【7章】毒蜘蛛
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風影の周りに漂う砂鉄に行く手を阻まれながら、その時が訪れるのを今か今かと待ちわびていた。駐屯地襲撃後の夜、角都と青子は風影撃破作戦の最終確認を入念に行っていた。失敗は決して許されない。もし、トドメを刺し損ねたら二人だけではなく、暁全体に危険が及ぶのが目に見えているからだ。青子は勿論の事、長い間世間を流れてきた角都も風影の噂を幾度と耳にした。五大国の中でも砂隠れは忍の少ない国である。それでも国が国として成り立っているのは、強大な力を持つ三代目の手腕が全てだった。
「(これが磁遁……!!)」
目の前で自由自在に姿を変えつつ、容赦なく猛威を奮う砂鉄を遠目から眺めながら青子は角都の合図はまだかと焦っていた。角都の火遁が襲う砂鉄を焼いても、それは微々たるものでしかなかった。辺り一面に広がる砂漠……その一粒ひと粒が三代目の武器である。底を知らない無限に立ち向かう二人の姿は三代目からすれば酷く滑稽か、無知で無謀な愚か者に映っている事だろう。事実、三代目の表情は焦りなどなく、まだまだ余裕があるようだ。さすが最強の名を手にする忍である、そう簡単にやられてはくれない。
「(角都さん、そろそろ時間ですよ)」
砂上から鉄柱が無数に上がる中、顎をしゃくり角都を見れば小さく頷き返され、自分の意図が通じた事へ息を吐く。もう少し、もう少しすれば勝利が確定する。それまでの間、息付く暇も与えず降り注ぐ砂鉄の檻を角都は掻い潜り続けなければならない。いくら猛者の角都であっても、術でいなしてはいるが全ての対応は難しいようでかすり傷をいくつも作り上げていた。
「何か企んでいるようだが……これで終わりだっ!!」
拮抗していた戦いへ終止符を打たんと、三代目が右手をぎゅっと握りしめれば、砂鉄は再び姿を変えて角都の体を貫かんとする。とはいえ、傀儡の身である青子が近づいたところで助けになるどころか、逆に足を引っ張る未来しかない。遠くから角都の無事を祈るしかない青子は、小さく角都の名を呼ぶ。三代目の渾身の攻撃は規模が大きく、砂鉄が砂塵を巻いあげ視界は不明瞭で角都の姿は未だに確認出来ない。
「次は青子、貴様だ……っ」
一人始末したと三代目の冷静な声が響く中で、散った砂粒がスっと落ちていく。目を凝らして見れば、砂塵の中で両膝を着き肩を揺らす角都と三代目がいた。角都は体中に大小のかすり傷を作ってはいるが、無事であるように見える。一方の三代目は角都同様に肩を揺らしているが、その動きは角都以上に大きく、先程止めの一撃を放った右手は口許に当てられていた。
「この勝負、あったな」
「一体、何が……っ?!」
リーダーから風影抹殺の命を受けた角都青子の両名は、砂の国へ足を運びながら抹殺方法をそれぞれ考えていた。角都も青子も三代目風影の磁遁を如何に攻略するか、砂漠で戦うとなれば地の利は三代目にある、戦いが長引けば長引く程抹殺は困難になる。広範囲攻撃を得意とする三代目に対し、中距離の角都と近距離の青子が普通に戦ったところで勝ち筋があるようには到底思えない。しかも、人傀儡である青子にとって砂鉄は厄介者でしかなかった。
傀儡にとって関節は機能を果たす上で最も重要なパーツである。小石やゴミですら挟まるというに、更に粒の細かい砂鉄となれば余計関節部分に入り込みやすい。ただ入り込んだだけならば可動に問題はないが『砂鉄』となると話は変わってくる。元々関節部分は強度が低く故障しやすい故、多くの傀儡師は強度を上げる為に鉄を使用している。青子の体も例外なく鉄仕様である。そんな金属製の体に磁力の帯びた砂鉄が張りつけば、身動きが一切取れなくなるのは容易に想像出来る。青子にとって三代目は相性最悪の敵と言えよう。
「貴様は磁遁を直接目にした事はあるか?」
