ギオルギー・ポポーヴィッチ
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ふ‐もう【不毛】
[名・形動]
1 土地がやせていて作物や草木が育たないこと。また、そのさま。「―な(の)地」
2 なんの進歩も成果も得られないこと。また、そのさま。「―な議論」
「デジタル大辞泉」より引用
そりゃあ、心の底から惚れてた女に振られてそれを表現する演技を制作してしまう位には誰かを心の底から愛し、叶わなくとも未だ彼女を愛している男を好きになった方がどうかしていると思う。
わかってて離れられるなら彼も全世界に自分の失恋を発信しないし、私は惨めったらしく片思いなど続けない。どれだけ訝しがられようと、コーチに恩義があろうと精神衛生のためにこの地を離れるだろう。わかっていながら彼も、私も執着の対象から離れられないのだから、これこそ、この世に現界した地獄というやつだろう。
大げさかとも思うが、当事者としては妥当なたとえだと思う。
-----
「わ、またギオルギーあのアイスダンスの彼女とキス写あげてるよ」
毎回よくやるよねぇ、と暢気なミラの言葉に心臓を握りつぶされたような錯覚すら覚える。最初こそ繊細だった私の心は大ダメージを受けて、顔色やちょっとしたしぐさに出てしまっていたけど、今となっては筋の一つも動かさない。
「ほんとだ、楽しそうでいいね」
なんてセリフすら吐いてみせれるほどだ。中身がぼろぼろでも外が繕えていれば何ら問題はない。
「そういう話聞かないけど、誰か居ないの」
「そうだねー……なかなかねぇ」
「でもそんなこと言ってるけど、そういう人こそサラッとつくっちゃうんだよ」
ね~?と嬉しそうに歓声をあげるリンクメイトたちに愛想笑いで応える。そうだね、そうだったらいいよね、と単純に言えない理由が私と結ばれる前に彼が身を裂くような失恋を味わうことになるからだ。そう、まだ私は少しだけ自分の腑を焼いて溢れてきそうなエゴイズムを飼い慣らしているから、そんな理性的なことが考えられる。
「ね、ギオルギーもそう思うでしょ?」
いつから居ただろう。さすがに少し驚きが外に出てしまう。話半分に聞いていた彼は急に話を振られて驚いたらしく一拍、二拍置いて答える。
「ああ、そうだな。素敵な女性だと思う、から、きっと想う人がいるんじゃないか?」
その青を掌で閉ざしてしまえたらどんなにいいだろう。そんなことをどうでもいい会話のうちに口に出して欲しくないとその口を塞げてしまえたらどんなにいいだろう。そうすればこの身を裂く激情から逃げ出せる。
「でしょお~?」
だからきっと私たちが知らないだけでいるのよ、と笑うリンクメイトの言うことが上手く理解できない。叫びだして逃げ出さないだけ自分を褒めてやりたい。
何から脳味噌が情報を処理すればいいかと惑っているのがよくわかる。けれどそれは私も答えを出してやれない。ただ蓋が外れないように爪を掌に立てることぐらいしかできない。
-----
「ほら、ギオルギー始まるよぉ」
「うん」
ミラが隣の椅子を引いてくれたので大人しく座っておく。ユーリが離れたところからテレビを睨みつけるようにして見ている。もしかしたら目でも悪いんじゃないだろうか。前髪だって長いし。
悲嘆が、報われない愛が、歪んだヒーロー願望のようなものが撹拌されてあれができたんだろう、と解釈した。その願望全て、彼女に捧げられるかと思うと胃が悪くなりそうだ。
好き勝手に言うリンクメイトたち、誰ともこの感覚を共有できない。この感情の奔流を笑えない。彼女以外、この濁流から彼を救えない。
転倒などの大きなミスなく続く演技を固唾をのんで見守る。
いちいち彼の演技の途中に口をはさむ彼ら彼女ら、今少しだけうっとおしい。
当たり前だ。たぶんこの中のだれもが身を焼き尽くす恋というやつが身に覚えがないから、知らない感情を表現されても退屈なだけだからこう好き勝手言えているのだろう。
別々に生まれて別々に死んでゆく人間だから、百パーセント理解しきったなんて言わない。けれど同じような気持ちを抱きながら貴方に接しているから、本筋は理解できる。
こっちを見て、離れて行かないで、お願い、私を好きになって。と。惨めで痛ましい祈りを抱いて、自分を見ない相手と対峙している気持ち。
勝手に想いを寄せている身でおこがましいけれど、画面の向こうで歓声に応える彼の誇らしげな表情が自分の事のようにうれしい。
眠り姫に呪いをかけるような魔女の結末だって知れている。
彼の失恋を肌で感じてすこしの喜びを感じている女の行く末だって知れている。どれだけ倫理的におかしくても、その倫理観はもう焼き尽くされてしまったのだから、もう何も私を止められない。昔からよくいうじゃないか、何も失うものが無くてやけっぱちになった奴が一番手を付けられないって。
キスクラでまた観客の声に応える彼のやりきった、と言わんばかりの表情もまた愛おしい。この気持ちを愛と呼んでいいかは知らないけど。
[名・形動]
1 土地がやせていて作物や草木が育たないこと。また、そのさま。「―な(の)地」
