狛恋
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寄ってみても引いてみても、映るのは青白い病人の顔で嫌になる。
年頃の女性が近くに住んでいれば頬紅を買って分け合ったりできたかもしれないけど、この辺りでは女性すら珍しい。
生活費の捻出だって大変な時に言えるわけがない。流行りの紅が欲しいなどと。
「恋雪さん」
「どうしたの」
「これ」
棒状の小さな陶器が狛治さんの大きな手のひらに収まっている。
「……リップ・スティック?」
「そうです。道でご夫人の荷物を持って差し上げたら奥様にって」
「ま、まあ!お、お、奥様にっ?!」
「俺もすごく照れました。本当に夫婦になれるんだな……つて」
「素敵ね、本当に素敵。狛治さんの優しい気持ちが私に巡ってきたのね」
「つけてみてください」
「そ、そうねせっかくだから、奥様にって、言ってくださったのだものね、そのご婦人も」
「ええ」
鏡を覗き込むのがこんなに楽しかったことがあっただろうか?底面を回転させて繰り出し、そっと唇に色をのせてみた。
とたんに顔色がぱっと明るくなり、健康的な印象になった。祝言のときにもこれをつけたい。一番美しかったころの私で、狛治さんと添い遂げる誓いを見せたい、と強く思った。
20260515
お題:手鏡
年頃の女性が近くに住んでいれば頬紅を買って分け合ったりできたかもしれないけど、この辺りでは女性すら珍しい。
生活費の捻出だって大変な時に言えるわけがない。流行りの紅が欲しいなどと。
「恋雪さん」
「どうしたの」
「これ」
棒状の小さな陶器が狛治さんの大きな手のひらに収まっている。
「……リップ・スティック?」
「そうです。道でご夫人の荷物を持って差し上げたら奥様にって」
「ま、まあ!お、お、奥様にっ?!」
「俺もすごく照れました。本当に夫婦になれるんだな……つて」
「素敵ね、本当に素敵。狛治さんの優しい気持ちが私に巡ってきたのね」
「つけてみてください」
「そ、そうねせっかくだから、奥様にって、言ってくださったのだものね、そのご婦人も」
「ええ」
鏡を覗き込むのがこんなに楽しかったことがあっただろうか?底面を回転させて繰り出し、そっと唇に色をのせてみた。
とたんに顔色がぱっと明るくなり、健康的な印象になった。祝言のときにもこれをつけたい。一番美しかったころの私で、狛治さんと添い遂げる誓いを見せたい、と強く思った。
20260515
お題:手鏡
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