連作SS集
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01 02 03 04 05 完
#01
暁内で数少ない女性である青子は気難しそうに傀儡を見つめるサソリに向かって笑顔で声をかけた。
「ねぇサソリさん、腕を縛り上げて猿ぐつわ噛ませてペニバンで突いてあんあん言わせたいってくらいデイダラくんが好きなんですけど、どうすればいいですか?」
「黙れ、ド変態」
ただ彼女の思考は非常に残念な方に向いている。それを早々に見破ったサソリは相手するのも面倒でいつも投げやりに返答していたが、この投げやりな態度ですら彼女にとっては嬉しいらしく、懲りずに何度も何度も話しかけてきた。少々キツイ物言いをしても暖簾に腕押し、糠に釘と何をしても響かない。
「酷い! 私真剣に悩んでるのに!」
「一から人生やり直せくそビッチ、だいたいそのイカレた脳みその事いつまで黙ってるつもりだ?」
彼女はサソリの相方であるデイダラが好きだと告白してきた。だからなんだと切り捨てれば協力して欲しいと言うではないか。なんで人様の恋愛事情に首を突っ込まなければならない、そういうのは当人同士でなんとかしろと考えているサソリは表情を大きく歪めた。
「え、だってデイダラくん清楚な子が好きって言ってたからずっと黙ってますよ」
「止めとけ、絶対ボロが出るに大金賭けてもいい」
「演技は得意です!」
なのに、気づけば問題発言ばかり口にする女に突っ込みを入れるようになってしまった。そう、全てはこの女が悪い。それにもしデイダラに何かがあれば自分が割を食うのだから、これは致し方ない事なのだ。
「目の前にあられもない姿のデイダラが居ても同じ事が言えるのか?」
「……おっと涎が」
「てめぇ今何想像しやがった」
目の前で顔を赤らめながら明後日な方向に目をとろけさせる青子。今、彼女の脳内のデイダラはとんでもない事になっているだろう。デイダラもかわいそうに、こんな性欲の権化みたいな女に好かれて。
「やだぁ! サソリさんったら乙女に何言わせようとするんですか、えっち!」
「やかましいっ! 二度と来んな、変態が移る!」
「人を病原体みたいに言わないで下さいよ! それにこんな話出来るのサソリさんしかいないんで寂しい事言わないで下さい」
脳内がピンク一色に染まっている青子に向かって苦虫を潰したかのような渋い顔つきで物申せば、『えっち』だなんて不愉快な言葉が返ってくる。やはりこんなおかしな頭の女と話すのが間違いだった。一気に気疲れしたサソリはもう相手にするだけバカバカしいと決めると遠くにいる相方に向かって声をかけた。
「デイダラ、こいつから話があるんだと」
サソリの声かけに反応したデイダラが首を傾げながら何だよ、旦那と口にして近づいてくる。先程までの煩悩にまみれた表情をしまい、にこやかに笑うと青子は近づいてくるデイダラに向かって優しい声で話しかけた。
「あ! デイダラくん、この前話してた任務なんだけど、一緒に来てもらってもいいかな? 私不安なの」
「あぁ、当たり前だろ!」
「デイダラくん、ありがとう」
爽やかに返答するデイダラに目を輝かせる青子。本人の言う通り演技力はなかなかのものだ。その後もやりとりを続ける二人を遠目に見つめるサソリは感嘆を漏らすのだった。
「(すげぇ変わりようだな)」
そんなサソリの内情を知らない青子は表情はにこやかなものの内心はサソリに対して不満を抱いていた。
「(心の準備が出来てないのになんで呼ぶのよ、バカサソリ!!)」
#02
その日もいつも通りに傀儡のメンテナンスを行っていた。己の大事な武器である傀儡、それを定期的に見るのはサソリの日課である。そんな彼の元に通りの良い声が響いてきた。
「旦那、相談にのってくれ! うん!」
「手短に話せ」
