【7章】毒蜘蛛
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『角都、青子。新たな任務だ』
角都さんと会話を続けていると、先程まで話題に上がっていたリーダーが姿を現した。ゆらゆらと蝋燭の灯火のような、小さく波打つ透けた幻影が真剣な眼差しを此方に向けている。突如、姿を見せたリーダーに角都さんは「どういった内容だ」と低い声で聞き返した。
『我々に探りを入れている者がいる』
「ほぉ、こんな弱小組織に目をつけるとは随分な物好きもいたものだな」
鼻で笑いながら答えた角都さんに対して、リーダーは眉一つ動かす事なく「小物なら捨て置いたのだが……」と言葉尻を窄めてしまった。何やらあまり思わしくなさそうな物言いに角都さんの顔を窺うと、角都さんも角都さんでリーダーの様子に訝しげのようである。私を一見した後、リーダーへ視線を戻した。
「面倒な奴にでも目をつけられたか」
『ああ。それも飛びきり面倒な奴だ』
「……一体どんな失態を冒した?」
角都さんの発言に「随分だな」とため息混じりで答えた後、スっとある物に向かって指差した。リーダーの指先を二人で追えば、角都さんの手に握られたビンゴブック。私達の視線がビンゴブックに向けられたのを見て「それが原因だろう」と淡々と言い放った。
『ビンゴブックに青子が掲載されてからだな』
「貴様! 何をやらかした!」
「なっ?! 私は何もしていませんよ!」
リーダーの返答に怒りを見せた角都さんへ慌てて訂正を加える。暁に加入してから一度として姿を晒すような失敗をしてはいないし、悟られるような事もしていない。そもそも証拠となり得る死体は、換金するから角都さんに手渡しているし、それ以外の殺生は今のところしていない。今にも殺してやると滾らせる角都さんに「近くで見ていて不審な点はなかったでしょう?」と返せば、目を細めて静かに思案し始めた。
『あくまで俺の推測に過ぎないが、おそらく青子の持つ知識を惜しんでいるんだろう』
「惜しんでいるだと?」
『でなければこんな大物が直々に動く筈がない』
リーダーの『大物』発言に首を傾げていると、焦れた角都さんが勿体ぶらずにさっさと言えと苦言を呈した。角都さんの殺気を物ともせずに、リーダーは唇とはっきりと動かした。
『三代目風影だ』
「……っ?!」
「まさか影が動くとはな。しかし、こいつが此処にいるのを嗅ぎつけるとは、風影がやり手かこいつが無能か」
無能と言いながら腕を向けられ、咄嗟に避ければ大きな舌打ちが落とされる。少しは話せるようになったが油断は禁物だと己に言い聞かせ、リーダーの台詞に思考する。
風影が直々に動くなんて予想もしなかった。そもそも何故風影は『暁』に目をつけたのだろう? 何か確信を持ってなのか、たまたま怪しい組織を見つけたからなのか、さっぱり検討がつかない。とはいえ、そのままにして置けば組織にとって癌になるのは火を見るよりも明らか。さて、どうしたものかと腕を組んで悩む私に対し、角都さんは何となく任務内容が察せたのか口元を楽しげに歪めていた。
『角都、青子。三代目風影を抹殺しろ』
***
「貴様の力を試せる日が早々に訪れたな」
「……そうですね」
――自分の力が通用するか試したい。その相手として申し分ない人だ。彼に毒が通ずれば、組織内における私の評価は大幅に上がるだろう。だけど最強と言われる風影に対して、私が何処まで戦えるのか分からない。いくら死なない体とはいえ、磁遁遣いの三代目相手だと分が悪過ぎる。下手に近づけないし、一歩間違えば私の動きは完全に封じられる。そんな事に陥れば角都さんに迷惑をかけるし、場合によっては三代目を仕留め損ねるかもしれない。でも何よりも私が恐れているのは、三代目を果たして本当に殺められるのか。そして、三代目を仕留めた事がサソリくんとコムシくんに伝わった時、絶対彼らは私を完全に敵だと認識し、軽蔑するだろう。好きな人達に嫌われる……こんなにも苦しい選択を選ばなければならない日が来るなんて。心が悲鳴を上げているのを分かりながらも飲み込もうとしていれば、角都さんがどうしたと声を上げた。
