オリヴァ・愛空
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晋
酔った勢いで電話かけていい相手だと思われていたことが、うれしいような悲しいような。
一度手放したはずなのに何度も手元に戻ってきているサッカーというやつを一度も手放さず、大事に育ててるような愛空なんかと会ったらみじめで消えてしまいたくなるとわかっていた。
なのに、U20戦の敗戦のあと酒焼けか涙声かわからない声で電話があったときには本当に驚いたし、自然に「なんか、愛空さぁ、今どこいる? ちょっと会おうよ」なんて言葉がスルッと出てきた。俺は会いたくないと思ってたやつで、あっちが会いたいなら会ってやらんでもないなぁくらいの気持ちでいたのに。
よくよく思い返してみたら、俺は愛空が泣いてるところみたことなかったかも。俺たちが中学最後の試合で負けたときも、俺たちがもう二度と同じメンバーでサッカーができないとわかり、みんなが泣いている時も、寂しそうに笑うか励まし役に徹するだけだった。
そんな愛空が悲しんでいる様子を見せたものだから、動揺してしまったのかもしれない。俺が持ってるよりずっと、愛空に適正なる言葉をかけてやれるやつなんて山ほどいるだろうに、俺は、なんだか愛空の心の中に俺がまだ居ることがうれしくて、それを確かめたくなったのだと思う。だから別に、愛空を励ましてやりたい、という愛空のための感情ではなかったと思う。たぶん。
「え?いいの? 晋忙しいんじゃないの」
「忙しいけど、なんか、構いたくなった」
「じゃあ構ってよ。今から……位置情報送ったから来て」
「どこここ」
「俺んち」
「いいの?」
「いいよ。酒買ってきて。ハイボール」
「わかった。待ってて」
まさかのお家にご招待されてしまい、さらに動揺した。そういう……有名人って住んでる場所隠したがるんじゃないの?とか色々考えながら適当にハイボールをカゴに突っ込んで、指定された場所に急いだ。幸いそんなに遠い街ではなく、30分もすれば着きそうだった。
「下まで来てるけど」
「ピンポン押して」
部屋番号を押して、コール。するとあの時より渋くてかっこいい声になった愛空の「はい」が聞けた。俺と同じ芋臭い中坊だったのに、愛空だけモテモテになって。噂は聞いている。女にだらしないやつになってるって。
「わ、久しぶり」
「晋〜! うれしい。上がって上がって」
上半身裸の、すでにだいぶ出来上がっている愛空が出迎えてくれた。多少ゴミが落ちてるものの、一人暮らしの男の部屋にしては綺麗なほうだ。俺の収入じゃ手が届かないような立地と間取りに少しだけ胸がチリチリ痛んだ。
「晋いま何してんの?元気?」
「いま?あんま……そんな言えるようなもんじゃないよ……」
「えーでも大学行ったんでしょ。インスタで見たよ」
「まぁね…… 俺、愛空にインスタフォローされてんの色んな人に突っ込まれる。どういう関係って」
「ちゃんと友だちとか、チームメイトだったとかって答えてくれてる?」
「うーん。愛空は覚えてないと思うけど……って前置きしてから毎回そう言ってる」
「覚えてない、なんで嘘だってわかってよかったね。ハイボールちょうだい。レシート出しといて」
「うん。意外だったよ。俺に連絡くれるなんてさ」
「今の俺をあんまり知らないけど、俺のこと大切にしてくれてたやつと思ったら晋が思い浮かんだんだ」
「ふーん。そんなやつ、愛空の交友関係に山ほど居そうなのに」
「いじけないで〜」
「うるせぇ! 俺にその高そうなワインよこせ」
「ドンキで1500円だったやつだよ」
「桁が二個足りない。稼いでるんだろ、贅沢しないの」
「しないしない。俺が贅沢できるくらいの収入稼げる時間は限られてるから」
「変なとこ冷静だよなぁ」
