短編集
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サソリから青子へ料理を特別に振る舞ってやると言われた。珍しい事もあるようだ。急にどうしたんだと驚きを隠さずに告げれば、良い肉が手に入ったんだと楽しげに笑う。サソリはこう見えて舌にうるさい。以前、私が自分で作った焼き菓子をプレゼントした時にまぁまぁだなと上から目線な反応をもらった。怒りに震えたが、自分でも特別美味しいとは言いきれないと思っていた。でも、女心としてはお世辞にでも美味いと言って欲しかったのだ。そんな美食家のサソリと幾度か一緒に食事を取った事がある。いつも彼の行きつけに連れられ、おすすめ料理を口にすれば頬が落ちてしまうくらいに美味しかった。
そんなサソリの舌を満足させる程の肉。絶対に美味しいに違いない。彼に料理は出来るのかと不安を隠さずにいれば、普段から作っているから心配するな、チヨバア様だって美味いと言って食っているんだと返してくる。自信を持って口にした彼にごちそうになりますとふにゃりとした笑顔で返事をした。
任務を終えたその日サソリから今晩、家に来てくれと言われ手ぶらで訪問するのは悪いので、家にあった葡萄酒を持って彼の家の玄関の戸を叩いた。
「サソリ、ごちそうになりに来たよ」
玄関先で彼の名前を呼び、待つ事少々。目の前の扉がゆっくりと開かれれば出迎えたサソリが丁度良いところに来たなと口にした。彼に入れと促され、扉をくぐり食卓へと案内される道中、手土産の葡萄酒を手渡す。チヨバア様にでも、料理にでも使ってくれと告げれば悪いなと言って受け取ってくれた。
案内された先のテーブルの上には白い湯気が立つ料理が並んでいた。香ばしい匂いが鼻をくすぐり、刺激されたお腹がぐーと気弱な音を立てる。鳴り響いた腹の音に恥ずかしくなり俯けば、腹を空かして待っているなんて可愛いところもあるんだなと笑われた。青子の腹がかわいそうだ、それに折角の料理も冷めちまったら美味くねぇ、そう言ったサソリが一脚を引くとどうぞとまるで執事のように振る舞う。彼の演技に乗って一国の姫君になりきりゆったりとした歩みで質素な椅子へと腰かけた。
目の前に置かれた白いお皿の上でここぞと主張するハンバーグ。頂きますと手を合わせ、両端に置かれたナイフとフォークで厚みのある肉へと切れ目を入れれば、ほかほかの湯気と隙間から垂れる肉汁が皿いっぱいに広がる。ふんわりと鼻を掠める肉の匂いに唾液がじわじわと溢れてくる。ひと口サイズに切り分け、その一つをフォークで突き刺し、我慢出来ないと真っ直ぐ口へ運んだ。アツアツの肉を舌で転がしながら、一噛みひと噛み、味を堪能する。一度噛めばジワリと舌に広がる旨味と鼻を抜けていくナツメグの香り。さすがサソリが太鼓判を押すだけの事はある。味わい尽くすように噛み砕き、飲み込めば目の前で様子をうかがっていたサソリがどうだと自信ありげに聞いてきた。
「すごく美味しい」
「良い肉だろ?」
「うん」
彼へ返答した後、またハンバーグを口へ収める。あまりの美味しさに口数はなくなり黙々と食事を進め、ペロリとハンバーグを食べ終えた。渇きを満たす為、キンキンに冷えた水で喉を潤しながらサソリを見れば、未だ料理に手をつけていない。コップから口を離し、食べないのかと問いかければ味見で腹が膨れたと返してくる。元々、彼は小食の部類だ。拳より小さい握り飯を一つ食べれば腹がいっぱいだと言っていたのを思い出す。
「お前の為に作ったんだ、これも食え」
「でも……」
「オレの事は気にしなくていい、お前に食って欲しいんだ」
青子の前にハンバーグの乗った皿を差し出して、サソリが笑う。彼の顔と皿を交互に見ながら、じゃあもらうねと受け取り、二つ目のハンバーグへナイフを入れた。
食事後、本当に美味しかったと感想を伝えればそりゃ良かったと頬杖をついたサソリが言う。彼に入れてもらったお茶を啜り、何処で手に入れたんだと入手元を聞けば、目を丸くしてそれを聞いてどうすると驚きを見せる。私も欲しいと素直に気持ちを伝えると、お前は料理が得意ではないだろうと眉をしかめるサソリ。彼の言う通りだが、すっかりこの肉の味に魅せられた私はまた食べたいと切実に思ったのだ。