声の正体は相方のデイダラであった。動かす手を止める事なく要件を述べるように告げれば、先程の勢いは薄れ、かすれた声で呟いた。
「なんだその……あいつの事なんだけどよ」
「却下」
デイダラから零れた『あいつ』という言葉にサソリは嫌な予感がした。これは面倒事が起きそうだと己の本能が警鐘を鳴らしている。否と即答すれば大人しくしていたデイダラが食いついてきた。静かにメンテナンスをしたいと言うのに……あぁ、本当に面倒だ。
「何でだよ! こんな事話せるの旦那くらいしか居ねぇのに!」
「オレはあいつに関わりたくねぇんだよ」
「そんな冷てぇ事言わないでくれよ! 今度旦那が人形にしたいって言ってた野郎掻っ攫ってくるからよ!」
そっけなく対応をしていれば諦めると思っていたがデイダラも頭を使う事にしたらしい。デイダラが口にした条件は悪くない。そろそろ新しいコレクションが欲しいと思っていたところだし、コイツが殺すというならその手間のが省ける分傀儡への加工時間を増やせる。仕方ないと息を吐いて一つ頷き、デイダラへと意識を向けた。
「で、何だ? くだらねぇ事だったらはっ倒す」
「その初めてらしくてよ。初めてってめちゃくちゃ痛ぇらしいし……」
どんな内容かと思えば、処女喪失の痛みだと? あぁ、心底くだらない。返す言葉はもう決まっている、何故ならあの女は処女なんかではない。デイダラの前ではそう装っているが、そんなものは遠い昔にとっくに捨て去っているのだから。
「安心しろ、あいつは大丈夫だ」
「ほら気持ちだって不安になるんじゃねぇかって……思うし、うん」
「デイダラ、お前は堂々としてりゃそれでいい、気にすんな」
「でも、初めてって女には色々と夢があるんだろ?」
真剣に考えてやる事ではないので、テキトーに返せばでもだってと色んな言葉が返ってくる。お前も男ならんな細けぇ事をいちいち気にすんな。いざとなりゃ物事どうにでもなるからな。
「(めんどくせぇ、あいつがそんなもんとっくの昔に終わらせたくそビッチだって暴露してぇ……!)」
「なぁサソリの旦那聞いてんかよっ!」
「うるせぇ! オレに話を振るな!」
女々しいデイダラが面倒くせぇ。
#03
今日もいつもの通り部屋に籠って傀儡の整備に精を出す。この時間が何だかんだ自分にとって至福である。そんな有意義な空間を破壊する、空気を読まない声が鳴り響いた。
「サソリさぁぁぁん!! 私に救いの手を!!」
「……今てめぇが何考えてるか当ててやろうか」
あぁ、面倒事がやってきちまったか。この女がオレのところに駆け込んでくるのは毎度デイダラの事だ。そして、前にデイダラが処女云々について話していた。ならば、今回コイツがオレに言いたい事はこれしかない。ものの数秒で結論に至ったサソリは手を止めて静かに口を開いた。そんなサソリの反応に不思議な表情を浮かべる青子。
「え? サソリさんにこの純情な乙女の思考がわかるんですか? ムリですよね?」
「何が純情だ、年中発情期がよく言う」
「で、私の考えてる事当ててみて下さいよ」
ふんと鼻を鳴らす青子にサソリはため息を落とす。この女の考える事が筒抜け過ぎると思いながら。
「どうやったら処女膜って再生出来ます? 私デイダラくんに捧げたい、だろ?」
「!! なんで分かったんですか? 私の脳内覗いたんですか、この変態野郎!」
「変態はてめぇだくそアマ! だいたい年がら年中どうやってデイダラを手籠めにするかしか考えてねぇだろ!」
「えへへ」
やはり己の想像通りだった。まぁそれはいい、問題はその後の青子の発言だ。どの口で人を変態呼ばわりするのか。お前みたいな生粋の変態に変態なんて呼ばれる筋合いはない。デイダラの事を口にすれば、やはりニヤニヤとした笑みを浮かべる。顔は悪くないというのに本当に残念思考な女だ。
「てめぇのおめでたい脳みそなんざどうでもいい、再生は無理だ」
「そんな無慈悲な事言わないで! どうにかしてよ!」
