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青子は恋多き女と言える人物である。彼女は生まれは貧しかったが、彼女の横には常に仲間がいた。彼女には弥彦と小南という同じ境遇の仲間がいる。生きる為に一緒にいる彼ら。その後、長門という少年が加わり自来也と名乗る忍の元で忍術を学び、“争いをなくす”という目標の為、日夜駆けまわっていた。辛い幼少を過ごした彼らにとって不毛な争いをなくしたい、自分達のように悲しい思いをする人は現れるべきではないと考えたからだ。彼らといる時間は彼女にとって、とても大切な時間である。特に小南は良き理解者であった。同性であるし、青子の心に常に寄り添ってくれる。年も近い事もあり小南と青子はすぐに仲良くなった。
初めて恋人という存在が出来たのは十四歳の時だった。初恋の人だった。彼が好きだった、彼も私が好きだった。初めてお互いの名前を呼んだ日、初めてデートをした日、初めて手を繋いだ日、初めて喧嘩をした日、初めてキスをした日、初めてを捧げた日。いつだって忘れる事のない大切な思い出。とても大事な日々だった。――恋人が戦争で命を落とすまでは。
一瞬の出来事だったそうだ。背後から不意を突かれて心臓を一突き、それが原因で愛してやまない彼はこの世から去ってしまった。血を流し冷たくなってしまった恋人に、しがみついて名前を泣き叫ぶ彼女に誰もが同情した。まさに悲劇だと皆が口にした。
傷ついた青子を癒したのは新しい恋人だった。同じ志を持つ仲間であり、恋人を亡くし元気を失った彼女を慰めたいと心から思い、優しく接し、勇気づけた。そんな優しい彼に対して新しい恋心が芽生えるのは必然だった。微笑む彼に青子の心臓はドクリと音を立て、コレは新たな恋だと予期した。それから二人の関係は急速に近づいた。すれ違ったりよそよそしかったりしていたが、今や手を繋いで仲睦まじい。潰れかけていた彼女が再び元気を取り戻した事に仲間達全員が喜んだ。しかし、その喜びもつかの間で終焉を迎える。新たな恋人もまた不慮の事故で命を落としてしまったのである。彼女は水を失った花のように生気をなくした。
そんな彼女に寄り添い続けたのは同性の小南だった。一度目も、二度目も悲しみにくれる青子を慰め、元気づけてくれた。気持ちのやり場に困って八つ当たりもしたが、小南は一度として手を上げる事はなかった。辛かった、悲しかった、たくさん泣いていいのよとまるで母親のように慈悲を見せる優しい小南が傍に居続けてくれたおかげで、ようやく青子は悲しみを乗り越える事が出来た。
「ねぇ、小南。相談があるんだけど聞いてくれる?」
「ええ、聞かせてちょうだい」
青子は何か困った事があるとしっかり者の小南によく相談を持ちかけていた。小南も嫌がる事なく聞かせてほしい、と親身になって耳を傾けていた。相談内容はその日によって変わる。それこそ、その日の夕飯の献立から、忍として如何に強くなれるか、はたまた恋愛相談など多種多様である。
「あのね、その……私好きな人が出来たの」
「本当? どんな人なの?」
「あのね、彼はすごくかっこいいのよ!」
小南はどんな相談も的確にアドバイスしてくれた。特に恋愛相談では小南にアドバイスをもらえばいつだって上手くいった。どうやったら彼と仲直り出来るか、どうやってデートに誘うか、どうやったら関係がもっと深まるか、どうやったら体の関係まで進めるか……。どんどん深い事まで相談するようになったが、小南はいつもと変わらず優しく微笑んで答えてくれた。
それに不快感を表すようになったのは彼の方だった。恋愛とは二人で仲を深めていく事、第三者に何でも聞けばいいものじゃない。何かあればまず自分に相談してほしい、と彼は青子に向かって真剣に訴えた。彼の心の叫びを聞いた青子は素直に申し訳ないと思った。ごめんなさいと真摯に謝罪した彼女に彼は此処からが出発点だ、ゆっくりでいいから着実に歩んでいこうと手を取った。
