短編集
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目が見づらくなった。そう自覚したのは左腕や左肩、左足などにやたら痣を作るようになったからだ。時折モノが霞んだり、目の前を虫が飛んでいたりしていたが、その日の体調でたまたまそう見えるのだろうと思っていた。そして、たまたまそういう日に体をぶつけて怪我をしていたのだと。
入浴中、鏡に映る左半身の消えない痣を見て、もしかして異常があるのではないかと思うようになった。意識し始めたところでようやく左目のおかしさに気づいた。医者に早速診てもらうと視力が落ち始めている。他にも視野が狭くなり始めているとも。このまま失明するとはっきり宣言された。
失明とは電気を消した時みたいにパッと光を失うかと思っていたが、実際はゆっくり水が染み込むようにじわじわ失っていくのだと知った。段々と光を失っていく怖さに、悲しさやら怒りやらたくさんの感情が入り混じる。憂鬱を背負って病院を出ると見知った人影を見つけた。赤い髪が特徴の彼はアカデミーで知り合い、意気投合して友人となったのだ。
「青子」
向こうも私の存在に気がついたらしく声をかけてくれた。サソリ! と返せば背後にある眼科の文字を見たのか、眉をひそめてどうした? と問いかけてきた。話そうかどうしようか、唇を噛んでもやもやした気持ちに整理をする。再び話せない事なのか? と聞いてきた彼に重たい口をゆっくり動かした。
左目の視力が落ちていると話せば彼は治らないのか? と心配そうに聞いてきた。ゆくゆくは失明するのだと無感情で返すと視線を落としてそうか……と重苦しく呟く。進行を遅くする為にこれから通院するのだと返せば小さく頷いて悪かったと謝られる。気にしないでと返して苦渋を浮かべた彼と別れた。
翌日、朝一番に家のインターフォンが鳴った。返事をして玄関に向かえば昨日会った友人が立っていた。昨日ぶりの彼におはようと返し、朝からどうしたの? と言えば彼はこちらに手を差し出してきた。彼の手に乗っているのは透明な瓶。中身も無色透明な液体だ。これは何? と首を傾げて疑問を投げた。
「目によく効く薬だ」
気休めになるんじゃないかと思ってと申し訳なさを浮かべた彼が告げた。彼の好意が嬉しくてありがとうと受け取ればオレは任務があると言ってすぐに背を向けてしまった。
その日の夜、サソリにもらった目によく効く薬を取り出した。無色透明の薬は小瓶の中で揺れている。服用しようと思ったところで私は失態に気づいてしまった。どれくらいの量を服用していいのか聞き忘れてしまったのだ。小瓶に入っている量はそんなに多くはない。明日きちんとした量を聞くとして、今日は瓶の半分だけ服用した。味はとても苦くて思わず戻しそうになる。しかし、良薬口に苦しとの言葉もある。我慢して飲み込めば最後は張りつくような甘みがした。
翌朝、またインターフォンが鳴った。返事をして扉を開ければサソリが立っていた。挨拶をしてそういえばと話をきり出す。昨日もらった薬はどれだけ服用していいのか聞き忘れていた。そう告げるとオレもうっかりしていたと苦笑した。きっちりしたサソリにしては珍しいねと言えばオレだってそんな時もあると笑われた。
「昨日はどれだけ飲んだ?」
瓶の半分だと答えればそれで大丈夫だと返答される。わざわざありがとうと笑えば気にするなと言って彼は帰っていった。
その日の夜、私は食後に残りの薬を飲み干そうとしてまたもや失敗したと頭を抱えた。服用量は聞いたのに、食前と食後、どちらがいいのか聞き忘れてしまったのだ。もう薬もなくなるし、また明日聞けばいいかと思って薬を飲み干した。
また朝にサソリは訪ねてきた。おはようと言えば、おはようと返ってくる。彼は目によく効く薬を取り出すと私の手に握らせた。サソリと名前を呼ぶと何だと返事がくる。昨日思い出した服用の時間を聞くとあぁ、また伝え忘れたとため息をついていた。本当に珍しい。疲れているんじゃないか? と聞けばもしかしたらそうかもしれないと答える。薬は食後に飲んだよと言うと彼の眉に皺が寄った。この反応を見る限り間違って服用していたのかもしれない。間違っていた? と聞けばゆっくり頷いて食前がいいと静かに言われる。今日から気をつけると伝えて彼にさよならをした。
