荼炎
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ヒーロー エンデヴァー、犯人逮捕の知らせをスマホの動画で眺めた。何やら部下に指示を飛ばしたり、自ら人命救助に走ったりと余念がない。生気にあふれて憔悴している様子もない。
俺が焼けてしまった日から変わらずお仕事中励んでいる様子が見て取れる。偉そうに俺と年が変わらない部下に檄を飛ばして、元気そう。憔悴とかいう言葉には縁がないみたい。
まあ、手がつけられない長子の代わりはもういるから、いいのか、なんて諦めのような皮肉として効いてほしいような嫌味が浮かんでは消える。
瀬古岳で燃えてしまってからこの施設に拾われてもう一年くらいになる。期間があいまいなのは時々高熱を出して意識がなくなるから、その分実感がない期間があるから。
実感はなくても日々は進んでいるらしいことを、お父さんの動画が毎日アップされているからなんとなく察している。俺が何にもなれず無為に苦しんでいる間にも時間は過ぎ、死までのカウントは進んでいくのがわかる。手の皮がつっぱって握ることも、満足に歩くこともめきない不自由な今がずっと続くような粘ついた絶望感が背中に張り付いているみたいだ。
先の見えない泥沼の中にいても、この人の期待に応えたかったという、もう叶えられないからこそ涙がにじむほど悔しく、自分の存在意義が揺らぐことの不安でおかしくなりそうだ。
俺はいま、なんのために生きているのか。
薄曇りの夜で、月の光は届かない。
家にいた頃はお父さんが夜遅くまで仕事をしていたから、電気がついている部屋があった。だから安心して過ごしていられた。あの大きくて静かな家から離れて初めて、自分が守られてきたことを実感した。何もできない、小さな子供だったとわかった。
わかったとしても、家にはもう帰れない。もうヒーローなんて無理だ。何にもなれないただの……凡才で、もう焦凍には敵わない……失敗作だ。
それを受け入れてたらまだ轟家に居られただろうが、そんなことはできなかった。あの、お父さんが他の誰とも違う期待のまなざしで見つめてくるのを受けた時の胸のあたたかさが忘れられない。今でいうところの脳汁ってやつがドパドパ出てきたのを忘れるなんてできない。それが他の、焦凍に向けられるだなんて、それを自分が得られなかったのに与えられているのを見ているしかないなんて、できない。
指は焼けて繋がってしまって曲がらないけど、手はまだあるし、足だって動かなくはない。俺が発見された時の写真を見せてもらったことがある。はっきりいって、ただの黒い塊にしか見えない。かろうじて手足らしきところに手足らしきものが胴体から伸びていて、それで頭らしきものがあるからなんとなく人間らしいと言えそう、くらいの塊だった。
それでも、俺は諦めない。お父さんだって、諦めなかったからヒーローになれたんだし、俺だって。俺だって頑張れば、また再会できるかもしれない。それで、お父さんは焦凍にかまけたことが間違いだったと思い直すかもしれない…………
……なんて、期待を捨てきれない時期が俺にもあった。
今日も期待を寄せて妄想を膨らませていた薄曇りの夜に似た天気だったこともあり、思い出してしまった。舌打ちやため息で晴れない気持ちがある時はコロシに限るが、今日はそんな気分でもない。
いや、期待は今でも捨てられてないのか。捨てられてないから無視できない。まだお父さんに認められることに価値を見出しているからこそ、自分の寿命を縮めるような修行をしてでも辿り着きたい、と願っている。
自分の存在を認めさせたいとか、成功作を失敗作がぶっ壊すなんて憧れるとか、色々と叶えたい夢は俺がお父さんに敵うように鍛える過程で増えていった。大きく育った夢は、叶えてやらないとだろ。
本当は、お父さんはお父さん自身の力で夢を叶えることをとっくに諦めてたから子ガチャに走った。俺も小さくてよくわかってなかったよ。子供を使って自分の夢を叶えようとする人の発想なんて。そういうくだらないセコい手を使って夢を叶えるやつより、俺の方がすごいはずだ。
好きなのか、嫌いなのかわからなくなってきた。憎いのか、恋しいのかも、だいぶ前にわからなくなった。構って欲しいのか、貶めたいのかは、これからわかっていくんだろうと思う。
20260711
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