飯田天哉
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酒で意識を飛ばしたり、なんやかんやで今日のこと全部忘れることができたらいいのにって思ったけど全然そうならなかった。むしろ今日一日で起きたことが今までの思い出全部塗り潰すようにべったり張り付いて取れそうもない。
俺と天哉は中学の時に出会った。
天哉はあの飯田家のお坊ちゃんで、誰もが遠巻きに見ていた。小さい頃から委員長気質で曲がったことが大嫌いな天哉。中学なんていう多感な少年少女が狭っ苦しい学校に詰め込まれてるとストレスが溜まるらしい。それは目立って、誰もが一度は苛立ちを感じたことがある
天哉に向いた。共通の敵を見つけると集団がまとまるなんてよくある話で、俺は図書委員で一緒だっただけなんだけど、いつもどこか汚れている制服だったり、時々体操着でいたりすることでなんとなく察していた。
天哉は俺に相談することもなく、よく読んだ本の話をしていた。
俺から切り出すのもなんか違うかなあと思って黙っていた。
天哉は天哉らしくないぼろっちいノートに読んだ本の感想を書いているらしくてそれを時々借りて読んだ。それを参考にして本を読んだというと
天哉がうれしそうに笑ったことを今でも覚えている。
「雄英高校を受験することにしたんだ」
まだ高校三年になりたてだっていうのに、
天哉はその目に光を宿して俺に言った。
「そうなんだ。応援してるよ」
「晋はどこの学校に行くんだ?」
「決めてない。適当に進学して、経理の資格でも取ろっかな」
「そうしたら、プロになって晋と働けたら」
「はは、まあまずプロになりなって」
「そうだな! 僕も兄のような立派なヒーローになりたい」
天哉の卒業アルバムには、俺のメッセージだけがある。それが唯一、俺が天哉の何かしらになったという証だ。天哉が好きって言っていた作者の新作が出たら
天哉が読んだか?と連絡が来る。時たま遊びに行く。旅行ってもまあ、釣りとか、展覧会だけど仕事終わりに飲みに行ったりもした。親友というには少し弱いかなと思っていたけど、俺の中では長く続いている関係特有の心地よさがあった。それだけでよかったと思っていたけど、それすら高望みだったのかもしれない。
「結婚式のスピーチ?俺でいいの?」
「いいや、晋にお願いしたいんだ」
その時俺は、ちゃんと笑っていただろうか。
俺は何度も下書きを書いて、怨嗟の言葉を連ねようとして破り捨てた。俺の友達をどっか遠くにやってしまうんじゃないかって思った俺はもっと素直に天哉に気持ちを打ち明けていたら別の展開があったのかもしれないと夢想する。まあそれも全て遅すぎるんだけど。
誰もが名前を聞いたことのあるヒーローたち──高校の同級生だという──に見守られ、天哉は明らかに俺より付き合いの薄い女と恋に落ち、そして結ばれた。
天哉からしてみれば、愛するものと結ばれ、仲間や家族に祝福されて幸せを約束されたものなんだろうけど、俺は吐きそうになるのを堪えていた。心の中を読むことができる個性が存在しないことに感謝した。
天哉が釣った小魚を懸命に捌いていたところも、俺が気まぐれであげた誕プレだった栞を今でも使ってくれていることも、お兄さんの仇討ちに失敗したあと泣いていたこともプロになってからヒーローとしてやって行けないかもしれないと弱音を吐いていたことも……何も知らないんだろ、と天哉の側で微笑む女性に冷めた目線を送っていた。なんて俺は愚かで、救いようがないんだろう。ヒーローなんだろ、俺のことも助けてくれよという言葉は墓まで持っていく。
仕事が始まればまた、天哉と顔を合わせていくしかないわけなんだけど。喉に刺さった小骨がどんどん大きくなって喉を裂いてしまわないように俺は天哉への気持ちを手放さなければいけない。
育ててももらえなければ生まれたことを祝福してもらうことすらできない可哀想な俺の恋心。ちゃんと蓋してやるから、二度と出てくるなよ。