「明日も来い、食わしてやる」
「いいの?!」
「あぁ」
約束だと歓喜すれば、肉ひとつで騒ぐなと苦言を唱えられる。苦い顔をするサソリには悪いが、私はまたこの美味い肉が食べられる事がとても嬉しく、楽しみであるのだ。早く明日にならないかと期待する私にサソリは呆れのような喜びを見せた。
翌日、彼の家に訪れればその日の夕食はメンチカツだった。衣の中に閉じ込められた肉汁、一口噛めば口いっぱいに広がる至福。美味しいと幸せを噛みしめる青子にサソリが美味そうに食うなと思った事を吐き出した。事実、美味しいんだと上機嫌に伝えればそうかと目を閉じ口元に笑みを浮かべる。これはサソリが見せる嬉しい反応だ。彼とはアカデミーからの付き合いとなるが、あまり表情を出す事をしない。だが、こうやってふとした時に感情を露わにする。昔は見落とす事が多かったが、今は決して見逃す事はない。サソリの反応を見ながら食べきったメンチカツも言葉を失うくらいに美味しかった。
まだまだ肉はあるからと言って毎晩共にする食事。ロールキャベツ、ミートローフ、オムレツと数々の料理を披露するサソリと残さず食べる青子。彼女があまりにも美味しそうにきれいに食べるものだから、サソリもフライパンを振るのが嬉しくなっていた。
夕食だけでは飽き足らず、ついに青子の弁当まで作り始めた。中にはもちろんサソリがオススメするあの肉が使われた餃子や春巻き、そぼろご飯だ。今日のご飯も美味しそうだとニコニコしながら焼売を口に入れると今までと少し違う味がした。今まではとてもジューシーで舌がとろけてしまうような味わいだったというのに、今日の焼売は少々血生臭い気がする。それに味も濃いような気もしなくない。たまたま血合いの部分を取り忘れてしまったのかと思い、深く気にする事なくごくりと飲み込んだ。
料理を振る舞ってもらうようになって二週間、サソリから今日の夕飯で最後なんだと悲しそうに告げられた。今日でもうあの美味しい肉が食べられない……。次はいつになったら手に入るんだと聞いても分からないと返される。元々珍しい肉だったのだろう、残念だと胸中を告げた。悲愴を隠さない青子に向かって、今日はとっておきのシチューを作る、お前のくれた葡萄酒を使ってなと真剣な面持ちで話した後、楽しみにしていろといつもの不敵な笑みを浮かべた彼。今日は一段と期待が出来ると思えば勝手に唾液が溢れ出た。
サソリに二十時になったら来てくれと言われ、時間通りに訪れた。ここのところ毎日見てきた扉へ声をかけながらコンコンと叩き大人しくしていると、よく来たなと言って快く出迎えてくれた。彼に背中を押されながら早くと急かされ食卓の椅子に座らされる。急く彼に私は逃げないと笑えば、渾身の出来だから早く食べて欲しいんだとまるで新しい玩具を与えられた子供のように告げる。サソリがそこまで押すシチュー……。デミグラスの香りが包む食卓で銀のスプーンを手に取り、その琥珀を掬った。まずは香りを楽しみ、目で楽しみ、そして最後口へと運べば芳醇で上品な味が染み渡っていく。葡萄酒と相まったシチューは今まで食べてきた料理の中で一番美味しい。すかさず二口目を口に含めば、やはり幸福が広がった。
「今日のシチューが一番美味しいよ!」
食欲をそそる魅惑のシチューに取り憑かれた青子はひと口、またひと口、せっせと運ぶ。深皿が半分になった頃、あの肉を食べたくなった。甘くとろける肉に絡むデミグラス。口に含んだら絶対に美味いと声を上げるだろう。あの肉を食べようとスプーンに乗せた瞬間、青子は声にならない悲鳴を上げた。そして喉を押さえゲーゲーと飲み込んだばかりのシチューを吐き出そうとする。急変した彼女に、目を三日月にしたサソリがどうしたと口に笑みを浮かべて問いかけた。
「何を、入れたの……」
「何って、そりゃ肉だな」
「“何”の肉を入れたのか聞いてるのよっ!」