少し前までまだギラついた目をして闘志をむき出しにしていた愛空とは似ても似つかない、穏やかで気のいい男だ。昔ほど自分の感情を隠してないように思える。
「愛空、試合見てたよ」
「負けちゃった」
「いい試合だったよなんて励ましいらんだろうからしないけど、なんか俺と少しの時間でも一緒にプレーしてたやつがあんな舞台に立って頑張ってるの見て、胸がカーッとなったよ。愛空、遠くに行っちゃったんだな〜って」
「遠くになんか行ってないよ。俺はずっと晋と同じところにいるよ」
「何言ってんだよ。愛空は俺みたいに目標見失ってダラダラ生きてないだろ」
「そうじゃなくて……壁作んないでよ」
「う、ごめん……」
お互い冷静でいられずに感情が漏れ出してしまい、気まずい空気が流れる……と思ってたのは俺だけのようで、愛空はカパカパ酒を飲んでる。大して強くないくせに酒が好きなやつらしく、すぐ酔って俺に絡んできた。
「お前さぁ〜晋がもう俺と練習しないって言ったときどんな気持ちだったのかわかってたのかよ〜」
「このヘタクソにもう練習付き合わなくて済む。せいせいした」
「お前国語できないだろ! 作者の気持ちとかわからないやつだ」
「文章に起こせるだけが全てじゃないでしょ…… 状況的に、その方が良かったんだって」
「そうやって大人ぶってさ、感情を二の次にするのやめろよ。俺は、あの時、悲しかったの」
「そう、そんなに? なんかごめんな」
「うん。俺は晋とサッカーするの楽しかった」
「ほんとは、俺も。愛空とずっとサッカーしたかった。けど、俺は身を引くべきだと思ったの。その判断を尊重して」
「うん。ごめんね。あの時すごく悲しくて、何も言えなくて、今でもすぐ思い出せるくらい」
「そんなに?」
「そんなに」
そう言って照れ笑いする愛空、酒臭い髭面の男じゃなかったら襲ってた。それくらい愛空がかわいく見える。
部屋の照明がいやにぎらついていて、俺の邪念を責めているように感じる。愛空は信頼出来る友達としてお前を呼んだのにお前ときたら、なんてね。
酒の力が脳の制御を外しているだけなんだとわかっているのに、友だちに手を出したりしたら絶対後悔するってわかってるのに、愛空がこんなに好みの男に成長してるなんて思ってもみなかったから今非常にムラムラしてしまっている。
愛空はノンケだろうからまさかそんなことはしないけど、まぁ男友達の役得ということで心からの信頼を向けられていたんだという実感を得て満足、とすることにした。
そうじゃなきゃ愛空のこんなにめんどくさい面が見れるはずがない。こいつ女にはいい顔したくて自分の気持ちの二割もさらけださないタイプだろうし。
俺はわかるんだ。
いっつも中坊の俺らの練習見にきてくれていた奇特なオンナノコたちにキャアキャア言われて楽しんでいた風に見せてたけど、帰り道にすごく気疲れした様子で「やっぱ晋といるのが一番落ち着く」だなんて言う愛空の反応を見て、俺が男へエッチな目を向けるようになってしまったと言っても過言ではないからだ。性壁を開拓されたものにだけわかるあの感じ。
「愛空、他のやつらにこんなこと言ったらダメだよ。男のメンヘラはバカにされるからな……そういうのはダメなんだけど、悲しさとかもちゃんと言い合わないとなんだろうけど、ダメ」
「晋にしか言わないよ。明日になればいつものヘラヘラした俺だよ」
「そうしときな。今日は飲もう」
ついでに言っとくと傷心に付け込もうとする男も大概だからやめとけ。俺がそうだからわかるけどひどいやつだよ。
▼
パンイチで寝っ転がる愛空をどうにか寝室に押し込んで、やっとソファに倒れ込んだ。愛空は酒に強すぎる。そのうえ絡み方がめんどくさすぎる。
あの時はああだった、こうだったと。今こんなに成功しているように見えるやつでも、過去に執着したりするんだと思えた。そうするとだいぶ愛空が人間らしく見えてきた。俺ばっかりがダサく生きてるわけじゃないと。
