土井半助
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「へぇ、じゃあいつもよりキリッとしてたの? ちょっと見てみたかったわ」
「のんきだよなぁ、俺たち斬られかけたってのに」
「ごめん、そうよねぇ。きりちゃん」
「別に謝んなくてもいいんだけど。てっきり怒るかと思った。まだ私に隠し事〜?!って」
「怒ってもしかたないじゃない。過去にあったことなんて。それに、過去のことって私にはどうにもできないし」
「そうかなぁ? いまが穏やかだと過去の大変だったことがぼんやりしていかない?」
「きりちゃんはそう感じる?」
「うん。奪われないし、守られてる感じがする」
「あ、それは私もわかるかも」
「敦子ちゃんも?」
「ただいまぁ」
間延びした口調とともに帰ってくる人が、鬼とよばれるほどのことができるとはどうにも想像がつかない。生徒に甘くて、他人に甘くて、
「声もいつもより渋カッコいい感じだった」
「え〜〜っ!!それは今でも出せるんじゃないかしら……!」
「出せないし、出さないよ」
「あら残念……」
「残念がられるとちょっとさびしいような……」
「まぁまぁ、ご飯にしようよ」
川魚と、雑穀と、申し訳程度の葉物が浮いた味の薄い汁。きっと学園ではもっといいものを食べてるんだろうけど、二人はおいしいおいしいと食べてくれる。家族だとかいうつもりはない(照れ臭いし、私だけそんなつもりだったら悲しいし)けど、自分が少しでも喜んでほしいと思って作ったものが結果に結びついたら、うれしい。
「きりちゃん、寝たいなら寝たらいいよ」
「でも、内職の納期が」
「そうか〜……それじゃあしょうがないか」
「手伝う流れじゃない?!」
「バイトでしょ?自分で頑張んなさいよ」
「敦子ちゃん、厳しい〜」
記憶が失われていた間、使ってない頭つかったから疲れたよと早く休むようになった。
「どう?頭ぶつけたんでしょう?」
「痛かったよ。でもそれより、怖かったな。もし三人を斬ってしまってたらってなんどもよぎる」
薄暗い寝室では表情がうかがえない。けどきっといつもの困ったような薄笑いをしているんだろうとわかる。笑えない時だって、笑顔を貼り付けている。先生は子供たちを安心させるためにそうする必要があるから。
「ここでは笑ってなくていいんだよ」
「……ふふ、敦子はやさしいね」
笑顔に悲しさというか虚しさというか、暗い筋が混じったように感じる。本当にしたかった顔はたぶんこっちなんだと思う。何かを隠している苦笑いから、恐怖を隠しきれない引きつった笑み。
「いったんそういう怖い考えが混じると、そればっかり考えちゃうよね。きりちゃん言ってたよ。穏やかな時間をすごしてるうちに、ぼやけていくって」
「さすが、鋭いね」
「私もそう思う。だからきっと時間が過ぎていけば」
「そうだね……もう何も傷つけず、失わず……時間だけ過ぎていけば……」
「それは無理かも。こんな世の中じゃ。あんまり高い目標掲げすぎないほうがいいんじゃない」
「……考えすぎなのかな」
「そうだと思う」
半助さんは深いため息とともに、布団を被りなおした。
「敦子はまだ寝ないのかい?」
「寝る寝る。きりちゃん、油もったいないから日が暮れたらおしまいよ。朝起きてやってよ」
「えー、うーん。わかったよ」
三人揃って寝床に入って、また明日。それ以上の幸せはもう求めない。傷ついてようが、五体がついてなかろうが、生きていれさえいればいい。
求めた分だけ足りないと腹が立つから。失ったら喉が潰れそうなくらい悲しいから。きりちゃんと半助さんの頭を順に撫でて、ちゃんと帰ってきてえらいねとつぶやいた。暗闇の奥で、はにかみ笑いが見えたような気がした。
20250104
「のんきだよなぁ、俺たち斬られかけたってのに」
「ごめん、そうよねぇ。きりちゃん」
「別に謝んなくてもいいんだけど。てっきり怒るかと思った。まだ私に隠し事〜?!って」
「怒ってもしかたないじゃない。過去にあったことなんて。それに、過去のことって私にはどうにもできないし」
「そうかなぁ? いまが穏やかだと過去の大変だったことがぼんやりしていかない?」
「きりちゃんはそう感じる?」
「うん。奪われないし、守られてる感じがする」
「あ、それは私もわかるかも」
「敦子ちゃんも?」
「ただいまぁ」
間延びした口調とともに帰ってくる人が、鬼とよばれるほどのことができるとはどうにも想像がつかない。生徒に甘くて、他人に甘くて、
「声もいつもより渋カッコいい感じだった」
「え〜〜っ!!それは今でも出せるんじゃないかしら……!」
「出せないし、出さないよ」
「あら残念……」
「残念がられるとちょっとさびしいような……」
「まぁまぁ、ご飯にしようよ」
川魚と、雑穀と、申し訳程度の葉物が浮いた味の薄い汁。きっと学園ではもっといいものを食べてるんだろうけど、二人はおいしいおいしいと食べてくれる。家族だとかいうつもりはない(照れ臭いし、私だけそんなつもりだったら悲しいし)けど、自分が少しでも喜んでほしいと思って作ったものが結果に結びついたら、うれしい。
「きりちゃん、寝たいなら寝たらいいよ」
「でも、内職の納期が」
「そうか〜……それじゃあしょうがないか」
「手伝う流れじゃない?!」
「バイトでしょ?自分で頑張んなさいよ」
「敦子ちゃん、厳しい〜」
記憶が失われていた間、使ってない頭つかったから疲れたよと早く休むようになった。
「どう?頭ぶつけたんでしょう?」
「痛かったよ。でもそれより、怖かったな。もし三人を斬ってしまってたらってなんどもよぎる」
薄暗い寝室では表情がうかがえない。けどきっといつもの困ったような薄笑いをしているんだろうとわかる。笑えない時だって、笑顔を貼り付けている。先生は子供たちを安心させるためにそうする必要があるから。
「ここでは笑ってなくていいんだよ」
「……ふふ、敦子はやさしいね」
笑顔に悲しさというか虚しさというか、暗い筋が混じったように感じる。本当にしたかった顔はたぶんこっちなんだと思う。何かを隠している苦笑いから、恐怖を隠しきれない引きつった笑み。
「いったんそういう怖い考えが混じると、そればっかり考えちゃうよね。きりちゃん言ってたよ。穏やかな時間をすごしてるうちに、ぼやけていくって」
「さすが、鋭いね」
「私もそう思う。だからきっと時間が過ぎていけば」
「そうだね……もう何も傷つけず、失わず……時間だけ過ぎていけば……」
「それは無理かも。こんな世の中じゃ。あんまり高い目標掲げすぎないほうがいいんじゃない」
「……考えすぎなのかな」
「そうだと思う」
半助さんは深いため息とともに、布団を被りなおした。
「敦子はまだ寝ないのかい?」
「寝る寝る。きりちゃん、油もったいないから日が暮れたらおしまいよ。朝起きてやってよ」
「えー、うーん。わかったよ」
三人揃って寝床に入って、また明日。それ以上の幸せはもう求めない。傷ついてようが、五体がついてなかろうが、生きていれさえいればいい。
求めた分だけ足りないと腹が立つから。失ったら喉が潰れそうなくらい悲しいから。きりちゃんと半助さんの頭を順に撫でて、ちゃんと帰ってきてえらいねとつぶやいた。暗闇の奥で、はにかみ笑いが見えたような気がした。
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