頂き物
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深夜2時。アジトにいる者は、もうみんな寝静まっている時間。そんな夜中に1つ響く、小さな足音。その足音はただ真っ直ぐに、ある部屋に向かって歩いていた。まるで人の目を避けるように、敢えてこの時間帯を狙って。私…、青子は、同じ暁のメンバーであるサソリの部屋へと足早に向かっていたのだ。
辿り着いたその扉の前で、控え目にノックをする。返事が返ってこないのは、いつもの事だ。中にいる事は分かっているので、私も御構い無しに扉を開けた。ぼんやりと、部屋の隅に置かれた灯籠が揺らめいて、中を不気味に照らしている。その奥で傀儡のパーツに囲まれながら、今日も今日とて、自分の芸術に精を出す彼の姿があった。やって来た私をチラリと横目で見ると、持っていたパーツを机に置いてこちらを見る。
「またか」
「…お願い、サソリ。昼間の任務でちょっとやらかしちゃったの」
私とサソリの間では、これはもう恒例の行事だった。…体のメンテナンス。天才的な傀儡師である彼だからこそ、安心してお願いすることができる。私の体は、もう普通の人間ではないのだから。
私は、何の躊躇いもなく服を脱いだ。恥じらいなど、この身には必要のないものだ。布の下から現れたのは、無機質な冷たさを帯びる、傀儡と化した体。私は、目の前に座るサソリと同じ、自らの体を傀儡に改造した傀儡人間だった。
「…大層な傷を付けられたもんだな」
「へへへ」
「お前…、傀儡だからって油断してるといつかやられるぞ」
不死身じゃねぇんだから、と付け加えた彼の指が、私の胸元に触れる。かちゃかちゃと鳴り響く器具の音を耳に挟みつつ、もう何回聞いたか分からない説教を右から左へ流した。
傀儡になった私には、普通の人間が感じるような痛みを、全く感じなくなった。痛くない、怖くない。元々臆病で、碌に戦いも出来なかった私が、傀儡になろうと思った理由の1つがそれだ。痛みを感じなくなれば、怖いものはなくなる。思い切り戦える。実際、傀儡になってからの私は成果もあげられるようになったし、やはり気の持ちようは大事である。
でも…。もっと…、もっと大きな理由が、別にある。
「サソリ……」
「ああ…、お前はいつ見ても芸術的だ…。俺の最高傑作…。この体に傷を付けた奴が恨めしいな」
「ソイツはもう私が殺したよ」
「殺したら楽になっちまうだろ。指を落として、皮膚を剥いで、目玉くり抜いて…、苦しみ抜いてから殺さねぇと」
「相変わらず趣味が悪いね」
サソリのこの目、この手付き。これこそが、私が傀儡になった理由。傀儡になれば、彼は私を見てくれる。愛の篭った、優しい眼で。…ずっと、ずっと好きだった。でもサソリは、恋愛になんて興味は無かった。彼が愛を注ぐのは、自分の芸術だけ。無数の傀儡に嫉妬して、羨んで。私もあんな風に愛して貰いたい。触れてもらいたい。私の歪みまくった愛情は、遂に自らの体に手を加えたのだ。ただサソリに愛されたいが為に。
「さ、サソリ、そんな所…傷なんて無いよ」
「お前はよく無茶をする。隅々まで調べないとな」
胸元の傷から手を離したサソリは、下半身を覆う私の衣服にも手を伸ばした。サソリの呼吸は乱れていて、酷く興奮している。どうしてだろう、体の修理と銘打たれていた時は恥ずかしくなかったのに、サソリの下心の為に脱がされている今は、とても恥ずかしい。触れられた所で、傀儡である私には何の感触もないのに、何故かそこがジンワリと熱くなる錯覚に陥るのだ。サソリの目は、尚もじっとそこに注がれていて、私の体を隈なくチェックしている。体の奥底まで、全て見透かされている気分だ。
「サソリのも、見せて。見たい」
「ほう…。お前にも分かるのか、この芸術性が」
違う。私は、永久の美なんてどうでもいい。ただ、私と同じ貴方の体を目に焼き付けたいだけ。目を爛々と輝かせるサソリが服を脱ぎ捨てて、私と同じ、無機質な上半身を露わにする。現れる、心臓の代わりを果たす核。そこに触れると、満たされる気持ちになる。ああ、傀儡になって良かった。私の想いは報われた。この想いを彼に直接伝える事は無いけれど、今でも十分幸せだ。サソリの愛は、間違いなく私に注がれているのだから。
