山田一郎
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レースカーテンを引くように、地面を叩く雨音がしない程度の霧雨がいつのまにか降り始めていた。
私の傘はめじるしチャームを付けていたにも関わらず誰かに盗まれてしまったようで、傘立てにはなかった。ほんの十分コンビニに寄っただけなのに。
深夜まで働いてこの仕打ち。冷めていくコンビニ惣菜が悲しさを倍増させる。
カレシに電話して迎えに来てもらっちゃお⭐︎と素直に甘えられるなら苦労はしない。あっちだって忙しいんだとか、傘くらい買って帰ればいいかとか。
「敦子さんじゃん。傘ないの」
「二郎くんじゃん。どうしたのこんな夜中に」
「それが、三郎が熱出しちゃってさ。お買い物」
がさがさと袋を開いて、ドラッグストアで買ったらしい冷えピタと市販薬が入っていた。
「そうだったんだ」
「傘ないなら兄貴呼んで一緒に帰ればいいのに。最近会ってないんでしょ?」
「三郎くんが熱出してるのにそうもいかないでしょ」
「そうかー。じゃあ俺と一緒に帰って兄貴と会ったら? ちょっとでも話せるとうれしいでしょ?」
「二郎くん……。三人にアイス買ったら食べるかな」
「食べる食べる! 三郎もすぐ熱下がるって。アイスで冷やされるって!」
「そうだといいな」
「敦子さん、こんな時間まで仕事なの?」
「うん。なんかうまくいかなくてさ」
「お疲れさま。お金稼ぐって大変だよな。いちにいもコクミンネンキン?がなにか〜とか言って困ってる」
「そうなんだ。個人事業主の大変なところだね」
「大変だけど、めっっちゃ大変だけど、楽しい。いちにいと……三郎と一緒にいられて」
「素敵なことだね」
「敦子さんは、仕事楽しい?」
「まあ……ほどほどだね」
「そっかあ。大変だけど、トータルで考えると許せるって感じね」
「そんな感じ」
「いいねー」
この山田兄弟と話していると、不思議と煮詰まった考えが整理される。ずいぶん年下の三郎くんと話していてもこうだから、上手なんだろう。話が。
「ただいまー」
「おじゃましますー……」
「あ、敦子さん!」
「なんだよ!三郎、ピンピンしてやんの」
「熱が高すぎてハイになってるだけだ。ピンピンはしてない」
「敦子さん!!いらっしゃい!!!早くあがって!!!」
こういうところはまだ三郎くんは子供らしいところがある。いつもより饒舌で、アイスを二本食べたうえで、言葉は遠慮しつつ私の買ったカツ丼に熱視線を送っていたのであげたら、すぐ食べていた。最近の学校のこと、ラップバトルのことなど息つく暇もなく話をしてくれた。
「わりぃな、敦子。三郎がせっかくのご飯食べちゃって。いまなんか用意するからな」
「ありがとう。でもそんな頑張らなくていいからね」
「レタスとたまごのチャーハンにしようと思う」
「えっ!」
「えっ!?」
お風呂に入ってさあ寝るか、となっていた二郎くん三郎くんだったが、メニューを聞いて目を輝かせている。食べ盛りってすごい。
「お前らはもう食べただろ! 特に三郎、お前はさっきまでおかゆだったのに」
「でもー」
「明日チンして食べれるようにしとくから」
納得した様子で、二人は寝室に去っていった。三郎くんは相当眠そうにしていたのにレタスたまごチャーハンと聞いてあんなにキラキラした目をしたのだから相当おいしいのだろう。実際、一郎くんのご飯はおいしい。
「できたぞ」
「わーい」
ほかほかと湯気が立っているレタスとたまごのチャーハン。
しばしご飯をかきこむ。久しぶりに会えた恋人ではあるが、空腹には勝てない。もひもひとご飯をかきこむだけなのに、なぜか視線を感じる。
「久しぶりだな」
「んん」
「目の下すげえクマ。どうせ寝てないんだろ」
「んん」
「今日は泊まってけよ。ちょうど布団干したんだ」
「んん!」
「ごめんな食事中に。ちゃんと女子っぽい寝間着もあるから」
