心操人使
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ヒーローになるには、当たり個性を引き当てるだけじゃダメなんだ。他人のためにみずからの命を投げ打つことができるある種のバカさがないとダメみたい。そんなこと知らずに俺はハズレだとかなんとか言ってて。恥ずかしいような。最初から知っていたことのような。
「心操はヒーローになれるよ」
俺はなんの根拠もない言葉を口にした。そうすると心操が、顔にはあまり出ないけどすごくうれしそうにするのが見たくて、俺はそんなことを言葉にする。
だから心操が本当に編入試験を受けると聞いた時は、頑張れよより先に狼狽えた。心操も、俺と同じで磨けど磨けどただの石で、ダイヤの原石なんかじゃないと安心していた。おれたちが命を燃やしても六等星くらいの光しか届かないと思っていたのに、心操がまさかダイヤで、俺が石。心操が一等星で俺が六等星だったなんて。にわかに信じられなかった。
やっと実感が湧いたのは、体育祭で頭角を表し、A組の恵まれ個性どもに食らいついているところを見た時だ。
この根性とか、あきらめない気持ちとか、どうせハズレ個性だしと腐らない清らかさとか。何もかも俺と心操は違いすぎていて……
いてもたってもいられずに控室に向かう心操を呼び止めた。
「し、心操すげえじゃん」
「そうかな。負けちゃったけど」
「結果はそうだけど、過程がすげえって」
「晋くらいだよ。俺のことそんなに褒めてくれるのは」
「そんなことない。これから心操は俺なんかよりずっと褒めれられるし感謝されるって」
「それでも、俺がまだ何者でもない時にもらった褒めはうれしい」
「そ、そっか。まあでもとりあえずお疲れ」
「ありがと、また後でね」
いつも吸わない銘柄のタバコは妙な記憶を呼び覚ます。俺の妻だった女の死体から出てきたタバコは、女が好きそうなニコチンもタールの気配もない味気ないタバコ。俺の人生みたいな味気なさだ。
高校出てすぐ就職したさきの四十代の女に酔わされて薬を盛られて気づいたらガキが出来たなどと宣う。狂いそうだった。職場の女だったのが最悪で、俺は被害者だと言ったなら袋叩きにあってそのまま殺されそうだった。俺は、俺が生きるために殺したまでだ。ちなみに妊娠はウソ。既婚者である部長との不倫を隠すために騒動を起こしただけらしい。絞め殺した後震える手で女のLINEを見たらそう書いてあった。
俺はため息をついて、これからどうしようかと考えた。そしてなんともなしに、心操に電話をかけた。俺は心操に愚かだと裁いて欲しかったのかもしれない。一緒に死体を棄ててくれるだなんて思っていない。心操がそんなことをするはずがない。あんな個性だけど、実直で、正しくあろうとする男だ。あんな個性っていうのは良くないな。一時期悩んでたし。
「……晋? 久しぶり」
「あ、心操? 久しぶり。今さ、ちょっと来てほしいところがあって」
「何急に。いいけど。どこ?」
「位置情報送った」
「わかった。すぐ行く」
理由も聞かず、面倒だからなんて言わずに来てくれる。心操だって暇してるわけじゃないだろうに。俺への信頼があってのことだろうけど、それを根本から裏切るようで心苦しいけど、取り繕っている余裕はない。震える声で、「急ぎじゃないから。コケるなよ」とだけ言って切った。
「よお、心操」
「晋」
リビングに横たわる女の死体を認めるや否や心操は剣呑な空気を纏った。俺ら普通科のみんなとバカやってた頃の心操じゃない。みんなのためのヒーローの顔してる。
「まあ座れよ」
「晋!」
そんな顔するなよ。ヒーローだろ。そんな俺じゃないって言ってくれみたいな。すがるような顔しちゃダメだろ。
「警察呼ぶから」
「待って、最後に話しよう」
「……」