裸のまま、体を寄せ合う私とサソリ。重なった胸から、カラカラとお互いがぶつかり合う音が聞こえる。私の全身を余すことなく探るサソリの手は、普段の横暴な彼とは正反対に酷く優しくて甘かった。きっと私が人間のままだったら、こんな風に触れて貰えることは絶対に無かっただろう。
「ねぇ、サソリ」
「ん」
「私、今すごく幸せ」
「…………」
「傀儡になって良かった」
永久の美って素敵ね。そう笑う私の嘘を見透かすような、サソリの深い目に見つめられて。彼は特に何も言わぬまま、再び体のチェックに戻る。胸から始まり、首、脇、太腿、足、そして…今は最早女として機能はしていないそこも、全て。体が熱い。核が騒ぐ。傀儡の私をここまで昂らせるのは、同じ傀儡の貴方だけ。そして1つだけ我儘を言うのなら、貴方も私が触れた場所が熱くなっていればいいのに。
「私ばっかり見られてて狡い。サソリのも見せて」
「俺はただお前の手入れをしているだけだ」
「勉強したいの。私も自分でできるように。だから、教えて」
縋るようにサソリの腕を掴んで、懇願するように見つめて。それらしい嘘を付いて頼み込んだ。私のその言葉を受けて、無言のままの彼が服の中から取り出したのは、これまた私と同じように、既に機能を失った只の飾り。近くにあったメンテナンス用のオイルを取る、その流れる様な仕草を見つめながら、私は特に抵抗する事なくサソリの首に手を回した。意味の無い交合。私たちは、お互いもう子を宿す事もなければ、快感を得る事だって出来ない。でも私の体は求めている。サソリを、愛を。
「………何も感じない」
「当たり前だ。俺もお前も傀儡だからな」
「でも、何だか満たされてる」
幸せそうに笑う私の頬に添えられた手は、やっぱり温かかった。そんな筈は無いのに、そこからサソリの想いが伝わってくるようだ。ハッとして顔を上げると、やはり彼は無表情で。でも微かに感じた、瞳の奥の光。柔らかく燻るその光は、一体何を意味しているのだろう。
「……お前は傀儡のことなんて知らなくていい」
「え?」
「お前の面倒も俺が見る」
「それって…、傀儡に興味があるから?それとも…」
私のこと、と言いかけて、口を閉じる。期待しそうになったけど、絶対にそんな事は有り得ないと自分で否定したからだ。彼は、ただ傀儡が好きで、傀儡に触れていたいだけ。私だから、なんて感情は持ち合わせていない。彼に限って、絶対に…、
「……お前だからだ」
「え……」
目が落ちそうな程に見開かれた、私の瞳。そこには、前にいるサソリの姿が反射して映っている。
「お前が本当は芸術に興味などない事は分かってる」
「う、うそ……」
「傀儡になった本当の理由はなんだ?」
「それは………」
「…言え。お前が傀儡になった訳を」
「わ、私はただ…、痛みとかそういう恐怖を、」
「俺の為だろう?」
「……っ」
「今更くだらん嘘はいい。俺を待たせるな」
「あっ…、待っ……!」
誤魔化す私を一蹴して、サソリはその冷たい唇を寄せた。苛立ったように塞がれた唇から漏れる熱い吐息。どうしてこんなに心地いいのだろう。どうしてこんなにも感じてしまうのだろう。昂る体は、留まる事を知らない。揺らめく灯籠が私たちを照らして、壁にボンヤリと2つのシルエットを映し出す。その影だけ見れば、誰が私たちを傀儡だと思うのだろうか。姿形は人そのもの、意思だって心だってある。こんなにも人を愛する心を、私は傀儡になった今でも忘れてはいない。体は、人間ではない紛い物になっても、心だけはいつまでも、人で有り続けるのだろう。このくだらない感情を心に抱き続ける限り。
「貴方に、振り向いて欲しかったから」
「………くだらんな」
「くだらないよ。くだらないけど…好きになっちゃったから。サソリの事が」
「そんな事の為に、お前は傀儡になったのか」
「私にとっては一番大切にしたい気持ちだもん。この想いの為なら、何だって捨てられるよ」