2 なんの進歩も成果も得られないこと。また、そのさま。「―な議論」
「デジタル大辞泉」より引用
そりゃあ、心の底から惚れてた女に振られてそれを表現する演技を制作してしまう位には誰かを心の底から愛し、叶わなくとも未だ彼女を愛している男を好きになった方がどうかしていると思う。
わかってて離れられるなら彼も全世界に自分の失恋を発信しないし、私は惨めったらしく片思いなど続けない。どれだけ訝しがられようと、コーチに恩義があろうと精神衛生のためにこの地を離れるだろう。わかっていながら彼も、私も執着の対象から離れられないのだから、これこそ、この世に現界した地獄というやつだろう。
大げさかとも思うが、当事者としては妥当なたとえだと思う。
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「わ、またギオルギーあのアイスダンスの彼女とキス写あげてるよ」
毎回よくやるよねぇ、と暢気なミラの言葉に心臓を握りつぶされたような錯覚すら覚える。最初こそ繊細だった私の心は大ダメージを受けて、顔色やちょっとしたしぐさに出てしまっていたけど、今となっては筋の一つも動かさない。
「ほんとだ、楽しそうでいいね」
なんてセリフすら吐いてみせれるほどだ。中身がぼろぼろでも外が繕えていれば何ら問題はない。
「そういう話聞かないけど、誰か居ないの」
「そうだねー……なかなかねぇ」
「でもそんなこと言ってるけど、そういう人こそサラッとつくっちゃうんだよ」
ね~?と嬉しそうに歓声をあげるリンクメイトたちに愛想笑いで応える。そうだね、そうだったらいいよね、と単純に言えない理由が私と結ばれる前に彼が身を裂くような失恋を味わうことになるからだ。そう、まだ私は少しだけ自分の腑を焼いて溢れてきそうなエゴイズムを飼い慣らしているから、そんな理性的なことが考えられる。
「ね、ギオルギーもそう思うでしょ?」
いつから居ただろう。さすがに少し驚きが外に出てしまう。話半分に聞いていた彼は急に話を振られて驚いたらしく一拍、二拍置いて答える。
「ああ、そうだな。素敵な女性だと思う、から、きっと想う人がいるんじゃないか?」
その青を掌で閉ざしてしまえたらどんなにいいだろう。そんなことをどうでもいい会話のうちに口に出して欲しくないとその口を塞げてしまえたらどんなにいいだろう。そうすればこの身を裂く激情から逃げ出せる。
「でしょお~?」
だからきっと私たちが知らないだけでいるのよ、と笑うリンクメイトの言うことが上手く理解できない。叫びだして逃げ出さないだけ自分を褒めてやりたい。
何から脳味噌が情報を処理すればいいかと惑っているのがよくわかる。けれどそれは私も答えを出してやれない。ただ蓋が外れないように爪を掌に立てることぐらいしかできない。
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「ほら、ギオルギー始まるよぉ」
「うん」
ミラが隣の椅子を引いてくれたので大人しく座っておく。ユーリが離れたところからテレビを睨みつけるようにして見ている。もしかしたら目でも悪いんじゃないだろうか。前髪だって長いし。
悲嘆が、報われない愛が、歪んだヒーロー願望のようなものが撹拌されてあれができたんだろう、と解釈した。その願望全て、彼女に捧げられるかと思うと胃が悪くなりそうだ。
好き勝手に言うリンクメイトたち、誰ともこの感覚を共有できない。この感情の奔流を笑えない。彼女以外、この濁流から彼を救えない。
転倒などの大きなミスなく続く演技を固唾をのんで見守る。
いちいち彼の演技の途中に口をはさむ彼ら彼女ら、今少しだけうっとおしい。
当たり前だ。たぶんこの中のだれもが身を焼き尽くす恋というやつが身に覚えがないから、知らない感情を表現されても退屈なだけだからこう好き勝手言えているのだろう。
別々に生まれて別々に死んでゆく人間だから、百パーセント理解しきったなんて言わない。けれど同じような気持ちを抱きながら貴方に接しているから、本筋は理解できる。
こっちを見て、離れて行かないで、お願い、私を好きになって。と。惨めで痛ましい祈りを抱いて、自分を見ない相手と対峙している気持ち。
勝手に想いを寄せている身でおこがましいけれど、画面の向こうで歓声に応える彼の誇らしげな表情が自分の事のようにうれしい。
眠り姫に呪いをかけるような魔女の結末だって知れている。
彼の失恋を肌で感じてすこしの喜びを感じている女の行く末だって知れている。どれだけ倫理的におかしくても、その倫理観はもう焼き尽くされてしまったのだから、もう何も私を止められない。昔からよくいうじゃないか、何も失うものが無くてやけっぱちになった奴が一番手を付けられないって。
キスクラでまた観客の声に応える彼のやりきった、と言わんばかりの表情もまた愛おしい。この気持ちを愛と呼んでいいかは知らないけど。
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