「ありがとう! チャーハンめちゃくちゃおいしかったよ……」
やっと食べ終え、会話ができる。久しぶりに会った一郎くんはちょっと疲れた様子だけど変わりない。
「元気してた?」
「まあな」
いろいろと言葉を交わそうとしたが、目を見てしまったら考えていたことは思い出せなくなってしまった。そんなにたくさんの言葉は必要ないのかもしれない。
「お風呂入れなおしたから、入ってこいよ」
「え! 残り湯でよかったのに」
「いや、そういうわけにはいかないって」
「ありがとね」
山田家の風呂場は狭いけど、綺麗に掃除されている。ひとが入れてくれたお風呂に入るのはいつぶりだろう。熱めのお湯が冷えた身体をほぐしてくれる。
一郎くんが選んだ「女子っぽい寝間着」というのはこういうものなんだな、とわかった。モコモコで、薄いピンク色。そんでもってモコモコの靴下。
一郎くんが襖をそーっと引いて、一番手前側の布団を示してくれた。本当は三人川の字で寝ている中に無理やり敷いたのだろう。かなり密集している。
奥から、穏やかな寝息をたてる三郎くん。掃除機みたいな寝息をたてる二郎くん。そして一郎くん。
「二郎のイビキやべえんだよ。これ耳栓」
「おお……!修学旅行みたい」
二郎くんの寝言を聞きつつ、三郎くんの額に手を当てる一郎くん。熱はだいぶ下がったらしい。
「……また別の機会作って、ちゃんと会おうぜ」
「そうだね」
「忙しいけど、時間は作るから」
「うん。わたしもそうする」
「よし、それが共通認識ならいいな。寝よう」
ニカッ、と効果音がつきそうなほどの晴れやかな笑みであることが、街頭の光が差し込むだけの部屋でもわかる。この笑顔はひとを安心させる力があるように思える。あー大好きだなーって、またちゃんと実感できる。
布団をかぶせられて、唇にぬるい感触。すぐに布団が剥がされてそっぽむいて寝てしまった。耳が赤いのが隠しきれていなくてかわいい。
窓の外を叩く雨粒は止む気配はない。けど、雨の日も、そう悪くない。
私の傘はめじるしチャームを付けていたにも関わらず誰かに盗まれてしまったようで、傘立てにはなかった。ほんの十分コンビニに寄っただけなのに。
深夜まで働いてこの仕打ち。冷めていくコンビニ惣菜が悲しさを倍増させる。
カレシに電話して迎えに来てもらっちゃお⭐︎と素直に甘えられるなら苦労はしない。あっちだって忙しいんだとか、傘くらい買って帰ればいいかとか。
「敦子さんじゃん。傘ないの」
「二郎くんじゃん。どうしたのこんな夜中に」
「それが、三郎が熱出しちゃってさ。お買い物」
がさがさと袋を開いて、ドラッグストアで買ったらしい冷えピタと市販薬が入っていた。
「そうだったんだ」
「傘ないなら兄貴呼んで一緒に帰ればいいのに。最近会ってないんでしょ?」
「三郎くんが熱出してるのにそうもいかないでしょ」
「そうかー。じゃあ俺と一緒に帰って兄貴と会ったら? ちょっとでも話せるとうれしいでしょ?」
「二郎くん……。三人にアイス買ったら食べるかな」
「食べる食べる! 三郎もすぐ熱下がるって。アイスで冷やされるって!」
「そうだといいな」
「敦子さん、こんな時間まで仕事なの?」
「うん。なんかうまくいかなくてさ」
「お疲れさま。お金稼ぐって大変だよな。いちにいもコクミンネンキン?がなにか〜とか言って困ってる」
「そうなんだ。個人事業主の大変なところだね」
「大変だけど、めっっちゃ大変だけど、楽しい。いちにいと……三郎と一緒にいられて」
「素敵なことだね」
「敦子さんは、仕事楽しい?」
「まあ……ほどほどだね」
「そっかあ。大変だけど、トータルで考えると許せるって感じね」
「そんな感じ」
「いいねー」
この山田兄弟と話していると、不思議と煮詰まった考えが整理される。ずいぶん年下の三郎くんと話していてもこうだから、上手なんだろう。話が。
「ただいまー」
「おじゃましますー……」