「怖気付いたか?」
「……そんな訳ないじゃないですか。嬉しいんですよ」
「影が相手だからな。だが、やはりオレは気乗りせん」
苦し紛れの私と違って角都さんは「金にならん殺しは興味がない」と愚痴を溢している。あの後リーダーから三代目抹殺の任務を受け負い、三代目の賞金額を調べた角都さんの機嫌は急上昇した。今までの雑魚共とは比べ物にならない、と喉をくつくつと鳴らして笑っていたのだ。その様子を見たリーダーはたった一言「死体は捨ておけ」と言い放った。てっきりいつも通り回収するだろうと思っていた私は吃驚し、角都さんは何故だと噛みついている。リーダー曰く、影が詮索しているこの状況はあくまで予想外らしい。特に影が気にするような表立った行動というのはなく、事実他の影達には目をつけられてはいない。
「でも、死体を現場に残したら足をつけられるんじゃ……?」
『けん制だ。此方に影を殺せるだけの実力者がいると分かれば、いくら五大国の一つといえどこれ以上の詮索は戦力を殺がれるだけだと判断する』
時は戦火中だ、大事な戦力を失うのは砂にとっても手痛いからな。それだけ言ってリーダーは終わりだと姿を消してしまった。
その後の角都さんは舌打ちをして不満さを滲ませていたが、どうにも出来ないと分かっているので早々に気持ちを切り替えていた。それから三代目の知りうる情報を伝えれば、腕組みをして唸り声を上げる。『影殺し』、今まで以上に大変な任務になるのは目に見えている。それに失敗は絶対に許されない。
「磁遁、厄介だな」
「そうですね」
「だが、対策がない訳じゃない」
そう言うと角都さんは黙り込んでしまった。最強と言われている三代目が開発した磁遁。それを前に私はどう立ち振る舞えばいいのか、今一度考えを練らないとならない。刻一刻と時間が迫りくる中、来たる作戦に向けて思考と決意を固めるように精神を集中させた。
角都さんと会話を続けていると、先程まで話題に上がっていたリーダーが姿を現した。ゆらゆらと蝋燭の灯火のような、小さく波打つ透けた幻影が真剣な眼差しを此方に向けている。突如、姿を見せたリーダーに角都さんは「どういった内容だ」と低い声で聞き返した。
『我々に探りを入れている者がいる』
「ほぉ、こんな弱小組織に目をつけるとは随分な物好きもいたものだな」
鼻で笑いながら答えた角都さんに対して、リーダーは眉一つ動かす事なく「小物なら捨て置いたのだが……」と言葉尻を窄めてしまった。何やらあまり思わしくなさそうな物言いに角都さんの顔を窺うと、角都さんも角都さんでリーダーの様子に訝しげのようである。私を一見した後、リーダーへ視線を戻した。
「面倒な奴にでも目をつけられたか」
『ああ。それも飛びきり面倒な奴だ』
「……一体どんな失態を冒した?」
角都さんの発言に「随分だな」とため息混じりで答えた後、スっとある物に向かって指差した。リーダーの指先を二人で追えば、角都さんの手に握られたビンゴブック。私達の視線がビンゴブックに向けられたのを見て「それが原因だろう」と淡々と言い放った。
『ビンゴブックに青子が掲載されてからだな』
「貴様! 何をやらかした!」
「なっ?! 私は何もしていませんよ!」
リーダーの返答に怒りを見せた角都さんへ慌てて訂正を加える。暁に加入してから一度として姿を晒すような失敗をしてはいないし、悟られるような事もしていない。そもそも証拠となり得る死体は、換金するから角都さんに手渡しているし、それ以外の殺生は今のところしていない。今にも殺してやると滾らせる角都さんに「近くで見ていて不審な点はなかったでしょう?」と返せば、目を細めて静かに思案し始めた。
『あくまで俺の推測に過ぎないが、おそらく青子の持つ知識を惜しんでいるんだろう』
「惜しんでいるだと?」