「最近、上手くいってるの?」
「小南」
小南に恋愛相談をしなくなってしばらく、彼女の方から様子を聞いてきた。今までずっと親身になってくれ、励ましてくれ、時には胸も貸してくれた彼女。突然何も言わなくなったから気になったのだろう、ぎこちなく笑いながら上手くいっているよと返せば良かったと花のような笑みを浮かべる。小南に何も言わずに離れてしまった事が申し訳なくて、ごめんねと言えば首を傾げてどうしてと疑問を返される。小南はいつだって私の事を心配してくれるのに私の身勝手で……と続きを口にしようとした時、小南のほっそりとした白い指がそっと唇に触れた。
「いいのよ、青子が幸せならば」
「小南っ」
彼女の純粋な優しさに心が温かくなる。ありがとうと涙を滲ませながら呟けば、また困った時は私に相談して、いつだって私は貴女の味方よと頭を撫でてくれた。
最近、彼との間に喧嘩が増えた。きっかけはなんだって些細な事で、そのイライラから発展していった。怒鳴り合い、気持ちのすれ違い……自分だけではどうにも出来なくて青子は久々に小南の手を借りようと思った。
「小南、今時間ある?」
「ええ、大丈夫よ」
深夜、小南の部屋の扉を小さく叩いて顔を覗かせれば、就寝準備をしている小南がいた。相談があるんだけど、と小さく口にすれば部屋に入ってちょうだいといつもの優しい笑みで迎え入れてくれる。彼女の言葉に甘え、ふんわりとしたベッドに腰かけて悩み事を口にした。
「最近ね、彼とうまくいってないんだ」
「……原因は分かる?」
「喧嘩ばっかりで疲れちゃった」
すれ違っているのね、と静かに頭を撫でてくれる小南の変わらない優しさに自然と涙が浮かぶ。ポロポロと口を歪めながら泣けば小南が涙を拭ってくれる。そして、貴女に涙なんて似合わないわというと頭に手を当て、青子の腫れた瞼を自身の肩に押しつける。今日はいっぱい泣いて、また明日私に笑顔を見せてと言う小南に再び涙が溢れた。
それから数日後、和解を済ませない内に最愛の恋人が亡くなってしまった。忍同士の戦いに巻き込まれてしまったのだと、彼の最期を目にした仲間が悔しそうに告げる。自分はまた大事な人を失ってしまった……。その喪失感に青子の頭の中は真っ白に染まった。
「小南っ……!」
「何? 青子」
「小南は絶対にっ、死んだり、しないで!!」
「もちろんよ、貴女を置いていったりなんかしないわ」
青子は大粒の涙を零して小南の部屋に駆け込んだ。そして、姉のような友人に切実を告げる。もう失いたくない、どうして戦争は自分から大事な人を奪っていくのか。いつかこの優しい友人も連れ去ってしまうのだろうか。大事な友人の小南。いつだって優しく受け入れてくれる小南。
「私、小南が居なくなったら生きていけないよ!!」
そのまま寝てしまった青子の頭をひと撫ですると、小南は起こさないようにゆっくりと扉を開けて部屋を出た。アジトの入口に向かって歩を進めていくと、壁を背にした弥彦が腕を組みながら彼女を呼ぶ。
「……いい加減にしたらどうだ」
「何のこと?」
「青子の事だ」
弥彦の口から出た青子の名前に小南の目が鋭くなる。そして、貴方に関係ないでしょうと突き放すように冷たい声を発した。迷いのない小南の答えに、弥彦はこれ以上泣かせるような真似をするな、かわいそうだと本音をぶつける。弥彦の声が耳に入ると小南の口元に笑みが浮かんだ。
「かわいそう? どうして?」
「あいつの幸せを願うなら、これ以上奪うのは止めろ」
