綾部喜八郎
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※死ぬ話です
ある暑い夏の日のことでした。ジイジイと蝉が絶え間なく鳴いて、肌を刺す太陽の光の刺激がうっとおしい日……忘れようとしても忘れられない日になってしまいました。
いつもだれかが罠にハマってしまったときは、笑い事になっていました。またハマっちゃったね、修行が足りないなとかなんとか言って。
ごぎゃ、と聞きなれない音が聞こえてあわてて穴を覗いたら、敦子が落ちていました。敦子は腰から下が動かないとこれまたあわてた様子で言っていました。
穴から敦子をどうにか出したものの、くのいちとして働くどころか立ち上がることすらままならなくなった敦子は、持ち前の明るさをどんどん失っていった。
何をしても楽しくなさそうに目を逸らし、あれだけ好きだった本も、花も、絵も。何にも興味を示さなくなっていった。
舶来の絵の具にも、図書委員会から借りてきた本も、何にも目を向けてくれない。まるで、借りを作りたくないといわんばかりに。
「敦子、この花は嫌いだった?昔は好きだった気がしたんだけど」
「……自分でつみにいくのが好きだったんだ、ってわかったんだよね。……喜八郎、もういいよ。私のことは不運な事故だったんだから。世話なんかしないでいいし、責任感じることないよ」
「いや、責任っていうよりさぁ……シンプルに原因は僕にあるし、その、だって、付き合ってた彼女が僕のせいで怪我して……何かさせてよ……」
「かわいそう。そんなに落ち込んで。すぐに治るから心配することないよ。きっと。また元のように花を摘んだりピクニックしにいったりしようね」
「うん……!」
本当は、少しだけ治って欲しくなかった。
敦子は僕に興味がないけど、僕が必死に追い縋ったからお情けで付き合ってくれているだけだってわかってる。だからこうして、僕が何かしてやらないと何もできない敦子の状況がうれしくないといったら嘘になる。
敦子が、僕のこと信頼して笑いかけてくれるのが何よりうれしい。
青々と繁った葉っぱが散り、雪が溶けてまた夏がきても、敦子は歩けるようになりませんでした。
だんだん僕のほどこしを受け入れるようになってくれて、そして生きる気力を失っていくみたいで、みるみるうちにやつれていってしまいました。
ご飯を残すようになり、立ち上がるどころか床から身体を起こすことすらできなくなってしまいました。
なんの感慨もなく、縁側に横たわり空を眺めている敦子に、布団をかけてやっても声をかけても、「ありがとう」と言ってはくれるものの、実が入っている言葉ではありませんでした。
「敦子、ごめんね。僕が敦子のこと、殺しちゃったんだ」
淀んだ目線が、僕の姿を捉える。その瞳に宿っている気持ちの正体を知りたくなんかない。
「……うん。まぁ結果的にはそうなるね……。私が死んでしまった方が、喜八郎には都合がいいから、別に気にすることじゃないでしょ」
「な……、何言ってるの、敦子」
「お前がここを卒業するころには嫁をとる歳になる。その前に私みたいなお前の創がいなくなっていたほうが都合がいいだろう」
「死ぬなんて言わないでよ……敦子が僕のお嫁さんになってくれればいいじゃん」
真意を話すとき、僕はいやらしい顔でもしていたんだろうか。敦子は嫌悪を隠そうともせず、僕を睨めつけた。
「いやだ。私のこと、罠に嵌めて自由を奪って娶るような男。情けなくて」
「そ、そんなこと、違うよ。敦子のことわざと落としたって思ってるの」
「そうだよ。そうでもしないと、っていう自信のなさがにじみでてた」
「敦子、」
「何か反論できるの?」
「……」
敦子の気迫に押されて何も言えずに、僕は敦子の居室を後にした。あの、僕を心底恨んでいる、といった目が、僕が考えていたことが全てばれていたことが恐ろしくて逃げ出した。
敦子は、その日から数日後に亡くなった。
お医者様によると、毒をあおったでもなく、自死を選んだでもないという。
周りは敦子を甲斐甲斐しく世話していたところしか見えていないから、僕のことをなぐさめてくれたけど、僕は夏がくるたびに思い出す。敦子が穴に落ちて、敦子の命の灯火を吹き消した穴のことを。
敦子の墓は、僕が掘った。
石に敦子の名前を掘り込んで、その下に敦子の遺体を埋めた。
死してなお亡骸を僕に奪われ、僕が掘った墓穴で骨になっていく敦子、泣いてるかな。それとも、僕が世話してくれたことを思い出して許してくれるかな。僕が、敦子のこと好きだって言ったときのこと、思い出してくれているかな。
敦子、大好きなのは疑わないでほしい。なつかしく髪も頬もいまは冷たい土の下。触れた墓石も冷たい。
僕だけ敦子の死を受け入れられずに、ずっとあの夏に取り残されているみたいだ。
ジイジイと耳の中から聞こえる。蝉の声。
20250802
墓参りオンリーイベント「あなたに会いにきました 2」書き下ろし作品
