兎山ルミ
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恋ってさ、決勝戦敗退でも予選敗退でも同じ「フラれた」なんだよね。参加賞は私が私のために買ってあげた。あの子のことが好きだった証がほしかったのかもしれない。
だからルミがあんな身体になってしまって広島に帰ってきたときに私があげた時計を持って帰ってきたことに心底驚いた。
「ルミ、この時計まだもっていてくれたの」
「まあな。もう……つける腕無くなっちまったけどな! って、シリアスな顔すんなよ。ナマエなら不謹慎ジョークの一つや二つ言ったもんだろ」
「この国の平和のために命をかけてくれた友達にそんなこと言えないよ」
「わあ。大人になったなナマエ」
「ルミもね」
車椅子に座るルミと、それを押す私。住み慣れたはずの街の風景も、久しぶりに帰郷したルミからしてみれば新鮮だという。
「うちらが高校生の時行ってたサイゼ、もうないんだな」
「うん。なんかいろんな敵もきたけど、強盗とかも結構あってさ」
「そっか」
「ルミはさ、ヒーローになって後悔してる?」
「どした、急に」
「だって、ルミ、こんな身体になっちゃって」
「それとこれとは違うだろ。私が身体張らなかったら」
「ル……ルミじゃなくても、他のヒーローがやればきっと……」
「ナマエ、それは違うだろ。あの時あの瞬間は私じゃないとダメだったはずなんだ。そう思ってないと、身体を失ったこと受け入れられないんだ。言わないで、ナマエ」
「……ごめん」
もう二度と定位置につくことの無い腕時計は、ルミが持ってきた小さな鞄の金具についていた。私たちがなんの不自由もなく暮らしていた時と変わらないリズムで時を刻んでいる。もし時が戻せるなら、あのときヒーローになりたいと言ったルミを止められただろうか。
きっと、それはできない。
ルミは生まれながらにして弱気を助け強きを挫く英雄のあり方だったじゃないか。私みたいな卑怯で情けないモブとは違って。だからルミへの気持ちは愛とか恋とは違って遠くで燦然とかがやく星を見るような気持ちなんだと思う。星は星と愛し合うだろう。私みたいな虫とは違って。結局、参加賞ももらえないだろう。エントリーすらしてなかったやつに何ももらえるはずがないだろ。
「あ、そうだ。ナマエにお土産あるんだ」
「お土産?! あんたあそんでたわけじゃないだろ」
「やっと普段のナマエっぽくなってきたな。鞄の底の方にあるかも」
「あーあー汚い鞄。くちゃくちゃレシートしか出てこないし」
「もっと底だ」
「金塊でも出てこないと困るわ」
小銭とか石ころとか入ってる鞄を漁ると底の方にひしゃげた細長い箱が二つ入っていた。
「開けていいの?」
「おお。二つとも開けてくれ」
箱の中には、ゴールドのチェーンが上品な一粒ダイヤのネックレスが入っていた。
「一つは私がつける。首なら、よっぽどのことがないともげないだろ」
「これ私がつけていいの?」
「そのために買ったんだって。私が広島出るとき、まだ学生だったナマエが時計くれたろ。なんかお返ししたいな〜って思ってたんだよ。学生なんて自分のために金使うしかできねーのに。私、うれしかったんだから」
「ルミ……」
「あー、湿っぽくすんなよ。ありがとうと、これからもよろしくってことで」
「自惚れっぽくて恥ずかしいこと言うけど、ルミのために私の車、車椅子が乗り込める福祉車両にしたんだ」
「重! なんだナマエ。私のタクシーになりたかったのか」
「うざ! 調子のんな!」
そんなまとまりのない言葉しか出てこなかった。まだ終わりじゃないのかも。参加賞どころか、結構いい賞なんじゃないか。
「あ、ナマエ。お前来週の土日どっちか空いてる?」
「空いてるけど」
「紹介したい人がいるんだ」
「……え?」
「まあ、そういうこと」
「そ、そっかあ。どっちも空いてる」
「じゃ、土曜の十四時から時間くれよ」
「うん」
やっぱり、参加賞だった。参加賞にしてはいいものもらっちゃった。だから変に期待しちゃった。ルミの唯一になれるんじゃないかなって。多分友達としての唯一は私なんだろうけど、私が欲しかったのは、別の唯一だから。高望みとか、欲張りだと思うけど、私の人生だから別にいいでしょ。
