四ノ宮キコル
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「なに、話って」
精一杯虚勢を張って、自分のことを大きく強く見せようとしている人の声音でキコルは私に凄んでみせた。
テラスで飲食をしても寒くもなく、暑くもない。子供と犬がきゃあきゃあわんわんとじゃれあっている。怪獣という外敵に狙われていないからこそ聞こえる音に安心を覚える。
そんな素敵な季節・状況にそぐわない仕打ちを、キコルは受けた。
戦士として生きる道を選んだならば起こり得ることではあるが、誰もそうならないために、他の誰かもそうならないために戦っている人に対して執行される仕打ちにしては、あまりに……どんな言葉で表すべきか迷うほどの悲痛を耳にして、覚悟の上だろうと断じることすら考えが及ばないほどのものだった。
「長いこと連絡とってなかったから、会いたいかなって」
「ふーん」
つまんなそうな返答が来たが、誘った時の返信は素早かった。キコルは秀才で、美人だったけど尊大で近寄りがたかった。だからか、友達と呼べる人間は本当に少なかったと聞く。
「幼馴染っても、住んでる世界が違いすぎたけど、そういう違う世界の話聞いても楽しんじゃないかな」
「かもね」
テイクアウトのカップを受け取って、歩き出した。水分を失った葉っぱが散っており、季節を感じる。
「……誘ってくれて、うれしかった」
「……キコル、どうした?」
「どうもしてない。うれしかったからうれしいって言った」
「そうなんだろうけど、昔はそんなこと言うやつじゃなかった」
「そういうこと、ちゃんと言ったほうがいいって、わかった」
「そっか。いろんな背景があってそうなったかもだけど、そっちの方が私は好きだな」
「うん。言わないと伝わらないし、言わないで相手が死んじゃうと、私の中に残っちゃってつらかった」
「キコル……」
「だから、そう。息抜きしたかった。パパのこと考えると、やっぱりつらい。から、戦いの匂いがしないやつと会いたかった」
「戦えないこと、時々悔しいしやるせないんだけど、それがプラスになる時もあるんだ」
「あるある。戦う前提とか、害獣を殺す前提がない人ってやっぱり、雰囲気っていうか、空気がやわらかくて……でも、私の周りにあんまりそういう人っていないのよ」
「そうなんだー……」
「そうだよ。だから、会えてうれしかった」
昔はそんなふうに、心が裂けたまま笑える人ではなかった。
裂けたら裂けたまま暴れて、怒りを敵にぶつける鋭さがあった。戦いの場ではそうふるまっているのだろうけど、今その姿は息を潜めている。昔は、戦いの場とそうでない時で切り分けられるような人ではなかった。
大丈夫?とかいう慰めや探りでは、キコルは自らの変化に気づいてもいなさそうだから求める答えは得られないだろう。久しぶりに会ってほぐれるような緊張ではないだろうから、時間をかけて……と思うが、時間をかける分キコルのメンタルが心配だ。
けれど、心配をそのまま見せつけるのは、キコルのためというより自分の安心のためにやっている傾向がある。だから出せない。
歯がゆい私のためらいを知ってか知らずか、同僚のおじさんの話、その他の同僚の話、キコルがとんでもない力を得た話……軽快にキコルは話し続ける。
「キコル、仕事頑張ってんだね」
「まあね」
得意げに笑うキコル。
そう、こうやって自慢げ得意げに笑う子だった。昔と変わらないところを見つけて安心した。テレビで見るキコルは聖女だなんて祭りあげられちゃってるけど、こうして昔の偉そうなくせに、人並みに人恋しがるキコルを見つけることができた。
近況から思い出話、未来の無茶な願望から直近の遊びの予定まで、話し尽くして解散した。戦いの話なんて一つもしなかった。この戦いが終わったら庭付きの家を買って(絶対盛りにしちゃうだろうけど)住もうとか、ケーキを手作りできるくらいの暮らしをしようとか、色々。笑えるくらい能天気で、現実味が薄かった。それでも、明日生きているかもわからない私たちにとって、現実の話なんかしても面白くないからだ。
今度はクリスマスマーケットに行くことにした。これから12月まで、死なないためのおまじない。