その晩、サソリに言われた通り食前に半分の量を用意して飲み込んだ。やはり強い苦味に顔が歪む。苦戦しながら飲み込むと何だか胃がムカムカするような、チクチクするような気がする。気のせいだと思いその後いつも通りに食事を取った。
その次の日もサソリは朝から訪問してくれた。聞けば任務が数日入るから目によく効く薬をまとめて渡しに来たと言う。わざわざ届けてくれてありがとうと礼を言えば、オレとお前の仲だろうと返してくれた。サソリの優しさに胸が熱くなる。任務頑張ってねと笑顔で彼を見送った。
薬を飲み続けること一週間。何だか左目が見やすくなってきた気がする。前は黒いモヤみたいなモノが視界の隅にいたのに今は消え失せて、白い視界でモノが見える。さすが目によく効く薬というだけある。サソリが帰ってきたらお礼をしなきゃ。
薬が終わる頃、任務を終えたサソリが家に来てくれた。そろそろなくなるだろ? と言って新しい目によく利く薬を持ってきてくれたのだ。サソリに最近目の調子が良いよと伝えれば、効いて良かったとまるで自分の事のように喜んでくれた。サソリのおかげだと言えば彼は優しく笑う。そういえば、私はこの目によく効く薬のお代を渡していない事に気がついた。この薬のお代を渡したいからいくらか教えて欲しいと言うとサソリは首を横に振った。気にするなと彼は言うが、このような凄い薬はそれなりの値段が張る筈だ。払いたいと再度告げても彼は首を横に振る。ならばお礼に食事を奢らせて欲しいと頼み込めばようやっと縦に振ってくれた。
サソリを誘って外に食事に向かう。場所は最近出来た和食を扱うお店だ。予約を済ませておいたので、すんなりとお店に入れた。がやがやと賑わうお店の半ば辺りに案内され、席に着いてメニュー表をサソリに渡し、好きなのを選んでねと告げる。彼はわかったと返し、パラパラとメニューを捲り始めた。
品物を選んで運ばれてくるのを待っている間、私はいつも服用している目によく効く薬を飲もうと鞄を漁る。ゴソゴソと落ち着かない私にサソリが何をしている? と問いかけてきた。素直に薬を飲もうと思ってと返答するとどうした事か、サソリの表情が曇る。間を置いて、今日は家に帰ってから飲むんだと言ってくる彼に不思議に思うが、そうかと納得させて今日は食前に服用しなかった。
サソリにもらった目によく効く薬を飲み続けること半月。私の左目は回復していた。どんよりしていた視界は今やとても明るい。見えるようになった事が嬉しくて軽い足取りで病院へ向かい、先生に視力が回復したと話す。目の前の先生は首を傾げ怪訝な顔をして何をしたんだ? と聞いてきた。目によく効く薬を服用していると答えれば顔を大きく歪めて散瞳すると言ってきた。目薬を差され待つこと数分。私の視界はまるで水中を泳いでいるように歪む。目薬で無理やり黒目を大きくされたのだ。難しい顔をして診察する先生。一通り診察を終え、息をつき、服用を止めなさいと静かに告げた。
病院を出ると壁を背にしたサソリがいた。声をかけると青子と呼ばれる。今日は病院に行くと言っていたから待っていたんだと笑う彼に私は視線を落とした。元気のない私に何かあったのか? と問いかけるサソリ。先生に服用を止めるように怒られたのだと返す。するとサソリは視力が回復しているのをやっかんでるだけだと強い口調で話す。そんなヤブ医者のいる病院に通う必要はない、止めろと告げる彼に私はそうかもしれないと頷いた。
病院に通うのを止めて、あれからサソリに言われた通り目によく効く薬を飲み続けた。左目は順調に良くなっている。これも全てサソリが私の為にこの薬を探してくれたからだ。ありがとうサソリと感謝をすれば、友人の力になりたかったんだと嬉しそうに話す。本当にサソリは優しい、そしてこんなにも優しい友人を持つ私は幸せものだ。その日の晩もいつものように目によく効く薬を飲んだ。
服用して一ヶ月。私の両目は白い世界で埋めつくされた。眩しい眩しい白い世界。それ以外何も分からない。そんな私の耳に友人であるサソリの声が響く。
「今日もちゃんと服用しろよ……なぁに、オレが飲ませてやるから心配するな」
