芦戸三奈
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パパ活だなんて変な名前がついてるよね。パパはこんな、ひどいことしないよ。
私が初めて身を任せたのは、自分の父親より年上の男性だった。どこもかしこも肉がたるみ、息が臭く、思い出すだけで最悪な男だった。制服の上から胸を触るだけで五千円もくれるというのだから、私は二つ返事で飛びついた。そんなロリコン野郎はおばあちゃんが生まれるずっと前からいたんだって。そんでもって、未成年売春から守られなかった子に売る方が悪いとかいうやつもずっといるらしい。笑えるよね。男に都合がいいことはずぅっと変わらないんだって早めに知れてよかった。
三奈ちゃんは、中学生の時の同級生だ。
中学にいた時は三奈ちゃんは明るい女の子ってくらいしか印象になかったけど、ヒーローになってからはすごく活躍してるみたいだ。明るくて、優しくて、人気者。金持ち。私が欲しかったもの全て手に入れている子。どんな気分だろう。全ての人がむしけらに見えたりするんだろうか。私が知らないおじさんのちんこ咥えて稼ぐ端金を、三奈ちゃんは何時間で稼ぐんだろうか、なんて考えた。
こんな状況下で冷静に考えられるのは、なぜだろう。
端的にいうと、行為の動画を盗撮されて金は払わないと脅してきたおじさんを殺してしまったのだ。幸い、海に近いホテルだったこともあり遺棄するのは簡単だろうけど、きっとすぐに捕まってしまうだろう。
盗撮の技術は日進月歩で、メガネ、照明、靴やネジなどに仕掛けられるものもある。そんな技術が進歩する一方で、盗撮されたものをネタにして脅してくるクソ野郎は、少しの進歩も見せない。
盗撮映像の流出は、死に等しい。私は私を死なせない代わりに相手を殺したにすぎない。それをわかってくれるだろうか。例えば、おじさんの身分証ケースに挟まっていた私とそう変わらない年齢の娘だったら。
タバコを一本吸い終わったところで、どうやって捨てるか考えた。シーツに包んでぽいっとやっちゃえるんじゃないかと思ったけど、意識のない人間を動かすだけでやっとだった。それでもやらないと、と私はおじさんの身分を証明する者を全て壊し、おじさんをシーツで包んだ。ブヨブヨとした皮膚が気持ち悪くて、私は胃に残ったものを全て吐いた。
オレンジ色の錆び付いた光を頼りに、私は一人で海にいった。両親が生きていたころは海水浴になんて行ったけど、両親がなんか……暴走する巨人に轢き殺されてしまってから、私の人生は坂を転がり落ちるように闇に溶けていった。想像していたふつうの暮らしはふつうじゃなく、恵まれていたんだと嫌というほど知った。
「あれ、敦子ちゃんじゃない……?」
「三奈ちゃん……?」
最悪だ。
こんなタイミングでヒーローに出くわすなんて私はそうそうついてない。まだ私が背負うおじさんに気づいてないらしく、久しぶりにあった旧友に会えたとうれしそうにはしゃいでいる。
「どうしたのこんなところで」
「三奈ちゃんこそ」
「あたし? あたしはさ、仕事だよ。パトロール。なんかないかな、って見守るだけで抑止力になんだって」
「へえ」
「敦子ちゃん、荷物重そうだね。持とうか?」
「いいよ、大丈夫」
「ね、よかったらまた会おうよ。連絡してもいい?」
「……もちろん。またね」
「うん。気をつけてね。このへん暗いしさ」
そうやって笑う三奈ちゃんは、中学の時と変わらない笑顔を見せた。ヒーローだって、人気商売だけじゃないはずなのに社会に擦れて汚くなっちゃった私みたいなんじゃない、三奈ちゃんは綺麗だった。あの頃とずっと変わらない。
私ばっかり貧乏くじ引いて、なんだか悔しい。学費を払ってくれる親がいて、ウケのいい個性を引き当てて、友達や信頼できる大人に出会えて。水に沈んでいくとき、光が遠くぼやけるみたいに、三奈ちゃんの笑顔が浮かんでは消える。
死体はすぐに見つかってしまった。
おじさんの家族からものすごく罵倒されるかと思ったけど、娘と変わらない年齢の女の子に手を出していたことが効いたのかあまり接触がなかった。