ゴホゴホと咳き込み涙を浮かべた彼女が叫び声を上げれば、サソリは腹を抱えて笑い出す。そして、美味けりゃ何の肉だって構わねぇだろ? 今まで散々美味い美味いと言って食べ尽くしてきたじゃないかと愉快そうに紡ぐ。ただの肉なら何も問わない。けれど、それは明らかに普通じゃないと震える声で言い返し、机の上に転がるシチュー色に染まったソレへ指を向けた。
「そんなのが入ってるなんて、普通じゃないわよ!」
「あぁ、コレか」
琥珀に染まったソレを右手で摘まみ上げ、口に指を入れ吐き出す真似を続ける青子の前に立ち、涙と鼻水を垂らす彼女にそこまで毛嫌いするなんて失礼だなと冷たく笑う。ぐしゃぐしゃな顔を隠さない彼女に向かってチャクラ糸を飛ばし、動きを止めさせる。自分の意志とは裏腹に動く体。カタカタと体を震わせる青子の口に向かってソレを容赦なく突っ込み、口を開かないように頭の天辺と顎に手を添え無理やり咀嚼させた。
「よーく味わえよ、なんたってこれが最後だ」
「……っ!!」
ぷちゅんと潰れれば口いっぱいに広がる苦さ、そしてドロリとした不快感。せりあがる吐き気を耐えながらボロボロと涙を流す彼女に向かって嬉しそうに笑みを溢す。泣くほど美味いのかとせせら笑うサソリが悪魔にしか見えない。
「どうだ、オレの目玉は? 死にたくなるくらい美味いだろ?」
耳元で囁いた彼の言葉に息が止まる。驚愕を浮かべる青子に、オレは人を止めたんだと衝撃の事実を告げた。生身の体はもう要らなくなったからな、長い付き合いのお前に礼をしたかった。お前の事は友人として好きだ、だからオレを食って欲しかったと続けて言う。
「オレを味わう青子を見るたびに背徳感を覚えた」
あんな感覚を二度と味わえないのはもったいないが、お前に食ってもらえた事の方が嬉しいからな。背を震わせて恍惚を浮かべるサソリにイカれていると告げたくとも開く事が出来ない。吐き出す事も出来ず、拒んで収縮を続ける喉。無言で抵抗を続ける青子に舌打ちを落とし、片手を口に、もう片方で鼻を摘まむ。それと相変わらず自由を奪っているチャクラ糸。サソリによって無理やり飲み込まざるを得ない状況を作らされるとより一層涙を零し、喉を鳴らして飲み込んだ。唾液と混ざった目玉が気持ち悪いほど喉に絡みつく。いつまでも残る苦味に咆哮を上げて喉を掻き毟る青子。そんな彼女の頭に手を伸ばし、ゆっくりと撫でながら全部食べきってえらいなと幼子を褒める母親のように優しい声を発したサソリの表情はこの上ない喜びを浮かべていた。
そんなサソリの舌を満足させる程の肉。絶対に美味しいに違いない。彼に料理は出来るのかと不安を隠さずにいれば、普段から作っているから心配するな、チヨバア様だって美味いと言って食っているんだと返してくる。自信を持って口にした彼にごちそうになりますとふにゃりとした笑顔で返事をした。
任務を終えたその日サソリから今晩、家に来てくれと言われ手ぶらで訪問するのは悪いので、家にあった葡萄酒を持って彼の家の玄関の戸を叩いた。
「サソリ、ごちそうになりに来たよ」
玄関先で彼の名前を呼び、待つ事少々。目の前の扉がゆっくりと開かれれば出迎えたサソリが丁度良いところに来たなと口にした。彼に入れと促され、扉をくぐり食卓へと案内される道中、手土産の葡萄酒を手渡す。チヨバア様にでも、料理にでも使ってくれと告げれば悪いなと言って受け取ってくれた。
案内された先のテーブルの上には白い湯気が立つ料理が並んでいた。香ばしい匂いが鼻をくすぐり、刺激されたお腹がぐーと気弱な音を立てる。鳴り響いた腹の音に恥ずかしくなり俯けば、腹を空かして待っているなんて可愛いところもあるんだなと笑われた。青子の腹がかわいそうだ、それに折角の料理も冷めちまったら美味くねぇ、そう言ったサソリが一脚を引くとどうぞとまるで執事のように振る舞う。彼の演技に乗って一国の姫君になりきりゆったりとした歩みで質素な椅子へと腰かけた。
