飯田天哉
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「あー! 飯田来てくれたの! 久しぶりなところ悪いけどここ掘ってくれる?」
スコップを手渡そうとしたのに、受け取ってくれないどころか俺を睨みやがる。成人しても委員長気質が治らないなんて重症だな。そういうのは学生のうちに卒業しないと。学校っていう閉じた空間の中でしか通じない倫理があるとか、そこでならお前は正しく在れたかもしれないけど、一歩外に出たら正しさなんて人の数だけあるってこと。
「き、晋くん……どうしてこんな」
「質問は後! とにかく掘って!」
「晋くんダメだ。今すぐ出頭してくれ。この人は誰なんだ?」
「は? 知らねーよ。そのへんで引っ掛けた女。結婚しねーと殺すって刃物向けてきたから殺した。埋めないと」
「晋くん!」
俺の手を止めさせて、正義を執行するものとしてふさわしい威厳を持ったよく通る声音で俺の名前を呼んだ。
「なあに、テンヤくん」
俺は俺たちが出会った頃のように呼び合った。
「どうして、こんな」
「理由を言ったって納得しねえだろ。殺されてからこいつが包丁持ってます!って言っても遅いんだよ」
「でも」
「でもじゃねえ」
自分でも驚くほどつめたい音が出たと思う。案の定テンヤはひるんでしまった。中坊の頃なんて、世界が学校くらいしかないからその中で一番だったりすると世界で一番みたいな気分になれるだろ。けど違っただろ。テンヤよりすごいやつは山ほどいて、挫けて僻んでみたくなっただろ。
俺は生まれてからずっとそうだったんだよ。一度も、何にでも一番になれず燻ったまま最後は消えてしまったハズレ個性。想像もできないだろ。当たり個性の一族の末っ子のお前にはさ。
「キヨくん、もうすぐ警察が来るから、素直に全部話してくれ。そうすれば」
「罪が軽くなるって? そんなんでいいのかよ。敵は倒すんだろ? そんじゃないと物語はハッピーエンドにならないよ」
「敵も十人十色なんだって、この仕事をしてわかったんだ。さまざまな事情があって犯罪に至るんだ」
「机上の空論で分かった気になってんなよ。だからお前は委員長気質が抜けてないどこか芋くさくてダサいんだよ」
「それでも……そういうヒーローがいたっていいだろう。ダサくて、カッコ悪くても、キヨくんがいつか笑顔を取り戻してくれたらそれでいい」
「は? 笑顔?俺ずっと笑ってんじゃん」
「そんな軽薄な笑い方をしなかったよ、君は」
「知ったような口利きやがって」
「知っているよ。君が高校でうまくいっていなかったことも、ホストとして生計を立てないと飢える家族がいたことも」
「キモ、調べてんなよ」
「妹さんが連絡をくれてね。お兄ちゃんは素直に飯田さんのことを頼れないから、悪いけど助けてやってくれないかって」
「余計なことを」
「そうでもないさ……けれどもう少し早く知れていたらなと思わないことはない。こんなになるまで、助けに行けなくて申し訳ない。今度は、君が嫌と言っても助ける」
「うるせえ!死ねクソヒーローが!」
「君みたいな友人をおいて死ねないなあ」
「友人じゃねえよ!俺はお前を見下してた!ヒーローの家系のくせに自分一人救えないで!体操着が泥まみれになってたり便所入ってる時水ぶち撒かれたりしてビービー泣いてたクソ雑魚が!ってずっと思ってた!」
「それでも、君が助けてくれたじゃないか」
「それも見下し!俺より弱くて情けないやつを助けて自己満に浸ってただけ!いい加減気づけよ!」
「そうだったとしても、君が僕を助けてくれたのは事実だよ」
「……うるせえ、さっさと消えろ」
「それはできない」
俺よりずっと力がある飯田に手錠をかけられて、つめたい土に這いつくばってパトカーを待つ。情けなさに涙が出そうだ。
「友人じゃねえ、お前なんか。俺が助けてほしい時に助けてくれねえんだもん」
「悪かった」
「面会こいよ」
「ああ、行くよ」
「ほんとだな? 俺母ちゃんはあの戦争で足も頭もパアになっちまったし、親父は元々いないし妹は県外で暮らしてるから関わらせたくないんだ」
「分かってる。心配しなくていい」
「クソッ、かっこいいじゃねえか」
飯田はやっと以前の人懐こい笑顔を見せた。パトカーのサイレンの音がなければもっと可愛く映ったのかもしれないけど、そうもいかなかった。俺は飯田の足をつま先で蹴ってからパトカーに乗り込んだ。飯田は、泣きながら笑ってた。
「泣いてんなよ!」
「君こそ!」
言われて初めて気づいたけど、俺の頬が風を受けて冷たくなっていた。さよならなんて言ってやらない。これからよろしく頼むの方がいいくらいだろうから。飯田は俺のことを見捨てて忘れたりしないやつだって俺が一番よく知っているから安心して服役できる。
八百屋お七よろしく、人殺して昔好きだった人を呼び寄せたいっていう気持ちがなかったわけではないけど墓まで持っていくつもりだ。そんな理由で殺したと知ったら、飯田はひどく傷ついてしまうと思うから。
