【7章】毒蜘蛛
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東の空が薄らと金の光を放つのを横目で見た後、ゆっくりと断ち切るよう背を向ける。子供の頃から馴染み親しんでいる白い砂をぎゅっと踏みしめ、これが最初で最後だと言い聞かせながら。
「…………」
「何をしている、早く此処から離れるぞ」
「すみません、今行きます」
* * *
リーダーから三代目風影の抹殺を命令された私達は、準備を進めて砂隠れの里へ向け出発した。足取りは順調であり、その道すがらどう風影を誘い込むか話し合う。結局、国境警備隊を襲撃する事に決定し、手当り次第無差別に殺人行為を淡々と繰り返していく。
「国境警備隊というから、少しは骨があるかと思ったがそうでもないな」
「隊の多くは中忍と下忍ですからね、角都さんが心躍るような相手はいませんよ」
「これでよく襲われないものだな」
「常に人員不足なのは砂の課題でもあります。その分、一人一人の実力はそれなりだと思いますが……」
真っ赤に染め上げた死体を蹴り飛ばしながら、角都さんが相手にならないと溜息交じりで不満を零す。数分前まで大人数の怒声と土煙の上がっていた空間は、凪いだ海のように静まり返ってしまい、静かすぎる空気が逆に耳鳴りを起こしていた。左右至るところに転がる熱を失いつつある死体は、角都さんの術によって積まれたものである。今までは他国の人間だからと己に言い聞かせていたから難なく殺せていたが、罪無き元同胞だと良心が痛んで仕方ない。自分勝手なのは重々承知であるが、無事成仏して欲しいと心の中で合掌し、黙祷を捧げる。
「今夜はこれで仕舞いだ。明日は新たな場所を襲撃する」
撤収だと言った彼の後を遅れないように着いて行けば、踏みしめるたびに上がる水音が現場の凄惨さを切々と物語っていた。辺り一面に広がる赤、きっと濃厚な鉄臭さが充満しているのだろう。まだ人間だった頃であれば、むせ返る臭いに吐き気を催して胃の辺りを強く握りしめたに違いない。嗅覚を失った今であるからこそ、顔色を変えられずに此処に居られるのだ。組織としては無情な殺戮人形である自分の方が好ましいが、感情を持つ人間としては完全に失敗作である。選んだ道に一切後悔はないが、段々と失われていく何かに寂しさを覚えながら、未だ後引く現場に背中を向けて闇夜に姿を溶かした。
次々と駐屯地を襲い続けて数日、そろそろ半分近く潰しにかかった筈だが一向に風影は釣れそうにない。そもそも頭が直々に出てくるのか、と不安に思う私の心を読んだであろう角都さんが必ず風影は来ると何かを確信したように返す。
「でももう半分近いですよ?」
「上忍含めてこれだけ荒らしてやったんだ。並大抵の奴では歯が立たんのは奴らとて分かる」
だから敢えて死体をそのままにしてきてやったんだ、と鼻を鳴らして言い切った彼の言い分にそういうものなのかと煮え切らない程度に納得する。確かに、この数日の角都さんの殺戮はいつも以上に荒々しいものだった。血も肉も部屋中に撒き散らして、積み上げた死体を躊躇いなく踏みつけていた。自分の強さを誇示していたんだと今なら分かる、よくよく思えばあえて苦しむような殺し方をしているようだった。
「……来たな」
口布に象られた唇が半月を描く。角都さんの口元から新緑の目と同じ方角へと首を向ければ、暗闇からゆらりと白い影が立ち上った。
「随分と派手に殺ってくれたな」
「貴様と殺り合う為にだ。同胞達を殺された気分はどうだ?」
「存外弱かった」と呟いた角都さんの目の前には、口を結んだ三代目風影の姿があった。里にいる時、遠目からしか見た事がなかった最強が今自分の前にいる。その佇まいは、数多くの修羅場を潜り抜け、得体の知れない私達に怯まず堂々としている。彼から発せられるチャクラが私たちを敵だと認識し、無数の針のように威圧を与える。暁に入ったばかりの頃の私であれば、間違いなく殺されると怯えていただろう。だけど、私もビンゴブックに載るだけの犯罪者へと成長した。威圧に負けて怯えるような弱者ではない、私はどうしても彼を殺さないといけないんだ。