「散々男に股開いたツケが今来たんだ、潔くデイダラに幻滅されろ」
「やだやだやだ! デイダラくんに嫌われたら死ぬっ!」
コイツは簡単にどうにかしろというがムリなものはムリだ。だいたいコイツの中でオレは何でも屋かなんかにされているのだろうか? オレにだって得手不得手はある。そして傀儡以外の再生分野は不得手だ。
「振られたら他の男に抱いてもらえばいいじゃねぇか、今までそうやって来たんだからよ」
「もうしないって決めたの! デイダラくん一筋になるって!」
「オレの経験上ビッチは治らねぇ、絶対物足りなくなる」
散々色んな女を見てきたオレが事実を告げれば違うと必死に否定をしてくる。否定してもそういう過去があったのは今更変えられないというのに……何故それに気づかないのか。それどころか逆に闘志を燃やし始める始末。
「そんな事ない! 見てろよ、私のデイダラくんへの愛を!」
「口先だけの愛がどこまで粘れるか……やれるだけやってみろ、時間の無駄だったと気付くからよ」
「バカ! サソリなんかバラバラになって皆に頭蹴られちゃえばいいんだから!」
潔く諦めろと告げれば喚き散らして出て行ってしまった。酷だと思うが、自業自得だ。自分できちんと落とし前をつけろバカ女。
#04
「サソリの旦那ぁぁあっ!!」
「うるせぇな! 普通に呼べねぇのか!」
部屋をつんざく叫びに怒声を上げた。ここの連中は静かにしゃべれねぇのか! 毎度毎度バカでけぇ声で話しやがって、そんなにでかい声じゃなくても聞こえている。話を聞いてくれと切羽詰まって言うデイダラに何だと返す。そしてとっとと出て行けと。
「あいつがっ」
「(何だ? ついにバレたか? ざまーねぇなあのド変態)」
「すっげー! 可愛かったっ! 愛してるって! オイラ世界一幸せだって言えるぞ! うんっ!」
ニコニコと頬を染めるデイダラに脱力した。バレたなら面白い展開になると思っていたが、どうやらバレずに事に及んだようだ。しかし、そんな報告はいらねぇ。心底いらねぇ。
「……くだらねぇ事でいちいちオレを呼ぶんじゃねぇ」
「はぁ?! オイラはこの幸せを旦那にも分けようって……」
「要らねぇ世話だ、ほっとけ」
どうでもいいと切り捨てれば表情をしかめられる。しかも幸せのお裾分けだと? 余計に要らねぇ。オレは傀儡を弄る時間を確保する方が大事だ。
「何だよ旦那更年期か? そんなにカリカリすんなって」
「殺されてぇのか」
「オイラは死ぬなら腹上死がいいって決めたからムリだな、うん」
「……」
コイツも随分とお花畑になっちまったもんだ。もう話すのすらアホらしくなって口を閉ざせば、調子に乗ったデイダラがあれこれと喋り出す。……真剣に聞くのは止めだ、全て聞き流す。これは雑音だと思えばいい。
「サソリの旦那も彼女作ればオイラの言いたい事が分かる筈だ! うん!」
「(急に上から目線になりやがって……! うぜぇな)」
雑音だと言いきかせたところでコレだ。早くどっか行け。
#05
己の部屋に慌ただしい若者が訪れるのにもう慣れた。そして、色々言っても仕方ないというのも学習した。今日も我が物顔で居座る青子はサソリさんと上機嫌で己を呼んでくる。それに返答しなくとも彼女は気にかける事なく言葉を続けた。
「サソリさん、私はデイダラくんへの愛貫きましたよ! えっへん!」
「そーか、そりゃ良かったな」
「すっごくどうでもよさそう……!!」
満面の笑みを浮かべて告げてきた内容にテキトーに返せば、少し凹んだ顔で声を震わせている。二人がくっつこうが破局しようが、サソリは己に支障がなければもうどうなってもいいと、関わりすぎないと決めた。
「で、今度は何だ?」
「デイダラくんへの愛が溢れすぎるのでもう性癖バラそうかなぁって」
とりあえず話を聞いていれば、この女今なんて口にしただろうか? 性癖をバラすと言わなかったか? 己の耳がおかしくなったかと思い青子を見れば、顔を染めて体をくねらせている。聞き間違えではなさそうだと確認したサソリは諭すように話した。