目の前に置かれた白いお皿の上でここぞと主張するハンバーグ。頂きますと手を合わせ、両端に置かれたナイフとフォークで厚みのある肉へと切れ目を入れれば、ほかほかの湯気と隙間から垂れる肉汁が皿いっぱいに広がる。ふんわりと鼻を掠める肉の匂いに唾液がじわじわと溢れてくる。ひと口サイズに切り分け、その一つをフォークで突き刺し、我慢出来ないと真っ直ぐ口へ運んだ。アツアツの肉を舌で転がしながら、一噛みひと噛み、味を堪能する。一度噛めばジワリと舌に広がる旨味と鼻を抜けていくナツメグの香り。さすがサソリが太鼓判を押すだけの事はある。味わい尽くすように噛み砕き、飲み込めば目の前で様子をうかがっていたサソリがどうだと自信ありげに聞いてきた。
「すごく美味しい」
「良い肉だろ?」
「うん」
彼へ返答した後、またハンバーグを口へ収める。あまりの美味しさに口数はなくなり黙々と食事を進め、ペロリとハンバーグを食べ終えた。渇きを満たす為、キンキンに冷えた水で喉を潤しながらサソリを見れば、未だ料理に手をつけていない。コップから口を離し、食べないのかと問いかければ味見で腹が膨れたと返してくる。元々、彼は小食の部類だ。拳より小さい握り飯を一つ食べれば腹がいっぱいだと言っていたのを思い出す。
「お前の為に作ったんだ、これも食え」
「でも……」
「オレの事は気にしなくていい、お前に食って欲しいんだ」
青子の前にハンバーグの乗った皿を差し出して、サソリが笑う。彼の顔と皿を交互に見ながら、じゃあもらうねと受け取り、二つ目のハンバーグへナイフを入れた。
食事後、本当に美味しかったと感想を伝えればそりゃ良かったと頬杖をついたサソリが言う。彼に入れてもらったお茶を啜り、何処で手に入れたんだと入手元を聞けば、目を丸くしてそれを聞いてどうすると驚きを見せる。私も欲しいと素直に気持ちを伝えると、お前は料理が得意ではないだろうと眉をしかめるサソリ。彼の言う通りだが、すっかりこの肉の味に魅せられた私はまた食べたいと切実に思ったのだ。
「明日も来い、食わしてやる」
「いいの?!」
「あぁ」
約束だと歓喜すれば、肉ひとつで騒ぐなと苦言を唱えられる。苦い顔をするサソリには悪いが、私はまたこの美味い肉が食べられる事がとても嬉しく、楽しみであるのだ。早く明日にならないかと期待する私にサソリは呆れのような喜びを見せた。
翌日、彼の家に訪れればその日の夕食はメンチカツだった。衣の中に閉じ込められた肉汁、一口噛めば口いっぱいに広がる至福。美味しいと幸せを噛みしめる青子にサソリが美味そうに食うなと思った事を吐き出した。事実、美味しいんだと上機嫌に伝えればそうかと目を閉じ口元に笑みを浮かべる。これはサソリが見せる嬉しい反応だ。彼とはアカデミーからの付き合いとなるが、あまり表情を出す事をしない。だが、こうやってふとした時に感情を露わにする。昔は見落とす事が多かったが、今は決して見逃す事はない。サソリの反応を見ながら食べきったメンチカツも言葉を失うくらいに美味しかった。
まだまだ肉はあるからと言って毎晩共にする食事。ロールキャベツ、ミートローフ、オムレツと数々の料理を披露するサソリと残さず食べる青子。彼女があまりにも美味しそうにきれいに食べるものだから、サソリもフライパンを振るのが嬉しくなっていた。
夕食だけでは飽き足らず、ついに青子の弁当まで作り始めた。中にはもちろんサソリがオススメするあの肉が使われた餃子や春巻き、そぼろご飯だ。今日のご飯も美味しそうだとニコニコしながら焼売を口に入れると今までと少し違う味がした。今まではとてもジューシーで舌がとろけてしまうような味わいだったというのに、今日の焼売は少々血生臭い気がする。それに味も濃いような気もしなくない。たまたま血合いの部分を取り忘れてしまったのかと思い、深く気にする事なくごくりと飲み込んだ。
料理を振る舞ってもらうようになって二週間、サソリから今日の夕飯で最後なんだと悲しそうに告げられた。今日でもうあの美味しい肉が食べられない……。次はいつになったら手に入るんだと聞いても分からないと返される。元々珍しい肉だったのだろう、残念だと胸中を告げた。悲愴を隠さない青子に向かって、今日はとっておきのシチューを作る、お前のくれた葡萄酒を使ってなと真剣な面持ちで話した後、楽しみにしていろといつもの不敵な笑みを浮かべた彼。今日は一段と期待が出来ると思えば勝手に唾液が溢れ出た。
