ミスルン
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「え? で、何?そのミスルンさんの第二の趣味候補が園芸だったんですか」
どこを見ているかも、いま機嫌が良いのか悪いのかも映し出さない昏く沈んだ瞳を少しも動かさないままうなづいた。不健康そうな真っ白な肌のエルフ。まぁでもエルフなんてみんなそんな感じだ。いつも偉そうで上から目線。世界の支配者気取り。
の、はずだったんだけど目の前にいるミスルンさんはどちらかというと気力すらなさそうだ。外でやるんだけど大丈夫なのかな。元部下だっていう人が迎えにきてくれると言うけど、果たして。
「園芸は、野菜作りと違って何か具体的に得るものはないんですけど、まぁ、だからこそ良いというか。私たちの気持ちを和ませるだけのために品種改良したといえばそれまでですが、気持ちを和ませる、ということの効果を俺は信じているんですよねぇ」
「先生、今日はよく喋るねえ。新入りさんが頭が切れる人だから緊張してんだろ」
「う、うるさいやい。でもそうだよ。なんか理屈から入った方がいいかな〜なんて」
そんなやり取りを見てもぼんやりしてるのか機嫌がわるいのかすらわからない。
簡単な寄せ植えの世話からやってもらおうと、ミスルンさんに大きめの植木鉢を渡した。
「ここの小さな鉢はどれを使ってもいいですからね。好きな色、形の花を探して、持っている大きな鉢に並べてみてください。それを今日持って帰ってもらって、世話してみてください」
「す、好きな花……?」
ここで初めて感情らしきものが見えた。
戸惑い、好きなものさえ選べないことへの恥なんかも見えた。聞くところによるとショックなことが起きてこんなんなっちゃったんだっていう。俺はちょっと可哀想な人を扱うように質問しつつ、一緒に見繕ってやった。色は、空の色が好きなのかとか、どの時間帯の色がとか、大ぶりな花が小さな花の寄せ集めが、などなど。でもそうやって好きを引き出してやったほうがいいほどのお金は頂戴している。
「……」
「選べましたね」
「うん、良い」
「好きですか?この花たち」
「好き……」
「どういうところが特に好きですか?」
「花弁がたくさん折り重なっているもの、小さな花、色の組み合わせ……?」
「よかった。最初いらしたときあんまりにもぼんやりされてたからお好きな花が見つけられるか心配でした」
「……」
小枝みたいに細い指で優しく花弁を撫でている。この人が満足いくものを、補助があったとはいえ見つけ出せたのが何よりうれしかった。
「これらはちゃんと水をやったり、太陽にあててやったりあんまりにも暑い日寒い日は家に入れてやったり日陰に入れてやったりしないと枯れてしまいますし、場合によっては花を摘んでやらないと他の花が咲かなくなったりしますから。まぁでもそれはおいおいやっていきましょう。まずは毎朝土が湿るくらいお水をあげてください」
「わかった」
熱心にメモとっている。こんな簡単なことなのにわからないものなんだろうか。ものすごく優秀なひとだと聞いていたんだけど。
部下の人が迎えに来て、魔法で運んだ方が良いだろうに、重たそうに鉢を抱えて帰っていった。
部下の人に「隊長、綺麗な色ですね」なんて言われたら「ああ、好きな花なんてなかったが質問に答えていったら素敵なものを見繕ってもらって」と言っていた。感情の起伏がわかりにくすぎるけど喜んでいたみたい。
「また気が向いたらいらしてくださいね」
「……いつ花を摘んだらいいかわからない……来てほしい……」
「いいですよ。じゃあまた」
去っていく背中が頼りなさげだけど部下の人に支えられてどうにか帰っていった。たくさんケガをしている様子だったし身体が悪いんだろう。
そんな彼の少しの楽しみになったらこの趣味の教室にも意味があるのかもと思う。市場に卸す鉢を荷台に積んで、明日の分の納品をしに向かう。乗せてやればよかったな。あんなにヨタヨタでかわいそうなことをした。
