狛恋
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倒れ伏した地面の冷たさに冷や汗が止まらない。喉奥が裂けて、血の咳を誘発する。痛みで頭がいっぱいなのに、なぜか冷静だ。死が常日頃から近くにあったからこそわかる。これはもう助からない。
お父さんは身体が大きくて強いとはいっても、毒に抗うことは難しいようだった。ひどく苦しみながらも、うわごとのように私と狛治さんの名前をつぶやいては、血の混じった咳をしている。ときに、これまた血が混じった吐瀉物を撒き散らしては、まだ諦めきれないのか大きな声を出して助けを求めている。
そんなか細い声を出すような人じゃなかったのに。咳の合間に話す必要がない人だったのに。
「恋雪、大丈夫だからな。もう少しで誰か気づいてくれて奉行所の方がくる。そうしたら……医者にかかろう。な、そのうち狛治も戻って……」
それだけのことを、何度も辛そうに言葉を切りながら伝えてきた。
話す側が咳や喀血しながらだと、こんなにも聞きにくいものなのだと聞く側になって初めて実感した。そのうち、大丈夫だからなという声かけも、咳の音も聞こえなくなった。
木々のざわめく音だけが残る。
私は、声を出すこともできないでいる。なんてことない葉擦れの音なのに、初めて一人で聞いたからか恐ろしいことのように思えて、小さく狛治さんの名前を呼んだ。お父様のお墓参りに行くといっていたからまだ戻らないのはわかっているけど、狛治さんならもしかしたら、助けにきてくれているかもしれないなんて思ってしまった。
私とお父さんが吐き散らかした血の池ができてしまった。
狛治さん、びっくりしちゃうかしら。こんなことになっちゃって。
強く生きて、自分を見失わずに元気でいてと願うけれど、その願いの中に私がいないことが悲しくて仕方がなくて、涙がこぼれた。本当は私がいなくても元気でいて、と思いたいけど、草子や演劇では、自分が死んだ後残される人の幸せを願うのが綺麗に見えたけど、いまはそんなこと想像すらしたくなくて。
大好きな人が、私以外の人と……なんて今際の際に考えることじゃないと思う。
お腹がジリジリと痛む。
自分がもう助からないことより、狛治さんのことばかり気にかかる。目を見て、すぐには難しいかもしれないけど、切り替えて進んでと遺したかった。ついさっきまで私がいない世界のことなんて考えたくなかったけど、もう本当に少しも助かりようがないとわかると途端に、遺す人の安寧を願いたくなる。道場の土地を売って、別のところでゆっくり暮らして、そして……時には、私たちのお墓参りをしてくれたら……少しは浮かばれるかもしれない。
あの世で再会、なんていう都合の良い物語のことを信じたくなる。こんなあっけない、せっかく見つけた愛する人と引き離されるなんて、酷すぎる。せめてそのくらいは、信じていたい。この恐ろしい苦痛と引き換えにそれくらいは、
20250825
お父さんは身体が大きくて強いとはいっても、毒に抗うことは難しいようだった。ひどく苦しみながらも、うわごとのように私と狛治さんの名前をつぶやいては、血の混じった咳をしている。ときに、これまた血が混じった吐瀉物を撒き散らしては、まだ諦めきれないのか大きな声を出して助けを求めている。
そんなか細い声を出すような人じゃなかったのに。咳の合間に話す必要がない人だったのに。
「恋雪、大丈夫だからな。もう少しで誰か気づいてくれて奉行所の方がくる。そうしたら……医者にかかろう。な、そのうち狛治も戻って……」
それだけのことを、何度も辛そうに言葉を切りながら伝えてきた。
話す側が咳や喀血しながらだと、こんなにも聞きにくいものなのだと聞く側になって初めて実感した。そのうち、大丈夫だからなという声かけも、咳の音も聞こえなくなった。
木々のざわめく音だけが残る。
私は、声を出すこともできないでいる。なんてことない葉擦れの音なのに、初めて一人で聞いたからか恐ろしいことのように思えて、小さく狛治さんの名前を呼んだ。お父様のお墓参りに行くといっていたからまだ戻らないのはわかっているけど、狛治さんならもしかしたら、助けにきてくれているかもしれないなんて思ってしまった。
私とお父さんが吐き散らかした血の池ができてしまった。
狛治さん、びっくりしちゃうかしら。こんなことになっちゃって。
強く生きて、自分を見失わずに元気でいてと願うけれど、その願いの中に私がいないことが悲しくて仕方がなくて、涙がこぼれた。本当は私がいなくても元気でいて、と思いたいけど、草子や演劇では、自分が死んだ後残される人の幸せを願うのが綺麗に見えたけど、いまはそんなこと想像すらしたくなくて。
大好きな人が、私以外の人と……なんて今際の際に考えることじゃないと思う。
お腹がジリジリと痛む。
自分がもう助からないことより、狛治さんのことばかり気にかかる。目を見て、すぐには難しいかもしれないけど、切り替えて進んでと遺したかった。ついさっきまで私がいない世界のことなんて考えたくなかったけど、もう本当に少しも助かりようがないとわかると途端に、遺す人の安寧を願いたくなる。道場の土地を売って、別のところでゆっくり暮らして、そして……時には、私たちのお墓参りをしてくれたら……少しは浮かばれるかもしれない。
あの世で再会、なんていう都合の良い物語のことを信じたくなる。こんなあっけない、せっかく見つけた愛する人と引き離されるなんて、酷すぎる。せめてそのくらいは、信じていたい。この恐ろしい苦痛と引き換えにそれくらいは、
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