再び重なり合う無機質。私とサソリは、傀儡になったその時から、ずっと時間が止まったまま。老いる事なく、永遠に同じ時間を同じ姿で生き続ける。きっと貴方は、これから沢山の別れを経験するでしょう。待たされるのが嫌いな貴方は、これから沢山待つことになるでしょう。だって皆、人間だから。人はゆっくりと、しかし確実に老いて、遅かれ早かれいつか死ぬ。その時サソリはどうするんだろうって、ふとそう思ったの。余計な心配するなって貴方は怒るかもしれないけど、寂しがり屋な貴方が心配だった。
でももう大丈夫。私も同じ時間を生きるから。みんなが貴方を置いて行っても、私だけはずっと隣にいる。この体になれば、それが可能になる。
「サソリの傍にいる為には、こうするしかないと思った」
「歪んでるな」
「サソリに言われたくないけどね」
「……それもそうだな。お前を傀儡にしたのは、この俺だ」
…そうだ。彼は、好きな女を、傀儡にした。この生き地獄に引きずり込んだ。サソリは自覚していた。いつの間にか、目の前のコイツを歪に愛していた事を。だからあの時、『傀儡にして欲しい』と持ち掛けてきたコイツの意思を、尊重するように見せかけて、自分と同じ紛い物にしたのだ。
「だから、ずっと私の修理してね」
「壊さないように努力しろ。お前も俺の芸術の1つだ。粗末に扱う事は許さねぇ」
「じゃあ私が傷付かないように守ってね」
「調子に乗んな」
起こした体に、脱いだ服を纏った。器具を片付けているサソリの背中に悪戯気味に笑う。私も貴方のコレクションに入れて貰えているのなら、それ程幸せな事はないだろう。
「どうせ傀儡に改造するなら、もっとナイスバディに作って欲しかったなあ」
「オレはリアルを忠実に再現したまでだ」
「それ遠回しに私のこと貶してない?」
「事実を言っただけだろうが」
ぷ、と噴き出す私と、ふ、と口元を歪めるサソリ。ほら、私たち、こんなに自然に笑えてる。食事も睡眠も要らなくなったのに、一番くだらない心だけが残っている。そこがまた、私たちの歪さを上手く表しているようだ。マリオネットのように伸びた、私たちの操り糸は、お互いの小指に絡みついている。まるで、ロマンチックな赤い糸のように、決して離れず、複雑に絡み合っている。
お互いを操れるのは、お互いだけ。滑稽な人形劇は、まだ始まったばかり。
辿り着いたその扉の前で、控え目にノックをする。返事が返ってこないのは、いつもの事だ。中にいる事は分かっているので、私も御構い無しに扉を開けた。ぼんやりと、部屋の隅に置かれた灯籠が揺らめいて、中を不気味に照らしている。その奥で傀儡のパーツに囲まれながら、今日も今日とて、自分の芸術に精を出す彼の姿があった。やって来た私をチラリと横目で見ると、持っていたパーツを机に置いてこちらを見る。
「またか」
「…お願い、サソリ。昼間の任務でちょっとやらかしちゃったの」
私とサソリの間では、これはもう恒例の行事だった。…体のメンテナンス。天才的な傀儡師である彼だからこそ、安心してお願いすることができる。私の体は、もう普通の人間ではないのだから。
私は、何の躊躇いもなく服を脱いだ。恥じらいなど、この身には必要のないものだ。布の下から現れたのは、無機質な冷たさを帯びる、傀儡と化した体。私は、目の前に座るサソリと同じ、自らの体を傀儡に改造した傀儡人間だった。
「…大層な傷を付けられたもんだな」
「へへへ」
「お前…、傀儡だからって油断してるといつかやられるぞ」
不死身じゃねぇんだから、と付け加えた彼の指が、私の胸元に触れる。かちゃかちゃと鳴り響く器具の音を耳に挟みつつ、もう何回聞いたか分からない説教を右から左へ流した。
傀儡になった私には、普通の人間が感じるような痛みを、全く感じなくなった。痛くない、怖くない。元々臆病で、碌に戦いも出来なかった私が、傀儡になろうと思った理由の1つがそれだ。痛みを感じなくなれば、怖いものはなくなる。思い切り戦える。実際、傀儡になってからの私は成果もあげられるようになったし、やはり気の持ちようは大事である。
でも…。もっと…、もっと大きな理由が、別にある。
「サソリ……」