サソリに二十時になったら来てくれと言われ、時間通りに訪れた。ここのところ毎日見てきた扉へ声をかけながらコンコンと叩き大人しくしていると、よく来たなと言って快く出迎えてくれた。彼に背中を押されながら早くと急かされ食卓の椅子に座らされる。急く彼に私は逃げないと笑えば、渾身の出来だから早く食べて欲しいんだとまるで新しい玩具を与えられた子供のように告げる。サソリがそこまで押すシチュー……。デミグラスの香りが包む食卓で銀のスプーンを手に取り、その琥珀を掬った。まずは香りを楽しみ、目で楽しみ、そして最後口へと運べば芳醇で上品な味が染み渡っていく。葡萄酒と相まったシチューは今まで食べてきた料理の中で一番美味しい。すかさず二口目を口に含めば、やはり幸福が広がった。
「今日のシチューが一番美味しいよ!」
食欲をそそる魅惑のシチューに取り憑かれた青子はひと口、またひと口、せっせと運ぶ。深皿が半分になった頃、あの肉を食べたくなった。甘くとろける肉に絡むデミグラス。口に含んだら絶対に美味いと声を上げるだろう。あの肉を食べようとスプーンに乗せた瞬間、青子は声にならない悲鳴を上げた。そして喉を押さえゲーゲーと飲み込んだばかりのシチューを吐き出そうとする。急変した彼女に、目を三日月にしたサソリがどうしたと口に笑みを浮かべて問いかけた。
「何を、入れたの……」
「何って、そりゃ肉だな」
「“何”の肉を入れたのか聞いてるのよっ!」
ゴホゴホと咳き込み涙を浮かべた彼女が叫び声を上げれば、サソリは腹を抱えて笑い出す。そして、美味けりゃ何の肉だって構わねぇだろ? 今まで散々美味い美味いと言って食べ尽くしてきたじゃないかと愉快そうに紡ぐ。ただの肉なら何も問わない。けれど、それは明らかに普通じゃないと震える声で言い返し、机の上に転がるシチュー色に染まったソレへ指を向けた。
「そんなのが入ってるなんて、普通じゃないわよ!」
「あぁ、コレか」
琥珀に染まったソレを右手で摘まみ上げ、口に指を入れ吐き出す真似を続ける青子の前に立ち、涙と鼻水を垂らす彼女にそこまで毛嫌いするなんて失礼だなと冷たく笑う。ぐしゃぐしゃな顔を隠さない彼女に向かってチャクラ糸を飛ばし、動きを止めさせる。自分の意志とは裏腹に動く体。カタカタと体を震わせる青子の口に向かってソレを容赦なく突っ込み、口を開かないように頭の天辺と顎に手を添え無理やり咀嚼させた。
「よーく味わえよ、なんたってこれが最後だ」
「……っ!!」
ぷちゅんと潰れれば口いっぱいに広がる苦さ、そしてドロリとした不快感。せりあがる吐き気を耐えながらボロボロと涙を流す彼女に向かって嬉しそうに笑みを溢す。泣くほど美味いのかとせせら笑うサソリが悪魔にしか見えない。
「どうだ、オレの目玉は? 死にたくなるくらい美味いだろ?」
耳元で囁いた彼の言葉に息が止まる。驚愕を浮かべる青子に、オレは人を止めたんだと衝撃の事実を告げた。生身の体はもう要らなくなったからな、長い付き合いのお前に礼をしたかった。お前の事は友人として好きだ、だからオレを食って欲しかったと続けて言う。
「オレを味わう青子を見るたびに背徳感を覚えた」
あんな感覚を二度と味わえないのはもったいないが、お前に食ってもらえた事の方が嬉しいからな。背を震わせて恍惚を浮かべるサソリにイカれていると告げたくとも開く事が出来ない。吐き出す事も出来ず、拒んで収縮を続ける喉。無言で抵抗を続ける青子に舌打ちを落とし、片手を口に、もう片方で鼻を摘まむ。それと相変わらず自由を奪っているチャクラ糸。サソリによって無理やり飲み込まざるを得ない状況を作らされるとより一層涙を零し、喉を鳴らして飲み込んだ。唾液と混ざった目玉が気持ち悪いほど喉に絡みつく。いつまでも残る苦味に咆哮を上げて喉を掻き毟る青子。そんな彼女の頭に手を伸ばし、ゆっくりと撫でながら全部食べきってえらいなと幼子を褒める母親のように優しい声を発したサソリの表情はこの上ない喜びを浮かべていた。