そんなことをモンモンと考えてたら、ガタガタとベッドから落ちる音が聞こえてあわてて見に行くと、愛空が床に倒れていた。
「おまえ、本当に他のやつにこれやらない方がいい」
「だから、晋以外にやらないっての」
大人しくベッドに戻るかと思いきや、俺の服の裾を掴んではなさず、そのままベッド引きずり込まれた。
「お前さぁ……」
「今日は一緒に寝よ。合宿の時思い出すね。俺が晋の布団に入ってさぁ……」
「その思い出しまっといてもらえるか?」
「お互いのちんこ扱いたじゃん」
……
今愛空がどんな思いでこの思い出を再度点火しようとしているのか意図がわからず、怯えが混じる声音で怒鳴りつけた。
「それ今引っ張り出してどうすんだよ!! 気まずいだろうが帰るわ……」
「終電ないよ」
「歩いて帰る」
「ダメ、帰らないで」
「帰る」
「やだ、晋、こっち来て」
「意味わからん…… ショック受けてるだろうから来たのになんだこれ?」
「ショックだったからこそ、だよ。一番大好きだった人に会いたい。何かおかしいかな」
「おかしくないけど……」
なんか展開が急すぎてついていけてない。っていうか現実味がない。俺の都合に合わせすぎている。
「今日は一緒に寝よ」
「そのぐらいならいいよ……」
と、なんとか対面を保ちつつ馬鹿でかいベッドに潜ったが、ちんこのしつけはなっていないので普通に恥ずかしいくらいバッキバキに勃ってる。愛空は言葉通り今日は何もしないつもりらしく、俺の背中に額を寄せて寝息を立てている。
適当に引っ掛けたワンナイトのやつがこんなことしたら顔引っ叩いて寝ぼけていようが関係なくちんこぶち込んでるけどそうもいかない。愛空は身体が資本だから、無理なセックスはしない。しないったらしない。
しないけど、あっちから誘ってきたらどうすんだよ。例えば今。
「あのさぁ……」
「俺さ、晋が警戒もしないでうちにきて、俺が鍵かけたときにさ……かかった!と思ったんだよね……」
「かかっちゃうか……」
「いいよ、俺がたぶらかしたってことにしなよ」
「事実愛空がたぶらかしてんだろがよ」
「合意セックスにたぶらかしたもクソもないだろ」
「正論〜」
▼
お互いの、捌け口のない性への興味をお互いの身体で解き明かしたときからこの関係は当然の帰結だったのかもしれない、なんて思っている。
「なんかスルッと挿れられたんだけど、お前男とヤッたことあんの?」
「うるさいな、自分でおもちゃ使って……言わせんな」
「うわー、じゃあ男とヤるの初めてなんだ。優しくしちゃお」
「初めてじゃなくても優しくしろよ……」
余裕ぶって生意気な口をきいていたのはこの時が最後で、もうちょっと静かにしてくれないかなと口にタオル噛ませたくらいにはやかましかった。
「や、やだ……なんか、腹が圧迫される感じ……っ」
「大丈夫大丈夫、もすこししたら怖くなくなるから」
「晋っ……キスしてよ」
「ん、いいよ」
そんな盛りのついた犬みたいにベロベロ舐めなくてもと思ったものの、顔真っ赤にして首に縋り付いて、唇擦り切れるくらいキスをせがまれるのは悪い気はしない。それがあの愛空、俺が失ったまたは最初から持っていなかったサッカーの才能にあふれた愛空が俺の下であられも無いすがたになっていることに、とてつもない優越感を感じた。
そりゃあ多少の愛情のようなものは感じていたけど、してやったという気持ちの方が強かった。
「愛空、もうちょいしっかりタオル噛んで」
「ン、んグっ……♡♡゛ン…ムグ……っは、女みたいなァ……♡声じゃなくて……っ♡♡♡ヤ…ヤダ?゛」
「そうじゃなくて、普通に声がでかい」
もごもごと大人しくタオルを噛み直して、呼吸を整える。性欲を解消するだけなら激しく穿ち、それで終わりでいいけど、初めてってんだからキモチよくしてやりたい気持ちになっている。