「いいえ。ただ、砂漠全てが武器になるとは聞いた事があります」
「広範囲攻撃か、厄介だな」
「……角都さん、私は訳あって風影に近寄ると命に関わるので近寄れません」
青子の発言を聞くやいなや角都の眉頭に皺が走る。その表情は使えないとはっきり書いてあり、今回に関してはまともな戦力になり得ないと自覚していた青子の心に申し訳なさが募る。戦力外なので知力くらいは提供出来ないと、と焦って頭を回転させる青子とは裏腹に角都の脳裏は至って冷静であった。
元々中距離と近距離型の二人が、隙をまず簡単に見せない風影に近づくのは無理に等しい。ならば近づかないで殺す方へ考えをシフトし、その方法は目の前の女の得意分野で問題なく、詳しくは本人にじっくり考えさせればいい。そう結論付けると、未だ唸る青子へ問いかけた。
「火遁の影響を受けない毒は作れるか?」
「燃えない毒ですか?」
「いや、熱源の近くでも性質が変化しないものだ」
「可能です」
ならばと話しを進める角都の言葉に耳を傾ける。角都の作戦は、普通に攻めたところで勝算は低いので毒を用いて殺害するというものであった。毒物は砂漠の砂に染み込ませてしまえば、砂鉄が舞い上がる度に肺へ取り込まれる。一度体内へ取り込まれ、効果が表れれば此方の仕事は完了となる。効果が出るまでの間、角都と青子はひたすら三代目の攻撃を避け続ける羽目になるが、真っ向勝負に挑むよりはずっとずっとマシであろう。
「可能には可能なんですが……」
「言いたい事があるならはっきり言え」
「いえ、この毒の中毒量はおよそ20~40mgなので、効果が表れるまでに時間がかかります。なので、角都さんも戦闘中に吸引する可能性が大いにあります」
「予防薬はないのか?」
「残念ながら……」
「予防薬がないなら解毒薬はあるんだろうな?」と再度質問をぶつけられて青子は角都から視線を外しぎゅっと口を結んだ。何故ならこの毒の解毒薬の名称を伝えたくないからだ。医療現場が近くにあれば胃洗浄の選択も取れるが、場所は砂漠で街からだいぶ離れたところ。なので、胃洗浄をするのはほぼほぼ不可能である。ならばもう一つの方法、『下剤』の投与を選ぶしかないのだが、果たして角都が何と言うのか……短気な性格であるのは日々過ごしてきた中でイヤという程理解した。出来るならば怒りを避けたいのが青子の正直な気持ちだった。
「その……下剤です」
「……………本当にそれしか方法がないのか」
「残念ながら」
それしかないのだと伝えると角都は目を瞑り大きく息を吐き出した。しばし沈黙が続くと致し方ないとの返答をもらい作戦会議を終えると、三代目風影を万全の状態で迎えるべく角都は見張りを、青子は毒薬の調剤を始めた。
そうして迎えた三代目風影抹殺の任務遂行――。青子は対峙する角都にも特製の毒を渡し、砂が舞い上がっているタイミングでばら撒くように頼み込んだ。渡された毒を袖口にしまったところで、青子が念の為ですが、と話し始める。
「角都さんは口布を当てているので吸引しにくいですが、砂が舞い上がってる時は出来るだけ呼吸に気をつけて下さい」
「言われるまでもない」
そして二人は夜な夜な駐屯地を襲撃し続け、念願の三代目と対峙を果たす。それぞれ気を引き締め、作戦決行の合図を促すと三代目に向かって火遁を、青子は苦無を付けたチャクラ糸を放った。二人の攻撃に対して三代目は瞬きもせずに磁遁を繰り出し応戦を始めたところで、青子と角都は袖口からそっと毒薬を撒き始める。砂と砂鉄に紛れるように、尚且つ普通に戦っているように、決して此方の意図がバレないように細心の注意を払いながら……それから数分後、ようやっとあの無表情を貫いていた三代目が地に脚をつけた。口許を抑える手は震え、優雅に操っていた砂鉄は意志を無くし砂に紛れ、喉から漏れる呼吸音は正常なものとはかけ離れている。
「これが中毒症状か」