コレのきちんとしたデータが欲しいからなぁ、まだまだ足りねぇんだよ。いつもの優しい声は、一度として聞いた事のないねっとりとした悪意を含んでいた。楽しそうに渇いた笑い声を上げる彼。そこで騙されたのだと私はやっと気づいた。
コレは目によく効く薬。……そう、目によく効く『毒薬 』。
入浴中、鏡に映る左半身の消えない痣を見て、もしかして異常があるのではないかと思うようになった。意識し始めたところでようやく左目のおかしさに気づいた。医者に早速診てもらうと視力が落ち始めている。他にも視野が狭くなり始めているとも。このまま失明するとはっきり宣言された。
失明とは電気を消した時みたいにパッと光を失うかと思っていたが、実際はゆっくり水が染み込むようにじわじわ失っていくのだと知った。段々と光を失っていく怖さに、悲しさやら怒りやらたくさんの感情が入り混じる。憂鬱を背負って病院を出ると見知った人影を見つけた。赤い髪が特徴の彼はアカデミーで知り合い、意気投合して友人となったのだ。
「青子」
向こうも私の存在に気がついたらしく声をかけてくれた。サソリ! と返せば背後にある眼科の文字を見たのか、眉をひそめてどうした? と問いかけてきた。話そうかどうしようか、唇を噛んでもやもやした気持ちに整理をする。再び話せない事なのか? と聞いてきた彼に重たい口をゆっくり動かした。
左目の視力が落ちていると話せば彼は治らないのか? と心配そうに聞いてきた。ゆくゆくは失明するのだと無感情で返すと視線を落としてそうか……と重苦しく呟く。進行を遅くする為にこれから通院するのだと返せば小さく頷いて悪かったと謝られる。気にしないでと返して苦渋を浮かべた彼と別れた。
翌日、朝一番に家のインターフォンが鳴った。返事をして玄関に向かえば昨日会った友人が立っていた。昨日ぶりの彼におはようと返し、朝からどうしたの? と言えば彼はこちらに手を差し出してきた。彼の手に乗っているのは透明な瓶。中身も無色透明な液体だ。これは何? と首を傾げて疑問を投げた。
「目によく効く薬だ」
気休めになるんじゃないかと思ってと申し訳なさを浮かべた彼が告げた。彼の好意が嬉しくてありがとうと受け取ればオレは任務があると言ってすぐに背を向けてしまった。
その日の夜、サソリにもらった目によく効く薬を取り出した。無色透明の薬は小瓶の中で揺れている。服用しようと思ったところで私は失態に気づいてしまった。どれくらいの量を服用していいのか聞き忘れてしまったのだ。小瓶に入っている量はそんなに多くはない。明日きちんとした量を聞くとして、今日は瓶の半分だけ服用した。味はとても苦くて思わず戻しそうになる。しかし、良薬口に苦しとの言葉もある。我慢して飲み込めば最後は張りつくような甘みがした。
翌朝、またインターフォンが鳴った。返事をして扉を開ければサソリが立っていた。挨拶をしてそういえばと話をきり出す。昨日もらった薬はどれだけ服用していいのか聞き忘れていた。そう告げるとオレもうっかりしていたと苦笑した。きっちりしたサソリにしては珍しいねと言えばオレだってそんな時もあると笑われた。
「昨日はどれだけ飲んだ?」
瓶の半分だと答えればそれで大丈夫だと返答される。わざわざありがとうと笑えば気にするなと言って彼は帰っていった。
その日の夜、私は食後に残りの薬を飲み干そうとしてまたもや失敗したと頭を抱えた。服用量は聞いたのに、食前と食後、どちらがいいのか聞き忘れてしまったのだ。もう薬もなくなるし、また明日聞けばいいかと思って薬を飲み干した。
また朝にサソリは訪ねてきた。おはようと言えば、おはようと返ってくる。彼は目によく効く薬を取り出すと私の手に握らせた。サソリと名前を呼ぶと何だと返事がくる。昨日思い出した服用の時間を聞くとあぁ、また伝え忘れたとため息をついていた。本当に珍しい。疲れているんじゃないか? と聞けばもしかしたらそうかもしれないと答える。薬は食後に飲んだよと言うと彼の眉に皺が寄った。この反応を見る限り間違って服用していたのかもしれない。間違っていた? と聞けばゆっくり頷いて食前がいいと静かに言われる。今日から気をつけると伝えて彼にさよならをした。
その晩、サソリに言われた通り食前に半分の量を用意して飲み込んだ。やはり強い苦味に顔が歪む。苦戦しながら飲み込むと何だか胃がムカムカするような、チクチクするような気がする。気のせいだと思いその後いつも通りに食事を取った。