2040212
どこを見ているかも、いま機嫌が良いのか悪いのかも映し出さない昏く沈んだ瞳を少しも動かさないままうなづいた。不健康そうな真っ白な肌のエルフ。まぁでもエルフなんてみんなそんな感じだ。いつも偉そうで上から目線。世界の支配者気取り。
の、はずだったんだけど目の前にいるミスルンさんはどちらかというと気力すらなさそうだ。外でやるんだけど大丈夫なのかな。元部下だっていう人が迎えにきてくれると言うけど、果たして。
「園芸は、野菜作りと違って何か具体的に得るものはないんですけど、まぁ、だからこそ良いというか。私たちの気持ちを和ませるだけのために品種改良したといえばそれまでですが、気持ちを和ませる、ということの効果を俺は信じているんですよねぇ」
「先生、今日はよく喋るねえ。新入りさんが頭が切れる人だから緊張してんだろ」
「う、うるさいやい。でもそうだよ。なんか理屈から入った方がいいかな〜なんて」
そんなやり取りを見てもぼんやりしてるのか機嫌がわるいのかすらわからない。
簡単な寄せ植えの世話からやってもらおうと、ミスルンさんに大きめの植木鉢を渡した。
「ここの小さな鉢はどれを使ってもいいですからね。好きな色、形の花を探して、持っている大きな鉢に並べてみてください。それを今日持って帰ってもらって、世話してみてください」
「す、好きな花……?」
ここで初めて感情らしきものが見えた。
戸惑い、好きなものさえ選べないことへの恥なんかも見えた。聞くところによるとショックなことが起きてこんなんなっちゃったんだっていう。俺はちょっと可哀想な人を扱うように質問しつつ、一緒に見繕ってやった。色は、空の色が好きなのかとか、どの時間帯の色がとか、大ぶりな花が小さな花の寄せ集めが、などなど。でもそうやって好きを引き出してやったほうがいいほどのお金は頂戴している。
「……」
「選べましたね」
「うん、良い」
「好きですか?この花たち」
「好き……」
「どういうところが特に好きですか?」
「花弁がたくさん折り重なっているもの、小さな花、色の組み合わせ……?」
「よかった。最初いらしたときあんまりにもぼんやりされてたからお好きな花が見つけられるか心配でした」
「……」
小枝みたいに細い指で優しく花弁を撫でている。この人が満足いくものを、補助があったとはいえ見つけ出せたのが何よりうれしかった。
「これらはちゃんと水をやったり、太陽にあててやったりあんまりにも暑い日寒い日は家に入れてやったり日陰に入れてやったりしないと枯れてしまいますし、場合によっては花を摘んでやらないと他の花が咲かなくなったりしますから。まぁでもそれはおいおいやっていきましょう。まずは毎朝土が湿るくらいお水をあげてください」
「わかった」
熱心にメモとっている。こんな簡単なことなのにわからないものなんだろうか。ものすごく優秀なひとだと聞いていたんだけど。
部下の人が迎えに来て、魔法で運んだ方が良いだろうに、重たそうに鉢を抱えて帰っていった。
部下の人に「隊長、綺麗な色ですね」なんて言われたら「ああ、好きな花なんてなかったが質問に答えていったら素敵なものを見繕ってもらって」と言っていた。感情の起伏がわかりにくすぎるけど喜んでいたみたい。
「また気が向いたらいらしてくださいね」
「……いつ花を摘んだらいいかわからない……来てほしい……」
「いいですよ。じゃあまた」
去っていく背中が頼りなさげだけど部下の人に支えられてどうにか帰っていった。たくさんケガをしている様子だったし身体が悪いんだろう。
そんな彼の少しの楽しみになったらこの趣味の教室にも意味があるのかもと思う。市場に卸す鉢を荷台に積んで、明日の分の納品をしに向かう。乗せてやればよかったな。あんなにヨタヨタでかわいそうなことをした。
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