雑渡昆奈門
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喉の奥から絞りだしたような微かなうめき声で目が覚めた。
いつもならこんな小さな音には気づかないのだけど、この苦しそうな声だけは逃すことができない。
自分の肉体が燃えていくところは、どれだけ精神的にも肉体的にも鍛え上げたとしても悪夢となりうるらしい。
呼吸が荒く、今にも飛び起きてきそうなものだがなかなか目覚めることができずうわごとを繰り返している。
あつい、とか、お前は逃げろ、とか。
桶に冷たい水を汲んで手拭いを冷やして絞る。そしてやっと肩をゆすって起こした。
「起きてくださいまし、ねぇあなた、おきて」
「…………敦子か……」
「起こしてくれてありがとう、でしょうが」
「ありがとう……」
軽口にも抵抗できず感謝の言葉をこぼすあたり、今日のは特別凹んでそうだ。
「ほら、汗をぬぐったらどうです」
少し水がしたたる手拭いを頬に当ててやっても手が震えてうまくぬぐえないらしいので、首と顔だけぬぐってやったが、すぐに熱くなってしまった。眠たいだけならいいけど。
「起こしてすまなかった、やかましかったか」
「いえ、なんだかこの、うなされてるときは目が覚めてしまうんです」
「そうか……」
小さく震える手を両手で包んでやっても、震えは止まらない。汗で冷たくなった手に温かさが戻ってくるまで天気の話だとか季節の話だとか、当たり障りのない話をした。
ここで彼に起きたことなんか掘り返しても癒されることなんてないし、受け止め切れる自信もない。
「眠れそうでしょうか?」
「いや、まだ難しそうだ。敦子は先に寝てくれ」
「そう、まだ寝れないのでしたら月見でもしましょうか」
「……あぁ」
忍の居室に大きく開いた窓はない。
ただ、通気口から差し込む月明かりを眺めるだけなのだけど、私は結構この時間が好きだ。
あまり共寝をするのは好きではないのだけど、このときだけは何を言うわけでもなく懐に潜り込む。
「あったかい」
「そりゃあ、お前が俺の布団を奪ってるからなあ……」
「あら、うふふ」
「うふふじゃない。全く、お前の布団をもってこい」
「いや、もう眠たいもの」
結局布団をとりにいってくれるのだから、あの人も大概私に甘い。
やがて微かに安らかな寝息が聞こえてきてやっと安心して眠りにつける。守るものがあると頑張ってしまうひとだから、他人より死が身近なひとだからなるべく踏み入らないつもりだったけど、なんだかだめみたい。
彼も私のことを大切にしてくれるし、私も彼のことを目にかけている。
なるべくこの時が続くように、彼の眠りが安らかであるよう祈りながら眠りにつく。祈りが、自分の心をなだらかにする以外に作用しないとわかっていたとしても。
20250105
いつもならこんな小さな音には気づかないのだけど、この苦しそうな声だけは逃すことができない。
自分の肉体が燃えていくところは、どれだけ精神的にも肉体的にも鍛え上げたとしても悪夢となりうるらしい。
呼吸が荒く、今にも飛び起きてきそうなものだがなかなか目覚めることができずうわごとを繰り返している。
あつい、とか、お前は逃げろ、とか。
桶に冷たい水を汲んで手拭いを冷やして絞る。そしてやっと肩をゆすって起こした。
「起きてくださいまし、ねぇあなた、おきて」
「…………敦子か……」
「起こしてくれてありがとう、でしょうが」
「ありがとう……」
軽口にも抵抗できず感謝の言葉をこぼすあたり、今日のは特別凹んでそうだ。
「ほら、汗をぬぐったらどうです」
少し水がしたたる手拭いを頬に当ててやっても手が震えてうまくぬぐえないらしいので、首と顔だけぬぐってやったが、すぐに熱くなってしまった。眠たいだけならいいけど。
「起こしてすまなかった、やかましかったか」
「いえ、なんだかこの、うなされてるときは目が覚めてしまうんです」
「そうか……」
小さく震える手を両手で包んでやっても、震えは止まらない。汗で冷たくなった手に温かさが戻ってくるまで天気の話だとか季節の話だとか、当たり障りのない話をした。
ここで彼に起きたことなんか掘り返しても癒されることなんてないし、受け止め切れる自信もない。
「眠れそうでしょうか?」
「いや、まだ難しそうだ。敦子は先に寝てくれ」
「そう、まだ寝れないのでしたら月見でもしましょうか」
「……あぁ」
忍の居室に大きく開いた窓はない。
ただ、通気口から差し込む月明かりを眺めるだけなのだけど、私は結構この時間が好きだ。
あまり共寝をするのは好きではないのだけど、このときだけは何を言うわけでもなく懐に潜り込む。
「あったかい」
「そりゃあ、お前が俺の布団を奪ってるからなあ……」
「あら、うふふ」
「うふふじゃない。全く、お前の布団をもってこい」
「いや、もう眠たいもの」
結局布団をとりにいってくれるのだから、あの人も大概私に甘い。
やがて微かに安らかな寝息が聞こえてきてやっと安心して眠りにつける。守るものがあると頑張ってしまうひとだから、他人より死が身近なひとだからなるべく踏み入らないつもりだったけど、なんだかだめみたい。
彼も私のことを大切にしてくれるし、私も彼のことを目にかけている。
なるべくこの時が続くように、彼の眠りが安らかであるよう祈りながら眠りにつく。祈りが、自分の心をなだらかにする以外に作用しないとわかっていたとしても。
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