね、レンゲくん!」
「せやなぁ」
はぁっと、溜息のような深い息がレンゲの口から零れ落ちた。ここにたどり着いたのはいつの日だったか。虚無ばかりが支配していた闇の中で、一際輝くステージの虜になったのはもう随分昔のような気がする。
「悪い、遅くなった」
「いや、大丈夫やろ。今日のメンバーは賑やかやし。クロムも煙草くらいゆっくり吸いや」
「ちょっとネイル削れてるの見つけて」
「したら、それ直してからおいでや」
「そうする」
ニコリとほほ笑んでレンゲはロッカールームを後にする。
開店まであとニ十分。
時間はあっという間に過ぎていくだろう。そうして看板に火が灯るころには、ステージの幕があがり、誰もが夢見る一歩を踏み出していく。
(完)
-------------------------
協力Thanks
(キャラクター制作)
レンゲ:うしこ
菫:ショーコ
ユリ:かん
ジル:七味唐辛子
サトウ:砂糖水
スイセン:ぽち
リシア:すーさん
ユキノ:るか
クロム:黒井
カスミメッシュカラーの子:IV