「貴様たちが何を企んでいるかは知らんがこれ以上の好き勝手はさせん」
「それは此方も同じだ」
* * *
此処数日、駐屯地にいる国境警備隊が何者かの襲撃を受けているという報告が上がっていた。襲撃跡地へ向かうよう命令を受けたカゲロウは、まず生存者の発見を最優先すると医療班と部下のサソリ、コムシに激を飛ばした。しかし、辺り一帯に転がる死体は原型を留めておらず、また飛び散った肉片だけでは個人の特定も出来そうにない。生存の可能性は絶望的だと皆の脳裏に過った。
「なんつー殺し方だよ……ここまで殺る必要なんかねぇだろ」
「あぁ、どう見てもこれは見せしめだろうな」
「見せしめ?」
サソリの『見せしめ』の言葉にコムシが首を傾げる。コムシを一視した後、サソリはこれ以上詮索するなって事だろうと告げる。
青子失踪後、サソリとコムシが中心となり『黒地に赤い雲のコート』に関わる者の情報をかき集めていた。勿論、部下から初めに情報を得ていた三代目風影もその者達の情報を密かに収集していた。サソリ達は青子発見の為、風影は訳の分からない連中を放置するのは得策ではないと考えたからだ。後々、里を脅かすような厄災になってからでは遅い。里の長として、危険因子は早々に潰しておきたい。それが元は自分の里の子供であろうとも。里に牙を向けるのであれば、慈悲は無用であると。その事はカゲロウにも伝えられていた、しかし、元は自分の部下なだけに胸中は正直なところ複雑であった。三代目が決めた以上、自分は青子が里の脅威になる場合は何があっても殺さなければならない。だけど、まだ頭の片隅で青子が里に危害を加えるような子ではないと思っているのだ。
「……俺は忍に向いてないかもな」
「何だ突然」
「サソリ、……この襲撃の犯人が青子だったらどうする?」
「……」
「俺は三代目からこの襲撃犯が青子だったら、里を守る為に必ず殺せと言われている。何か理由があるのかもしれない、だがそれでも俺は……」
「……その時はオレが青子を殺してやる。青子の体を作ったのはオレだからな」
「お前がそこまで悩む必要はねぇよ」、そう言って黒くなり始めている固まった血の跡を指でなぞるサソリの表情は、怒りも悲しみもない。ただただ目の前の壁を焼き付けるようにじっと見つめていた。
「…………」
「何をしている、早く此処から離れるぞ」
「すみません、今行きます」
リーダーから三代目風影の抹殺を命令された私達は、準備を進めて砂隠れの里へ向け出発した。足取りは順調であり、その道すがらどう風影を誘い込むか話し合う。結局、国境警備隊を襲撃する事に決定し、手当り次第無差別に殺人行為を淡々と繰り返していく。
「国境警備隊というから、少しは骨があるかと思ったがそうでもないな」
「隊の多くは中忍と下忍ですからね、角都さんが心躍るような相手はいませんよ」
「これでよく襲われないものだな」
「常に人員不足なのは砂の課題でもあります。その分、一人一人の実力はそれなりだと思いますが……」
真っ赤に染め上げた死体を蹴り飛ばしながら、角都さんが相手にならないと溜息交じりで不満を零す。数分前まで大人数の怒声と土煙の上がっていた空間は、凪いだ海のように静まり返ってしまい、静かすぎる空気が逆に耳鳴りを起こしていた。左右至るところに転がる熱を失いつつある死体は、角都さんの術によって積まれたものである。今までは他国の人間だからと己に言い聞かせていたから難なく殺せていたが、罪無き元同胞だと良心が痛んで仕方ない。自分勝手なのは重々承知であるが、無事成仏して欲しいと心の中で合掌し、黙祷を捧げる。
「今夜はこれで仕舞いだ。明日は新たな場所を襲撃する」
撤収だと言った彼の後を遅れないように着いて行けば、踏みしめるたびに上がる水音が現場の凄惨さを切々と物語っていた。辺り一面に広がる赤、きっと濃厚な鉄臭さが充満しているのだろう。まだ人間だった頃であれば、むせ返る臭いに吐き気を催して胃の辺りを強く握りしめたに違いない。嗅覚を失った今であるからこそ、顔色を変えられずに此処に居られるのだ。組織としては無情な殺戮人形である自分の方が好ましいが、感情を持つ人間としては完全に失敗作である。選んだ道に一切後悔はないが、段々と失われていく何かに寂しさを覚えながら、未だ後引く現場に背中を向けて闇夜に姿を溶かした。