20251107
精一杯虚勢を張って、自分のことを大きく強く見せようとしている人の声音でキコルは私に凄んでみせた。
テラスで飲食をしても寒くもなく、暑くもない。子供と犬がきゃあきゃあわんわんとじゃれあっている。怪獣という外敵に狙われていないからこそ聞こえる音に安心を覚える。
そんな素敵な季節・状況にそぐわない仕打ちを、キコルは受けた。
戦士として生きる道を選んだならば起こり得ることではあるが、誰もそうならないために、他の誰かもそうならないために戦っている人に対して執行される仕打ちにしては、あまりに……どんな言葉で表すべきか迷うほどの悲痛を耳にして、覚悟の上だろうと断じることすら考えが及ばないほどのものだった。
「長いこと連絡とってなかったから、会いたいかなって」
「ふーん」
つまんなそうな返答が来たが、誘った時の返信は素早かった。キコルは秀才で、美人だったけど尊大で近寄りがたかった。だからか、友達と呼べる人間は本当に少なかったと聞く。
「幼馴染っても、住んでる世界が違いすぎたけど、そういう違う世界の話聞いても楽しんじゃないかな」
「かもね」
テイクアウトのカップを受け取って、歩き出した。水分を失った葉っぱが散っており、季節を感じる。
「……誘ってくれて、うれしかった」
「……キコル、どうした?」
「どうもしてない。うれしかったからうれしいって言った」
「そうなんだろうけど、昔はそんなこと言うやつじゃなかった」
「そういうこと、ちゃんと言ったほうがいいって、わかった」
「そっか。いろんな背景があってそうなったかもだけど、そっちの方が私は好きだな」
「うん。言わないと伝わらないし、言わないで相手が死んじゃうと、私の中に残っちゃってつらかった」
「キコル……」
「だから、そう。息抜きしたかった。パパのこと考えると、やっぱりつらい。から、戦いの匂いがしないやつと会いたかった」
「戦えないこと、時々悔しいしやるせないんだけど、それがプラスになる時もあるんだ」
「あるある。戦う前提とか、害獣を殺す前提がない人ってやっぱり、雰囲気っていうか、空気がやわらかくて……でも、私の周りにあんまりそういう人っていないのよ」
「そうなんだー……」
「そうだよ。だから、会えてうれしかった」
昔はそんなふうに、心が裂けたまま笑える人ではなかった。
裂けたら裂けたまま暴れて、怒りを敵にぶつける鋭さがあった。戦いの場ではそうふるまっているのだろうけど、今その姿は息を潜めている。昔は、戦いの場とそうでない時で切り分けられるような人ではなかった。
大丈夫?とかいう慰めや探りでは、キコルは自らの変化に気づいてもいなさそうだから求める答えは得られないだろう。久しぶりに会ってほぐれるような緊張ではないだろうから、時間をかけて……と思うが、時間をかける分キコルのメンタルが心配だ。
けれど、心配をそのまま見せつけるのは、キコルのためというより自分の安心のためにやっている傾向がある。だから出せない。
歯がゆい私のためらいを知ってか知らずか、同僚のおじさんの話、その他の同僚の話、キコルがとんでもない力を得た話……軽快にキコルは話し続ける。
「キコル、仕事頑張ってんだね」
「まあね」
得意げに笑うキコル。
そう、こうやって自慢げ得意げに笑う子だった。昔と変わらないところを見つけて安心した。テレビで見るキコルは聖女だなんて祭りあげられちゃってるけど、こうして昔の偉そうなくせに、人並みに人恋しがるキコルを見つけることができた。
近況から思い出話、未来の無茶な願望から直近の遊びの予定まで、話し尽くして解散した。戦いの話なんて一つもしなかった。この戦いが終わったら庭付きの家を買って(絶対盛りにしちゃうだろうけど)住もうとか、ケーキを手作りできるくらいの暮らしをしようとか、色々。笑えるくらい能天気で、現実味が薄かった。それでも、明日生きているかもわからない私たちにとって、現実の話なんかしても面白くないからだ。
今度はクリスマスマーケットに行くことにした。これから12月まで、死なないためのおまじない。
20251107
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