山田利吉
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春、というならこんな日を指す。そんなうららかな日に人は飽きずに争いを続けている。はらはらと散りゆく桜には誰も眼を向けず、ただ目の前の敵を排除することに躍起になっている。
排除したとして、何になるともわからないままただ家族を守るために武器を振るう兵たちのむなしいこと。
戦況を伝えるためのアルバイトに勤しむ利吉を横目に、私はぼんやりと桜を眺めていた。
「桜も、ひとも、何にもならないのにどうしてこんなに懸命になれるのかしらね。咲いても、生きても、何も残らないのに」
利吉は何か思うところがあるのか、あきれた様子で言った。
「敦子さんにはわからないですよ」
「なに?辛辣」
「何か敦子さんにも守るものができたなら、大切にして、他人を押しのけてでも得たいものがあったとき、初めて彼らの気持ちが理解できますよ」
「……利吉のくせに生意気だな。お前、人気だからって調子乗ってるよな」
「まあね、皆様が取り立ててくださるおかけですよ」
「思ってもないこと言うな」
「はは、手厳しい」
ひときわ強い風が花びらをさらってゆく。
「利吉には、あるの? 守りたいもの」
「ええ、あります」
「え?なに? 教えて」
「いやです」
「えーっ。なんだよ。ケチ」
「ケチじゃないです」
兄くらいしか、なにか守ろうとか興味があるとか見えてこない利吉に、守りたいものがあるんだろうか。あるから、あんなに元気なんだろうか。
「利吉が、他人を押しのけてまで得たいモノってなんだろう。気になるな」
「……いずれわかりますよ」
「えー。今知りたい」
「ダメです。でもまあ、時がきたら教えてあげますよ」
あれから三年。
桜のたびに思い出す。
「時が来たら教えてあげますよ。キリッ」
プライドが高く、自分が下手に出ることなんてできなさそうな利吉から、好きなんて口が裂けても言わなさそうな利吉から好きの言葉が出た時驚きすぎて固まってしまった。
それを拒絶と受け取った利吉と一悶着あったが、今は落ち着いている。
「ひとのいじらしい気持ちいじる人嫌いです」
「ごめんごめん。なんか懐かしくて」
「記憶から消してください」
「それは無理だな〜利吉がかわいかったタイミングって貴重だから」
「いつもはかわいくないんですか?」
「うん。かわいくはない。プライド高くて見栄っ張り。見栄に追いついてない実力を補うのは虚栄だし」
「……敦子さん、本当に僕のこと好きですか?」
「好きではある。かわいくはないけど」
「ふ、ふーん。そうなんですか。ならいいです」
「チョロい。心配になるチョロさ」
「大丈夫です。隙を見せる相手は選んでますから」
「器用だね」
褒めると木に登るタイプの秀才なので、ほめ倒してピクニックのお弁当を作ってもらった。
やっぱり桜の日には思い出したい。大切に思う人との問答のことを。大切な人ができたなら、自分の命を危険に晒してでも守りたいものができた、と。
たとえ何にもならなくても、形に残るものがなくても、いま私の胸に灯るあたたかさがすべてだろう。私はそう結論づけた。
排除したとして、何になるともわからないままただ家族を守るために武器を振るう兵たちのむなしいこと。
戦況を伝えるためのアルバイトに勤しむ利吉を横目に、私はぼんやりと桜を眺めていた。
「桜も、ひとも、何にもならないのにどうしてこんなに懸命になれるのかしらね。咲いても、生きても、何も残らないのに」
利吉は何か思うところがあるのか、あきれた様子で言った。
「敦子さんにはわからないですよ」
「なに?辛辣」
「何か敦子さんにも守るものができたなら、大切にして、他人を押しのけてでも得たいものがあったとき、初めて彼らの気持ちが理解できますよ」
「……利吉のくせに生意気だな。お前、人気だからって調子乗ってるよな」
「まあね、皆様が取り立ててくださるおかけですよ」
「思ってもないこと言うな」
「はは、手厳しい」
ひときわ強い風が花びらをさらってゆく。
「利吉には、あるの? 守りたいもの」
「ええ、あります」
「え?なに? 教えて」
「いやです」
「えーっ。なんだよ。ケチ」
「ケチじゃないです」
兄くらいしか、なにか守ろうとか興味があるとか見えてこない利吉に、守りたいものがあるんだろうか。あるから、あんなに元気なんだろうか。
「利吉が、他人を押しのけてまで得たいモノってなんだろう。気になるな」
「……いずれわかりますよ」
「えー。今知りたい」
「ダメです。でもまあ、時がきたら教えてあげますよ」
あれから三年。
桜のたびに思い出す。
「時が来たら教えてあげますよ。キリッ」
プライドが高く、自分が下手に出ることなんてできなさそうな利吉から、好きなんて口が裂けても言わなさそうな利吉から好きの言葉が出た時驚きすぎて固まってしまった。
それを拒絶と受け取った利吉と一悶着あったが、今は落ち着いている。
「ひとのいじらしい気持ちいじる人嫌いです」
「ごめんごめん。なんか懐かしくて」
「記憶から消してください」
「それは無理だな〜利吉がかわいかったタイミングって貴重だから」
「いつもはかわいくないんですか?」
「うん。かわいくはない。プライド高くて見栄っ張り。見栄に追いついてない実力を補うのは虚栄だし」
「……敦子さん、本当に僕のこと好きですか?」
「好きではある。かわいくはないけど」
「ふ、ふーん。そうなんですか。ならいいです」
「チョロい。心配になるチョロさ」
「大丈夫です。隙を見せる相手は選んでますから」
「器用だね」
褒めると木に登るタイプの秀才なので、ほめ倒してピクニックのお弁当を作ってもらった。
やっぱり桜の日には思い出したい。大切に思う人との問答のことを。大切な人ができたなら、自分の命を危険に晒してでも守りたいものができた、と。
たとえ何にもならなくても、形に残るものがなくても、いま私の胸に灯るあたたかさがすべてだろう。私はそう結論づけた。