ミスルン
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敦子には、世話をするためにあの短い人生を無為に使わせてしまった。暗く冷たい石造りの塔に閉じ込められた私を、どうにか生かすために集められた犠牲者だった敦子。敦子以外にもいたが、みんな寿命で死んでしまったらしい。
渦中にいるときは考えもしなかった間接的な加害(と、認識している)に目を向けしまったら、二度と逸らせなかった。
伸びっぱなしの髪を、指で梳いてくれた温かさを今更恋しく思って、敦子が住んでいるという村を訪ねた。もしかしたら、あのひどかった時を思い出して傷を舐め合えるのではなどという淡い期待を胸に、ドアを叩いた。
「……どちらさま……ミスルンさん」
「敦子ッ……!」
姿を認めて目を丸くしたあとは、シワを目尻にためてこちらを見てくれた。それだけで、どれほど救われた気持ちになったか。
「私を探してると聞いてはいたのですが、ご覧の通り、醜く老いてしまいましたゆえ」
「そんな」
「まぁ、お入りください」
温かいお茶を淹れたカップを差し出す手は、みみず腫れが深く刻まれていた。確かめるまでもなく、私がつけた傷だ。
「そうだ、敦子。エルフの寿命を分け与える魔法が見つかったんだ。その……酷い目に遭わせてしまった時間を取り戻せはしないけれども……」
「そんな、つぐないなど不要ですよ。それに老いてから寿命が増えたとして、不自由な時間が増えるだけです……あぁ、そんな悲しそうな顔させてしまいましたね」
「つぐなえない、と知ってしまって」
「しかし、あなたの世話は大変でしたけどしっかりお代は頂いていましたし、おかげで息子はいい学校に行き、今は学者をしとります」
「でも、敦子個人には」
「いいんです、いいんです。こうして懐かしく思い出して、訪ねてきてくださるのがうれしいのですから……ね、また私らに申し訳なくてたまらないときはいらしてください。またお話しましょう。窓すらない部屋で、隙間風が私の髪をさらっていたのを、ずっと眺めていらっしゃったこととか、石のでこぼこを山に見立てたりとか、我々にもささやかな思い出がありますでしょう」
「そうですね……」
「エルフの時間感覚ではいけませんよ」
敦子は、朗らかに笑って見送ってくれた。果物を持たせてくれて、また会おうと誓い合った。
憎まれていて、罵詈雑言を浴びせられると思っていたから拍子抜けした。けれど、うれしかった。あんな酷い時間にも、思い出として語り合える人がいることがこんなにも、うれしい。
渦中にいるときは考えもしなかった間接的な加害(と、認識している)に目を向けしまったら、二度と逸らせなかった。
伸びっぱなしの髪を、指で梳いてくれた温かさを今更恋しく思って、敦子が住んでいるという村を訪ねた。もしかしたら、あのひどかった時を思い出して傷を舐め合えるのではなどという淡い期待を胸に、ドアを叩いた。
「……どちらさま……ミスルンさん」
「敦子ッ……!」
姿を認めて目を丸くしたあとは、シワを目尻にためてこちらを見てくれた。それだけで、どれほど救われた気持ちになったか。
「私を探してると聞いてはいたのですが、ご覧の通り、醜く老いてしまいましたゆえ」
「そんな」
「まぁ、お入りください」
温かいお茶を淹れたカップを差し出す手は、みみず腫れが深く刻まれていた。確かめるまでもなく、私がつけた傷だ。
「そうだ、敦子。エルフの寿命を分け与える魔法が見つかったんだ。その……酷い目に遭わせてしまった時間を取り戻せはしないけれども……」
「そんな、つぐないなど不要ですよ。それに老いてから寿命が増えたとして、不自由な時間が増えるだけです……あぁ、そんな悲しそうな顔させてしまいましたね」
「つぐなえない、と知ってしまって」
「しかし、あなたの世話は大変でしたけどしっかりお代は頂いていましたし、おかげで息子はいい学校に行き、今は学者をしとります」
「でも、敦子個人には」
「いいんです、いいんです。こうして懐かしく思い出して、訪ねてきてくださるのがうれしいのですから……ね、また私らに申し訳なくてたまらないときはいらしてください。またお話しましょう。窓すらない部屋で、隙間風が私の髪をさらっていたのを、ずっと眺めていらっしゃったこととか、石のでこぼこを山に見立てたりとか、我々にもささやかな思い出がありますでしょう」
「そうですね……」
「エルフの時間感覚ではいけませんよ」
敦子は、朗らかに笑って見送ってくれた。果物を持たせてくれて、また会おうと誓い合った。
憎まれていて、罵詈雑言を浴びせられると思っていたから拍子抜けした。けれど、うれしかった。あんな酷い時間にも、思い出として語り合える人がいることがこんなにも、うれしい。