ミスルン
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エルフだけの世界で生きてきた我々だが、こうして一度島の外に出てしまい短命種の生き方に心酔したものの、どうしても悠長な生き方しかできないことに苦しんだとあるエルフは、側からみたら意味がなく、実際そんな魔法を使いたがるのはお前だけだとひどく罵られたそうだが、私はその魔法の存在を知った時心から歓喜の色に染まった。
寿命を、他人に分け与える魔法。
その魔法の存在を知って、急いで敦子の元へ駆けていった。いつか暦の上の好ましい日になどと言っていると短命種は簡単に老いて死んでしまうから突然訪問するには褒められたやり方ではないが、夜分遅くにドアを叩いた。
「んだよ今何時だと思ってんだよ。あ?ミスルン。どうしたんだよ」
「敦子!」
「わ、本当にどうしたんだよそんなイキイキとして。珍しいじゃねえの。まあ入んな」
二人で暮らしたことがない人間の家、と行った様子で椅子が一つしかない。それに遠慮なくかけさせてもらう。敦子はベッドに腰掛けると、サイドテーブルに何本もおいてあるうちの一つの酒瓶をあおった。
「敦子、長命種が短命種に寿命を分け与えることができる魔法が見つかったんだ」
「へー。それ俺に関係ある?」
「ある。私の寿命を」
「えーいや別にいらない。普通にいらない」
「どうして!」
「俺さあ、お前とよろしくやってた時から何年経ったと思ってんの? それに結構病気とかしてるんだよね。その状態から長生きしても面白みないし、それにお前にそんなデカい借り作りたくない」
「借りだなんて……私は……」
「わかる、わかるよ。借りだなんて思ってほしくないってことだろ。でもだめなんだ。あの頃は確かにお前のこと好きだったけど、長いこと放っておかれてなんか感情残ってると思う?」
「でもたったの……」
「いやだからさあ……つまりそういうところで感覚が合わないんだって。せっかくだけどごめん」
「敦子、俺をおいて逝くのか?」
「その言葉、そっくり返すよ! 俺をおいて行ったくせに!」
▼
くだらねえじいさん同士の痴話喧嘩でひどく消耗した。
あの頃は愛の前では長命も短命も関係ない、って本気で思ってた。けどあの、まるで自分が一番先に一番深く傷ついたみたいな顔は正直恐怖を感じた。本当に数日放っておいた感覚なんだろうと思って。
けど若いままのミスルンは正直可愛くて、少し揺らいだ。あの頃のけどまだ感情に落とし所がつかないでいる。
あの狭く光の届かない塔で、薄暗い愛ともいえない大金を積まれて行った庇護に愛を見出されてもなんだか後ろ暗い気持ちになる。世間知らずの生娘を騙しているみたいな。
▼
あの塔は、私が出て行った直後に取り壊されたそうだ。まるで汚いものに蓋をするように作られたものだからそうなって仕方ないものだろうが、私にとっては敦子との思い出があるのはあの塔だけだった。もっと他に思い出を作った方が良かった、あれは短命なのだからと本当に理解したのは、彼が死んでしまった後だった。
身寄りのない敦子の遺体を引き取って、私の手で火葬し、ぽそぽそと栄養が回っていない骨を掌に収まる陶器の器に入れて蓋をした。櫛が使えないあの部屋で、爪を短く短く切りそろえて優しく髪を梳いてくれた温かな手の感触とはかけ離れているが、私は満足している。
命を分け与えずとも、私の主観からしてみたら敦子を手に入れた。
私を拒絶せず、否定しない。あの頃の敦子のまま、ずっとそばにいてくれる。
敦子が聞かせてくれた歌も、確かそんな内容だった。好きな人がそばにいてくれてうれしい気持ちを歌った歌。
さようならを永遠に言わなくても良くなる魔法をかけて、だっただろうか。
寿命を、他人に分け与える魔法。
その魔法の存在を知って、急いで敦子の元へ駆けていった。いつか暦の上の好ましい日になどと言っていると短命種は簡単に老いて死んでしまうから突然訪問するには褒められたやり方ではないが、夜分遅くにドアを叩いた。
「んだよ今何時だと思ってんだよ。あ?ミスルン。どうしたんだよ」
「敦子!」
「わ、本当にどうしたんだよそんなイキイキとして。珍しいじゃねえの。まあ入んな」
二人で暮らしたことがない人間の家、と行った様子で椅子が一つしかない。それに遠慮なくかけさせてもらう。敦子はベッドに腰掛けると、サイドテーブルに何本もおいてあるうちの一つの酒瓶をあおった。
「敦子、長命種が短命種に寿命を分け与えることができる魔法が見つかったんだ」
「へー。それ俺に関係ある?」
「ある。私の寿命を」
「えーいや別にいらない。普通にいらない」
「どうして!」
「俺さあ、お前とよろしくやってた時から何年経ったと思ってんの? それに結構病気とかしてるんだよね。その状態から長生きしても面白みないし、それにお前にそんなデカい借り作りたくない」
「借りだなんて……私は……」
「わかる、わかるよ。借りだなんて思ってほしくないってことだろ。でもだめなんだ。あの頃は確かにお前のこと好きだったけど、長いこと放っておかれてなんか感情残ってると思う?」
「でもたったの……」
「いやだからさあ……つまりそういうところで感覚が合わないんだって。せっかくだけどごめん」
「敦子、俺をおいて逝くのか?」
「その言葉、そっくり返すよ! 俺をおいて行ったくせに!」
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くだらねえじいさん同士の痴話喧嘩でひどく消耗した。
あの頃は愛の前では長命も短命も関係ない、って本気で思ってた。けどあの、まるで自分が一番先に一番深く傷ついたみたいな顔は正直恐怖を感じた。本当に数日放っておいた感覚なんだろうと思って。
けど若いままのミスルンは正直可愛くて、少し揺らいだ。あの頃のけどまだ感情に落とし所がつかないでいる。
あの狭く光の届かない塔で、薄暗い愛ともいえない大金を積まれて行った庇護に愛を見出されてもなんだか後ろ暗い気持ちになる。世間知らずの生娘を騙しているみたいな。
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あの塔は、私が出て行った直後に取り壊されたそうだ。まるで汚いものに蓋をするように作られたものだからそうなって仕方ないものだろうが、私にとっては敦子との思い出があるのはあの塔だけだった。もっと他に思い出を作った方が良かった、あれは短命なのだからと本当に理解したのは、彼が死んでしまった後だった。
身寄りのない敦子の遺体を引き取って、私の手で火葬し、ぽそぽそと栄養が回っていない骨を掌に収まる陶器の器に入れて蓋をした。櫛が使えないあの部屋で、爪を短く短く切りそろえて優しく髪を梳いてくれた温かな手の感触とはかけ離れているが、私は満足している。
命を分け与えずとも、私の主観からしてみたら敦子を手に入れた。
私を拒絶せず、否定しない。あの頃の敦子のまま、ずっとそばにいてくれる。
敦子が聞かせてくれた歌も、確かそんな内容だった。好きな人がそばにいてくれてうれしい気持ちを歌った歌。
さようならを永遠に言わなくても良くなる魔法をかけて、だっただろうか。
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