「愛空大丈夫?顔真っ赤だよ?」
「ら、らぃじょぉぶ……♡♡♡」
「大丈夫じゃなさそうでかわいい…♡」
「ン〜–─〜ッッッ!!♡♡!!!!♡♡ ム、ンッッ、んンッッッー──〜-─ー!♡゛♡!゛♡!!」
「おしりきもちいいね……そこ好きなんだ」
いつものヘラヘラした様子はなく、ただ必死に揺さぶられながら、脳に届けられる快楽が自分をおかしくしないかと身を捩るさまがかわいらしくて、真っ赤に染まった首筋に軽くキスをした。跡なんてつけませんよ。
自分でだけやってこんなに育っているなんて、少し心配になる。エッチすぎて困る。
「ンッッ、ア゛ァっ〜-─-─〜ー…!!♡゛♡゛!!晋ッ…♡ も、おしりだけでっ…!ねぇっ、」
「大丈夫、おしりだけて射精しちゃいそう?いいんだよ。たくさん出しな……」
「ッ……っん…♡♡ ン・・・っ、ハぁ…っ♡は…、晋…こっち来て……」
ありえない力で首を抱き寄せる愛空にされるがまま、ゆらゆらと定まらない瞳の焦点が俺を捉える頃余韻にひたる尻穴に搾り取られる形で俺も久しぶりに気持ちよく射精した。
メスイキはそうでもないらしいが俺はしっかり賢者タイムに突入した。友達と、セックスしてしまったという背筋が凍りつく事実が、俺を愛しいものとして見る愛空が実証している。
うわごとのように俺の名前を繰り返し呼ぶ愛空を抱き寄せていると、まぁこれもいいかもな……なんて思ってしまう。セックスを一回したことで恋人とみなすタイプだとは思ってなかったが、この感じだと多分復縁したくらいの勢いを感じる。いまいち乗り切れないと同時に、これはこれで良いかな……と思っている。好みの男パワーって怖いな、と実感している。
この後俺どうしたらいいのか、AIもGoogleも答えちゃくれない。俺が、愛空が、どうしたいかで決めていいから、答えなんて用意されていないはず。多分。
2023年12月5日
酔った勢いで電話かけていい相手だと思われていたことが、うれしいような悲しいような。
一度手放したはずなのに何度も手元に戻ってきているサッカーというやつを一度も手放さず、大事に育ててるような愛空なんかと会ったらみじめで消えてしまいたくなるとわかっていた。
なのに、U20戦の敗戦のあと酒焼けか涙声かわからない声で電話があったときには本当に驚いたし、自然に「なんか、愛空さぁ、今どこいる? ちょっと会おうよ」なんて言葉がスルッと出てきた。俺は会いたくないと思ってたやつで、あっちが会いたいなら会ってやらんでもないなぁくらいの気持ちでいたのに。
よくよく思い返してみたら、俺は愛空が泣いてるところみたことなかったかも。俺たちが中学最後の試合で負けたときも、俺たちがもう二度と同じメンバーでサッカーができないとわかり、みんなが泣いている時も、寂しそうに笑うか励まし役に徹するだけだった。
そんな愛空が悲しんでいる様子を見せたものだから、動揺してしまったのかもしれない。俺が持ってるよりずっと、愛空に適正なる言葉をかけてやれるやつなんて山ほどいるだろうに、俺は、なんだか愛空の心の中に俺がまだ居ることがうれしくて、それを確かめたくなったのだと思う。だから別に、愛空を励ましてやりたい、という愛空のための感情ではなかったと思う。たぶん。
「え?いいの? 晋忙しいんじゃないの」
「忙しいけど、なんか、構いたくなった」
「じゃあ構ってよ。今から……位置情報送ったから来て」
「どこここ」
「俺んち」
「いいの?」
「いいよ。酒買ってきて。ハイボール」
「わかった。待ってて」
まさかのお家にご招待されてしまい、さらに動揺した。そういう……有名人って住んでる場所隠したがるんじゃないの?とか色々考えながら適当にハイボールをカゴに突っ込んで、指定された場所に急いだ。幸いそんなに遠い街ではなく、30分もすれば着きそうだった。
