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よく晴れた青空が広がる初夏であった。
こまと久秀、そして宗矩は相も変わらず京の屋敷でのんびりと暮らしていた。 -
こま
今日もいい天気ですね。
こんな日はどこかに行きたくなりますね、久秀さま -
久秀さま
そうか?
我輩は出掛けるよりお主とイチャイチャしていたいがな -
こま
またそんなこと言って……。
宗矩殿も何とか言ってくださいよ -
宗矩殿
そうだねぇ。
おじさんもこまちゃんとイチャイチャしたいかな -
こま
却下です。
なんで二人共いつも冗談ばっかり仰るのかしら -
久秀さま
冗談なんかじゃないもんね。
我輩の性欲をなめるでないわ。
老いてますます盛んという言葉を知らんのか -
宗矩殿
松永殿はただのボケじじいになるには飽き足らず色ボケじじいになっちゃったのかい。はぁ、なんて可哀想に……
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大きなため息をついて、これ見よがしに同情の視線を久秀に送る宗矩。
久秀が大声で怒り出す。 -
久秀さま
えぇい! うるさいわ!
まったく、お主はいつもいつも我輩を馬鹿にしおって!
宗矩の分際でぇっ! -
こま
そうですよ、宗矩殿。
久秀さまったら、さっきご飯食べたのにご飯はまだ?って当たり前のように聞いてくるんですよ。
ボケてる人にボケてるって言ったら火に油を注ぐのでやめてください -
久秀さま
ちょ……こまちゃん。
それって全然我輩を庇ってなくない?
おじさん泣いちゃうよ?
いたいけなおじさんの心がギリギリえぐれて行くよ? -
宗矩殿
松永殿……こまちゃんに迷惑掛けちゃダメじゃないの。
そろそろ寺での隠居も近いねぇ -
こま
わかってくださいます?
もう私一人では手に負えなくて……およよよよ -
久秀さま
ねぇ、ちょっとこまちゃん。
我輩さすがに傷つくよ。
そんなことばっかり言ってるとお仕置しちゃうよ。 -
こま
あら、毎回なにかに付け尻を撫でられるわたくしの気持ちに比べたらどうと言うことはないと思いますけど?
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宗矩殿
えー、松永殿ってばそんなことしてるの?
ずるーい。
拙者もやるぅ -
こま
やらないでください。
手打ちにしますよ -
宗矩殿
おぉ〜、こわ
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久秀さま
良いじゃないの尻の一つや二つくらい。
我輩とこまちゃんはもう夫婦なんだから。
愛情表現よ♡ -
こま
久秀さまはそれを人前でされるから良くないんです!
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思わず声を荒らげるこま。
しかしそれを切り伏せるように久秀が畳み掛ける。 -
久秀さま
そんなこと言ったってそこにお主の尻があるのが悪い!
可愛いんだもん!
今だって襲いたい! -
宗矩殿
たしかにぷりっと上がったお尻って良いもんね。
拙者としてはもっとたっぷりお肉つけても良いと思うけどねぇ。 -
久秀さま
なぁこま、頼む。
しよう。
今すぐここで。
天気も良いし -
久秀さま
ね、ね?
お願い! -
こま
なっ、何を仰っておられるのか意味が分かりません!
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久秀さま
良いでは無いか。
良いでは無いか。
んふふふふ
宗矩だってそう思うだろ? -
宗矩殿
えー、なに?
ご相伴していいの?
やったぁ -
こま
もう!
いい加減にしてください。
そんなことばっかり言うならもう出て行きますからね! -
と、そこに思わぬ人物がやってくる。
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松永殿
おや皆様、ご機嫌麗しゅう。
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久秀さま
げ、お主は5の我輩……
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宗矩殿
あ、5の松永殿だ
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松永殿
はい宗矩殿、こんにちは。
ところで何やら揉めているような声がしたのですが、どうされたのですか? -
久秀さま
お主には関係なかろう……
我輩とこまの、夫婦の問題だ -
松永殿
そうなのですか?
こま殿? -
松永はじーっと目で問いかける。
第三者の登場に少々驚いたこまだったが、彼女はすぐにその腕を取って久秀に言った。 -
松永殿
おや、積極的
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こま
松永殿、今日は良い天気ですね
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松永殿
へ? え、ええ。
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こま
こんな日はどこか外に出かけたいですよね?
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松永殿
市も賑わっているでしょうしね。
こんないい天気なら近くを散策しても良いでしょう -
こま
松永殿
-
松永殿
はい
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こま
私をここから連れ出してくれますか?
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こまのまさかの問いかけに一同一斉に固まる。
久秀の発狂ぶりと言ったらやんぬるかな。
松永は至極楽しそうな表情を浮かべこまの手を取った。 -
松永殿
ええ
どこへでも参りましょう -
久秀さま
ちょ、ちょ、ちょっと待なさい君たち!