「ああ…、お前はいつ見ても芸術的だ…。俺の最高傑作…。この体に傷を付けた奴が恨めしいな」
「ソイツはもう私が殺したよ」
「殺したら楽になっちまうだろ。指を落として、皮膚を剥いで、目玉くり抜いて…、苦しみ抜いてから殺さねぇと」
「相変わらず趣味が悪いね」
サソリのこの目、この手付き。これこそが、私が傀儡になった理由。傀儡になれば、彼は私を見てくれる。愛の篭った、優しい眼で。…ずっと、ずっと好きだった。でもサソリは、恋愛になんて興味は無かった。彼が愛を注ぐのは、自分の芸術だけ。無数の傀儡に嫉妬して、羨んで。私もあんな風に愛して貰いたい。触れてもらいたい。私の歪みまくった愛情は、遂に自らの体に手を加えたのだ。ただサソリに愛されたいが為に。
「さ、サソリ、そんな所…傷なんて無いよ」
「お前はよく無茶をする。隅々まで調べないとな」
胸元の傷から手を離したサソリは、下半身を覆う私の衣服にも手を伸ばした。サソリの呼吸は乱れていて、酷く興奮している。どうしてだろう、体の修理と銘打たれていた時は恥ずかしくなかったのに、サソリの下心の為に脱がされている今は、とても恥ずかしい。触れられた所で、傀儡である私には何の感触もないのに、何故かそこがジンワリと熱くなる錯覚に陥るのだ。サソリの目は、尚もじっとそこに注がれていて、私の体を隈なくチェックしている。体の奥底まで、全て見透かされている気分だ。
「サソリのも、見せて。見たい」
「ほう…。お前にも分かるのか、この芸術性が」
違う。私は、永久の美なんてどうでもいい。ただ、私と同じ貴方の体を目に焼き付けたいだけ。目を爛々と輝かせるサソリが服を脱ぎ捨てて、私と同じ、無機質な上半身を露わにする。現れる、心臓の代わりを果たす核。そこに触れると、満たされる気持ちになる。ああ、傀儡になって良かった。私の想いは報われた。この想いを彼に直接伝える事は無いけれど、今でも十分幸せだ。サソリの愛は、間違いなく私に注がれているのだから。
裸のまま、体を寄せ合う私とサソリ。重なった胸から、カラカラとお互いがぶつかり合う音が聞こえる。私の全身を余すことなく探るサソリの手は、普段の横暴な彼とは正反対に酷く優しくて甘かった。きっと私が人間のままだったら、こんな風に触れて貰えることは絶対に無かっただろう。
「ねぇ、サソリ」
「ん」
「私、今すごく幸せ」
「…………」
「傀儡になって良かった」
永久の美って素敵ね。そう笑う私の嘘を見透かすような、サソリの深い目に見つめられて。彼は特に何も言わぬまま、再び体のチェックに戻る。胸から始まり、首、脇、太腿、足、そして…今は最早女として機能はしていないそこも、全て。体が熱い。核が騒ぐ。傀儡の私をここまで昂らせるのは、同じ傀儡の貴方だけ。そして1つだけ我儘を言うのなら、貴方も私が触れた場所が熱くなっていればいいのに。
「私ばっかり見られてて狡い。サソリのも見せて」
「俺はただお前の手入れをしているだけだ」
「勉強したいの。私も自分でできるように。だから、教えて」
縋るようにサソリの腕を掴んで、懇願するように見つめて。それらしい嘘を付いて頼み込んだ。私のその言葉を受けて、無言のままの彼が服の中から取り出したのは、これまた私と同じように、既に機能を失った只の飾り。近くにあったメンテナンス用のオイルを取る、その流れる様な仕草を見つめながら、私は特に抵抗する事なくサソリの首に手を回した。意味の無い交合。私たちは、お互いもう子を宿す事もなければ、快感を得る事だって出来ない。でも私の体は求めている。サソリを、愛を。
「………何も感じない」
「当たり前だ。俺もお前も傀儡だからな」
「でも、何だか満たされてる」
幸せそうに笑う私の頬に添えられた手は、やっぱり温かかった。そんな筈は無いのに、そこからサソリの想いが伝わってくるようだ。ハッとして顔を上げると、やはり彼は無表情で。でも微かに感じた、瞳の奥の光。柔らかく燻るその光は、一体何を意味しているのだろう。
「……お前は傀儡のことなんて知らなくていい」
「え?」
「お前の面倒も俺が見る」
「それって…、傀儡に興味があるから?それとも…」