「下まで来てるけど」
「ピンポン押して」
部屋番号を押して、コール。するとあの時より渋くてかっこいい声になった愛空の「はい」が聞けた。俺と同じ芋臭い中坊だったのに、愛空だけモテモテになって。噂は聞いている。女にだらしないやつになってるって。
「わ、久しぶり」
「晋〜! うれしい。上がって上がって」
上半身裸の、すでにだいぶ出来上がっている愛空が出迎えてくれた。多少ゴミが落ちてるものの、一人暮らしの男の部屋にしては綺麗なほうだ。俺の収入じゃ手が届かないような立地と間取りに少しだけ胸がチリチリ痛んだ。
「晋いま何してんの?元気?」
「いま?あんま……そんな言えるようなもんじゃないよ……」
「えーでも大学行ったんでしょ。インスタで見たよ」
「まぁね…… 俺、愛空にインスタフォローされてんの色んな人に突っ込まれる。どういう関係って」
「ちゃんと友だちとか、チームメイトだったとかって答えてくれてる?」
「うーん。愛空は覚えてないと思うけど……って前置きしてから毎回そう言ってる」
「覚えてない、なんで嘘だってわかってよかったね。ハイボールちょうだい。レシート出しといて」
「うん。意外だったよ。俺に連絡くれるなんてさ」
「今の俺をあんまり知らないけど、俺のこと大切にしてくれてたやつと思ったら晋が思い浮かんだんだ」
「ふーん。そんなやつ、愛空の交友関係に山ほど居そうなのに」
「いじけないで〜」
「うるせぇ! 俺にその高そうなワインよこせ」
「ドンキで1500円だったやつだよ」
「桁が二個足りない。稼いでるんだろ、贅沢しないの」
「しないしない。俺が贅沢できるくらいの収入稼げる時間は限られてるから」
「変なとこ冷静だよなぁ」
少し前までまだギラついた目をして闘志をむき出しにしていた愛空とは似ても似つかない、穏やかで気のいい男だ。昔ほど自分の感情を隠してないように思える。
「愛空、試合見てたよ」
「負けちゃった」
「いい試合だったよなんて励ましいらんだろうからしないけど、なんか俺と少しの時間でも一緒にプレーしてたやつがあんな舞台に立って頑張ってるの見て、胸がカーッとなったよ。愛空、遠くに行っちゃったんだな〜って」
「遠くになんか行ってないよ。俺はずっと晋と同じところにいるよ」
「何言ってんだよ。愛空は俺みたいに目標見失ってダラダラ生きてないだろ」
「そうじゃなくて……壁作んないでよ」
「う、ごめん……」
お互い冷静でいられずに感情が漏れ出してしまい、気まずい空気が流れる……と思ってたのは俺だけのようで、愛空はカパカパ酒を飲んでる。大して強くないくせに酒が好きなやつらしく、すぐ酔って俺に絡んできた。
「お前さぁ〜晋がもう俺と練習しないって言ったときどんな気持ちだったのかわかってたのかよ〜」
「このヘタクソにもう練習付き合わなくて済む。せいせいした」
「お前国語できないだろ! 作者の気持ちとかわからないやつだ」
「文章に起こせるだけが全てじゃないでしょ…… 状況的に、その方が良かったんだって」
「そうやって大人ぶってさ、感情を二の次にするのやめろよ。俺は、あの時、悲しかったの」
「そう、そんなに? なんかごめんな」
「うん。俺は晋とサッカーするの楽しかった」
「ほんとは、俺も。愛空とずっとサッカーしたかった。けど、俺は身を引くべきだと思ったの。その判断を尊重して」
「うん。ごめんね。あの時すごく悲しくて、何も言えなくて、今でもすぐ思い出せるくらい」
「そんなに?」
「そんなに」
そう言って照れ笑いする愛空、酒臭い髭面の男じゃなかったら襲ってた。それくらい愛空がかわいく見える。
部屋の照明がいやにぎらついていて、俺の邪念を責めているように感じる。愛空は信頼出来る友達としてお前を呼んだのにお前ときたら、なんてね。
