赤木剛憲
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初めて過ごす「何もない夏休み」にたけちゃんは大いに戸惑っているみたいだった。
毎日早起きして行くところがなく、ただなんとなく行った方がいいからと諭された大学に入るための勉強をする。そんな生活にたけちゃんは順応しきれなかったのか、公園の片隅のバスケットゴールだけがぽつんと生えてるところにいるみたいだった。
「後輩くんたちに入れてって言えばいいのに」
「あいつらは、来年に向けて新体制になってるんだ。それなのに俺が行ったら戸惑うだろう」
「木暮くんと三井くんは行ってるみたいだよ? 桜木くんとかは目に見えてソワソワしてるっていうし、宮城くんはいままでたけちゃんの言うことに頼れたから楽だったんだなぁって言ってたって」
「ナマエ、あいつらと仲良いのか」
「仲良い、っていうか……アヤちゃんとお話ししてると聞くの。まあ普通に仲良いっちゃ仲良いね」
「そうなのか」
「なんで私がみんなと仲良くすると嫌そうなの」」
「嫌ではな…………」
「そこそんなにためらうところ?! まあいいや……ちゃんとみんなの仲間に入れてって言いたいならちゃんと言わなきゃ。いまのボスの言うこと聞くからってちゃんとお腹見せて無害ですよーってアピールしなきゃ」
「……今の俺みたいな、大学でもバスケを続けようか迷ってるやつが参加し「あ! ゴリいた!」
たけちゃんのことをそう呼ぶのは一人だけだ。真っ赤な坊主頭は遠くからでも誰だかわかる。
「おや! ナマエさんではないですか!」
「桜木くん、たけちゃんね、一緒にバスケしたいんだって思ってるくせに自分に言い訳してばっかでまどろっこしいの。天才桜木くんの言うことなら聞くと思うから、誘ってあげてくれる?」
「ナマエッ……」
「な……? 本当ですかナマエさん。俺たち、ゴリに練習つけてもらおうとみんなで探してたんですよ」
「ちょうどよかったんだ」
「そうなんです。まさかゴリも俺たちとバスケしたかったとはなぁ〜!!」
「あ、桜木くん。そういうとこ言っちゃうと行きにくいから普通に誘ってあげて?」
「ぬ……ナマエさんの頼みなら……ゴ、ゴリ! 体育館でバスケしてるから、来たかったらきてくれて構わないぞ!この天才桜木が相手になるぞ!」
「フ…… その鼻っ柱へし折ってやる」
たけちゃんのやる気スイッチも、遠慮スイッチの押し方も押されてうれしいタイミングもあんまりよくわからない。けどうれしそうにバッシュしまって桜木くんが呼び寄せたチームメイトたちに囲まれて行ってしまった。
それからというもの、たけちゃんは元から成績が良かったことにかまけてバスケ漬けなんだそうだ。というのはたけちゃんのお母さんの言葉。でもなんだかうれしそうだ。たけちゃんのお母さんもあの試合のあとのたけちゃんのこと心配してたそうだ。武憲の好きにしていいんだぞ、とお父さんも気を遣って言ったらしいが、気のない返事だけ返ってきているという。
「ナマエは、就職するのか?」
その夜、なんの違和感もなく赤木家の縁側で晴子ちゃんのフットネイルをしている私にたけちゃんは神妙な様子で話しかけてきた。
「まだ迷ってる。短大ぐらいなら行ってもいいよって言われてるけど、勉強そんなに好きじゃないし……私はたけちゃんほど一生懸命にやってることないから、たけちゃんとは違う悩みなんだよね」
「そうか……」
「やりたい仕事も思いつかないし……」
「大学でバスケを続けたい。就職して実業団という道もある。道が多くあると、一本道を歩いていれば良かった時と比べて迷ってる時間が長くなって、無駄なように思える」
「選択を急かされると逆に長く考えちゃうんだよね。わかるわ〜」
焦るという割に私たちは行動に移すことなく、今の生活を変えたくないばかりにしがみついている。勉強しないと、就職先見つけないと。わかってはいるけど、ここからどうしても離れ難くて。