「まだ初期段階ですけどね。見たところ頭痛・吐き気・眩暈辺りの症状が出てます。最終的に昏睡状態に陥ります」
「昏睡状態になるまで後どれくらいかかる?」
「もうしばらくかかります」
「なら……」
金にならない殺しは気が乗らない、そう呟くと意識が乱れ動きを失った三代目へその腕を伸ばし、勢いよく心臓を貫いた。
「(これが磁遁……!!)」
目の前で自由自在に姿を変えつつ、容赦なく猛威を奮う砂鉄を遠目から眺めながら青子は角都の合図はまだかと焦っていた。角都の火遁が襲う砂鉄を焼いても、それは微々たるものでしかなかった。辺り一面に広がる砂漠……その一粒ひと粒が三代目の武器である。底を知らない無限に立ち向かう二人の姿は三代目からすれば酷く滑稽か、無知で無謀な愚か者に映っている事だろう。事実、三代目の表情は焦りなどなく、まだまだ余裕があるようだ。さすが最強の名を手にする忍である、そう簡単にやられてはくれない。
「(角都さん、そろそろ時間ですよ)」
砂上から鉄柱が無数に上がる中、顎をしゃくり角都を見れば小さく頷き返され、自分の意図が通じた事へ息を吐く。もう少し、もう少しすれば勝利が確定する。それまでの間、息付く暇も与えず降り注ぐ砂鉄の檻を角都は掻い潜り続けなければならない。いくら猛者の角都であっても、術でいなしてはいるが全ての対応は難しいようでかすり傷をいくつも作り上げていた。
「何か企んでいるようだが……これで終わりだっ!!」
拮抗していた戦いへ終止符を打たんと、三代目が右手をぎゅっと握りしめれば、砂鉄は再び姿を変えて角都の体を貫かんとする。とはいえ、傀儡の身である青子が近づいたところで助けになるどころか、逆に足を引っ張る未来しかない。遠くから角都の無事を祈るしかない青子は、小さく角都の名を呼ぶ。三代目の渾身の攻撃は規模が大きく、砂鉄が砂塵を巻いあげ視界は不明瞭で角都の姿は未だに確認出来ない。
「次は青子、貴様だ……っ」
一人始末したと三代目の冷静な声が響く中で、散った砂粒がスっと落ちていく。目を凝らして見れば、砂塵の中で両膝を着き肩を揺らす角都と三代目がいた。角都は体中に大小のかすり傷を作ってはいるが、無事であるように見える。一方の三代目は角都同様に肩を揺らしているが、その動きは角都以上に大きく、先程止めの一撃を放った右手は口許に当てられていた。
「この勝負、あったな」
「一体、何が……っ?!」
* * *
リーダーから風影抹殺の命を受けた角都青子の両名は、砂の国へ足を運びながら抹殺方法をそれぞれ考えていた。角都も青子も三代目風影の磁遁を如何に攻略するか、砂漠で戦うとなれば地の利は三代目にある、戦いが長引けば長引く程抹殺は困難になる。広範囲攻撃を得意とする三代目に対し、中距離の角都と近距離の青子が普通に戦ったところで勝ち筋があるようには到底思えない。しかも、人傀儡である青子にとって砂鉄は厄介者でしかなかった。
傀儡にとって関節は機能を果たす上で最も重要なパーツである。小石やゴミですら挟まるというに、更に粒の細かい砂鉄となれば余計関節部分に入り込みやすい。ただ入り込んだだけならば可動に問題はないが『砂鉄』となると話は変わってくる。元々関節部分は強度が低く故障しやすい故、多くの傀儡師は強度を上げる為に鉄を使用している。青子の体も例外なく鉄仕様である。そんな金属製の体に磁力の帯びた砂鉄が張りつけば、身動きが一切取れなくなるのは容易に想像出来る。青子にとって三代目は相性最悪の敵と言えよう。
「貴様は磁遁を直接目にした事はあるか?」
「いいえ。ただ、砂漠全てが武器になるとは聞いた事があります」
「広範囲攻撃か、厄介だな」
「……角都さん、私は訳あって風影に近寄ると命に関わるので近寄れません」