酒の力が脳の制御を外しているだけなんだとわかっているのに、友だちに手を出したりしたら絶対後悔するってわかってるのに、愛空がこんなに好みの男に成長してるなんて思ってもみなかったから今非常にムラムラしてしまっている。
愛空はノンケだろうからまさかそんなことはしないけど、まぁ男友達の役得ということで心からの信頼を向けられていたんだという実感を得て満足、とすることにした。
そうじゃなきゃ愛空のこんなにめんどくさい面が見れるはずがない。こいつ女にはいい顔したくて自分の気持ちの二割もさらけださないタイプだろうし。
俺はわかるんだ。
いっつも中坊の俺らの練習見にきてくれていた奇特なオンナノコたちにキャアキャア言われて楽しんでいた風に見せてたけど、帰り道にすごく気疲れした様子で「やっぱ晋といるのが一番落ち着く」だなんて言う愛空の反応を見て、俺が男へエッチな目を向けるようになってしまったと言っても過言ではないからだ。性壁を開拓されたものにだけわかるあの感じ。
「愛空、他のやつらにこんなこと言ったらダメだよ。男のメンヘラはバカにされるからな……そういうのはダメなんだけど、悲しさとかもちゃんと言い合わないとなんだろうけど、ダメ」
「晋にしか言わないよ。明日になればいつものヘラヘラした俺だよ」
「そうしときな。今日は飲もう」
ついでに言っとくと傷心に付け込もうとする男も大概だからやめとけ。俺がそうだからわかるけどひどいやつだよ。
▼
パンイチで寝っ転がる愛空をどうにか寝室に押し込んで、やっとソファに倒れ込んだ。愛空は酒に強すぎる。そのうえ絡み方がめんどくさすぎる。
あの時はああだった、こうだったと。今こんなに成功しているように見えるやつでも、過去に執着したりするんだと思えた。そうするとだいぶ愛空が人間らしく見えてきた。俺ばっかりがダサく生きてるわけじゃないと。
そんなことをモンモンと考えてたら、ガタガタとベッドから落ちる音が聞こえてあわてて見に行くと、愛空が床に倒れていた。
「おまえ、本当に他のやつにこれやらない方がいい」
「だから、晋以外にやらないっての」
大人しくベッドに戻るかと思いきや、俺の服の裾を掴んではなさず、そのままベッド引きずり込まれた。
「お前さぁ……」
「今日は一緒に寝よ。合宿の時思い出すね。俺が晋の布団に入ってさぁ……」
「その思い出しまっといてもらえるか?」
「お互いのちんこ扱いたじゃん」
……
今愛空がどんな思いでこの思い出を再度点火しようとしているのか意図がわからず、怯えが混じる声音で怒鳴りつけた。
「それ今引っ張り出してどうすんだよ!! 気まずいだろうが帰るわ……」
「終電ないよ」
「歩いて帰る」
「ダメ、帰らないで」
「帰る」
「やだ、晋、こっち来て」
「意味わからん…… ショック受けてるだろうから来たのになんだこれ?」
「ショックだったからこそ、だよ。一番大好きだった人に会いたい。何かおかしいかな」
「おかしくないけど……」
なんか展開が急すぎてついていけてない。っていうか現実味がない。俺の都合に合わせすぎている。
「今日は一緒に寝よ」
「そのぐらいならいいよ……」
と、なんとか対面を保ちつつ馬鹿でかいベッドに潜ったが、ちんこのしつけはなっていないので普通に恥ずかしいくらいバッキバキに勃ってる。愛空は言葉通り今日は何もしないつもりらしく、俺の背中に額を寄せて寝息を立てている。
適当に引っ掛けたワンナイトのやつがこんなことしたら顔引っ叩いて寝ぼけていようが関係なくちんこぶち込んでるけどそうもいかない。愛空は身体が資本だから、無理なセックスはしない。しないったらしない。
しないけど、あっちから誘ってきたらどうすんだよ。例えば今。
「あのさぁ……」
