土井半助
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「私、言ったじゃない。婚礼衣装なんて一度着るだけだし、食べ物や道具の方がいいって」
この戦が絶えない状況で、贅沢品であることは間違いない、金糸を使った着物が蝶が羽を広げるように狭っ苦しい長屋に鎮座している。
金品より持ち運びがしやすい上に価値があるから、追われて逃げるときには便利、という視点ももちろんあるけど、今絶対に必要というわけではない。
「でも、私がそうしたかったんだ。いうこと聞かなくてごめんね、敦子」
「べ、別に嫌だっていうわけではなくて……うれしいのですけど……」
「この後も、きっとものすごい贅沢はさせてあげられないと思うんだ。だからこんな時くらいは豪勢にしたいし、それに私に何かあったときに」
「だめ」
「でも、いざというときの話はしておかないと」
「いや」
「……また今度にしようか」
「そうしましょう」
先延ばしにしていても、いつかその時は来てしまうかもしれない。けど、こんな素敵な衣装を前にしてすることじゃないと私は思う。
橙色の衣装は日暮を前にして、薄く差し込む西陽を浴びてその表情を変えてゆく。
「綺麗な着物」
「気に入ってくれたならうれしいよ」
「半助さんに、返せるかしら。こんな素敵な着物もくれたし、誰に強制されるわけでもなく、好きな人と結ばれて」
「……もうたくさん、もらったよ」
「え? 何、いつ?どんな時?」
「え何?!なんて食いついてくるうちは教えてあげません!」
「だって全然心当たりがない」
「鈍感」
「む。半助さんに言われたくない」
そんな犬も食わない言い合いをして、繕い物が途中だったのを思い出した。
手仕事に集中していると余計なことを考えないから好き。果たしていつ私が半助さんに何を与えることができただろう。本当に思い当たる節がない。守られて、助けられて、大切にされて。私の特技なんて、按摩《あんま》が少々うまいくらい。でも半助さんは満足そうに書物に目を落としている。
私だけわかってないなんて、なんとなく落ち着かないけど聞き出してみたって言わないことなんだと思う。
「一応聞きますけど、聞いても答えてくださらないでしょう?」
「そりゃもちろん」
と、涼しい顔。
本当は私ばっかりもらっているようで不安だからすぐに知りたいのだけど、だめみたいだから自分でわかるようになるしかない。じっと見つめてみても気づいているのに知らんぷりするし。
いつかわかるようになるかしら。
この戦が絶えない状況で、贅沢品であることは間違いない、金糸を使った着物が蝶が羽を広げるように狭っ苦しい長屋に鎮座している。
金品より持ち運びがしやすい上に価値があるから、追われて逃げるときには便利、という視点ももちろんあるけど、今絶対に必要というわけではない。
「でも、私がそうしたかったんだ。いうこと聞かなくてごめんね、敦子」
「べ、別に嫌だっていうわけではなくて……うれしいのですけど……」
「この後も、きっとものすごい贅沢はさせてあげられないと思うんだ。だからこんな時くらいは豪勢にしたいし、それに私に何かあったときに」
「だめ」
「でも、いざというときの話はしておかないと」
「いや」
「……また今度にしようか」
「そうしましょう」
先延ばしにしていても、いつかその時は来てしまうかもしれない。けど、こんな素敵な衣装を前にしてすることじゃないと私は思う。
橙色の衣装は日暮を前にして、薄く差し込む西陽を浴びてその表情を変えてゆく。
「綺麗な着物」
「気に入ってくれたならうれしいよ」
「半助さんに、返せるかしら。こんな素敵な着物もくれたし、誰に強制されるわけでもなく、好きな人と結ばれて」
「……もうたくさん、もらったよ」
「え? 何、いつ?どんな時?」
「え何?!なんて食いついてくるうちは教えてあげません!」
「だって全然心当たりがない」
「鈍感」
「む。半助さんに言われたくない」
そんな犬も食わない言い合いをして、繕い物が途中だったのを思い出した。
手仕事に集中していると余計なことを考えないから好き。果たしていつ私が半助さんに何を与えることができただろう。本当に思い当たる節がない。守られて、助けられて、大切にされて。私の特技なんて、按摩《あんま》が少々うまいくらい。でも半助さんは満足そうに書物に目を落としている。
私だけわかってないなんて、なんとなく落ち着かないけど聞き出してみたって言わないことなんだと思う。
「一応聞きますけど、聞いても答えてくださらないでしょう?」
「そりゃもちろん」
と、涼しい顔。
本当は私ばっかりもらっているようで不安だからすぐに知りたいのだけど、だめみたいだから自分でわかるようになるしかない。じっと見つめてみても気づいているのに知らんぷりするし。
いつかわかるようになるかしら。