親もいない、中卒、重大犯罪歴ありの女が行くところといえば足のつきにくい売春以外にない。そんなことを三奈ちゃんは知ってるだろうか。運が悪かったら、あんたもこんなふうになるんだよって言ってやりたかった。逆恨みでも見当違いでもなんでもいい。英雄扱いされてる彼女を見るだけで狂いそうだった。
「おい、八番。客だ。珍しいな。女だよ」
もう名前すら呼ばれない。八番目の膣と乳としか識別されていない私は最低限の身だしなみをと思い割れた鏡を見た。パサついた白髪が混じる毛、たるんだ肌、澱んだ目。隙間だらけの歯、割れた唇……何もかもが最悪で自嘲の笑みを浮かべた。自分で嘲らないでも、客やスタッフ、同僚から蔑まれるのに。
「敦子ちゃん」
「……三奈ちゃん。何しにきたの」
「こうでもしないと、お話しできないと思って。」
「そうだね。私は、私をここに売って生きてるんだもん。生きてるかぎり私は自由な時間なんてないよ」
「敦子ちゃん、私のところに来なよ」
「は?」
「ウチの事務所、人がいなくてさ……事務の人も、会計の人も、誰も……だからその」
「いや、行かない」
「すぐに返事しなくてもいいんだ。これ、連絡先……今日は帰るね。明日の朝十時までの契約だから、ゆっくり寝て」
じゃあ、と帰っていった三奈ちゃんの後ろ姿めがけて、足元にあった空き缶を投げつけた。憐れみやがって、かわいそうに見えたのかよと。そんな真っ当に人に愛され大切にされた人たちのところに行ったって、私に居場所がないことを確認するだけだってどうしてわからないんだよ。努力すれば叶うのは、叶う環境にいるやつだけだって知らないのかよ。
知らないんだろうな。私は急に冷静になって、振り乱した髪を整えた。
学校で努力は身を結ぶって教えられて、成功体験があるんだろうな。さらに向こうへプルスウルトラとか、笑える。現状すらままならない人間にさらに向こうが見えると思ってんのかよ。ドブ沼の底からは空は見えないんだよ。バーカ。
もらった連絡先はどこかになくした。今日もボロ臭いテレビからヒーローの活躍を告げる映像が流れている。キラキラしたところしか見せないから、みんなキラキラしているみたいな勘違いしちゃうだろ。でも違うんだ。地獄は死んだ後にあるんじゃない。生きているうちから始まるんだってこと。
2023/1/6 22時〜死体遺棄夢WEBオンリー「あなたの共犯者」展示作品①
私が初めて身を任せたのは、自分の父親より年上の男性だった。どこもかしこも肉がたるみ、息が臭く、思い出すだけで最悪な男だった。制服の上から胸を触るだけで五千円もくれるというのだから、私は二つ返事で飛びついた。そんなロリコン野郎はおばあちゃんが生まれるずっと前からいたんだって。そんでもって、未成年売春から守られなかった子に売る方が悪いとかいうやつもずっといるらしい。笑えるよね。男に都合がいいことはずぅっと変わらないんだって早めに知れてよかった。
三奈ちゃんは、中学生の時の同級生だ。
中学にいた時は三奈ちゃんは明るい女の子ってくらいしか印象になかったけど、ヒーローになってからはすごく活躍してるみたいだ。明るくて、優しくて、人気者。金持ち。私が欲しかったもの全て手に入れている子。どんな気分だろう。全ての人がむしけらに見えたりするんだろうか。私が知らないおじさんのちんこ咥えて稼ぐ端金を、三奈ちゃんは何時間で稼ぐんだろうか、なんて考えた。
こんな状況下で冷静に考えられるのは、なぜだろう。
端的にいうと、行為の動画を盗撮されて金は払わないと脅してきたおじさんを殺してしまったのだ。幸い、海に近いホテルだったこともあり遺棄するのは簡単だろうけど、きっとすぐに捕まってしまうだろう。
盗撮の技術は日進月歩で、メガネ、照明、靴やネジなどに仕掛けられるものもある。そんな技術が進歩する一方で、盗撮されたものをネタにして脅してくるクソ野郎は、少しの進歩も見せない。
盗撮映像の流出は、死に等しい。私は私を死なせない代わりに相手を殺したにすぎない。それをわかってくれるだろうか。例えば、おじさんの身分証ケースに挟まっていた私とそう変わらない年齢の娘だったら。
タバコを一本吸い終わったところで、どうやって捨てるか考えた。シーツに包んでぽいっとやっちゃえるんじゃないかと思ったけど、意識のない人間を動かすだけでやっとだった。それでもやらないと、と私はおじさんの身分を証明する者を全て壊し、おじさんをシーツで包んだ。ブヨブヨとした皮膚が気持ち悪くて、私は胃に残ったものを全て吐いた。