何度あいつの恋人を殺せば気が済むんだ、と強い口調で咎める。弥彦の言い分に首を振れば、小南は彼らが悪いのよと返す。可愛いあの子を幸せにして、あの子自身が幸せだと感じて、ずっとずっと笑っていてくれるのが私の幸せ。でも、彼らは誰一人として幸せにしていないじゃない。あの子を何度も何度も泣かせた悪い人達。だから私が罰を与えたのよ。
「私は青子を愛してるから」
妖艶な笑みを浮かべて言いきった後、終わりでいいかしらと口にする。目も口も閉ざしてしまった弥彦に戻るわねと告げて、愛しい彼女が眠る部屋へと帰るのであった。
初めて恋人という存在が出来たのは十四歳の時だった。初恋の人だった。彼が好きだった、彼も私が好きだった。初めてお互いの名前を呼んだ日、初めてデートをした日、初めて手を繋いだ日、初めて喧嘩をした日、初めてキスをした日、初めてを捧げた日。いつだって忘れる事のない大切な思い出。とても大事な日々だった。――恋人が戦争で命を落とすまでは。
一瞬の出来事だったそうだ。背後から不意を突かれて心臓を一突き、それが原因で愛してやまない彼はこの世から去ってしまった。血を流し冷たくなってしまった恋人に、しがみついて名前を泣き叫ぶ彼女に誰もが同情した。まさに悲劇だと皆が口にした。
傷ついた青子を癒したのは新しい恋人だった。同じ志を持つ仲間であり、恋人を亡くし元気を失った彼女を慰めたいと心から思い、優しく接し、勇気づけた。そんな優しい彼に対して新しい恋心が芽生えるのは必然だった。微笑む彼に青子の心臓はドクリと音を立て、コレは新たな恋だと予期した。それから二人の関係は急速に近づいた。すれ違ったりよそよそしかったりしていたが、今や手を繋いで仲睦まじい。潰れかけていた彼女が再び元気を取り戻した事に仲間達全員が喜んだ。しかし、その喜びもつかの間で終焉を迎える。新たな恋人もまた不慮の事故で命を落としてしまったのである。彼女は水を失った花のように生気をなくした。
そんな彼女に寄り添い続けたのは同性の小南だった。一度目も、二度目も悲しみにくれる青子を慰め、元気づけてくれた。気持ちのやり場に困って八つ当たりもしたが、小南は一度として手を上げる事はなかった。辛かった、悲しかった、たくさん泣いていいのよとまるで母親のように慈悲を見せる優しい小南が傍に居続けてくれたおかげで、ようやく青子は悲しみを乗り越える事が出来た。
「ねぇ、小南。相談があるんだけど聞いてくれる?」
「ええ、聞かせてちょうだい」
青子は何か困った事があるとしっかり者の小南によく相談を持ちかけていた。小南も嫌がる事なく聞かせてほしい、と親身になって耳を傾けていた。相談内容はその日によって変わる。それこそ、その日の夕飯の献立から、忍として如何に強くなれるか、はたまた恋愛相談など多種多様である。
「あのね、その……私好きな人が出来たの」
「本当? どんな人なの?」
「あのね、彼はすごくかっこいいのよ!」
小南はどんな相談も的確にアドバイスしてくれた。特に恋愛相談では小南にアドバイスをもらえばいつだって上手くいった。どうやったら彼と仲直り出来るか、どうやってデートに誘うか、どうやったら関係がもっと深まるか、どうやったら体の関係まで進めるか……。どんどん深い事まで相談するようになったが、小南はいつもと変わらず優しく微笑んで答えてくれた。
それに不快感を表すようになったのは彼の方だった。恋愛とは二人で仲を深めていく事、第三者に何でも聞けばいいものじゃない。何かあればまず自分に相談してほしい、と彼は青子に向かって真剣に訴えた。彼の心の叫びを聞いた青子は素直に申し訳ないと思った。ごめんなさいと真摯に謝罪した彼女に彼は此処からが出発点だ、ゆっくりでいいから着実に歩んでいこうと手を取った。
「最近、上手くいってるの?」
「小南」