「……待て、いくらなんでも早すぎる」
「次する時はデイダラくんに潮吹き体験してもらおうって思ってるんです……キャッ告白しちゃった!」
「落ち着けバカッ! んなハードル高いところから行くな!」
青子に対して夢を見ているデイダラ。そんな彼を思ってダメ出しをするも、既に己の世界に入ってしまっている彼女は聞く耳を持たない。少々声を張り上げれば、正気に戻ったのか目をぱちくりとさせている。少しはまともな思考をするようになったかと思えば、その期待は見事打ち砕かれた。
「えっ?! デイダラくんイかせちゃダメとかサソリさんは焦らしプレイ派? 私もそれ好きだけどやっぱりイク時の顔のが可愛いからムリだなぁ」
「テメェの趣向なんざ聞いてねぇよ! デイダラのお前へのイメージぶち壊す気か?!」
少しでもコイツを見直そうと思った自分がバカだった。
「愛には障害が付きものです、私とデイダラくんなら乗り越えられる……!」
「……オレはどうなっても知らねぇからな」
コイツらに関わるのはもう止めだ。どうにでもなっちまえ。何もかも無駄だと悟り、額に手を当ててため息をついた。
#完
引き留めるサソリの言葉をまるっと無視した青子は、そのまま部屋を後にすると愛しいデイダラを探し始めた。もう我慢するのは正直言って辛い。自分の全てを彼に受け入れてほしいと思ってしまったのだ。愛する人には受け入れてほしいという気持ちを持って何が悪いとも。自分を受け入れてもらうのだから、当然自分もデイダラの全て受け入れるつもりでいる。
彼の部屋に向かい、そっと扉を開くと力強く粘土を捏ねている姿が目に入る。入口から彼の名前を呼ぶと、粘土から自分へと視線が注がれた。
「ねぇ、デイダラくん。あのね聞いて欲しい事があるんだけど」
「急に改まってなんだよ?」
「その、驚いたりしないで欲しいんだ」
「わかった」
了承した彼の隣に腰かけて、ゆっくりと言葉を紡ぐ。いきなり全てを暴露したら彼に引かれるのは分かっている。だから含みある言い方をして質言を取り、逃げられないようにするのだ。
「私はデイダラくんが大好きなんだよ」
「知ってる、オイラだって好きだからな」
「えへへ、それでね……私どうしてもしたい事があるの」
「どうしてもしたい事? なんだそりゃ?」
好きだという気持ちに嘘はない。今まで数多くの男を見てきたがデイダラくんは格別だ。初めてだった。こんなにも胸が熱くなったのは、こんなにも昂ぶったのは。
「びっくりするかもしれないけど、勘違いしないでほしいから先に伝えとこうって思って」
「びっくりする? よっぽどの事じゃない限り驚いたりしねーよ、うん」
「さすがデイダラくん!」
「当たり前だろ? オイラを誰だと思ってやがる」
彼の言葉に安易を覚える。私に対して疑う事を知らないデイダラくん。私の黒い過去を知らないデイダラくん。これから君に対して卑猥な事をたくさんしたいなんて思いもしてないデイダラくん。純粋なデイダラくん。すごく大好き。
「はぁ、やっぱデイダラくんはかっこいいなぁ」
「……っ」
「あとね、私の事嫌いにならないでね?」
「はぁ? なんで嫌いにならなきゃなんねぇんだよ、意味わかんねー」
「私デイダラくんに嫌われたら生きていけないもん」
もう、私はデイダラくんがいないとダメだ。初めて体を合わせた日に確信した。身も心もこの先満たしてくれるのは彼しかしないって。最高のパートナーになるって。
「んなくだらねぇ心配なんかすんな、オイラは今もこれからもお前しか見ねぇよ」
「本当?! その言葉信じてもいい?!」
「男に二言はない! うん!」
「私、デイダラくんのその言葉信じたからね! 大好き!」
自信満々に告げる彼に思いっきり抱きつく。デイダラくんから香る土の匂いと彼特有の香りがすごく好き。待っていてね、デイダラくん。準備が出来たら君の全てをもらって、私の全てを見せるから。