その次の日もサソリは朝から訪問してくれた。聞けば任務が数日入るから目によく効く薬をまとめて渡しに来たと言う。わざわざ届けてくれてありがとうと礼を言えば、オレとお前の仲だろうと返してくれた。サソリの優しさに胸が熱くなる。任務頑張ってねと笑顔で彼を見送った。
薬を飲み続けること一週間。何だか左目が見やすくなってきた気がする。前は黒いモヤみたいなモノが視界の隅にいたのに今は消え失せて、白い視界でモノが見える。さすが目によく効く薬というだけある。サソリが帰ってきたらお礼をしなきゃ。
薬が終わる頃、任務を終えたサソリが家に来てくれた。そろそろなくなるだろ? と言って新しい目によく利く薬を持ってきてくれたのだ。サソリに最近目の調子が良いよと伝えれば、効いて良かったとまるで自分の事のように喜んでくれた。サソリのおかげだと言えば彼は優しく笑う。そういえば、私はこの目によく効く薬のお代を渡していない事に気がついた。この薬のお代を渡したいからいくらか教えて欲しいと言うとサソリは首を横に振った。気にするなと彼は言うが、このような凄い薬はそれなりの値段が張る筈だ。払いたいと再度告げても彼は首を横に振る。ならばお礼に食事を奢らせて欲しいと頼み込めばようやっと縦に振ってくれた。
サソリを誘って外に食事に向かう。場所は最近出来た和食を扱うお店だ。予約を済ませておいたので、すんなりとお店に入れた。がやがやと賑わうお店の半ば辺りに案内され、席に着いてメニュー表をサソリに渡し、好きなのを選んでねと告げる。彼はわかったと返し、パラパラとメニューを捲り始めた。
品物を選んで運ばれてくるのを待っている間、私はいつも服用している目によく効く薬を飲もうと鞄を漁る。ゴソゴソと落ち着かない私にサソリが何をしている? と問いかけてきた。素直に薬を飲もうと思ってと返答するとどうした事か、サソリの表情が曇る。間を置いて、今日は家に帰ってから飲むんだと言ってくる彼に不思議に思うが、そうかと納得させて今日は食前に服用しなかった。
サソリにもらった目によく効く薬を飲み続けること半月。私の左目は回復していた。どんよりしていた視界は今やとても明るい。見えるようになった事が嬉しくて軽い足取りで病院へ向かい、先生に視力が回復したと話す。目の前の先生は首を傾げ怪訝な顔をして何をしたんだ? と聞いてきた。目によく効く薬を服用していると答えれば顔を大きく歪めて散瞳すると言ってきた。目薬を差され待つこと数分。私の視界はまるで水中を泳いでいるように歪む。目薬で無理やり黒目を大きくされたのだ。難しい顔をして診察する先生。一通り診察を終え、息をつき、服用を止めなさいと静かに告げた。
病院を出ると壁を背にしたサソリがいた。声をかけると青子と呼ばれる。今日は病院に行くと言っていたから待っていたんだと笑う彼に私は視線を落とした。元気のない私に何かあったのか? と問いかけるサソリ。先生に服用を止めるように怒られたのだと返す。するとサソリは視力が回復しているのをやっかんでるだけだと強い口調で話す。そんなヤブ医者のいる病院に通う必要はない、止めろと告げる彼に私はそうかもしれないと頷いた。
病院に通うのを止めて、あれからサソリに言われた通り目によく効く薬を飲み続けた。左目は順調に良くなっている。これも全てサソリが私の為にこの薬を探してくれたからだ。ありがとうサソリと感謝をすれば、友人の力になりたかったんだと嬉しそうに話す。本当にサソリは優しい、そしてこんなにも優しい友人を持つ私は幸せものだ。その日の晩もいつものように目によく効く薬を飲んだ。
服用して一ヶ月。私の両目は白い世界で埋めつくされた。眩しい眩しい白い世界。それ以外何も分からない。そんな私の耳に友人であるサソリの声が響く。
「今日もちゃんと服用しろよ……なぁに、オレが飲ませてやるから心配するな」
コレのきちんとしたデータが欲しいからなぁ、まだまだ足りねぇんだよ。いつもの優しい声は、一度として聞いた事のないねっとりとした悪意を含んでいた。楽しそうに渇いた笑い声を上げる彼。そこで騙されたのだと私はやっと気づいた。
コレは目によく効く薬。……そう、目によく効く『