勇尾
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後頭部から血と、何かの液体を垂れ流してピクリとも動かない。思ったほど感慨は薄い。やってやったぞ、だとか、これで父は私を何て期待に胸が躍るといったこともない。
ただ、あの時母に差し出した鴨と同じでぐったりと動かない。それだけが胸に去来した感覚だった。感覚であって感情ではない。
勇作さんを慕う奴らは、動転して勇作の遺骸を人の壁で囲んで持ち帰ろうとした。遺骸を持ち帰るなんて上等なこと、ここにきてからもそれ以降も見たことがない。それほどに、皆の心の支えだったことが伺える。ただの役職におさまっただけでなく、人心も掌のうちに包み込んでいたというわけだ。
本当にあの父から生まれた子だろうか、と思うくらいの人当たりの良さだった。そこは認めよう。良家に生まれ、周りの大人からは慈しまれて、必要とされて、物質的に恵まれただけでああなるだろうか。一瞬、母の質だろうかとよぎってしまった。それは認めない。認めてしまえば死ぬ以外にないからだ。
丁寧に棺に収められた勇作さんの顔は、帽子と夜闇にまぎれて伺えない。最期の顔は驚愕だろうか、悲しみだろうか、それもと俺が撃ったと察しての怒りだろうか。確かめたかったが、動悸がしてできなかった。
「恨んでおられますか。約束された輝かしい未来を卑しい生まれの兄に邪魔されて」
勇作さんの人となりをうっすらと輪郭づけるやりとりの中で、そんなことはないと返答が来るのだと分かっている卑怯な問いだった。返答が来ない、死体に向けて問いかけているのもまた卑怯だった。
卑怯であることを頭の片隅で理解しつつ、そうでもしないとじわじわと足から血を吸い上げるかのような悪寒を振り払えなかった。これがあなたのいう罪悪感というやつなのか、と呟いたがもちろん返事はない。
棺が置いてあった部屋から寝床に戻りながら、切って落ちた後の爪のように細い月の光が細く差し込む
知り得ない感情の実感を育てるのは難しい。自分が感じている感覚の名前に名前があることを理解するのは後から実感が追いつくか、他人から指摘されるかだが、俺がどちらも難しそうだ。
特に後者は、一番それをしてくれそうな人をこの手で葬ってしまったのだから。
直視してしまえば狂ってしまいそうな、この感情のことを、なんと呼ぶのですか、勇作さん。
20260506
ただ、あの時母に差し出した鴨と同じでぐったりと動かない。それだけが胸に去来した感覚だった。感覚であって感情ではない。
勇作さんを慕う奴らは、動転して勇作の遺骸を人の壁で囲んで持ち帰ろうとした。遺骸を持ち帰るなんて上等なこと、ここにきてからもそれ以降も見たことがない。それほどに、皆の心の支えだったことが伺える。ただの役職におさまっただけでなく、人心も掌のうちに包み込んでいたというわけだ。
本当にあの父から生まれた子だろうか、と思うくらいの人当たりの良さだった。そこは認めよう。良家に生まれ、周りの大人からは慈しまれて、必要とされて、物質的に恵まれただけでああなるだろうか。一瞬、母の質だろうかとよぎってしまった。それは認めない。認めてしまえば死ぬ以外にないからだ。
丁寧に棺に収められた勇作さんの顔は、帽子と夜闇にまぎれて伺えない。最期の顔は驚愕だろうか、悲しみだろうか、それもと俺が撃ったと察しての怒りだろうか。確かめたかったが、動悸がしてできなかった。
「恨んでおられますか。約束された輝かしい未来を卑しい生まれの兄に邪魔されて」
勇作さんの人となりをうっすらと輪郭づけるやりとりの中で、そんなことはないと返答が来るのだと分かっている卑怯な問いだった。返答が来ない、死体に向けて問いかけているのもまた卑怯だった。
卑怯であることを頭の片隅で理解しつつ、そうでもしないとじわじわと足から血を吸い上げるかのような悪寒を振り払えなかった。これがあなたのいう罪悪感というやつなのか、と呟いたがもちろん返事はない。
棺が置いてあった部屋から寝床に戻りながら、切って落ちた後の爪のように細い月の光が細く差し込む
知り得ない感情の実感を育てるのは難しい。自分が感じている感覚の名前に名前があることを理解するのは後から実感が追いつくか、他人から指摘されるかだが、俺がどちらも難しそうだ。
特に後者は、一番それをしてくれそうな人をこの手で葬ってしまったのだから。
直視してしまえば狂ってしまいそうな、この感情のことを、なんと呼ぶのですか、勇作さん。
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