次々と駐屯地を襲い続けて数日、そろそろ半分近く潰しにかかった筈だが一向に風影は釣れそうにない。そもそも頭が直々に出てくるのか、と不安に思う私の心を読んだであろう角都さんが必ず風影は来ると何かを確信したように返す。
「でももう半分近いですよ?」
「上忍含めてこれだけ荒らしてやったんだ。並大抵の奴では歯が立たんのは奴らとて分かる」
だから敢えて死体をそのままにしてきてやったんだ、と鼻を鳴らして言い切った彼の言い分にそういうものなのかと煮え切らない程度に納得する。確かに、この数日の角都さんの殺戮はいつも以上に荒々しいものだった。血も肉も部屋中に撒き散らして、積み上げた死体を躊躇いなく踏みつけていた。自分の強さを誇示していたんだと今なら分かる、よくよく思えばあえて苦しむような殺し方をしているようだった。
「……来たな」
口布に象られた唇が半月を描く。角都さんの口元から新緑の目と同じ方角へと首を向ければ、暗闇からゆらりと白い影が立ち上った。
「随分と派手に殺ってくれたな」
「貴様と殺り合う為にだ。同胞達を殺された気分はどうだ?」
「存外弱かった」と呟いた角都さんの目の前には、口を結んだ三代目風影の姿があった。里にいる時、遠目からしか見た事がなかった最強が今自分の前にいる。その佇まいは、数多くの修羅場を潜り抜け、得体の知れない私達に怯まず堂々としている。彼から発せられるチャクラが私たちを敵だと認識し、無数の針のように威圧を与える。暁に入ったばかりの頃の私であれば、間違いなく殺されると怯えていただろう。だけど、私もビンゴブックに載るだけの犯罪者へと成長した。威圧に負けて怯えるような弱者ではない、私はどうしても彼を殺さないといけないんだ。
「貴様たちが何を企んでいるかは知らんがこれ以上の好き勝手はさせん」
「それは此方も同じだ」
此処数日、駐屯地にいる国境警備隊が何者かの襲撃を受けているという報告が上がっていた。襲撃跡地へ向かうよう命令を受けたカゲロウは、まず生存者の発見を最優先すると医療班と部下のサソリ、コムシに激を飛ばした。しかし、辺り一帯に転がる死体は原型を留めておらず、また飛び散った肉片だけでは個人の特定も出来そうにない。生存の可能性は絶望的だと皆の脳裏に過った。
「なんつー殺し方だよ……ここまで殺る必要なんかねぇだろ」
「あぁ、どう見てもこれは見せしめだろうな」
「見せしめ?」
サソリの『見せしめ』の言葉にコムシが首を傾げる。コムシを一視した後、サソリはこれ以上詮索するなって事だろうと告げる。
青子失踪後、サソリとコムシが中心となり『黒地に赤い雲のコート』に関わる者の情報をかき集めていた。勿論、部下から初めに情報を得ていた三代目風影もその者達の情報を密かに収集していた。サソリ達は青子発見の為、風影は訳の分からない連中を放置するのは得策ではないと考えたからだ。後々、里を脅かすような厄災になってからでは遅い。里の長として、危険因子は早々に潰しておきたい。それが元は自分の里の子供であろうとも。里に牙を向けるのであれば、慈悲は無用であると。その事はカゲロウにも伝えられていた、しかし、元は自分の部下なだけに胸中は正直なところ複雑であった。三代目が決めた以上、自分は青子が里の脅威になる場合は何があっても殺さなければならない。だけど、まだ頭の片隅で青子が里に危害を加えるような子ではないと思っているのだ。
「……俺は忍に向いてないかもな」
「何だ突然」
「サソリ、……この襲撃の犯人が青子だったらどうする?」
「……」
「俺は三代目からこの襲撃犯が青子だったら、里を守る為に必ず殺せと言われている。何か理由があるのかもしれない、だがそれでも俺は……」
「……その時はオレが青子を殺してやる。青子の体を作ったのはオレだからな」
「お前がそこまで悩む必要はねぇよ」、そう言って黒くなり始めている固まった血の跡を指でなぞるサソリの表情は、怒りも悲しみもない。ただただ目の前の壁を焼き付けるようにじっと見つめていた。