青子の発言を聞くやいなや角都の眉頭に皺が走る。その表情は使えないとはっきり書いてあり、今回に関してはまともな戦力になり得ないと自覚していた青子の心に申し訳なさが募る。戦力外なので知力くらいは提供出来ないと、と焦って頭を回転させる青子とは裏腹に角都の脳裏は至って冷静であった。
元々中距離と近距離型の二人が、隙をまず簡単に見せない風影に近づくのは無理に等しい。ならば近づかないで殺す方へ考えをシフトし、その方法は目の前の女の得意分野で問題なく、詳しくは本人にじっくり考えさせればいい。そう結論付けると、未だ唸る青子へ問いかけた。
「火遁の影響を受けない毒は作れるか?」
「燃えない毒ですか?」
「いや、熱源の近くでも性質が変化しないものだ」
「可能です」
ならばと話しを進める角都の言葉に耳を傾ける。角都の作戦は、普通に攻めたところで勝算は低いので毒を用いて殺害するというものであった。毒物は砂漠の砂に染み込ませてしまえば、砂鉄が舞い上がる度に肺へ取り込まれる。一度体内へ取り込まれ、効果が表れれば此方の仕事は完了となる。効果が出るまでの間、角都と青子はひたすら三代目の攻撃を避け続ける羽目になるが、真っ向勝負に挑むよりはずっとずっとマシであろう。
「可能には可能なんですが……」
「言いたい事があるならはっきり言え」
「いえ、この毒の中毒量はおよそ20~40mgなので、効果が表れるまでに時間がかかります。なので、角都さんも戦闘中に吸引する可能性が大いにあります」
「予防薬はないのか?」
「残念ながら……」
「予防薬がないなら解毒薬はあるんだろうな?」と再度質問をぶつけられて青子は角都から視線を外しぎゅっと口を結んだ。何故ならこの毒の解毒薬の名称を伝えたくないからだ。医療現場が近くにあれば胃洗浄の選択も取れるが、場所は砂漠で街からだいぶ離れたところ。なので、胃洗浄をするのはほぼほぼ不可能である。ならばもう一つの方法、『下剤』の投与を選ぶしかないのだが、果たして角都が何と言うのか……短気な性格であるのは日々過ごしてきた中でイヤという程理解した。出来るならば怒りを避けたいのが青子の正直な気持ちだった。
「その……下剤です」
「……………本当にそれしか方法がないのか」
「残念ながら」
それしかないのだと伝えると角都は目を瞑り大きく息を吐き出した。しばし沈黙が続くと致し方ないとの返答をもらい作戦会議を終えると、三代目風影を万全の状態で迎えるべく角都は見張りを、青子は毒薬の調剤を始めた。
そうして迎えた三代目風影抹殺の任務遂行――。青子は対峙する角都にも特製の毒を渡し、砂が舞い上がっているタイミングでばら撒くように頼み込んだ。渡された毒を袖口にしまったところで、青子が念の為ですが、と話し始める。
「角都さんは口布を当てているので吸引しにくいですが、砂が舞い上がってる時は出来るだけ呼吸に気をつけて下さい」
「言われるまでもない」
そして二人は夜な夜な駐屯地を襲撃し続け、念願の三代目と対峙を果たす。それぞれ気を引き締め、作戦決行の合図を促すと三代目に向かって火遁を、青子は苦無を付けたチャクラ糸を放った。二人の攻撃に対して三代目は瞬きもせずに磁遁を繰り出し応戦を始めたところで、青子と角都は袖口からそっと毒薬を撒き始める。砂と砂鉄に紛れるように、尚且つ普通に戦っているように、決して此方の意図がバレないように細心の注意を払いながら……それから数分後、ようやっとあの無表情を貫いていた三代目が地に脚をつけた。口許を抑える手は震え、優雅に操っていた砂鉄は意志を無くし砂に紛れ、喉から漏れる呼吸音は正常なものとはかけ離れている。
「これが中毒症状か」
「まだ初期段階ですけどね。見たところ頭痛・吐き気・眩暈辺りの症状が出てます。最終的に昏睡状態に陥ります」
「昏睡状態になるまで後どれくらいかかる?」
「もうしばらくかかります」
「なら……」
金にならない殺しは気が乗らない、そう呟くと意識が乱れ動きを失った三代目へその腕を伸ばし、勢いよく心臓を貫いた。