危険はないと判断したのか、黙ってリビングの椅子についてくれた。
「一緒に死体棄ててくれないか?」
「はあ?」
そう叫び、俺を睨む心操は今までで一番綺麗だった。俺、男を綺麗だなんて思うシュミしてたんだ、と今更学んだ。
「はは、そう、その返事を期待してた」
「なんなんだよ……」
「ごめんなあ心操。せっかくきてくれたのに」
「そんなこといい……こんなことする前に相談してくれればよかったのに」
「できないよ。俺のみじめったらしい半生を晒すなんて恥ずかしくて」
「恥ずかしがらずにさあ、殺すよりマシだろ」
「……そうだねえ。俺がハズレ個性のただの石ころ六等星であることをさっさと認めてハズレ個性なりの人生を歩まなきゃいけないってことを学んだのが遅すぎたのかも。俺だって光の当たる場所に行けると思っていたのが、バカだったのかも」
「そんなこと」
「ないって? 実はダイヤの原石だった心操にはわからないよ」
俺が吸うタバコの煙を嫌そうに振り払って俺を睨む。俺というより、俺という「敵」を睨んでいるのかもしれない。
「そうやって俺を突き放すな。模範囚でいろよ」
「心操くんが面会に来てくれるなら、考えるわ」
「ばかやろう」
警察へのコールが、永遠にも思える長さだった。事務的な報告を経て、俺は心操に逮捕される運びとなった。後ろ手に手錠をかけられて、膝をついた。
「なんでお前が泣いてるんだよ」
「晋が助けてって泣かなかったから俺が代わりに泣いてんの」
「うぬぼれるなよ、ヒーロー……俺はお前と対等でありたかったから、助けてなんて言えなかったんだよ」
「対等だって思ってくれてるならなおさら頼れよ」
「はは、言うじゃん」
心操に肩を叩かれ、もっと早く言ってくれよなんて消えいるような声で言われてしまったらちょっとだけキスしたかったけど、引き寄せる腕がない。なんも笑えないのに俺は笑いが止まらなかった。なんでもない俺が、心操の心のとげになっているという事実がなんだかおかしくて。俺は最初から石でも六等星でもなく、棘だったのかも。
2023/1/6 22時〜死体遺棄夢WEBオンリー「あなたの共犯者」展示作品②
「心操はヒーローになれるよ」
俺はなんの根拠もない言葉を口にした。そうすると心操が、顔にはあまり出ないけどすごくうれしそうにするのが見たくて、俺はそんなことを言葉にする。
だから心操が本当に編入試験を受けると聞いた時は、頑張れよより先に狼狽えた。心操も、俺と同じで磨けど磨けどただの石で、ダイヤの原石なんかじゃないと安心していた。おれたちが命を燃やしても六等星くらいの光しか届かないと思っていたのに、心操がまさかダイヤで、俺が石。心操が一等星で俺が六等星だったなんて。にわかに信じられなかった。
やっと実感が湧いたのは、体育祭で頭角を表し、A組の恵まれ個性どもに食らいついているところを見た時だ。
この根性とか、あきらめない気持ちとか、どうせハズレ個性だしと腐らない清らかさとか。何もかも俺と心操は違いすぎていて……
いてもたってもいられずに控室に向かう心操を呼び止めた。
「し、心操すげえじゃん」
「そうかな。負けちゃったけど」
「結果はそうだけど、過程がすげえって」
「晋くらいだよ。俺のことそんなに褒めてくれるのは」
「そんなことない。これから心操は俺なんかよりずっと褒めれられるし感謝されるって」
「それでも、俺がまだ何者でもない時にもらった褒めはうれしい」
「そ、そっか。まあでもとりあえずお疲れ」
「ありがと、また後でね」
いつも吸わない銘柄のタバコは妙な記憶を呼び覚ます。俺の妻だった女の死体から出てきたタバコは、女が好きそうなニコチンもタールの気配もない味気ないタバコ。俺の人生みたいな味気なさだ。
