ミスルン
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血と、あとなんか変な液体が染み付いたベッドは持ち主を失ってしばらく経つ。
もう拘束具は必要なく、窓がないこの部屋も、そして我を失ったミスルンを閉じ込めておくための要員だった俺ももういらないらしい。
そりゃあ立ち直れたならそれが一番いいんだけどね。ちょっとだけさびしい。俺は、俺たちは結局彼を閉じ込めておくだけで精一杯で、赤子のように泣く彼を抱きとめるだけで、もう死なせてくれと吠える彼の爪を身体に食い込ませて耐えることしかできなかった。
そんな後悔の証みたいな部屋だったから、取り壊されると聞いて安心した。
俺たちにできた傷が癒える頃、彼はこの島に帰ってきた。まだお兄さんに会うつもりはないらしいけど、なんと俺に会いにきてくれたらしい。
「なんでまた、俺に」
「あの時、俺が知るはずのないお前の故郷の子守唄を聞かせてくれただろ。あと下の世話も」
「ま、まぁそうですけどそれはちゃんと報酬をもらってたし……この島でトールマンができるのはそういう仕事しかなかったっていうか」
「事情があったとはいえ、簡単な仕事じゃなかったんだろ。ありがとう」
「はぁ〜……変わりましたねぇ……」
「そんなことはない。まだ兄には会えてないし」
「まぁエルフは長命なんですやね? きっといつか」
「いい、今は先のことまで考えない」
「そうですか、それがいいですね。いくら先が長いって言ってもあなたは今を生きてるんですから」
「やっとそれがわかってきた。その傷、治りそうか」
「ええまぁ、だいぶ薄くなってきました」
「治る頃にまた会おう。今度は好みの土産を持ってくる」
「そうしてください。お土産で現金もらったの初めてです」
む、と口をつぐんで、わかったとだけ言って去っていった。
あの苦しみやら憎しみやらを煮詰めたような昏く沈んだ瞳に少しだけ光が宿っていたように見える。よかった、俺たちがあの部屋で過ごした時間、本が持ち込めないから出まかせならべた物語、身体を支えているはずなのに生ぬるく正気のない吐息、すべて過去のものになったんだと俺は安心と、少しの寂しさを彼の背中に見た。
エルフにとっての 次 は俺が生きている間だろうか。それだけが少し気がかりだ。死に別れたと知ったなら悲しみそうなくらいまで感情が戻ってしまっていたなら、少しかわいそうだから。
20240217
もう拘束具は必要なく、窓がないこの部屋も、そして我を失ったミスルンを閉じ込めておくための要員だった俺ももういらないらしい。
そりゃあ立ち直れたならそれが一番いいんだけどね。ちょっとだけさびしい。俺は、俺たちは結局彼を閉じ込めておくだけで精一杯で、赤子のように泣く彼を抱きとめるだけで、もう死なせてくれと吠える彼の爪を身体に食い込ませて耐えることしかできなかった。
そんな後悔の証みたいな部屋だったから、取り壊されると聞いて安心した。
俺たちにできた傷が癒える頃、彼はこの島に帰ってきた。まだお兄さんに会うつもりはないらしいけど、なんと俺に会いにきてくれたらしい。
「なんでまた、俺に」
「あの時、俺が知るはずのないお前の故郷の子守唄を聞かせてくれただろ。あと下の世話も」
「ま、まぁそうですけどそれはちゃんと報酬をもらってたし……この島でトールマンができるのはそういう仕事しかなかったっていうか」
「事情があったとはいえ、簡単な仕事じゃなかったんだろ。ありがとう」
「はぁ〜……変わりましたねぇ……」
「そんなことはない。まだ兄には会えてないし」
「まぁエルフは長命なんですやね? きっといつか」
「いい、今は先のことまで考えない」
「そうですか、それがいいですね。いくら先が長いって言ってもあなたは今を生きてるんですから」
「やっとそれがわかってきた。その傷、治りそうか」
「ええまぁ、だいぶ薄くなってきました」
「治る頃にまた会おう。今度は好みの土産を持ってくる」
「そうしてください。お土産で現金もらったの初めてです」
む、と口をつぐんで、わかったとだけ言って去っていった。
あの苦しみやら憎しみやらを煮詰めたような昏く沈んだ瞳に少しだけ光が宿っていたように見える。よかった、俺たちがあの部屋で過ごした時間、本が持ち込めないから出まかせならべた物語、身体を支えているはずなのに生ぬるく正気のない吐息、すべて過去のものになったんだと俺は安心と、少しの寂しさを彼の背中に見た。
エルフにとっての 次 は俺が生きている間だろうか。それだけが少し気がかりだ。死に別れたと知ったなら悲しみそうなくらいまで感情が戻ってしまっていたなら、少しかわいそうだから。
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