狛恋
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「甘やかされたお嬢様、だって言われたわ」
いままでの私なら、誰に言うわけでもなく事実と受け止めてきた言葉を、狛治さんに共有した。赤ちゃんを背負って野菜を売りにきた行商の方がぽつりと吐いた言葉だった。
狛治さんはため息をついて、持っていた繕い物から顔を上げずに返してきた。
「何もわかってない人がいたものですね」
「でも、その方は身体がとっても丈夫で、ずーっとずーっと働き詰めで、夫は遊び暮らしているのにお姑さんにいじめられて……立場は全然違うけど、大変なのよ。とても」
「かわいそうに思いましたか?」
「うーん。かわいそうというか……その人自身が最初から持っているものは、他人からでないと見つけにくいものなのかも、と考えたわ」
当たり前かのように差し出されたお茶は澄んだ緑で、三煎以降の湿気った味じゃない。甘やかされいるといえば、そうだろう。甘やかされる状況を生んだのは、生まれた時からずっとある病であるという理由があるとしても、私のことを大切にしてくれる人が二人もいる。
「そうだわ。狛治さん、狛治さんのことも甘やかそうかしら」
「ええ……。母の記憶は薄いですし、父は病に臥せっていたので……甘やかすと言われても……」
「何か、お願いごと、ないの」
だんだん楽しくなってきた。与えられるだけだった自分にも、何か与えられる予感に胸が躍った。悲しい境遇だった狛治さんにも、あたたかななにかを差し出したいと思った。自分にできるのはそのくらいだと思ったから。
「うーん……」
「まぁ、困っているわ……」
「そうですねぇ……うーん……花火に行ったから……紅葉狩りに……」
照れながらそう言う狛治さんはかわいいけど、それじゃあ(一方的に)甘やかしていることにはならない。甘やかすって、一方的で……相互に与えあっていたらなんだか違うじゃない。
「それじゃあ……私だって楽しいじゃない」
「ダメなんですか?」
「ダメじゃないけど……。なんだか、与えたかったの」
「そんなの」
「そんなのって、どんなのよ」
「……もうたくさん、もらっています」
「えー、全然納得いかないわ!なにも、なにもあげられていないわ……」
「恋雪さんから見たら、そうなんですか?」
心底疑問だ、と言った声色で狛治さんは問いかけてきた。
「そうよ、もらってばかりよ……」
狛治さんは困ったように目線をさまよわせて、ぽつりとつぶやいた。
「そしたら、紅葉狩りの前に……お弁当持って散策しませんか?」
「それが、狛治さんの甘えなら!」
「あ、あまえ……甘えです。甘えです。お弁当一緒に作りましょう。大変なお弁当作りを一緒にするなんて、なんて甘えなんでしょう」
花がほころぶようなやさしい笑顔。雪が溶けるような、生温かい春風のような。そんな柔らかい言葉が合う表情を浮かべるようになってくれて、本当にうれしい。
初めて出会った頃は敵意こそ感じなかったけど、もっと感情が見えにくい人だった。目にも見えないしさわれもしないものだけど、与えられているものがあったらいいな、と思った。
20251114
いままでの私なら、誰に言うわけでもなく事実と受け止めてきた言葉を、狛治さんに共有した。赤ちゃんを背負って野菜を売りにきた行商の方がぽつりと吐いた言葉だった。
狛治さんはため息をついて、持っていた繕い物から顔を上げずに返してきた。
「何もわかってない人がいたものですね」
「でも、その方は身体がとっても丈夫で、ずーっとずーっと働き詰めで、夫は遊び暮らしているのにお姑さんにいじめられて……立場は全然違うけど、大変なのよ。とても」
「かわいそうに思いましたか?」
「うーん。かわいそうというか……その人自身が最初から持っているものは、他人からでないと見つけにくいものなのかも、と考えたわ」
当たり前かのように差し出されたお茶は澄んだ緑で、三煎以降の湿気った味じゃない。甘やかされいるといえば、そうだろう。甘やかされる状況を生んだのは、生まれた時からずっとある病であるという理由があるとしても、私のことを大切にしてくれる人が二人もいる。
「そうだわ。狛治さん、狛治さんのことも甘やかそうかしら」
「ええ……。母の記憶は薄いですし、父は病に臥せっていたので……甘やかすと言われても……」
「何か、お願いごと、ないの」
だんだん楽しくなってきた。与えられるだけだった自分にも、何か与えられる予感に胸が躍った。悲しい境遇だった狛治さんにも、あたたかななにかを差し出したいと思った。自分にできるのはそのくらいだと思ったから。
「うーん……」
「まぁ、困っているわ……」
「そうですねぇ……うーん……花火に行ったから……紅葉狩りに……」
照れながらそう言う狛治さんはかわいいけど、それじゃあ(一方的に)甘やかしていることにはならない。甘やかすって、一方的で……相互に与えあっていたらなんだか違うじゃない。
「それじゃあ……私だって楽しいじゃない」
「ダメなんですか?」
「ダメじゃないけど……。なんだか、与えたかったの」
「そんなの」
「そんなのって、どんなのよ」
「……もうたくさん、もらっています」
「えー、全然納得いかないわ!なにも、なにもあげられていないわ……」
「恋雪さんから見たら、そうなんですか?」
心底疑問だ、と言った声色で狛治さんは問いかけてきた。
「そうよ、もらってばかりよ……」
狛治さんは困ったように目線をさまよわせて、ぽつりとつぶやいた。
「そしたら、紅葉狩りの前に……お弁当持って散策しませんか?」
「それが、狛治さんの甘えなら!」
「あ、あまえ……甘えです。甘えです。お弁当一緒に作りましょう。大変なお弁当作りを一緒にするなんて、なんて甘えなんでしょう」
花がほころぶようなやさしい笑顔。雪が溶けるような、生温かい春風のような。そんな柔らかい言葉が合う表情を浮かべるようになってくれて、本当にうれしい。
初めて出会った頃は敵意こそ感じなかったけど、もっと感情が見えにくい人だった。目にも見えないしさわれもしないものだけど、与えられているものがあったらいいな、と思った。
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