勝手にどこに行くの!
こまちゃんは我輩の女房です、返しなさい! -
松永殿
そんなこと言われましてもこんな素敵な女性に誘われたら断るなどできませんよ、4の私
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こま
久秀さまはお外がお嫌いでしょう?
せっかくお誘いしたのに応えて下さらないんですもの -
松永殿
おや、こま殿はちゃんとお誘いしてらしたのですね。
ならば今更文句を言うのは武士らしくないですよ -
久秀さま
我輩は悪党だ。
武士らしくなくて結構!
それよりお主、どさくさに紛れてこまの手を握るな -
松永殿
おや失敬。
今からどこにこの姫君を連れていこうかと考えていたらつい -
こま
あら、優しい
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松永殿
可愛い人のためですから。
あ、宗矩殿も一緒にいかがです?
奢りますよ? -
宗矩殿
おじさんも一緒しちゃっていいの〜?
いぇーい
やったぁ! -
久秀さま
やったぁ、じゃないわぁ!
なに餌付けされてるの!
ちょっと宗矩君!? -
宗矩殿
えー だって松永殿お粥ばっかりじゃない
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久秀さま
ぐぬぬぬぬぬ!
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宗矩殿
5の松永殿は太っ腹だねぇ
拙者鰻食べたい
あとてんぷら -
松永殿
良いですね。
最近美味い寿司屋が出来たので行ってみましょうか。
そこなら鰻もてんぷらもありますよ。
こま殿は? -
こま
私は甘味が良いです♡
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宗矩殿
拙者もこまちゃんと甘味食べるよー
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松永殿
良いでしょう。
では4の私、お留守番お願いしますね -
久秀さま
よかろう……って良くない!
我輩も連れて行け!
ったく! -
プンプンと不機嫌そうに身なりを整える久秀。
その様子にこまと松永は目を合わせた。
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松永殿
これで良かったのですかな?
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こま
えぇ。
ありがとうございます -
松永殿
ふふふ、あなたに誘われたら断れませんからね。
お礼は後日体で -
こま
久秀さまみたい
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松永殿
えぇ。
だって私も松永久秀ですから -
少し冷や汗を垂らしたこま。
松永は紳士的な笑みを浮かべたまま舌なめずりするのだった。 -
久秀さま
何をコソコソやっとるんじゃ、お主ら
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こま
久秀さまは遅いなぁと顔を合わせてたんですよ。
ねー 松永殿? -
松永殿
そうですよ
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宗矩殿
うわぁ……怪しい
ま 拙者には関係ないけど -
久秀さま
お前達……
我輩泣いちゃう!
ぴえん! -
こま
ほらほら、行きますよ。
久秀さま。
ちゃんと手を握って差し上げますからね -
久秀さま
こまちゃん
やっぱり我輩のこと…… -
宗矩殿
て言うかボケ老人の手引きしてる孫だよねあれ
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松永殿
しぃっ
宗矩殿、それは言っては行けませんよ -
こまに手を繋がれ機嫌が治った久秀。
宗矩と松永はそんな後ろ姿を苦笑しながら眺めた。
松永はこまと宗矩、そして久秀を約束通り寿司屋に連れていった。 -
こま
はぁ 美味しかったぁ
幸せでした -
宗矩殿
ほんとにねぇ
こまちゃん 口の端に付いてるよ
おじさんが取ってあげるねぇ -
松永殿
こらこら宗矩殿
どさくさに紛れてこま殿の唇を奪わないで下さいよ
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宗矩殿
あ ばれた?
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松永殿
その人は私の奥さんになるんですからお触り厳禁です
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久秀さま
ちょっと待て聞き捨てならん。
何当たり前のように横恋慕しようとしているのかなお主? -
松永殿
あ、4の私。
あなたは自分で勘定して下さいね -
久秀さま
なぬ、奢ると言ったじゃないの
ケチ -
松永殿
あなた相当稼いでるでしょ
だって松永久秀ですから -
久秀さま
ちっ
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松永殿
こま殿を1週間貸してくれたら奢ってもいいですよ
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久秀さま
誰が貸すか!
ボケナス!
そのぐらいの端金出せるわ! -
その様子をこまと宗矩はにこやかに眺める。
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宗矩殿
やっぱ息ピッタリだよねぇ
さすが同一人物って感じ? -
こま
なんだかんだ仲良しですものね。
楽しそうですし -
松永殿
こま殿、宗矩殿
帰りますよ -
久秀さま
ほら置いてくぞ
こまは我輩の手握ってくれなきゃイヤよ -
宗矩殿
はいよォ
じゃ行こっか
こまちゃん -
こま
そうですね
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視線を合わせた二人。
腹も心も満たされて笑顔で帰路についた。 -
おわり
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20231105
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