荼炎
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死刑よりつらいかもしれない。
死刑になったことないからわからないけど、多分死刑になって死ねたなら俺の罪は死によって精算されるんだって逆に気楽になっていたと思う。あんなに近くにお父さんがいるのに、家族も俺のことを見て話したいって言ってくれたのに、その腕におさまって抱きしめてもらうことも叶わない。目を見て、近くに行って、触れることすら叶わない。
今更になって、殺したひとたちのことを思い出している。あの人たちの一人ひとりに、これだけ焦がれる人がいたのかと思うと、なんだか急に悪いことをしたような気になっている。殺してしまった当初は、お父さんが俺のことをこんなにひどい扱いをするんだから仕方がないだろと思っていたけど、ここ最近は俺にどんな事情があったとしても人を殺すのは悪いことだと思うようになってきた。
そんな当たり前のことにすら気づかなかったなんて、俺は生粋のヴィランでお父さんみたいになんか──
一人で暗いところにいると暗い思考が止まらない。今日はいいタイミングでお父さんが来た。
「燈矢、おはよう。今日はもうすっかり夏で、夏雄が生まれたときのことを思い出すよ」
「夏くん、元気にしているの」
「あ……その……」
「誤魔化さないで、教えて」
「……夏雄は……新しい家族と」
「そっか、そうだよな」
壊れた家族に執着するより、新しく始めた方が絶対いいに決まっている。冬美ちゃんが心配だよ。もう話したって仕方ないのに。
けどきっと、冬美ちゃんもお父さんの子供だから諦めが悪いんだろう。俺たち兄妹、似たもの同士ってわけか。
「お父さんは最近何してるの」
「あの家を親を亡くした子のための施設にしようと思っていて、今は試しで遊びに来てもらっているんだ」
「へー、お父さんが遊んでるの?」
「いや、保育士さんや自動心理士さんなどを雇って」
「自分の不得手がわかっていてえらいじゃん♡」
「……食事の支度や、リネン類の洗濯、それと掃除と庭木の手入れをしている」
「適材適所だね。大量の洗濯って体力いるしね」
「そういうことだ。俺は、もうヒーローとして活動しなくても、行動だけはただしく在りたい」
「ふーん、いいんじゃない」
冷たく言い放ったが、本当は俺もそれに参加してみたかった。個性を使わないで生きる生き方を一緒に探してみたかった。たとえそれがうまくいかなくっても、探してみてダメだったらまだ気持ちのオチがつくかもしれないし。
「また来る」
そう言ってお父さんは帰って行った。
いいなあ、帰るところがある人はと僻みっぽいことを投げかけようとしたけど、今の俺には帰らなくてもみんなが来てくれるようになったから、まあ。
あと何回こうしてお話しできるだろう。複雑に絡まった感情の糸をどれだけ解きほぐせるだろう。こんな身体で未来のことを不安がるなんてそんな不毛なことないけど、祈らずには、願わずにはいられない。
いつまでもこうして、お父さんが俺を見続ける時間が続きますように。
自由を奪われた俺はもう祈ることしかできない。自分の手で未来を切り開くという選択肢はない。自分のことを情けなく思うけど、お父さんと話してるとこれが俺が欲しかった未来なのかな、って思うことがある。もちろん全然望んだ形とはかけ離れているけど。
お父さんは、俺を見ている。俺も、お父さんを見ている。俺に時間を割いて、見にくる。自分の意思で、行かなかったなんて言わずに、ちゃんとくる。一番欲しかった形ではないけど、今考えられる中では一番なんじゃないかなって思う。
またお父さんの誕生日お祝いしたいな。今度は、何もプレゼントしてあげられないけど。
死刑になったことないからわからないけど、多分死刑になって死ねたなら俺の罪は死によって精算されるんだって逆に気楽になっていたと思う。あんなに近くにお父さんがいるのに、家族も俺のことを見て話したいって言ってくれたのに、その腕におさまって抱きしめてもらうことも叶わない。目を見て、近くに行って、触れることすら叶わない。
今更になって、殺したひとたちのことを思い出している。あの人たちの一人ひとりに、これだけ焦がれる人がいたのかと思うと、なんだか急に悪いことをしたような気になっている。殺してしまった当初は、お父さんが俺のことをこんなにひどい扱いをするんだから仕方がないだろと思っていたけど、ここ最近は俺にどんな事情があったとしても人を殺すのは悪いことだと思うようになってきた。
そんな当たり前のことにすら気づかなかったなんて、俺は生粋のヴィランでお父さんみたいになんか──
一人で暗いところにいると暗い思考が止まらない。今日はいいタイミングでお父さんが来た。
「燈矢、おはよう。今日はもうすっかり夏で、夏雄が生まれたときのことを思い出すよ」
「夏くん、元気にしているの」
「あ……その……」
「誤魔化さないで、教えて」
「……夏雄は……新しい家族と」
「そっか、そうだよな」
壊れた家族に執着するより、新しく始めた方が絶対いいに決まっている。冬美ちゃんが心配だよ。もう話したって仕方ないのに。
けどきっと、冬美ちゃんもお父さんの子供だから諦めが悪いんだろう。俺たち兄妹、似たもの同士ってわけか。
「お父さんは最近何してるの」
「あの家を親を亡くした子のための施設にしようと思っていて、今は試しで遊びに来てもらっているんだ」
「へー、お父さんが遊んでるの?」
「いや、保育士さんや自動心理士さんなどを雇って」
「自分の不得手がわかっていてえらいじゃん♡」
「……食事の支度や、リネン類の洗濯、それと掃除と庭木の手入れをしている」
「適材適所だね。大量の洗濯って体力いるしね」
「そういうことだ。俺は、もうヒーローとして活動しなくても、行動だけはただしく在りたい」
「ふーん、いいんじゃない」
冷たく言い放ったが、本当は俺もそれに参加してみたかった。個性を使わないで生きる生き方を一緒に探してみたかった。たとえそれがうまくいかなくっても、探してみてダメだったらまだ気持ちのオチがつくかもしれないし。
「また来る」
そう言ってお父さんは帰って行った。
いいなあ、帰るところがある人はと僻みっぽいことを投げかけようとしたけど、今の俺には帰らなくてもみんなが来てくれるようになったから、まあ。
あと何回こうしてお話しできるだろう。複雑に絡まった感情の糸をどれだけ解きほぐせるだろう。こんな身体で未来のことを不安がるなんてそんな不毛なことないけど、祈らずには、願わずにはいられない。
いつまでもこうして、お父さんが俺を見続ける時間が続きますように。
自由を奪われた俺はもう祈ることしかできない。自分の手で未来を切り開くという選択肢はない。自分のことを情けなく思うけど、お父さんと話してるとこれが俺が欲しかった未来なのかな、って思うことがある。もちろん全然望んだ形とはかけ離れているけど。
お父さんは、俺を見ている。俺も、お父さんを見ている。俺に時間を割いて、見にくる。自分の意思で、行かなかったなんて言わずに、ちゃんとくる。一番欲しかった形ではないけど、今考えられる中では一番なんじゃないかなって思う。
またお父さんの誕生日お祝いしたいな。今度は、何もプレゼントしてあげられないけど。