飯田天晴
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失恋ってさ、決勝戦敗退も予選敗退も同じ「フラれた」なんだよな。こんなに長いこと好きだったんだから、敢闘賞くらいくれたっていいんじゃないか? なあ。多分天晴に言ったらくれるんだろうけど、そうじゃないんだよな。
こういうのってバウムクーヘンエンドっていうらしい。ずっと好きだったやつの結婚式に出て引き出物のバウムクーヘンを一人で食うの。最初にこの名前をつけたやつはこんな身を切る苦しみだっていうことを知っていたのかな。多分知らないと思う。知っていたなら、こんなものに名前をつけずに葬ってしまいたいと思うから。
太陽みたいな男だった。誰にだって優しくて、親切で、それでいて嫌味がない。全てをあまねく照らす祝福の光、それが飯田天晴という男だった。
家が近くて年が近いってだけで、俺は天晴の幼馴染の地位を築くことができた。それは幸福であり、この世の不幸を煮詰めた毒でもあった。一番近くで飯田天晴を眺めることができ、一番近くで天晴が俺以外の人間を好きになる過程をずっとみていた。天晴が好きになったのは、天晴と同じく穏やかで慎ましく、そして嫌味のない素敵なひとだった。その人は、ただの幼馴染なだけの俺にも優しく接してくれた。しかしそこで俺が学んだのは飯田天晴とその伴侶から俺に与えられる優しさというのは往々にして立場が上のものから恵まれる慈しみであり、俺の命を徐々に縮める毒であることだった。
やさしくしてたはずの幼馴染から、やさしさの根源を疑われる天晴はかわいそうであり、それが恵まれ個性のヒーロー家系に生まれる弊害でもあると思った。恵まれて、愛されている人間は恵まれず、蔑まれて育った人間のことを心から理解することはできない。彼らヒーローが救う対象のほとんどが後者であることから、天晴は逆恨みを買うことが結構あったと聞くが、かわいそうだけど妥当だと感じる。
「天晴、結婚おめでとう」
俺は言いたくもない祝福の言葉を述べた。社会性を見せつけるための詭弁だ。こんなもの。
「晋。どうもありがとう。晋があの時俺に助けを求めてくれた時から俺のヒーローとしての人生が始まったんだ。俺をヒーローにしてくれてありがとう」
なんだそれ、と思った。
俺が天晴に無様にも助けを求めなければ、天晴にはあの殺人鬼に再起不能にさせられる未来がなかったかもしれないと思わせること言うなよ。喉元まで出かかった言葉は、よそゆきの笑みではなく、さびしそうにそっと目を細める笑い方の前に打ち砕かれた。
「天晴がヒーローにならなかったら」
「それは多分、ない。俺はヒーローになる以外の道はなかったよ。俺が選んだ道だと信じたいけど、多分そうじゃない。けど、俺は後悔してないんだ。俺はいま……こんなになっちゃったけど、晋は俺をいつまでもヒーローにしていてくれるんだよ」
「……なんだそれ」
「誰かに求められず善行だけを為しても、ヒーローにはなれないんだと思うんだ。誰かがみてくれていて、初めて俺はヒーローになれた……例えばさ、星がキラキラしてても誰かが見て星の名前をつけなければ、それはただの宇宙のちりが燃えてるだけだろ? でも俺は違う。晋がいつまでも俺をみていてくれる」
「ば、ばか。自惚れんな」
「自惚れるよ。入院中、俺が意識がないときも毎日病院きてくれてたって」
「お母さんから聞いた?」
「うん」
「恥ずかし〜……」
「俺がもうヒーローやれなくなったって聞いて、晋に当たっちゃったことあったろ……? そんな時でもちゃんときてくれてさ、うれしかったんだよ」
「天晴落ち込んでたから。明るく対処してるようでいてだいぶ病んでたろ」
「うん。テンヤにはダサいところ見せたくないと思って」
「テンヤくん、でかくなったよな」
「ああ、自慢の弟だ」
「……天晴、結婚おめでとう」
「ああ、ありがとう」
最後に、心から祝福がいえたはずだ。
バウムクーヘンの生地の層を重ねるように、天晴とそのパートナーは時を重ねていくんだろう。俺がなれなかった天晴の一番になって、特等席で見届けるんだろう。いいなあ、なんで俺じゃダメだったんだろう。好きだって言ってたらなんか変わってたんだろうか。いや変わらないな。好きのひとことすら、関係性が壊れるのが怖いとか理由をつけて言えなかったんだから。
美味しいバウムクーヘンだった。嫌いになったり、忘れられたりできれば傷は浅かったのかもしれない。俺は天晴と会うたびに傷を深めることしかできないっぽい。こういうの、生殺しって言ったり真綿で首を絞めるっていうのかもしれない。負け犬にふさわしい末路だ。なんも笑えない。