「あ、敦子さん!」
「なんだよ!三郎、ピンピンしてやんの」
「熱が高すぎてハイになってるだけだ。ピンピンはしてない」
「敦子さん!!いらっしゃい!!!早くあがって!!!」
こういうところはまだ三郎くんは子供らしいところがある。いつもより饒舌で、アイスを二本食べたうえで、言葉は遠慮しつつ私の買ったカツ丼に熱視線を送っていたのであげたら、すぐ食べていた。最近の学校のこと、ラップバトルのことなど息つく暇もなく話をしてくれた。
「わりぃな、敦子。三郎がせっかくのご飯食べちゃって。いまなんか用意するからな」
「ありがとう。でもそんな頑張らなくていいからね」
「レタスとたまごのチャーハンにしようと思う」
「えっ!」
「えっ!?」
お風呂に入ってさあ寝るか、となっていた二郎くん三郎くんだったが、メニューを聞いて目を輝かせている。食べ盛りってすごい。
「お前らはもう食べただろ! 特に三郎、お前はさっきまでおかゆだったのに」
「でもー」
「明日チンして食べれるようにしとくから」
納得した様子で、二人は寝室に去っていった。三郎くんは相当眠そうにしていたのにレタスたまごチャーハンと聞いてあんなにキラキラした目をしたのだから相当おいしいのだろう。実際、一郎くんのご飯はおいしい。
「できたぞ」
「わーい」
ほかほかと湯気が立っているレタスとたまごのチャーハン。
しばしご飯をかきこむ。久しぶりに会えた恋人ではあるが、空腹には勝てない。もひもひとご飯をかきこむだけなのに、なぜか視線を感じる。
「久しぶりだな」
「んん」
「目の下すげえクマ。どうせ寝てないんだろ」
「んん」
「今日は泊まってけよ。ちょうど布団干したんだ」
「んん!」
「ごめんな食事中に。ちゃんと女子っぽい寝間着もあるから」
「ありがとう! チャーハンめちゃくちゃおいしかったよ……」
やっと食べ終え、会話ができる。久しぶりに会った一郎くんはちょっと疲れた様子だけど変わりない。
「元気してた?」
「まあな」
いろいろと言葉を交わそうとしたが、目を見てしまったら考えていたことは思い出せなくなってしまった。そんなにたくさんの言葉は必要ないのかもしれない。
「お風呂入れなおしたから、入ってこいよ」
「え! 残り湯でよかったのに」
「いや、そういうわけにはいかないって」
「ありがとね」
山田家の風呂場は狭いけど、綺麗に掃除されている。ひとが入れてくれたお風呂に入るのはいつぶりだろう。熱めのお湯が冷えた身体をほぐしてくれる。
一郎くんが選んだ「女子っぽい寝間着」というのはこういうものなんだな、とわかった。モコモコで、薄いピンク色。そんでもってモコモコの靴下。
一郎くんが襖をそーっと引いて、一番手前側の布団を示してくれた。本当は三人川の字で寝ている中に無理やり敷いたのだろう。かなり密集している。
奥から、穏やかな寝息をたてる三郎くん。掃除機みたいな寝息をたてる二郎くん。そして一郎くん。
「二郎のイビキやべえんだよ。これ耳栓」
「おお……!修学旅行みたい」
二郎くんの寝言を聞きつつ、三郎くんの額に手を当てる一郎くん。熱はだいぶ下がったらしい。
「……また別の機会作って、ちゃんと会おうぜ」
「そうだね」
「忙しいけど、時間は作るから」
「うん。わたしもそうする」
「よし、それが共通認識ならいいな。寝よう」
ニカッ、と効果音がつきそうなほどの晴れやかな笑みであることが、街頭の光が差し込むだけの部屋でもわかる。この笑顔はひとを安心させる力があるように思える。あー大好きだなーって、またちゃんと実感できる。
布団をかぶせられて、唇にぬるい感触。すぐに布団が剥がされてそっぽむいて寝てしまった。耳が赤いのが隠しきれていなくてかわいい。
窓の外を叩く雨粒は止む気配はない。けど、雨の日も、そう悪くない。
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