「この前は一番イイ選択肢が取れるよって根拠なく言ったけど、もし失敗しちゃったら戻ればいいじゃん?おじさんおばさんだって好きにすればいいって言ってくれてるんでしょ?」
「失敗したくない」
「そりゃ、みんなそうだよ。なんか今日弱気だね。オロナミンC飲んだら? この前私風邪引いたとき、おばさんがくれたよ。全ての不調に聞くって言ってた」
「お袋、そんなこと言ってたか?」
「うん。たけちゃんはあんまり風邪引かないからわからないね。弱気も、失敗が怖い気持ちも、オロナミンCが吹き飛ばしてくれるよ。多分」
「プラシーボにかかってみるのもいいかもな。ナマエがまだ進路を決めてないのを聞いて安心した。してはいけないが……」
「何よ」
「あ、いや。そうだナマエ。爪綺麗だな。自分で塗ったのか?」
「あからさまに話題逸らしたね…… そうだよ。ちょっとヨレちゃったけど、夏休みの間だけ」
「いいじゃないか。きれいだ」
「もっと言って」
「言わない」
「せっかくオロナミンCのこと教えてあげたのに」
「また、機会を見て言う」
「爪ぐらい今褒めてよ!」
「また今度だ」
かたくなに拒否するものだから、すっかり拗ねた気持ちになって帰路についた。減るもんじゃないんだから言ってくれればいいのに。
とかなんとかモヤモヤしてたけど、朝学校に行こうとしたらたけちゃんが何かを差し出してきた。茶色の瓶に、見覚えのあるラベル。そういうところマメだから、なんかいつも怒りが続かないんだよね。
「近い将来、また言うから」
「重!そんな先忘れちゃうよきっと」
「いや、俺が覚えてる」
「ふーん。まぁいいや。進路決めたら教えてよ」
「わかった。ナマエも決めたら教えてほしい」
「いいよ」
行く方向が一緒だし、特段仲が悪いわけでもないので一緒に行く。今日はバスケ部が体育館を取れなかったそうだ。これからあと何回こういう日が来るだろう。先のことに目を向けすぎるとさびしさでおかしくなりそうだからしまっておいた。その時が来るまで、見ないでおきたい。
2023年8月31日
毎日早起きして行くところがなく、ただなんとなく行った方がいいからと諭された大学に入るための勉強をする。そんな生活にたけちゃんは順応しきれなかったのか、公園の片隅のバスケットゴールだけがぽつんと生えてるところにいるみたいだった。
「後輩くんたちに入れてって言えばいいのに」
「あいつらは、来年に向けて新体制になってるんだ。それなのに俺が行ったら戸惑うだろう」
「木暮くんと三井くんは行ってるみたいだよ? 桜木くんとかは目に見えてソワソワしてるっていうし、宮城くんはいままでたけちゃんの言うことに頼れたから楽だったんだなぁって言ってたって」
「ナマエ、あいつらと仲良いのか」
「仲良い、っていうか……アヤちゃんとお話ししてると聞くの。まあ普通に仲良いっちゃ仲良いね」
「そうなのか」
「なんで私がみんなと仲良くすると嫌そうなの」」
「嫌ではな…………」
「そこそんなにためらうところ?! まあいいや……ちゃんとみんなの仲間に入れてって言いたいならちゃんと言わなきゃ。いまのボスの言うこと聞くからってちゃんとお腹見せて無害ですよーってアピールしなきゃ」
「……今の俺みたいな、大学でもバスケを続けようか迷ってるやつが参加し「あ! ゴリいた!」
たけちゃんのことをそう呼ぶのは一人だけだ。真っ赤な坊主頭は遠くからでも誰だかわかる。
「おや! ナマエさんではないですか!」
「桜木くん、たけちゃんね、一緒にバスケしたいんだって思ってるくせに自分に言い訳してばっかでまどろっこしいの。天才桜木くんの言うことなら聞くと思うから、誘ってあげてくれる?」
「ナマエッ……」
「な……? 本当ですかナマエさん。俺たち、ゴリに練習つけてもらおうとみんなで探してたんですよ」
「ちょうどよかったんだ」
「そうなんです。まさかゴリも俺たちとバスケしたかったとはなぁ〜!!」