2022年12月17日
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俺と天哉は中学の時に出会った。
天哉はあの飯田家のお坊ちゃんで、誰もが遠巻きに見ていた。小さい頃から委員長気質で曲がったことが大嫌いな天哉。中学なんていう多感な少年少女が狭っ苦しい学校に詰め込まれてるとストレスが溜まるらしい。それは目立って、誰もが一度は苛立ちを感じたことがある
天哉に向いた。共通の敵を見つけると集団がまとまるなんてよくある話で、俺は図書委員で一緒だっただけなんだけど、いつもどこか汚れている制服だったり、時々体操着でいたりすることでなんとなく察していた。
天哉は俺に相談することもなく、よく読んだ本の話をしていた。
俺から切り出すのもなんか違うかなあと思って黙っていた。
天哉は天哉らしくないぼろっちいノートに読んだ本の感想を書いているらしくてそれを時々借りて読んだ。それを参考にして本を読んだというと
天哉がうれしそうに笑ったことを今でも覚えている。
「雄英高校を受験することにしたんだ」
まだ高校三年になりたてだっていうのに、
天哉はその目に光を宿して俺に言った。
「そうなんだ。応援してるよ」
「晋はどこの学校に行くんだ?」
「決めてない。適当に進学して、経理の資格でも取ろっかな」
「そうしたら、プロになって晋と働けたら」
「はは、まあまずプロになりなって」
「そうだな! 僕も兄のような立派なヒーローになりたい」
天哉の卒業アルバムには、俺のメッセージだけがある。それが唯一、俺が天哉の何かしらになったという証だ。天哉が好きって言っていた作者の新作が出たら
天哉が読んだか?と連絡が来る。時たま遊びに行く。旅行ってもまあ、釣りとか、展覧会だけど仕事終わりに飲みに行ったりもした。親友というには少し弱いかなと思っていたけど、俺の中では長く続いている関係特有の心地よさがあった。それだけでよかったと思っていたけど、それすら高望みだったのかもしれない。
「結婚式のスピーチ?俺でいいの?」
「いいや、晋にお願いしたいんだ」
その時俺は、ちゃんと笑っていただろうか。
俺は何度も下書きを書いて、怨嗟の言葉を連ねようとして破り捨てた。俺の友達をどっか遠くにやってしまうんじゃないかって思った俺はもっと素直に天哉に気持ちを打ち明けていたら別の展開があったのかもしれないと夢想する。まあそれも全て遅すぎるんだけど。
誰もが名前を聞いたことのあるヒーローたち──高校の同級生だという──に見守られ、天哉は明らかに俺より付き合いの薄い女と恋に落ち、そして結ばれた。
天哉からしてみれば、愛するものと結ばれ、仲間や家族に祝福されて幸せを約束されたものなんだろうけど、俺は吐きそうになるのを堪えていた。心の中を読むことができる個性が存在しないことに感謝した。
天哉が釣った小魚を懸命に捌いていたところも、俺が気まぐれであげた誕プレだった栞を今でも使ってくれていることも、お兄さんの仇討ちに失敗したあと泣いていたこともプロになってからヒーローとしてやって行けないかもしれないと弱音を吐いていたことも……何も知らないんだろ、と天哉の側で微笑む女性に冷めた目線を送っていた。なんて俺は愚かで、救いようがないんだろう。ヒーローなんだろ、俺のことも助けてくれよという言葉は墓まで持っていく。
仕事が始まればまた、天哉と顔を合わせていくしかないわけなんだけど。喉に刺さった小骨がどんどん大きくなって喉を裂いてしまわないように俺は天哉への気持ちを手放さなければいけない。
育ててももらえなければ生まれたことを祝福してもらうことすらできない可哀想な俺の恋心。ちゃんと蓋してやるから、二度と出てくるなよ。
2022年12月17日
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