『でなければこんな大物が直々に動く筈がない』
リーダーの『大物』発言に首を傾げていると、焦れた角都さんが勿体ぶらずにさっさと言えと苦言を呈した。角都さんの殺気を物ともせずに、リーダーは唇とはっきりと動かした。
『三代目風影だ』
「……っ?!」
「まさか影が動くとはな。しかし、こいつが此処にいるのを嗅ぎつけるとは、風影がやり手かこいつが無能か」
無能と言いながら腕を向けられ、咄嗟に避ければ大きな舌打ちが落とされる。少しは話せるようになったが油断は禁物だと己に言い聞かせ、リーダーの台詞に思考する。
風影が直々に動くなんて予想もしなかった。そもそも何故風影は『暁』に目をつけたのだろう? 何か確信を持ってなのか、たまたま怪しい組織を見つけたからなのか、さっぱり検討がつかない。とはいえ、そのままにして置けば組織にとって癌になるのは火を見るよりも明らか。さて、どうしたものかと腕を組んで悩む私に対し、角都さんは何となく任務内容が察せたのか口元を楽しげに歪めていた。
『角都、青子。三代目風影を抹殺しろ』
「貴様の力を試せる日が早々に訪れたな」
「……そうですね」
――自分の力が通用するか試したい。その相手として申し分ない人だ。彼に毒が通ずれば、組織内における私の評価は大幅に上がるだろう。だけど最強と言われる風影に対して、私が何処まで戦えるのか分からない。いくら死なない体とはいえ、磁遁遣いの三代目相手だと分が悪過ぎる。下手に近づけないし、一歩間違えば私の動きは完全に封じられる。そんな事に陥れば角都さんに迷惑をかけるし、場合によっては三代目を仕留め損ねるかもしれない。でも何よりも私が恐れているのは、三代目を果たして本当に殺められるのか。そして、三代目を仕留めた事がサソリくんとコムシくんに伝わった時、絶対彼らは私を完全に敵だと認識し、軽蔑するだろう。好きな人達に嫌われる……こんなにも苦しい選択を選ばなければならない日が来るなんて。心が悲鳴を上げているのを分かりながらも飲み込もうとしていれば、角都さんがどうしたと声を上げた。
「怖気付いたか?」
「……そんな訳ないじゃないですか。嬉しいんですよ」
「影が相手だからな。だが、やはりオレは気乗りせん」
苦し紛れの私と違って角都さんは「金にならん殺しは興味がない」と愚痴を溢している。あの後リーダーから三代目抹殺の任務を受け負い、三代目の賞金額を調べた角都さんの機嫌は急上昇した。今までの雑魚共とは比べ物にならない、と喉をくつくつと鳴らして笑っていたのだ。その様子を見たリーダーはたった一言「死体は捨ておけ」と言い放った。てっきりいつも通り回収するだろうと思っていた私は吃驚し、角都さんは何故だと噛みついている。リーダー曰く、影が詮索しているこの状況はあくまで予想外らしい。特に影が気にするような表立った行動というのはなく、事実他の影達には目をつけられてはいない。
「でも、死体を現場に残したら足をつけられるんじゃ……?」
『けん制だ。此方に影を殺せるだけの実力者がいると分かれば、いくら五大国の一つといえどこれ以上の詮索は戦力を殺がれるだけだと判断する』
時は戦火中だ、大事な戦力を失うのは砂にとっても手痛いからな。それだけ言ってリーダーは終わりだと姿を消してしまった。
その後の角都さんは舌打ちをして不満さを滲ませていたが、どうにも出来ないと分かっているので早々に気持ちを切り替えていた。それから三代目の知りうる情報を伝えれば、腕組みをして唸り声を上げる。『影殺し』、今まで以上に大変な任務になるのは目に見えている。それに失敗は絶対に許されない。
「磁遁、厄介だな」
「そうですね」
「だが、対策がない訳じゃない」
そう言うと角都さんは黙り込んでしまった。最強と言われている三代目が開発した磁遁。それを前に私はどう立ち振る舞えばいいのか、今一度考えを練らないとならない。刻一刻と時間が迫りくる中、来たる作戦に向けて思考と決意を固めるように精神を集中させた。