「俺さ、晋が警戒もしないでうちにきて、俺が鍵かけたときにさ……かかった!と思ったんだよね……」
「かかっちゃうか……」
「いいよ、俺がたぶらかしたってことにしなよ」
「事実愛空がたぶらかしてんだろがよ」
「合意セックスにたぶらかしたもクソもないだろ」
「正論〜」
▼
お互いの、捌け口のない性への興味をお互いの身体で解き明かしたときからこの関係は当然の帰結だったのかもしれない、なんて思っている。
「なんかスルッと挿れられたんだけど、お前男とヤッたことあんの?」
「うるさいな、自分でおもちゃ使って……言わせんな」
「うわー、じゃあ男とヤるの初めてなんだ。優しくしちゃお」
「初めてじゃなくても優しくしろよ……」
余裕ぶって生意気な口をきいていたのはこの時が最後で、もうちょっと静かにしてくれないかなと口にタオル噛ませたくらいにはやかましかった。
「や、やだ……なんか、腹が圧迫される感じ……っ」
「大丈夫大丈夫、もすこししたら怖くなくなるから」
「晋っ……キスしてよ」
「ん、いいよ」
そんな盛りのついた犬みたいにベロベロ舐めなくてもと思ったものの、顔真っ赤にして首に縋り付いて、唇擦り切れるくらいキスをせがまれるのは悪い気はしない。それがあの愛空、俺が失ったまたは最初から持っていなかったサッカーの才能にあふれた愛空が俺の下であられも無いすがたになっていることに、とてつもない優越感を感じた。
そりゃあ多少の愛情のようなものは感じていたけど、してやったという気持ちの方が強かった。
「愛空、もうちょいしっかりタオル噛んで」
「ン、んグっ……♡♡゛ン…ムグ……っは、女みたいなァ……♡声じゃなくて……っ♡♡♡ヤ…ヤダ?゛」
「そうじゃなくて、普通に声がでかい」
もごもごと大人しくタオルを噛み直して、呼吸を整える。性欲を解消するだけなら激しく穿ち、それで終わりでいいけど、初めてってんだからキモチよくしてやりたい気持ちになっている。
「愛空大丈夫?顔真っ赤だよ?」
「ら、らぃじょぉぶ……♡♡♡」
「大丈夫じゃなさそうでかわいい…♡」
「ン〜–─〜ッッッ!!♡♡!!!!♡♡ ム、ンッッ、んンッッッー──〜-─ー!♡゛♡!゛♡!!」
「おしりきもちいいね……そこ好きなんだ」
いつものヘラヘラした様子はなく、ただ必死に揺さぶられながら、脳に届けられる快楽が自分をおかしくしないかと身を捩るさまがかわいらしくて、真っ赤に染まった首筋に軽くキスをした。跡なんてつけませんよ。
自分でだけやってこんなに育っているなんて、少し心配になる。エッチすぎて困る。
「ンッッ、ア゛ァっ〜-─-─〜ー…!!♡゛♡゛!!晋ッ…♡ も、おしりだけでっ…!ねぇっ、」
「大丈夫、おしりだけて射精しちゃいそう?いいんだよ。たくさん出しな……」
「ッ……っん…♡♡ ン・・・っ、ハぁ…っ♡は…、晋…こっち来て……」
ありえない力で首を抱き寄せる愛空にされるがまま、ゆらゆらと定まらない瞳の焦点が俺を捉える頃余韻にひたる尻穴に搾り取られる形で俺も久しぶりに気持ちよく射精した。
メスイキはそうでもないらしいが俺はしっかり賢者タイムに突入した。友達と、セックスしてしまったという背筋が凍りつく事実が、俺を愛しいものとして見る愛空が実証している。
うわごとのように俺の名前を繰り返し呼ぶ愛空を抱き寄せていると、まぁこれもいいかもな……なんて思ってしまう。セックスを一回したことで恋人とみなすタイプだとは思ってなかったが、この感じだと多分復縁したくらいの勢いを感じる。いまいち乗り切れないと同時に、これはこれで良いかな……と思っている。好みの男パワーって怖いな、と実感している。
この後俺どうしたらいいのか、AIもGoogleも答えちゃくれない。俺が、愛空が、どうしたいかで決めていいから、答えなんて用意されていないはず。多分。
2023年12月5日