#01
暁内で数少ない女性である青子は気難しそうに傀儡を見つめるサソリに向かって笑顔で声をかけた。
「ねぇサソリさん、腕を縛り上げて猿ぐつわ噛ませてペニバンで突いてあんあん言わせたいってくらいデイダラくんが好きなんですけど、どうすればいいですか?」
「黙れ、ド変態」
ただ彼女の思考は非常に残念な方に向いている。それを早々に見破ったサソリは相手するのも面倒でいつも投げやりに返答していたが、この投げやりな態度ですら彼女にとっては嬉しいらしく、懲りずに何度も何度も話しかけてきた。少々キツイ物言いをしても暖簾に腕押し、糠に釘と何をしても響かない。
「酷い! 私真剣に悩んでるのに!」
「一から人生やり直せくそビッチ、だいたいそのイカレた脳みその事いつまで黙ってるつもりだ?」
彼女はサソリの相方であるデイダラが好きだと告白してきた。だからなんだと切り捨てれば協力して欲しいと言うではないか。なんで人様の恋愛事情に首を突っ込まなければならない、そういうのは当人同士でなんとかしろと考えているサソリは表情を大きく歪めた。
「え、だってデイダラくん清楚な子が好きって言ってたからずっと黙ってますよ」
「止めとけ、絶対ボロが出るに大金賭けてもいい」
「演技は得意です!」
なのに、気づけば問題発言ばかり口にする女に突っ込みを入れるようになってしまった。そう、全てはこの女が悪い。それにもしデイダラに何かがあれば自分が割を食うのだから、これは致し方ない事なのだ。
「目の前にあられもない姿のデイダラが居ても同じ事が言えるのか?」
「……おっと涎が」
「てめぇ今何想像しやがった」
目の前で顔を赤らめながら明後日な方向に目をとろけさせる青子。今、彼女の脳内のデイダラはとんでもない事になっているだろう。デイダラもかわいそうに、こんな性欲の権化みたいな女に好かれて。
「やだぁ! サソリさんったら乙女に何言わせようとするんですか、えっち!」
「やかましいっ! 二度と来んな、変態が移る!」
「人を病原体みたいに言わないで下さいよ! それにこんな話出来るのサソリさんしかいないんで寂しい事言わないで下さい」
脳内がピンク一色に染まっている青子に向かって苦虫を潰したかのような渋い顔つきで物申せば、『えっち』だなんて不愉快な言葉が返ってくる。やはりこんなおかしな頭の女と話すのが間違いだった。一気に気疲れしたサソリはもう相手にするだけバカバカしいと決めると遠くにいる相方に向かって声をかけた。
「デイダラ、こいつから話があるんだと」
サソリの声かけに反応したデイダラが首を傾げながら何だよ、旦那と口にして近づいてくる。先程までの煩悩にまみれた表情をしまい、にこやかに笑うと青子は近づいてくるデイダラに向かって優しい声で話しかけた。
「あ! デイダラくん、この前話してた任務なんだけど、一緒に来てもらってもいいかな? 私不安なの」
「あぁ、当たり前だろ!」
「デイダラくん、ありがとう」
爽やかに返答するデイダラに目を輝かせる青子。本人の言う通り演技力はなかなかのものだ。その後もやりとりを続ける二人を遠目に見つめるサソリは感嘆を漏らすのだった。
「(すげぇ変わりようだな)」
そんなサソリの内情を知らない青子は表情はにこやかなものの内心はサソリに対して不満を抱いていた。
「(心の準備が出来てないのになんで呼ぶのよ、バカサソリ!!)」
#02
その日もいつも通りに傀儡のメンテナンスを行っていた。己の大事な武器である傀儡、それを定期的に見るのはサソリの日課である。そんな彼の元に通りの良い声が響いてきた。
「旦那、相談にのってくれ! うん!」
「手短に話せ」
声の正体は相方のデイダラであった。動かす手を止める事なく要件を述べるように告げれば、先程の勢いは薄れ、かすれた声で呟いた。