ある暑い夏の日のことでした。ジイジイと蝉が絶え間なく鳴いて、肌を刺す太陽の光の刺激がうっとおしい日……忘れようとしても忘れられない日になってしまいました。
いつもだれかが罠にハマってしまったときは、笑い事になっていました。またハマっちゃったね、修行が足りないなとかなんとか言って。
ごぎゃ、と聞きなれない音が聞こえてあわてて穴を覗いたら、敦子が落ちていました。敦子は腰から下が動かないとこれまたあわてた様子で言っていました。
穴から敦子をどうにか出したものの、くのいちとして働くどころか立ち上がることすらままならなくなった敦子は、持ち前の明るさをどんどん失っていった。
何をしても楽しくなさそうに目を逸らし、あれだけ好きだった本も、花も、絵も。何にも興味を示さなくなっていった。
舶来の絵の具にも、図書委員会から借りてきた本も、何にも目を向けてくれない。まるで、借りを作りたくないといわんばかりに。
「敦子、この花は嫌いだった?昔は好きだった気がしたんだけど」
「……自分でつみにいくのが好きだったんだ、ってわかったんだよね。……喜八郎、もういいよ。私のことは不運な事故だったんだから。世話なんかしないでいいし、責任感じることないよ」
「いや、責任っていうよりさぁ……シンプルに原因は僕にあるし、その、だって、付き合ってた彼女が僕のせいで怪我して……何かさせてよ……」
「かわいそう。そんなに落ち込んで。すぐに治るから心配することないよ。きっと。また元のように花を摘んだりピクニックしにいったりしようね」
「うん……!」
本当は、少しだけ治って欲しくなかった。
敦子は僕に興味がないけど、僕が必死に追い縋ったからお情けで付き合ってくれているだけだってわかってる。だからこうして、僕が何かしてやらないと何もできない敦子の状況がうれしくないといったら嘘になる。
敦子が、僕のこと信頼して笑いかけてくれるのが何よりうれしい。
青々と繁った葉っぱが散り、雪が溶けてまた夏がきても、敦子は歩けるようになりませんでした。
だんだん僕のほどこしを受け入れるようになってくれて、そして生きる気力を失っていくみたいで、みるみるうちにやつれていってしまいました。
ご飯を残すようになり、立ち上がるどころか床から身体を起こすことすらできなくなってしまいました。
なんの感慨もなく、縁側に横たわり空を眺めている敦子に、布団をかけてやっても声をかけても、「ありがとう」と言ってはくれるものの、実が入っている言葉ではありませんでした。
「敦子、ごめんね。僕が敦子のこと、殺しちゃったんだ」
淀んだ目線が、僕の姿を捉える。その瞳に宿っている気持ちの正体を知りたくなんかない。
「……うん。まぁ結果的にはそうなるね……。私が死んでしまった方が、喜八郎には都合がいいから、別に気にすることじゃないでしょ」
「な……、何言ってるの、敦子」
「お前がここを卒業するころには嫁をとる歳になる。その前に私みたいなお前の創がいなくなっていたほうが都合がいいだろう」
「死ぬなんて言わないでよ……敦子が僕のお嫁さんになってくれればいいじゃん」
真意を話すとき、僕はいやらしい顔でもしていたんだろうか。敦子は嫌悪を隠そうともせず、僕を睨めつけた。
「いやだ。私のこと、罠に嵌めて自由を奪って娶るような男。情けなくて」
「そ、そんなこと、違うよ。敦子のことわざと落としたって思ってるの」
「そうだよ。そうでもしないと、っていう自信のなさがにじみでてた」
「敦子、」
「何か反論できるの?」
「……」
敦子の気迫に押されて何も言えずに、僕は敦子の居室を後にした。あの、僕を心底恨んでいる、といった目が、僕が考えていたことが全てばれていたことが恐ろしくて逃げ出した。
敦子は、その日から数日後に亡くなった。
お医者様によると、毒をあおったでもなく、自死を選んだでもないという。
周りは敦子を甲斐甲斐しく世話していたところしか見えていないから、僕のことをなぐさめてくれたけど、僕は夏がくるたびに思い出す。敦子が穴に落ちて、敦子の命の灯火を吹き消した穴のことを。
敦子の墓は、僕が掘った。
石に敦子の名前を掘り込んで、その下に敦子の遺体を埋めた。
死してなお亡骸を僕に奪われ、僕が掘った墓穴で骨になっていく敦子、泣いてるかな。それとも、僕が世話してくれたことを思い出して許してくれるかな。僕が、敦子のこと好きだって言ったときのこと、思い出してくれているかな。
敦子、大好きなのは疑わないでほしい。なつかしく髪も頬もいまは冷たい土の下。触れた墓石も冷たい。
僕だけ敦子の死を受け入れられずに、ずっとあの夏に取り残されているみたいだ。
ジイジイと耳の中から聞こえる。蝉の声。
20250802
墓参りオンリーイベント「あなたに会いにきました 2」書き下ろし作品
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