2023/1/6 22時〜死体遺棄夢WEBオンリー「あなたの共犯者」展示作品④
スコップを手渡そうとしたのに、受け取ってくれないどころか俺を睨みやがる。成人しても委員長気質が治らないなんて重症だな。そういうのは学生のうちに卒業しないと。学校っていう閉じた空間の中でしか通じない倫理があるとか、そこでならお前は正しく在れたかもしれないけど、一歩外に出たら正しさなんて人の数だけあるってこと。
「き、晋くん……どうしてこんな」
「質問は後! とにかく掘って!」
「晋くんダメだ。今すぐ出頭してくれ。この人は誰なんだ?」
「は? 知らねーよ。そのへんで引っ掛けた女。結婚しねーと殺すって刃物向けてきたから殺した。埋めないと」
「晋くん!」
俺の手を止めさせて、正義を執行するものとしてふさわしい威厳を持ったよく通る声音で俺の名前を呼んだ。
「なあに、テンヤくん」
俺は俺たちが出会った頃のように呼び合った。
「どうして、こんな」
「理由を言ったって納得しねえだろ。殺されてからこいつが包丁持ってます!って言っても遅いんだよ」
「でも」
「でもじゃねえ」
自分でも驚くほどつめたい音が出たと思う。案の定テンヤはひるんでしまった。中坊の頃なんて、世界が学校くらいしかないからその中で一番だったりすると世界で一番みたいな気分になれるだろ。けど違っただろ。テンヤよりすごいやつは山ほどいて、挫けて僻んでみたくなっただろ。
俺は生まれてからずっとそうだったんだよ。一度も、何にでも一番になれず燻ったまま最後は消えてしまったハズレ個性。想像もできないだろ。当たり個性の一族の末っ子のお前にはさ。
「キヨくん、もうすぐ警察が来るから、素直に全部話してくれ。そうすれば」
「罪が軽くなるって? そんなんでいいのかよ。敵は倒すんだろ? そんじゃないと物語はハッピーエンドにならないよ」
「敵も十人十色なんだって、この仕事をしてわかったんだ。さまざまな事情があって犯罪に至るんだ」
「机上の空論で分かった気になってんなよ。だからお前は委員長気質が抜けてないどこか芋くさくてダサいんだよ」
「それでも……そういうヒーローがいたっていいだろう。ダサくて、カッコ悪くても、キヨくんがいつか笑顔を取り戻してくれたらそれでいい」
「は? 笑顔?俺ずっと笑ってんじゃん」
「そんな軽薄な笑い方をしなかったよ、君は」
「知ったような口利きやがって」
「知っているよ。君が高校でうまくいっていなかったことも、ホストとして生計を立てないと飢える家族がいたことも」
「キモ、調べてんなよ」
「妹さんが連絡をくれてね。お兄ちゃんは素直に飯田さんのことを頼れないから、悪いけど助けてやってくれないかって」
「余計なことを」
「そうでもないさ……けれどもう少し早く知れていたらなと思わないことはない。こんなになるまで、助けに行けなくて申し訳ない。今度は、君が嫌と言っても助ける」
「うるせえ!死ねクソヒーローが!」
「君みたいな友人をおいて死ねないなあ」
「友人じゃねえよ!俺はお前を見下してた!ヒーローの家系のくせに自分一人救えないで!体操着が泥まみれになってたり便所入ってる時水ぶち撒かれたりしてビービー泣いてたクソ雑魚が!ってずっと思ってた!」
「それでも、君が助けてくれたじゃないか」
「それも見下し!俺より弱くて情けないやつを助けて自己満に浸ってただけ!いい加減気づけよ!」
「そうだったとしても、君が僕を助けてくれたのは事実だよ」
「……うるせえ、さっさと消えろ」
「それはできない」
俺よりずっと力がある飯田に手錠をかけられて、つめたい土に這いつくばってパトカーを待つ。情けなさに涙が出そうだ。
「友人じゃねえ、お前なんか。俺が助けてほしい時に助けてくれねえんだもん」
「悪かった」
「面会こいよ」
「ああ、行くよ」
「ほんとだな? 俺母ちゃんはあの戦争で足も頭もパアになっちまったし、親父は元々いないし妹は県外で暮らしてるから関わらせたくないんだ」
「分かってる。心配しなくていい」
「クソッ、かっこいいじゃねえか」
飯田はやっと以前の人懐こい笑顔を見せた。パトカーのサイレンの音がなければもっと可愛く映ったのかもしれないけど、そうもいかなかった。俺は飯田の足をつま先で蹴ってからパトカーに乗り込んだ。飯田は、泣きながら笑ってた。
「泣いてんなよ!」
「君こそ!」
言われて初めて気づいたけど、俺の頬が風を受けて冷たくなっていた。さよならなんて言ってやらない。これからよろしく頼むの方がいいくらいだろうから。飯田は俺のことを見捨てて忘れたりしないやつだって俺が一番よく知っているから安心して服役できる。
八百屋お七よろしく、人殺して昔好きだった人を呼び寄せたいっていう気持ちがなかったわけではないけど墓まで持っていくつもりだ。そんな理由で殺したと知ったら、飯田はひどく傷ついてしまうと思うから。
2023/1/6 22時〜死体遺棄夢WEBオンリー「あなたの共犯者」展示作品④