「なんだその……あいつの事なんだけどよ」
「却下」
デイダラから零れた『あいつ』という言葉にサソリは嫌な予感がした。これは面倒事が起きそうだと己の本能が警鐘を鳴らしている。否と即答すれば大人しくしていたデイダラが食いついてきた。静かにメンテナンスをしたいと言うのに……あぁ、本当に面倒だ。
「何でだよ! こんな事話せるの旦那くらいしか居ねぇのに!」
「オレはあいつに関わりたくねぇんだよ」
「そんな冷てぇ事言わないでくれよ! 今度旦那が人形にしたいって言ってた野郎掻っ攫ってくるからよ!」
そっけなく対応をしていれば諦めると思っていたがデイダラも頭を使う事にしたらしい。デイダラが口にした条件は悪くない。そろそろ新しいコレクションが欲しいと思っていたところだし、コイツが殺すというならその手間のが省ける分傀儡への加工時間を増やせる。仕方ないと息を吐いて一つ頷き、デイダラへと意識を向けた。
「で、何だ? くだらねぇ事だったらはっ倒す」
「その初めてらしくてよ。初めてってめちゃくちゃ痛ぇらしいし……」
どんな内容かと思えば、処女喪失の痛みだと? あぁ、心底くだらない。返す言葉はもう決まっている、何故ならあの女は処女なんかではない。デイダラの前ではそう装っているが、そんなものは遠い昔にとっくに捨て去っているのだから。
「安心しろ、あいつは大丈夫だ」
「ほら気持ちだって不安になるんじゃねぇかって……思うし、うん」
「デイダラ、お前は堂々としてりゃそれでいい、気にすんな」
「でも、初めてって女には色々と夢があるんだろ?」
真剣に考えてやる事ではないので、テキトーに返せばでもだってと色んな言葉が返ってくる。お前も男ならんな細けぇ事をいちいち気にすんな。いざとなりゃ物事どうにでもなるからな。
「(めんどくせぇ、あいつがそんなもんとっくの昔に終わらせたくそビッチだって暴露してぇ……!)」
「なぁサソリの旦那聞いてんかよっ!」
「うるせぇ! オレに話を振るな!」
女々しいデイダラが面倒くせぇ。
#03
今日もいつもの通り部屋に籠って傀儡の整備に精を出す。この時間が何だかんだ自分にとって至福である。そんな有意義な空間を破壊する、空気を読まない声が鳴り響いた。
「サソリさぁぁぁん!! 私に救いの手を!!」
「……今てめぇが何考えてるか当ててやろうか」
あぁ、面倒事がやってきちまったか。この女がオレのところに駆け込んでくるのは毎度デイダラの事だ。そして、前にデイダラが処女云々について話していた。ならば、今回コイツがオレに言いたい事はこれしかない。ものの数秒で結論に至ったサソリは手を止めて静かに口を開いた。そんなサソリの反応に不思議な表情を浮かべる青子。
「え? サソリさんにこの純情な乙女の思考がわかるんですか? ムリですよね?」
「何が純情だ、年中発情期がよく言う」
「で、私の考えてる事当ててみて下さいよ」
ふんと鼻を鳴らす青子にサソリはため息を落とす。この女の考える事が筒抜け過ぎると思いながら。
「どうやったら処女膜って再生出来ます? 私デイダラくんに捧げたい、だろ?」
「!! なんで分かったんですか? 私の脳内覗いたんですか、この変態野郎!」
「変態はてめぇだくそアマ! だいたい年がら年中どうやってデイダラを手籠めにするかしか考えてねぇだろ!」
「えへへ」
やはり己の想像通りだった。まぁそれはいい、問題はその後の青子の発言だ。どの口で人を変態呼ばわりするのか。お前みたいな生粋の変態に変態なんて呼ばれる筋合いはない。デイダラの事を口にすれば、やはりニヤニヤとした笑みを浮かべる。顔は悪くないというのに本当に残念思考な女だ。
「てめぇのおめでたい脳みそなんざどうでもいい、再生は無理だ」
「そんな無慈悲な事言わないで! どうにかしてよ!」
「散々男に股開いたツケが今来たんだ、潔くデイダラに幻滅されろ」
「やだやだやだ! デイダラくんに嫌われたら死ぬっ!」