2023年2月3日 オールジャンル失恋夢オンリーイベント「大失恋祭」前夜祭投稿作品①
こういうのってバウムクーヘンエンドっていうらしい。ずっと好きだったやつの結婚式に出て引き出物のバウムクーヘンを一人で食うの。最初にこの名前をつけたやつはこんな身を切る苦しみだっていうことを知っていたのかな。多分知らないと思う。知っていたなら、こんなものに名前をつけずに葬ってしまいたいと思うから。
太陽みたいな男だった。誰にだって優しくて、親切で、それでいて嫌味がない。全てをあまねく照らす祝福の光、それが飯田天晴という男だった。
家が近くて年が近いってだけで、俺は天晴の幼馴染の地位を築くことができた。それは幸福であり、この世の不幸を煮詰めた毒でもあった。一番近くで飯田天晴を眺めることができ、一番近くで天晴が俺以外の人間を好きになる過程をずっとみていた。天晴が好きになったのは、天晴と同じく穏やかで慎ましく、そして嫌味のない素敵なひとだった。その人は、ただの幼馴染なだけの俺にも優しく接してくれた。しかしそこで俺が学んだのは飯田天晴とその伴侶から俺に与えられる優しさというのは往々にして立場が上のものから恵まれる慈しみであり、俺の命を徐々に縮める毒であることだった。
やさしくしてたはずの幼馴染から、やさしさの根源を疑われる天晴はかわいそうであり、それが恵まれ個性のヒーロー家系に生まれる弊害でもあると思った。恵まれて、愛されている人間は恵まれず、蔑まれて育った人間のことを心から理解することはできない。彼らヒーローが救う対象のほとんどが後者であることから、天晴は逆恨みを買うことが結構あったと聞くが、かわいそうだけど妥当だと感じる。
「天晴、結婚おめでとう」
俺は言いたくもない祝福の言葉を述べた。社会性を見せつけるための詭弁だ。こんなもの。
「晋。どうもありがとう。晋があの時俺に助けを求めてくれた時から俺のヒーローとしての人生が始まったんだ。俺をヒーローにしてくれてありがとう」
なんだそれ、と思った。
俺が天晴に無様にも助けを求めなければ、天晴にはあの殺人鬼に再起不能にさせられる未来がなかったかもしれないと思わせること言うなよ。喉元まで出かかった言葉は、よそゆきの笑みではなく、さびしそうにそっと目を細める笑い方の前に打ち砕かれた。
「天晴がヒーローにならなかったら」
「それは多分、ない。俺はヒーローになる以外の道はなかったよ。俺が選んだ道だと信じたいけど、多分そうじゃない。けど、俺は後悔してないんだ。俺はいま……こんなになっちゃったけど、晋は俺をいつまでもヒーローにしていてくれるんだよ」
「……なんだそれ」
「誰かに求められず善行だけを為しても、ヒーローにはなれないんだと思うんだ。誰かがみてくれていて、初めて俺はヒーローになれた……例えばさ、星がキラキラしてても誰かが見て星の名前をつけなければ、それはただの宇宙のちりが燃えてるだけだろ? でも俺は違う。晋がいつまでも俺をみていてくれる」
「ば、ばか。自惚れんな」
「自惚れるよ。入院中、俺が意識がないときも毎日病院きてくれてたって」
「お母さんから聞いた?」
「うん」
「恥ずかし〜……」
「俺がもうヒーローやれなくなったって聞いて、晋に当たっちゃったことあったろ……? そんな時でもちゃんときてくれてさ、うれしかったんだよ」
「天晴落ち込んでたから。明るく対処してるようでいてだいぶ病んでたろ」
「うん。テンヤにはダサいところ見せたくないと思って」
「テンヤくん、でかくなったよな」
「ああ、自慢の弟だ」
「……天晴、結婚おめでとう」
「ああ、ありがとう」
最後に、心から祝福がいえたはずだ。
バウムクーヘンの生地の層を重ねるように、天晴とそのパートナーは時を重ねていくんだろう。俺がなれなかった天晴の一番になって、特等席で見届けるんだろう。いいなあ、なんで俺じゃダメだったんだろう。好きだって言ってたらなんか変わってたんだろうか。いや変わらないな。好きのひとことすら、関係性が壊れるのが怖いとか理由をつけて言えなかったんだから。
美味しいバウムクーヘンだった。嫌いになったり、忘れられたりできれば傷は浅かったのかもしれない。俺は天晴と会うたびに傷を深めることしかできないっぽい。こういうの、生殺しって言ったり真綿で首を絞めるっていうのかもしれない。負け犬にふさわしい末路だ。なんも笑えない。
2023年2月3日 オールジャンル失恋夢オンリーイベント「大失恋祭」前夜祭投稿作品①