「あ、桜木くん。そういうとこ言っちゃうと行きにくいから普通に誘ってあげて?」
「ぬ……ナマエさんの頼みなら……ゴ、ゴリ! 体育館でバスケしてるから、来たかったらきてくれて構わないぞ!この天才桜木が相手になるぞ!」
「フ…… その鼻っ柱へし折ってやる」
たけちゃんのやる気スイッチも、遠慮スイッチの押し方も押されてうれしいタイミングもあんまりよくわからない。けどうれしそうにバッシュしまって桜木くんが呼び寄せたチームメイトたちに囲まれて行ってしまった。
それからというもの、たけちゃんは元から成績が良かったことにかまけてバスケ漬けなんだそうだ。というのはたけちゃんのお母さんの言葉。でもなんだかうれしそうだ。たけちゃんのお母さんもあの試合のあとのたけちゃんのこと心配してたそうだ。武憲の好きにしていいんだぞ、とお父さんも気を遣って言ったらしいが、気のない返事だけ返ってきているという。
「ナマエは、就職するのか?」
その夜、なんの違和感もなく赤木家の縁側で晴子ちゃんのフットネイルをしている私にたけちゃんは神妙な様子で話しかけてきた。
「まだ迷ってる。短大ぐらいなら行ってもいいよって言われてるけど、勉強そんなに好きじゃないし……私はたけちゃんほど一生懸命にやってることないから、たけちゃんとは違う悩みなんだよね」
「そうか……」
「やりたい仕事も思いつかないし……」
「大学でバスケを続けたい。就職して実業団という道もある。道が多くあると、一本道を歩いていれば良かった時と比べて迷ってる時間が長くなって、無駄なように思える」
「選択を急かされると逆に長く考えちゃうんだよね。わかるわ〜」
焦るという割に私たちは行動に移すことなく、今の生活を変えたくないばかりにしがみついている。勉強しないと、就職先見つけないと。わかってはいるけど、ここからどうしても離れ難くて。
「この前は一番イイ選択肢が取れるよって根拠なく言ったけど、もし失敗しちゃったら戻ればいいじゃん?おじさんおばさんだって好きにすればいいって言ってくれてるんでしょ?」
「失敗したくない」
「そりゃ、みんなそうだよ。なんか今日弱気だね。オロナミンC飲んだら? この前私風邪引いたとき、おばさんがくれたよ。全ての不調に聞くって言ってた」
「お袋、そんなこと言ってたか?」
「うん。たけちゃんはあんまり風邪引かないからわからないね。弱気も、失敗が怖い気持ちも、オロナミンCが吹き飛ばしてくれるよ。多分」
「プラシーボにかかってみるのもいいかもな。ナマエがまだ進路を決めてないのを聞いて安心した。してはいけないが……」
「何よ」
「あ、いや。そうだナマエ。爪綺麗だな。自分で塗ったのか?」
「あからさまに話題逸らしたね…… そうだよ。ちょっとヨレちゃったけど、夏休みの間だけ」
「いいじゃないか。きれいだ」
「もっと言って」
「言わない」
「せっかくオロナミンCのこと教えてあげたのに」
「また、機会を見て言う」
「爪ぐらい今褒めてよ!」
「また今度だ」
かたくなに拒否するものだから、すっかり拗ねた気持ちになって帰路についた。減るもんじゃないんだから言ってくれればいいのに。
とかなんとかモヤモヤしてたけど、朝学校に行こうとしたらたけちゃんが何かを差し出してきた。茶色の瓶に、見覚えのあるラベル。そういうところマメだから、なんかいつも怒りが続かないんだよね。
「近い将来、また言うから」
「重!そんな先忘れちゃうよきっと」
「いや、俺が覚えてる」
「ふーん。まぁいいや。進路決めたら教えてよ」
「わかった。ナマエも決めたら教えてほしい」
「いいよ」
行く方向が一緒だし、特段仲が悪いわけでもないので一緒に行く。今日はバスケ部が体育館を取れなかったそうだ。これからあと何回こういう日が来るだろう。先のことに目を向けすぎるとさびしさでおかしくなりそうだからしまっておいた。その時が来るまで、見ないでおきたい。
2023年8月31日