コイツは簡単にどうにかしろというがムリなものはムリだ。だいたいコイツの中でオレは何でも屋かなんかにされているのだろうか? オレにだって得手不得手はある。そして傀儡以外の再生分野は不得手だ。
「振られたら他の男に抱いてもらえばいいじゃねぇか、今までそうやって来たんだからよ」
「もうしないって決めたの! デイダラくん一筋になるって!」
「オレの経験上ビッチは治らねぇ、絶対物足りなくなる」
散々色んな女を見てきたオレが事実を告げれば違うと必死に否定をしてくる。否定してもそういう過去があったのは今更変えられないというのに……何故それに気づかないのか。それどころか逆に闘志を燃やし始める始末。
「そんな事ない! 見てろよ、私のデイダラくんへの愛を!」
「口先だけの愛がどこまで粘れるか……やれるだけやってみろ、時間の無駄だったと気付くからよ」
「バカ! サソリなんかバラバラになって皆に頭蹴られちゃえばいいんだから!」
潔く諦めろと告げれば喚き散らして出て行ってしまった。酷だと思うが、自業自得だ。自分できちんと落とし前をつけろバカ女。
#04
「サソリの旦那ぁぁあっ!!」
「うるせぇな! 普通に呼べねぇのか!」
部屋をつんざく叫びに怒声を上げた。ここの連中は静かにしゃべれねぇのか! 毎度毎度バカでけぇ声で話しやがって、そんなにでかい声じゃなくても聞こえている。話を聞いてくれと切羽詰まって言うデイダラに何だと返す。そしてとっとと出て行けと。
「あいつがっ」
「(何だ? ついにバレたか? ざまーねぇなあのド変態)」
「すっげー! 可愛かったっ! 愛してるって! オイラ世界一幸せだって言えるぞ! うんっ!」
ニコニコと頬を染めるデイダラに脱力した。バレたなら面白い展開になると思っていたが、どうやらバレずに事に及んだようだ。しかし、そんな報告はいらねぇ。心底いらねぇ。
「……くだらねぇ事でいちいちオレを呼ぶんじゃねぇ」
「はぁ?! オイラはこの幸せを旦那にも分けようって……」
「要らねぇ世話だ、ほっとけ」
どうでもいいと切り捨てれば表情をしかめられる。しかも幸せのお裾分けだと? 余計に要らねぇ。オレは傀儡を弄る時間を確保する方が大事だ。
「何だよ旦那更年期か? そんなにカリカリすんなって」
「殺されてぇのか」
「オイラは死ぬなら腹上死がいいって決めたからムリだな、うん」
「……」
コイツも随分とお花畑になっちまったもんだ。もう話すのすらアホらしくなって口を閉ざせば、調子に乗ったデイダラがあれこれと喋り出す。……真剣に聞くのは止めだ、全て聞き流す。これは雑音だと思えばいい。
「サソリの旦那も彼女作ればオイラの言いたい事が分かる筈だ! うん!」
「(急に上から目線になりやがって……! うぜぇな)」
雑音だと言いきかせたところでコレだ。早くどっか行け。
#05
己の部屋に慌ただしい若者が訪れるのにもう慣れた。そして、色々言っても仕方ないというのも学習した。今日も我が物顔で居座る青子はサソリさんと上機嫌で己を呼んでくる。それに返答しなくとも彼女は気にかける事なく言葉を続けた。
「サソリさん、私はデイダラくんへの愛貫きましたよ! えっへん!」
「そーか、そりゃ良かったな」
「すっごくどうでもよさそう……!!」
満面の笑みを浮かべて告げてきた内容にテキトーに返せば、少し凹んだ顔で声を震わせている。二人がくっつこうが破局しようが、サソリは己に支障がなければもうどうなってもいいと、関わりすぎないと決めた。
「で、今度は何だ?」
「デイダラくんへの愛が溢れすぎるのでもう性癖バラそうかなぁって」
とりあえず話を聞いていれば、この女今なんて口にしただろうか? 性癖をバラすと言わなかったか? 己の耳がおかしくなったかと思い青子を見れば、顔を染めて体をくねらせている。聞き間違えではなさそうだと確認したサソリは諭すように話した。