高校出てすぐ就職したさきの四十代の女に酔わされて薬を盛られて気づいたらガキが出来たなどと宣う。狂いそうだった。職場の女だったのが最悪で、俺は被害者だと言ったなら袋叩きにあってそのまま殺されそうだった。俺は、俺が生きるために殺したまでだ。ちなみに妊娠はウソ。既婚者である部長との不倫を隠すために騒動を起こしただけらしい。絞め殺した後震える手で女のLINEを見たらそう書いてあった。
俺はため息をついて、これからどうしようかと考えた。そしてなんともなしに、心操に電話をかけた。俺は心操に愚かだと裁いて欲しかったのかもしれない。一緒に死体を棄ててくれるだなんて思っていない。心操がそんなことをするはずがない。あんな個性だけど、実直で、正しくあろうとする男だ。あんな個性っていうのは良くないな。一時期悩んでたし。
「……晋? 久しぶり」
「あ、心操? 久しぶり。今さ、ちょっと来てほしいところがあって」
「何急に。いいけど。どこ?」
「位置情報送った」
「わかった。すぐ行く」
理由も聞かず、面倒だからなんて言わずに来てくれる。心操だって暇してるわけじゃないだろうに。俺への信頼があってのことだろうけど、それを根本から裏切るようで心苦しいけど、取り繕っている余裕はない。震える声で、「急ぎじゃないから。コケるなよ」とだけ言って切った。
「よお、心操」
「晋」
リビングに横たわる女の死体を認めるや否や心操は剣呑な空気を纏った。俺ら普通科のみんなとバカやってた頃の心操じゃない。みんなのためのヒーローの顔してる。
「まあ座れよ」
「晋!」
そんな顔するなよ。ヒーローだろ。そんな俺じゃないって言ってくれみたいな。すがるような顔しちゃダメだろ。
「警察呼ぶから」
「待って、最後に話しよう」
「……」
危険はないと判断したのか、黙ってリビングの椅子についてくれた。
「一緒に死体棄ててくれないか?」
「はあ?」
そう叫び、俺を睨む心操は今までで一番綺麗だった。俺、男を綺麗だなんて思うシュミしてたんだ、と今更学んだ。
「はは、そう、その返事を期待してた」
「なんなんだよ……」
「ごめんなあ心操。せっかくきてくれたのに」
「そんなこといい……こんなことする前に相談してくれればよかったのに」
「できないよ。俺のみじめったらしい半生を晒すなんて恥ずかしくて」
「恥ずかしがらずにさあ、殺すよりマシだろ」
「……そうだねえ。俺がハズレ個性のただの石ころ六等星であることをさっさと認めてハズレ個性なりの人生を歩まなきゃいけないってことを学んだのが遅すぎたのかも。俺だって光の当たる場所に行けると思っていたのが、バカだったのかも」
「そんなこと」
「ないって? 実はダイヤの原石だった心操にはわからないよ」
俺が吸うタバコの煙を嫌そうに振り払って俺を睨む。俺というより、俺という「敵」を睨んでいるのかもしれない。
「そうやって俺を突き放すな。模範囚でいろよ」
「心操くんが面会に来てくれるなら、考えるわ」
「ばかやろう」
警察へのコールが、永遠にも思える長さだった。事務的な報告を経て、俺は心操に逮捕される運びとなった。後ろ手に手錠をかけられて、膝をついた。
「なんでお前が泣いてるんだよ」
「晋が助けてって泣かなかったから俺が代わりに泣いてんの」
「うぬぼれるなよ、ヒーロー……俺はお前と対等でありたかったから、助けてなんて言えなかったんだよ」
「対等だって思ってくれてるならなおさら頼れよ」
「はは、言うじゃん」
心操に肩を叩かれ、もっと早く言ってくれよなんて消えいるような声で言われてしまったらちょっとだけキスしたかったけど、引き寄せる腕がない。なんも笑えないのに俺は笑いが止まらなかった。なんでもない俺が、心操の心のとげになっているという事実がなんだかおかしくて。俺は最初から石でも六等星でもなく、棘だったのかも。
2023/1/6 22時〜死体遺棄夢WEBオンリー「あなたの共犯者」展示作品②