オレンジ色の錆び付いた光を頼りに、私は一人で海にいった。両親が生きていたころは海水浴になんて行ったけど、両親がなんか……暴走する巨人に轢き殺されてしまってから、私の人生は坂を転がり落ちるように闇に溶けていった。想像していたふつうの暮らしはふつうじゃなく、恵まれていたんだと嫌というほど知った。
「あれ、敦子ちゃんじゃない……?」
「三奈ちゃん……?」
最悪だ。
こんなタイミングでヒーローに出くわすなんて私はそうそうついてない。まだ私が背負うおじさんに気づいてないらしく、久しぶりにあった旧友に会えたとうれしそうにはしゃいでいる。
「どうしたのこんなところで」
「三奈ちゃんこそ」
「あたし? あたしはさ、仕事だよ。パトロール。なんかないかな、って見守るだけで抑止力になんだって」
「へえ」
「敦子ちゃん、荷物重そうだね。持とうか?」
「いいよ、大丈夫」
「ね、よかったらまた会おうよ。連絡してもいい?」
「……もちろん。またね」
「うん。気をつけてね。このへん暗いしさ」
そうやって笑う三奈ちゃんは、中学の時と変わらない笑顔を見せた。ヒーローだって、人気商売だけじゃないはずなのに社会に擦れて汚くなっちゃった私みたいなんじゃない、三奈ちゃんは綺麗だった。あの頃とずっと変わらない。
私ばっかり貧乏くじ引いて、なんだか悔しい。学費を払ってくれる親がいて、ウケのいい個性を引き当てて、友達や信頼できる大人に出会えて。水に沈んでいくとき、光が遠くぼやけるみたいに、三奈ちゃんの笑顔が浮かんでは消える。
死体はすぐに見つかってしまった。
おじさんの家族からものすごく罵倒されるかと思ったけど、娘と変わらない年齢の女の子に手を出していたことが効いたのかあまり接触がなかった。
親もいない、中卒、重大犯罪歴ありの女が行くところといえば足のつきにくい売春以外にない。そんなことを三奈ちゃんは知ってるだろうか。運が悪かったら、あんたもこんなふうになるんだよって言ってやりたかった。逆恨みでも見当違いでもなんでもいい。英雄扱いされてる彼女を見るだけで狂いそうだった。
「おい、八番。客だ。珍しいな。女だよ」
もう名前すら呼ばれない。八番目の膣と乳としか識別されていない私は最低限の身だしなみをと思い割れた鏡を見た。パサついた白髪が混じる毛、たるんだ肌、澱んだ目。隙間だらけの歯、割れた唇……何もかもが最悪で自嘲の笑みを浮かべた。自分で嘲らないでも、客やスタッフ、同僚から蔑まれるのに。
「敦子ちゃん」
「……三奈ちゃん。何しにきたの」
「こうでもしないと、お話しできないと思って。」
「そうだね。私は、私をここに売って生きてるんだもん。生きてるかぎり私は自由な時間なんてないよ」
「敦子ちゃん、私のところに来なよ」
「は?」
「ウチの事務所、人がいなくてさ……事務の人も、会計の人も、誰も……だからその」
「いや、行かない」
「すぐに返事しなくてもいいんだ。これ、連絡先……今日は帰るね。明日の朝十時までの契約だから、ゆっくり寝て」
じゃあ、と帰っていった三奈ちゃんの後ろ姿めがけて、足元にあった空き缶を投げつけた。憐れみやがって、かわいそうに見えたのかよと。そんな真っ当に人に愛され大切にされた人たちのところに行ったって、私に居場所がないことを確認するだけだってどうしてわからないんだよ。努力すれば叶うのは、叶う環境にいるやつだけだって知らないのかよ。
知らないんだろうな。私は急に冷静になって、振り乱した髪を整えた。
学校で努力は身を結ぶって教えられて、成功体験があるんだろうな。さらに向こうへプルスウルトラとか、笑える。現状すらままならない人間にさらに向こうが見えると思ってんのかよ。ドブ沼の底からは空は見えないんだよ。バーカ。
もらった連絡先はどこかになくした。今日もボロ臭いテレビからヒーローの活躍を告げる映像が流れている。キラキラしたところしか見せないから、みんなキラキラしているみたいな勘違いしちゃうだろ。でも違うんだ。地獄は死んだ後にあるんじゃない。生きているうちから始まるんだってこと。
2023/1/6 22時〜死体遺棄夢WEBオンリー「あなたの共犯者」展示作品①