小南に恋愛相談をしなくなってしばらく、彼女の方から様子を聞いてきた。今までずっと親身になってくれ、励ましてくれ、時には胸も貸してくれた彼女。突然何も言わなくなったから気になったのだろう、ぎこちなく笑いながら上手くいっているよと返せば良かったと花のような笑みを浮かべる。小南に何も言わずに離れてしまった事が申し訳なくて、ごめんねと言えば首を傾げてどうしてと疑問を返される。小南はいつだって私の事を心配してくれるのに私の身勝手で……と続きを口にしようとした時、小南のほっそりとした白い指がそっと唇に触れた。
「いいのよ、青子が幸せならば」
「小南っ」
彼女の純粋な優しさに心が温かくなる。ありがとうと涙を滲ませながら呟けば、また困った時は私に相談して、いつだって私は貴女の味方よと頭を撫でてくれた。
最近、彼との間に喧嘩が増えた。きっかけはなんだって些細な事で、そのイライラから発展していった。怒鳴り合い、気持ちのすれ違い……自分だけではどうにも出来なくて青子は久々に小南の手を借りようと思った。
「小南、今時間ある?」
「ええ、大丈夫よ」
深夜、小南の部屋の扉を小さく叩いて顔を覗かせれば、就寝準備をしている小南がいた。相談があるんだけど、と小さく口にすれば部屋に入ってちょうだいといつもの優しい笑みで迎え入れてくれる。彼女の言葉に甘え、ふんわりとしたベッドに腰かけて悩み事を口にした。
「最近ね、彼とうまくいってないんだ」
「……原因は分かる?」
「喧嘩ばっかりで疲れちゃった」
すれ違っているのね、と静かに頭を撫でてくれる小南の変わらない優しさに自然と涙が浮かぶ。ポロポロと口を歪めながら泣けば小南が涙を拭ってくれる。そして、貴女に涙なんて似合わないわというと頭に手を当て、青子の腫れた瞼を自身の肩に押しつける。今日はいっぱい泣いて、また明日私に笑顔を見せてと言う小南に再び涙が溢れた。
それから数日後、和解を済ませない内に最愛の恋人が亡くなってしまった。忍同士の戦いに巻き込まれてしまったのだと、彼の最期を目にした仲間が悔しそうに告げる。自分はまた大事な人を失ってしまった……。その喪失感に青子の頭の中は真っ白に染まった。
「小南っ……!」
「何? 青子」
「小南は絶対にっ、死んだり、しないで!!」
「もちろんよ、貴女を置いていったりなんかしないわ」
青子は大粒の涙を零して小南の部屋に駆け込んだ。そして、姉のような友人に切実を告げる。もう失いたくない、どうして戦争は自分から大事な人を奪っていくのか。いつかこの優しい友人も連れ去ってしまうのだろうか。大事な友人の小南。いつだって優しく受け入れてくれる小南。
「私、小南が居なくなったら生きていけないよ!!」
そのまま寝てしまった青子の頭をひと撫ですると、小南は起こさないようにゆっくりと扉を開けて部屋を出た。アジトの入口に向かって歩を進めていくと、壁を背にした弥彦が腕を組みながら彼女を呼ぶ。
「……いい加減にしたらどうだ」
「何のこと?」
「青子の事だ」
弥彦の口から出た青子の名前に小南の目が鋭くなる。そして、貴方に関係ないでしょうと突き放すように冷たい声を発した。迷いのない小南の答えに、弥彦はこれ以上泣かせるような真似をするな、かわいそうだと本音をぶつける。弥彦の声が耳に入ると小南の口元に笑みが浮かんだ。
「かわいそう? どうして?」
「あいつの幸せを願うなら、これ以上奪うのは止めろ」
何度あいつの恋人を殺せば気が済むんだ、と強い口調で咎める。弥彦の言い分に首を振れば、小南は彼らが悪いのよと返す。可愛いあの子を幸せにして、あの子自身が幸せだと感じて、ずっとずっと笑っていてくれるのが私の幸せ。でも、彼らは誰一人として幸せにしていないじゃない。あの子を何度も何度も泣かせた悪い人達。だから私が罰を与えたのよ。
「私は青子を愛してるから」
妖艶な笑みを浮かべて言いきった後、終わりでいいかしらと口にする。目も口も閉ざしてしまった弥彦に戻るわねと告げて、愛しい彼女が眠る部屋へと帰るのであった。