シリウスは特に魔力が高いゆえに熱を出すことも多い。


「ゲホッ…ゴホン…っ」
「大丈夫かい？」
「全部出しちゃいなさい。
その方が楽になるわ」
「…気持ち悪い」
「よしよし。
せめて、吐き気がよくなるといいんだけど」
「魔法薬の香りで吐き気が酷くなってしまうからね」
「うっ、ぇ…ッ」
「よしよし。
少し口をゆすごうか。
口の中がスッキリするから」
「…ん」


オリオンに支えられてシリウスはうがいする。


「少しは良くなった？」
「…ん」
「眠れるなら寝なさい。
傍に居るから」
「いつでも起こしていいわ」


両親に付き添われて眠るなんて不思議だと思いながら眠る。


「シリウス！
大丈夫だ、悪夢だよ」
「落ち着いて！」
「う…っ、ぁ…。
ゆ…め？」


両親に起こされて抱擁され、シリウスはぼんやりと見つめる。


部屋が荒れていてシリウスは苦笑いする。


「ごめん、なさい。
魔力暴走…っ」
「大丈夫だ。
落ち着いたか？」
「…うん」
「嫌な夢だった？」
「…アズカバンの夢」


気まずそうにシリウスが呟くとヴァルブルガは抱き締めた。


「今度は悪夢は見ないさ。
さあ、眠りなさい」
「…父上」


オリオンの微かな魔力を感じてシリウスは安堵する。


「よかった。
吐き気が収まって」
「お腹空いた」
「まずはリゾットにしよう」
「冷たいの食べたい」
「じゃあ、冷製スープにしましょうね」
「レモンのシャーベットも」
「はいはい。
作ってもらうから」


こういう風に我儘を言えるのも甘えられる証拠だろう。


「汗かいてるね。
まずは着替えようか」
「…うん」


自分の身体を見ているシリウスに気づいた。


「タトゥーが消えてるから。
アズカバンに入れられた時に付けられたんだ」
「なんてことを…！」
(失言だった)


当時の魔法大臣はブラック夫妻から冷酷されることが決定した。


今は何もしてないのだが、そんな言い訳は通用しない。


素直に言ってしまっただけだったが、いい気味だと思わなくはないだろう。


「美味しい？
ほら、ゆっくり食べなさい」
「…ん」


苦笑いしてヴァルブルガはシリウスの唇をハンカチで拭う。


「レモン水よ。
サッパリするでしょう？」
「…美味しい」


溺愛を隠すことのない両親に苦笑いしてしまう。


「パーティーに参加しなくていいの？」
「苦手だっただろう？」
「そうだけど。
そろそろ、参加する年齢だし」
「そんなものは遅らせても問題ありませんよ」
「僕を無理矢理にでも参加させてたくせに」
「あの当時はそれが正しいと思ってたのよ」
「あと２年は延長しても問題ないさ」


ホグワーツ入学前には盛大なパーティーになるのだろうなと安易に想像がついた。


「以前もこんなに熱出てた？」
「幼いうちは仕方ないわ。
以前も熱出てたわよ」
「強い魔力が原因だけど」
「全然覚えてない」
「そうだろうな」


当時は付き添ってはいなかったが、夜中や朝方に何度も様子を見に来ていた。


結局は熱がぶり返すのでシリウスは暫くは部屋から出れず、暇にしていた。


「兄様。
ご気分は如何ですか？」
「…暇だよ」
「お見舞いにどうぞ」
「ゼリー？」
「クリーチャーが作ってくれたんですよ」
「…そうか」


相変わらずの仲だと思いながらも言葉にはしない。


礼儀作法は勿論のこと、テーブルマナーについては幼少期から厳しく育てられたので今でも身についている。


今のシリウスには家庭教師はついておらず、勉強はオリオンが教えていてあとは独学。


記憶があるので本来は勉強することもないのだが。


(以前はどうやって過ごしていたんだっけ。
分家の奴等や商人も来ていた気もするけど。
僕の安全の為なんだろうな)


過去の記憶と変わったこともあるのであまり記憶頼りに動けないのも事実だ。


両親がベラトリックスを許せないのだとシリウスは思ってもみなかった。