参加賞であり、ルミからもらった首枷。なんかちょっといいかも。
2023年2月3日 オールジャンル失恋夢オンリーイベント「大失恋祭」前夜祭投稿作品②
だからルミがあんな身体になってしまって広島に帰ってきたときに私があげた時計を持って帰ってきたことに心底驚いた。
「ルミ、この時計まだもっていてくれたの」
「まあな。もう……つける腕無くなっちまったけどな! って、シリアスな顔すんなよ。ナマエなら不謹慎ジョークの一つや二つ言ったもんだろ」
「この国の平和のために命をかけてくれた友達にそんなこと言えないよ」
「わあ。大人になったなナマエ」
「ルミもね」
車椅子に座るルミと、それを押す私。住み慣れたはずの街の風景も、久しぶりに帰郷したルミからしてみれば新鮮だという。
「うちらが高校生の時行ってたサイゼ、もうないんだな」
「うん。なんかいろんな敵もきたけど、強盗とかも結構あってさ」
「そっか」
「ルミはさ、ヒーローになって後悔してる?」
「どした、急に」
「だって、ルミ、こんな身体になっちゃって」
「それとこれとは違うだろ。私が身体張らなかったら」
「ル……ルミじゃなくても、他のヒーローがやればきっと……」
「ナマエ、それは違うだろ。あの時あの瞬間は私じゃないとダメだったはずなんだ。そう思ってないと、身体を失ったこと受け入れられないんだ。言わないで、ナマエ」
「……ごめん」
もう二度と定位置につくことの無い腕時計は、ルミが持ってきた小さな鞄の金具についていた。私たちがなんの不自由もなく暮らしていた時と変わらないリズムで時を刻んでいる。もし時が戻せるなら、あのときヒーローになりたいと言ったルミを止められただろうか。
きっと、それはできない。
ルミは生まれながらにして弱気を助け強きを挫く英雄のあり方だったじゃないか。私みたいな卑怯で情けないモブとは違って。だからルミへの気持ちは愛とか恋とは違って遠くで燦然とかがやく星を見るような気持ちなんだと思う。星は星と愛し合うだろう。私みたいな虫とは違って。結局、参加賞ももらえないだろう。エントリーすらしてなかったやつに何ももらえるはずがないだろ。
「あ、そうだ。ナマエにお土産あるんだ」
「お土産?! あんたあそんでたわけじゃないだろ」
「やっと普段のナマエっぽくなってきたな。鞄の底の方にあるかも」
「あーあー汚い鞄。くちゃくちゃレシートしか出てこないし」
「もっと底だ」
「金塊でも出てこないと困るわ」
小銭とか石ころとか入ってる鞄を漁ると底の方にひしゃげた細長い箱が二つ入っていた。
「開けていいの?」
「おお。二つとも開けてくれ」
箱の中には、ゴールドのチェーンが上品な一粒ダイヤのネックレスが入っていた。
「一つは私がつける。首なら、よっぽどのことがないともげないだろ」
「これ私がつけていいの?」
「そのために買ったんだって。私が広島出るとき、まだ学生だったナマエが時計くれたろ。なんかお返ししたいな〜って思ってたんだよ。学生なんて自分のために金使うしかできねーのに。私、うれしかったんだから」
「ルミ……」
「あー、湿っぽくすんなよ。ありがとうと、これからもよろしくってことで」
「自惚れっぽくて恥ずかしいこと言うけど、ルミのために私の車、車椅子が乗り込める福祉車両にしたんだ」
「重! なんだナマエ。私のタクシーになりたかったのか」
「うざ! 調子のんな!」
そんなまとまりのない言葉しか出てこなかった。まだ終わりじゃないのかも。参加賞どころか、結構いい賞なんじゃないか。
「あ、ナマエ。お前来週の土日どっちか空いてる?」
「空いてるけど」
「紹介したい人がいるんだ」
「……え?」
「まあ、そういうこと」
「そ、そっかあ。どっちも空いてる」
「じゃ、土曜の十四時から時間くれよ」
「うん」
やっぱり、参加賞だった。参加賞にしてはいいものもらっちゃった。だから変に期待しちゃった。ルミの唯一になれるんじゃないかなって。多分友達としての唯一は私なんだろうけど、私が欲しかったのは、別の唯一だから。高望みとか、欲張りだと思うけど、私の人生だから別にいいでしょ。
参加賞であり、ルミからもらった首枷。なんかちょっといいかも。
2023年2月3日 オールジャンル失恋夢オンリーイベント「大失恋祭」前夜祭投稿作品②