どうしてこんなに伝える事が難しいのだろう。
何も言えない仁美から目をそらして、そのまま背を向けた。
追いかけたいのに足が動けない。
仙道を止めても納得させれる言葉を持っていなかったから。

ただ好きなだけなのに、それだけではダメなのだろうか。
「‥もう部屋に入れ。」
どれくらいそこに立ち尽くしていたのだろう。
流川がまだ居た事にも気がつかなかった。

仁美は流川の顔は見ず、そのままエントランスに入って行った。
部屋に入るとスマホが光っているのが見えた。
仙道から今から逢いたいというLINEを見た。
もう2時間も前のLINEだった。

履歴で仙道を探し、電話をかける。
着信音だけがなり、仙道が電話に出る事は無かった。
電話を切って、さっきの仙道の顔が思い出される。

何でも笑って許してくれるなんて思ってはいない。
だけど今日、仙道を傷付けたかはあの顔を見て初めて分かった。
優しい仙道に甘えて、いつだって傷付けていたんだ。

何であの時仙道にわかって貰おうとしたのだろう。
何で仙道に寄り添えなかったのだろう。