「……待て、いくらなんでも早すぎる」
「次する時はデイダラくんに潮吹き体験してもらおうって思ってるんです……キャッ告白しちゃった!」
「落ち着けバカッ! んなハードル高いところから行くな!」
青子に対して夢を見ているデイダラ。そんな彼を思ってダメ出しをするも、既に己の世界に入ってしまっている彼女は聞く耳を持たない。少々声を張り上げれば、正気に戻ったのか目をぱちくりとさせている。少しはまともな思考をするようになったかと思えば、その期待は見事打ち砕かれた。
「えっ?! デイダラくんイかせちゃダメとかサソリさんは焦らしプレイ派? 私もそれ好きだけどやっぱりイク時の顔のが可愛いからムリだなぁ」
「テメェの趣向なんざ聞いてねぇよ! デイダラのお前へのイメージぶち壊す気か?!」
少しでもコイツを見直そうと思った自分がバカだった。
「愛には障害が付きものです、私とデイダラくんなら乗り越えられる……!」
「……オレはどうなっても知らねぇからな」
コイツらに関わるのはもう止めだ。どうにでもなっちまえ。何もかも無駄だと悟り、額に手を当ててため息をついた。
#完
引き留めるサソリの言葉をまるっと無視した青子は、そのまま部屋を後にすると愛しいデイダラを探し始めた。もう我慢するのは正直言って辛い。自分の全てを彼に受け入れてほしいと思ってしまったのだ。愛する人には受け入れてほしいという気持ちを持って何が悪いとも。自分を受け入れてもらうのだから、当然自分もデイダラの全て受け入れるつもりでいる。
彼の部屋に向かい、そっと扉を開くと力強く粘土を捏ねている姿が目に入る。入口から彼の名前を呼ぶと、粘土から自分へと視線が注がれた。
「ねぇ、デイダラくん。あのね聞いて欲しい事があるんだけど」
「急に改まってなんだよ?」
「その、驚いたりしないで欲しいんだ」
「わかった」
了承した彼の隣に腰かけて、ゆっくりと言葉を紡ぐ。いきなり全てを暴露したら彼に引かれるのは分かっている。だから含みある言い方をして質言を取り、逃げられないようにするのだ。
「私はデイダラくんが大好きなんだよ」
「知ってる、オイラだって好きだからな」
「えへへ、それでね……私どうしてもしたい事があるの」
「どうしてもしたい事? なんだそりゃ?」
好きだという気持ちに嘘はない。今まで数多くの男を見てきたがデイダラくんは格別だ。初めてだった。こんなにも胸が熱くなったのは、こんなにも昂ぶったのは。
「びっくりするかもしれないけど、勘違いしないでほしいから先に伝えとこうって思って」
「びっくりする? よっぽどの事じゃない限り驚いたりしねーよ、うん」
「さすがデイダラくん!」
「当たり前だろ? オイラを誰だと思ってやがる」
彼の言葉に安易を覚える。私に対して疑う事を知らないデイダラくん。私の黒い過去を知らないデイダラくん。これから君に対して卑猥な事をたくさんしたいなんて思いもしてないデイダラくん。純粋なデイダラくん。すごく大好き。
「はぁ、やっぱデイダラくんはかっこいいなぁ」
「……っ」
「あとね、私の事嫌いにならないでね?」
「はぁ? なんで嫌いにならなきゃなんねぇんだよ、意味わかんねー」
「私デイダラくんに嫌われたら生きていけないもん」
もう、私はデイダラくんがいないとダメだ。初めて体を合わせた日に確信した。身も心もこの先満たしてくれるのは彼しかしないって。最高のパートナーになるって。
「んなくだらねぇ心配なんかすんな、オイラは今もこれからもお前しか見ねぇよ」
「本当?! その言葉信じてもいい?!」
「男に二言はない! うん!」
「私、デイダラくんのその言葉信じたからね! 大好き!」
自信満々に告げる彼に思いっきり抱きつく。デイダラくんから香る土の匂いと彼特有の香りがすごく好き。待っていてね、デイダラくん。準備が出来たら君の全てをもらって、私の全てを見せるから。