私のこと、と言いかけて、口を閉じる。期待しそうになったけど、絶対にそんな事は有り得ないと自分で否定したからだ。彼は、ただ傀儡が好きで、傀儡に触れていたいだけ。私だから、なんて感情は持ち合わせていない。彼に限って、絶対に…、
「……お前だからだ」
「え……」
目が落ちそうな程に見開かれた、私の瞳。そこには、前にいるサソリの姿が反射して映っている。
「お前が本当は芸術に興味などない事は分かってる」
「う、うそ……」
「傀儡になった本当の理由はなんだ?」
「それは………」
「…言え。お前が傀儡になった訳を」
「わ、私はただ…、痛みとかそういう恐怖を、」
「俺の為だろう?」
「……っ」
「今更くだらん嘘はいい。俺を待たせるな」
「あっ…、待っ……!」
誤魔化す私を一蹴して、サソリはその冷たい唇を寄せた。苛立ったように塞がれた唇から漏れる熱い吐息。どうしてこんなに心地いいのだろう。どうしてこんなにも感じてしまうのだろう。昂る体は、留まる事を知らない。揺らめく灯籠が私たちを照らして、壁にボンヤリと2つのシルエットを映し出す。その影だけ見れば、誰が私たちを傀儡だと思うのだろうか。姿形は人そのもの、意思だって心だってある。こんなにも人を愛する心を、私は傀儡になった今でも忘れてはいない。体は、人間ではない紛い物になっても、心だけはいつまでも、人で有り続けるのだろう。このくだらない感情を心に抱き続ける限り。
「貴方に、振り向いて欲しかったから」
「………くだらんな」
「くだらないよ。くだらないけど…好きになっちゃったから。サソリの事が」
「そんな事の為に、お前は傀儡になったのか」
「私にとっては一番大切にしたい気持ちだもん。この想いの為なら、何だって捨てられるよ」
再び重なり合う無機質。私とサソリは、傀儡になったその時から、ずっと時間が止まったまま。老いる事なく、永遠に同じ時間を同じ姿で生き続ける。きっと貴方は、これから沢山の別れを経験するでしょう。待たされるのが嫌いな貴方は、これから沢山待つことになるでしょう。だって皆、人間だから。人はゆっくりと、しかし確実に老いて、遅かれ早かれいつか死ぬ。その時サソリはどうするんだろうって、ふとそう思ったの。余計な心配するなって貴方は怒るかもしれないけど、寂しがり屋な貴方が心配だった。
でももう大丈夫。私も同じ時間を生きるから。みんなが貴方を置いて行っても、私だけはずっと隣にいる。この体になれば、それが可能になる。
「サソリの傍にいる為には、こうするしかないと思った」
「歪んでるな」
「サソリに言われたくないけどね」
「……それもそうだな。お前を傀儡にしたのは、この俺だ」
…そうだ。彼は、好きな女を、傀儡にした。この生き地獄に引きずり込んだ。サソリは自覚していた。いつの間にか、目の前のコイツを歪に愛していた事を。だからあの時、『傀儡にして欲しい』と持ち掛けてきたコイツの意思を、尊重するように見せかけて、自分と同じ紛い物にしたのだ。
「だから、ずっと私の修理してね」
「壊さないように努力しろ。お前も俺の芸術の1つだ。粗末に扱う事は許さねぇ」
「じゃあ私が傷付かないように守ってね」
「調子に乗んな」
起こした体に、脱いだ服を纏った。器具を片付けているサソリの背中に悪戯気味に笑う。私も貴方のコレクションに入れて貰えているのなら、それ程幸せな事はないだろう。
「どうせ傀儡に改造するなら、もっとナイスバディに作って欲しかったなあ」
「オレはリアルを忠実に再現したまでだ」
「それ遠回しに私のこと貶してない?」
「事実を言っただけだろうが」
ぷ、と噴き出す私と、ふ、と口元を歪めるサソリ。ほら、私たち、こんなに自然に笑えてる。食事も睡眠も要らなくなったのに、一番くだらない心だけが残っている。そこがまた、私たちの歪さを上手く表しているようだ。マリオネットのように伸びた、私たちの操り糸は、お互いの小指に絡みついている。まるで、ロマンチックな赤い糸のように、決して離れず、複雑に絡み合っている。
お互いを操れるのは、お互いだけ。滑稽な人形劇は、まだ始まったばかり。